第五部　第五話「昔の話」

「フーリーは実在すると思うか？」
　まず印象に残ったのは、井戸の底のように光の届かない黒い瞳だった。その深刻な双眸は私をまっすぐに捉えているというのに、人格を尊重する気配は一切なく、まるで商品を品定めをするように冷静で、人間を相手にしている気がまるでしなかった。
「フーリー……？」
　そう聞き返すと、男は面倒くさそうに話を始めた。
「イスラム教の概念だ。死んで天国に行ったイスラム教徒の男は、フーリーという天女とセックスが出来る。７２人いて、全員が美しく名器を持った処女。しかも行為が終わった後は再び処女に戻って、また処女を奪う事が出来る。老いる事はなく、常に親切で優しく、夫に対して情熱的なんだそうだ。実在すると思うか？」
　セックスだとか処女だとか、日常会話ではまず出てこない言葉が散りばめられたその台詞を、女の、しかも初対面である私に平然と言ってのけたのだから、度胸だけは本物だった。
「……さあな。イスラム教徒には悪いが、モテない男の妄想でしかないんじゃないか」
　正直にそう答えたので、男は機嫌を悪くするかとも思ったが、少しもそんな様子は見えなかった。
「かもしれないな」
　男は頷いて、ここでようやく周りを見回した。
「誰にやられたんだ？」
　私は適当に答える。
「ちょっと恨みを買っていてな」
「どんな？」
「くだらない事だよ。私の子分がいじめられていたから、ボコボコにして病院送りにしたら、そいつが退院してすぐ復讐しに来た。それだけだ」
「逆恨みか。気の毒だったな」
　言葉こそ気を使っているように見えるが、心の底ではまるで興味を持っていない事がすぐに分かった。だが不快ではなく、むしろ清々しいとさえ思えた。
「救急車を呼んでやる。刺されたのは、背中側か？」
「……ああ。それと出来れば止血を手伝ってくれ。このままだと失血で死ぬ」
　私の体温を持った液体が大量の雨で路地裏に流されていた。男はようやく傘を畳み、私を助けてくれる気になったようだった。
「名前は？」
「……鈴音。城咲　鈴音（しろさき　すずね）」
「やけにかわいい名前じゃないか。少なくとも人に刺されるような人生を送るようには聞こえない」
「余計なお世話だ。……そういうあんたは？」
「五十妻　崇（いそづま　たかし）だ」
　その時、私の中には２つの真実が出来上がっていた。
　私とこの男の付き合いは長い物になるだろうという事。そして、それによって幸せになる事はないだろうという事。


　かろうじて一命を取り留めた私は、その日からしばらくの入院生活を送る事になった。当然私は犯人を知っていたが、何も証言しなかったので、警察は私を刺した人物を結局見つけられなかった。犯人だった男の名前も顔も、今となっては覚えていない。男はその辺によくいるただのチンピラで、取るに足らないし興味が無かったからだ。
　入院の翌日、生活用品を届けてくれた両親が帰った後、こうなった根本の原因ともいえる奴がお見舞いにきた。名前を木下桃（きのした　もも）と言って、女のような名前だが、一応男だ。しかしその名前に負けないくらいに女々しく、歯に衣着せぬ言い方をすれば、「弱い」男だった。幼馴染兼子分であり、少し目を離すといじめられているのが特技だった。
「ああ……良かった……」
　半べそで現れた木下の第一声がそれだった。そして崩れるように私のいるベッドにへたれ込み、顔を伏せていた。
「邪魔だ、どけ」
　一蹴すると、木下はぶつぶつと何かを言い出した。
「だって心配だったんだ。授業中に鈴音ちゃんが刺されたって聞いて、いても立ってもいられなくなって、早退してきたんだよ。怪我は大丈夫なの？　後遺症とかは？　誰が刺したの？　何か欲しい物はある？　僕に出来る事は？」
　両親や警察よりうざったい木下の質問攻めを無視して読書を始めた。
　その時の怪我は、医者によれば奇跡的に内臓を傷つけずに済み、出血が多く一時的に危険な状態に陥った物の、とりあえず命の心配はないようで、傷は残るが後遺症はない。それくらいは伝えてやっても良かったが、問題はその次の質問だった。誰が刺したかは当然分かっていたが、それを言えば木下は責任を感じるだろう。その心理的負担は私の怪我より遥かに重く、うっかりするとこの小心者は自殺してしまうかもしれない。
　だから私は、４番目と５番目の質問にのみ答えた。
「焼きそばパンが食べたい。学校の購買に戻って買ってきてくれ。お前に出来るのはパシリだけだ」
「お安い御用だよ！　でも食べて大丈夫なの？」
「ダッシュ」
　私の号令と共に病室を飛び出した木下と入れ替えに、今度は奴がやってきた。
「良い部屋じゃないか」
　第一声が私の容態に関する事ではなく、病室への褒め言葉。私は顔をあげる。
「五十妻、だったか。とにかく助かった。礼を言う」
　私も礼儀くらいは知っている。いや、この場合、私は、というべきか。
「それと、１つお願いしたいんだが、昨日私が言った事は忘れてくれ」
「何だっけ？」
「私を刺した奴に心当たりがある事だ。お前には言ってしまったが、出来れば警察には言わないで欲しい」
「どうして犯人を庇うんだ？」
「犯人を庇ってる訳じゃない。犯人が捕まる事によってかわいそうな事になる奴がいるんだ」
「今出て行った奴か」
　私は答えず、再び手元の本に目を落とした。
　すると、五十妻は私の顎に触れて無理やり顔を起こし、鼻先数ｃｍの所まで顔を近づける。した事はないがすぐに分かった。それはキスの距離だった。
「顔色は良い。内臓はやられてないようだし、退院まで２週間って所か」
「あ、ああ……そうだな。にしても、ち、近いぞ」


「ところで、お前はイスラム教徒なのか？」
「面白い質問だな。何故だ？」
　面白い事を言ったつもりは無かったので、この返しは逆に面食らった。
「私を助けた時に、フーリーがどうとか言っていただろ」
「そういえば、そうだったな」
　とだけ返事をして、私が貸した本に目を落とす。ベッドの隣のパイプ椅子に座り、その座り振る舞いは自宅かと錯覚するくらいにリラックスしている。
「イスラム教徒ではないのに、フーリーについて考えていたのか？」
「まあ、そういう事になるな。その時たまたま考えていたから、たまたま道に座っていたお前に尋ねてみただけだ」
　座っていた、というより刺されて死にかけていたのだがその認識はなかったらしい。
「イスラム教自体には全く興味がないし、入りたいとも思っていない。だが、処女は素晴らしい。この認識が人種の壁や宗教の壁を乗り越えるという事実は興味深い」
　処女について語る時だけ、五十妻の舌は熱を帯びる。無言のままで引いている私に、五十妻は捨て台詞のように言った。
「こんな事を処女自身に言っても理解されないだろうがね」
「どうして、私が処女だと思うんだ？」
　それは私の口から咄嗟に飛び出た質問だったが、精神的な優位を保っておきたい気持ちからか、自ら墓穴を掘らないようにと「分かる」ではなく「思う」という言葉を選んだ。確かに、五十妻の言う通りに私は処女だったが、それを告白するのは相手が五十妻ではなくても勇気が必要だった。
「匂いで分かる」
「嘘をつくな」
「超能力のような物と思ってくれていい」
　五十妻のこの言葉を現実に認識するのは、これからしばらくしての事だ。
「そして俺には、君の命の恩人として、君の処女を貰い受ける権利がある」
　自信満々に言う五十妻相手に、私はこの時、それまでの人生で経験した事のないくらいの「ときめき」を感じていたのだ。
　例え命の恩人といえど、このように礼儀知らずで、頭のおかしい変態男に魅力を感じる事など、普通の人から見ればおかしいと思われても仕方が無いというのは分かっている。
　高校２年生の春。私は喧嘩ばかりの不良少女で、あいつは年上の大学生だった。そして私の生まれて初めての恋愛は、不本意な形で実る事になる。今でも刺された傷が残っているのと同じように、この男との因縁は、どうやら消す事は出来ないらしい。

「俺にとって、君はどうやら特別な存在のようだ」
　私が五十妻という男から初めて聞いた告白とも受け取れるロマンチックな台詞がこれだった。入院中、毎日面会可能時間になると訪れ、ほとんど１日中傍におり、家族や木下が訪れる時だけどこかに消えた。読書する私を無言でひたすら眺めている事もあったし、例えばフーリーの事など取り留めの無い話をする事もあった。
「君と共に過ごしていると、心の底から力が湧いてくる気がする。事実、俺の感覚は日増しに鋭敏になっている。今では半径１００ｍ以内に何人の処女がいるかもすぐ分かるようになってきた」
　時々する五十妻の特殊な能力を匂わせる発言を、私は最初馬鹿にしていた。私は五十妻の事を狂人だと思っていたし、また、それが悪い事とも思っていなかった。ただ、五十妻がそれを証明した機会が１度だけあった。
「窓から病院の入り口が見えるだろ？　そしてあの４人組のグループ、お前のお見舞いに来たようだ」
　確かに、その４人の顔には見覚えがあった。しかしこのくらいの事は、私が通っている学校の制服を調べればすぐに分かる事だし、言い当てるのは容易い。問題はここからだ。
「右から２番目の女、昨日の夜に処女を失ったばかりだ。嘘だと思うなら確かめてみればいい」
　そして私の返事を待たず、五十妻は消えた。数分後、病室に入ってきた４人は私にお見舞いの品を渡し、他愛の無い話が始まった。彼女達は私の喧嘩の強さに憧れているだけのいわゆる一般的な不良少女達で、私もそうして慕われるのが嫌いではなかった。
「鈴音さん、聞いてくださいよ」グループの内の１人が言う。
「え、あの話？　ちょっとやめてよ」五十妻が指摘した１人だ。
「いいじゃんいいじゃん」と、囃し立てられ、まんざらでもない様子。
「こいつ、ついに昨日彼氏とやっちゃったみたいなんですよ」
　その瞬間、私は凍りつく。
　五十妻の言っている事が事実である事が証明された。と信じるには、それでもまだ少し早いと思った。五十妻は事前にこの娘に対して探りを入れていたのかもしれないし、あるいは適当に言った事がたまたま当たったのかもしれない。
　しかしその翌日、深夜に私が病室で「していた事」を指摘された瞬間に確信した。何故なら、私は滅多に「そういう事」をする方ではなく、しかも布団を頭から被って息を殺して「していた」ので、自分さえ口に出さなければ誰にもバレる心配はないはずだった。ましてや私が誰かに行為を暴露するはずもなく、朝一番に五十妻のアドバイスを耳にした瞬間は何の事だかさっぱり分からなかったくらいなのだ。
「行為自体を咎めるつもりはないが、あまり激しくしすぎると『膜』を傷つける可能性がある」
「……朝から一体何の話だ？」
「もちろん、それでも処女の価値自体は変わらないと思うが。日常的に激しい運動をする女子は剥がれ落ちると言うし」
　傷の痛みさえ無ければ殴り殺していた所だった。私にはその権利があった。
「感覚が研ぎ澄まされているのを感じる。目の前の処女が最後にいつ自慰をしたかくらいは簡単に分かる程に」
　五十妻が異常者だったのは性的な面だけではなく、むしろ能力的な面でだった。そしてその２つは連動するかのように、段々と成長していった。私にその過程を止める事は出来ず、そして私の処女が奪われる瞬間も刻一刻と迫っていた。


　高校を卒業し、私は警察学校に入った。両親はまず大学を卒業する事を薦めたが、私はなるべく早く現場に立ちたかった。それは正義感などではなく、この世には五十妻のように誰かが取りしまらなければ大変な事を犯しうる人間がいるという事に対する危機感だった。
　私達はどちらから言うでもなく、いつの間にか付き合い始めていたようだった。私がそれを認めた事はなかったが、少なくとも周囲の人間はそう認識していた。誰かに言われて私もそれを否定する事はなかったが、心のどこかで違和感はずっとあった。本来、男女の仲にあっていいはずの信頼関係という物がまるで無かったからだ。
　警察学校は全寮制で、高卒だと１０ヶ月もの間寮生活を強いられる。学校と名はついているものの、私から言わせてもらえればむしろ軍隊に近く、厳しい規律の中で警察官としての教育が行われていた。五十妻がそんな所に忍び込んできたのはある夜の事だった。
「我慢出来なくなった」
　と、五十妻は私の枕元で言った。初めて出会ってから３年が経過していて、１度も私に求めてはこなかった。寮生活は半年目に入り、会ってない期間もそれと同じだった。
「……どうやって入ってきた？」
　学校とはいえ、日本警察管轄化の組織である。そう簡単に侵入が出来る訳はなく、これでは面子が保たれない。
「分からない。俺自身、気づいたらここにいた」
　私よりも不思議そうに、五十妻が言う。その態度は嘘をついているようではない。
「で、何をしに来た」
「いつかもらうと約束していた君の処女をもらいに来た」
「今、ここでか？」
「これは夜這いだ。君の意思に関わらず」
　もしも見つかれば五十妻が逮捕されるか、私が退学させられるかの危険な行為だったが、私にはそれを止める事が出来なかった。いや、止める気がなかった。
　これが、私にとって最初で最後の、我が夫との性行為であり、世紀の大犯罪者五十妻　崇の初めての犯行でもある。
　学校を卒業後、段々と大きくなっていく腹を抱えながらの研修をこなした。出産後は育児と新人警官としての仕事に追われた。両親や、いつの間にかくっついて子供まで作っていた後輩２人の助けも借りながら、慌しい日々が続いたが、肝心の五十妻はあの日以来、行方不明となっていた。
　心配をしていたのは私よりもむしろ周囲の人間で、その無責任さに怒りを覚えていたのも同じくだった。何故なら私には随分と前から分かっていた。処女でなくなった私に、五十妻は触る事すらしないだろうと。
　正式に警察署への配属が決まった頃、ある強姦魔の話が警察内に広がっていた。
　神出鬼没で、処女だけを狙い、証拠や痕跡はいくらでもあるのに、捕まえられない。そして最も恐るべきは、処女を奪われたはずの被害者が、その犯人を訴えようとしないという事。
　私があの時、捨てられるのを分かっていても我慢出来なかったのと同じように、彼女達は崇拝者に「贈り物」をされてしまったのだと私には分かった。


　崇拝者を捕まえる為に、私は出世したと言っても過言ではない。手柄を上げ、試験を受け、上司に忠実で、何より正義を全うする。ＩＣＰＯにも自分から売り込みをした。とある国の王族の箱入り娘を傷物にした崇拝者はとっくに国際指名手配されていたようで、私の提供した情報は私を採用するのに十分な理由になったようだった。
「桃、すまないが元樹の事をよろしく頼む」
「五十妻さんの事を追うんだね」
「ああ、元樹の事は大事だと思うが、決着をつけたい」
　こうして、私と崇拝者のいたちごっこが始まった。犯行を繰り返す崇拝者の足跡を追い、懸命に被害者を説得して話を聞きだし、崇拝者の好みや出現傾向を分析して割り出した。崇拝者は一定期間その地域に滞在し、そこで美しいと評判の娘や、地位の高い者を狙う傾向がある。そしていよいよある晩、崇拝者が今まさに犯行をしようとする現場に、私は立ち合わせた。
「そこまでだ崇拝者、いや、崇」
　拳銃を構える私に少しも怯える様子のない崇拝者。最後に会って行為をしてから、もう５年の歳月が経過していた。
「既に周りは固められている。大人しく投降してもらうぞ」
「仕事の邪魔をしないでくれないか」
「仕事だと？」
　安全装置を外す。衝動的に撃ってしまっても良いとさえ思った。
「一体何の用だい？　悪いけど非処女には興味がないんだ」
　自分で奪っておいて、というのも崇拝者にはきっと関係はないのだろう。処女を崇拝しているから崇拝者。誰からでもなくそう呼ばれていた。
「子供がいる」
　私は片手で拳銃を構えながら、胸ポケットから元樹の写真を取り出した。崇拝者も少しは興味を持ったようで、あっさりと銃口の前に近づいてきて、私から写真を受け取った。
「君に似てかわいい顔をしてる。男なのが残念だが」
「今はまだいいが、もう少し経てばお前に似てくる」
　そして次に私が言った台詞は、その瞬間まで考えもしていなかった物だった。
「結婚してくれ」
　相手は世界を又にかけて処女を奪う性犯罪者だというのは重々分かっていた。それでも、言わずにはいられなかった。惚れた男を久々に目の前にして、拳銃を放り出して抱きつかなかっただけでも立派だと思う。
「いいだろう」
　返ってきたのは意外な答えだった。
「……いいのか？」
「構わない。この５年、あらゆる処女を犯してきたが、どうやら妊娠したのは最初の君１人だった。どうやらこれはカルマのようだ」
　そう言い残し、私に写真を返さないまま、崇拝者は目の前から消えた。その数日後、私の家に一通の結婚届が配達されていた。夫の欄には既に名前があり、私は残った空欄を埋めて、その足で役所に届けにいった。


　崇拝者は、空間を超越しながら１晩に１人、世界のどこかの処女を奪う。その能力は処女を奪う度に研ぎ澄まされていくようで、逮捕する事は不可能に近かった。私にも崇拝者を追う以外の仕事を割り振られる事が多くなり、気づけば崇拝者を本気で捕まえようとしているのは私だけになっていた。何せ超能力を持った犯罪者の存在など世間に公表する訳にはいかず、証拠を出したとしても世界がパニックになるだけなのは目に見えていた。
　だというのに私は、崇拝者の事を忘れた時は１日だってなかった。日本で一緒に過ごしていた時よりも遥かに、私は我が夫の事を想っていた。
　日本を出てから２度目の接触の時には、もう既に元樹が生まれてから１５年もの歳月が流れていた。
　それはある日の晩に、崇拝者の方からで、いつかの夜這いを彷彿させる状況に、私は一瞬だけ職務を忘れた。
「フーリーに会ってきた」
　と、崇拝者は言った。
「結局イスラム教に入る事にしたのか？」
　と、私は尋ねる。
「いや、そうではないし、まだ死ぬ気もない。フーリーというのは天女の事だ。昨日、天女に会ったんだ」
「妻に対して嬉しそうに浮気の報告をする奴があるか」
「そういう事じゃない。天女には指一本さえ触れる事が出来なかった」
「……どういう事だ？」
「その天女は俺に新しい力を与えるだけ与えてどこかに去っていった。犯そうとしたが無理だった。信じられるか？　空間を飛び越えられるというのに捕まえられなかったんだ」
「幻覚じゃあなかったのか？」
「俺はこの能力を『ＨＶＤＯ』と名づける事にした」
「何の略だ？」
「Hury Visionary Decided One。フーリーの予見が決定付けた１つの事。それを俺に託していった証明としてHentai Virgin Development Organizationは行動を始める。変態少女開発機構だ」
「……どういう事だ？」
「今は意味が分からなくていい。この能力によって世界は改変される。世界改変態だ。変態同士は己の性癖を賭けて競い合い、能力を磨いていく。そしてその過程で、フーリーは再び現れる。俺はそれを手に入れる。誰にも邪魔はさせない」
　そして崇拝者は再び私の前から姿を消した。言葉の意味が分かったのは、しばらくして日本に帰ってきてからだった。崇拝者は、性癖に依存する超能力を一部の地域の若者に対してばら撒いていた。あろう事かその一部の地域とは、自分の息子が暮らしているエリアだった。
　それからの事は、私よりも私の息子の方が良く知っているはずだ。変態として成長し、今は実の父を倒そうと企む息子、五十妻　元樹。崇拝者の真の狙いはまだ定かではないが、それは間違いなく他人を不幸にする。
　決着を、つけなければならない。