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読みきり 夏の終わり

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 窓際に放置しっぱなしで、すっかり日焼けしてしまった教科書をカバンに詰め明日から始まる学校の準備を終える。
終わろうとしている今となっては、夏休みというものがとてつもなく早く過ぎ去ったように思えてきた。

「あーあ」

 思いっきり溜息をついてみるが、そんなことをしたところで刻一刻と明日へ近づく時間は一瞬たりともその歩みを緩めはしない。
 チクタク、と。
普段は聞こえないほど小さな針の音が静かにしている今、酷く耳障りに聞こえてくる。
 思えば寂しい夏だった。
 遊ぼう!と意気込んだのはよかったのだが。
帰省や塾が友達の暇な時間を食いつくしてしまい、結局海にも行ってない、お祭りにだって行けてない。
 夏休みだというのに夏の一欠片も味わっていないのだ。この夏休みした事と言ったら、友達とファミレスで駄弁った事ぐらいである。
 既に、外はオレンジ色の光に包まれ始めていた、もう何時間もしないうちに今日が終わる
 夏休みは、何もないままに、静かに終わりを告げようとしていた。

 『ブルルルルッ!ブルルルルッ!』

 不意に携帯が鳴った。少しだけ逡巡したが、すぐに置いてある場所を思い出し、携帯を開く、いつも遊ぶ友達からのメールだった。

 『今から海行こう。花火買ってさ、夏休み最後の思い出作りしようぜ』
 途端、だらけていた体に活力が戻った。すぐに了解の返事を送ると、待ちきれないとばかりに電話をかける。
 「ふぁーい」

 「どこ集合?何時に行けばいいんだ?つーか、予算はいくらだ?」

 俺の言葉の勢いにびっくりしたのか、はたまた俺の質問に対して考えているのか、一瞬だけれど、返事に間が空く。しかし、すぐにいつもの調子で返事が返ってきた。

 「んじゃー、六時に俺んち集合な、全員に声かけるから、金は花火を割り勘するから一応持ってきてくれ」

 「おっけ、わかった、すぐ準備するわ」

 「おう、じゃな」

 電話を切ると、すぐにシャワーを浴び、気合を入れて準備を始めた。
その勢いは教科書を詰めていた時の緩慢なそれではなく、無駄に過ごした時間を取り戻すかのようにどこか急いでるようにも感じられるものだった。




 集合時間は六時、しかし六時半になっても全員は揃っていなかった。

 「おっせー・・・」

 「いつもどおりじゃね?」

 今揃っているのは五人、あと一人が中々来ない、堪らずに携帯で電話をかける

「遅い!」

「あー、もうすぐつくから」

「早くしろよ!遅れてるんだから!」

結局、7時をまわって漸く集合場所である発案者の家の前へと着いた。

「んじゃ、いくか」

発案者である、ここの家主がのっそり立ち上がった、それに続いて、各々自転車で浜辺へと向かう。

浜辺はもう既に海水浴のシーズンを終えていて、散らばるゴミだけが夏の思い出を伝えていた。

「んまぁやろうぜ」

途中で買ってきた花火の袋を盛大に破り、
蝋燭にライターで火を点ける。
 一瞬点いたと思っても、風ですぐ消えるのには腹が立ったが、火を点けている友人はさほど気にしていない様子だった。

 少し離れたところで、砂遊びを始めている友人がいた。何故か流木を拾い始めている奴もいた、全員が、それぞれ気ままに遊んでいるのだ。

「ロケット花火からやるか」

業を煮やしたのか、ふらふらしている奴らにちょっかいをかけたかったのか、蝋燭を諦めた友人はロケット花火を気ままに遊ぶ四人へと飛ばし始めた。

「ちょっ、あぶねえよ!」

文句を言いながら飛び跳ね、それでも楽しそうに笑っている。

「おめーらも手伝えやーっ」

笑いながら、ロケット花火を次々に発射していく姿はとても滑稽で、それを必死でかわす友人たちはそれ以上に滑稽だった。



結局ライターから直接火を点け、持ってきた花火をすべてやり終えることに成功した。

「いやー、やっと夏休みって感じだな」

「もう終わりだっての、夏休み」

「そういやそうだなぁ。終わりだわ」

夏休みを惜しむように、砂浜に置いてあるボートから海を眺めた、しばらく全員が無言で居ると、あの、遅れてきた友達がバックからトライアングルを取り出した。

キーン・・・。

キーン・・・。

物悲しい音が、夏の終わりを告げているような気がして。ひどく寂しくなってしまった。

トライアングルの音が響く中、全員が何も言えずに、けれど、みんなが同じ気持ちだったに違いない。

「ま、楽しかったな、今日は」

ぽつり、と一人が漏らす。

「最終日だけど花火できたしな、しょぼかったけど花火は花火だ」

そして、また無言。

「帰ろうぜ」

誰ともなしに呟く。ひとり、またひとりとボートから立つと、そのまま砂浜を後にした


花火の代金は、後日しっかり払わせられた。
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