トップに戻る

<< 前

出会い。

単ページ   最大化   

 目が覚めると、いつもとなんら変わりない町並みが見えていた。俺は急いで周囲を警戒し、騎士がいないかを確認した後にその場から離れる。
「セシル、いったいどこの屋敷に連れていかれたんだ?ここ最近変わった動きをする貴族は……セシルと一回話したはずだ。えっと、たしか近くに一つだけあったな」
 そんなたった一つの心当たりを支えにその貴族の屋敷へと向かう。そういえば昨日から何も食べていない。腹に多少の違和感を感じつつも、セシルの安全を祈って足早に屋敷へと向かう。
 歩いていると若い孤独人が道の端で座っているのが目に入ってきた。ここ最近、野宿をして凍死していった孤独人も少なくはないそうだ。
「おい、大丈夫か?日も出てきたしそろそ……手遅れか」
 その孤独人の肩に手をかけるとそのまま地面へどさっと落ちてしまった。
「凍死……じゃない。顔が酷く腫れてる。騎士のやつら」
 合掌をしてお祈りをした後、今は亡きその孤独人の持ち物を漁り始める。とても残酷なように見えるが、これは自分が生きていくために必要なことなのだ。
「ごめんな。後は安らかに眠ってくれ」
 特に何も見つからず、諦めてその場を後にする。目的の貴族の居場所はここから数キロ離れたところにある。朝のうちにそこを偵察し、夜になったらそこからセシルを助け出す。うまくやれるかはわからないが、とにかくやってみるしかない。

 目的地に着くと、俺はとりあえず遠くから屋敷への入り口付近の観察を始める。門番は常に最低二人はいて、夜になってもとても手薄になりそうではない。
「やっぱり正面突破は無理か。少し周囲を探索してみるか」
 その屋敷付近の家の影に隠れつつ、周囲を注意深く観察する。しかし、屋敷へ入るにはそれを囲んでいる高い囲いを越えていかなければならない。だがその高さでは一人じゃ到底上ることはできなさそうだ。
「厳重だな。セシル……無事でいてくれればいいんだけど」
 俺はセシルから貰ったナイフを片手に眺め、しばらくボーっとしていた。
 このナイフは、以前セシルが武器屋で盗った品だ。とても高くいいものだそうで、今後役に立つといってこれを盗ってきた。そのときにセシルは足を怪我したのだ。
「皮肉だよな。このナイフさえ取ってなければ今頃は……ううん、よそう。今はセシルを助けることだけを考えるんだ」
 そのまま時は過ぎ、今は昼ごろになったのだろうか。日差しは強くなっていくのに対し、風は暖かくなることを知らないのか冷たいのが何度も襲ってくる。
 もう一度入り口付近を覗き込むと、中のほうから大きな音がしたのがわかった。
「なんだ、あの音?」
 音が鳴った直後に門番たちは中の方へと走って行き、入り口に門番は一人もいなくなった。辺りを確認する間もなく、俺は全速力で中へと向かう。
「これで、セシルを助けられる。よし、待ってろセシル!」
 中には屋敷とその隣には地下へと続く階段が伸びていた。それを見た瞬間、俺はその階段が続いている先が奴隷たちが収容されているところだとわかった。頭の中にはセシルのことでいっぱいで、ただひたすらに走り続けた。
「セシル!いるの!?」
 地下はとても暗く、その暗さに目が慣れなくてしばらくは何も見えなかった。だんだんと視界が開けてくると、目に映ったのは空の牢屋だった。
「そうか、そうだよな。今の時間帯だとみんな労働させられてるに違いないんだ……。誰か来る」
 耳を澄ませると階段からコツコツと降りてくる音がしてくる。呼吸音をできる限り抑えて、端の方へと身を隠す。すると現れたのは少女を抱えた兵士だった。
「ったく、手間をかけさせるんじゃねーよ、このガキ」
 その少女は牢屋の中に放り投げられ、俺はその兵士がこの場から消えるのをただ待つだけだった。
 兵士がいなくなると、その少女が気になった俺はすぐさま駆け寄る。
「大丈夫か?なぁ、気分悪いのか?」
 少女は薄めで俺をじっと見つめているだけで、いっさい口を開こうとはしてくれなかった。
2

金糸スズメ 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前

トップに戻る