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Blood 1  わたしは死体?いいえ乙女です

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 私の頭から血の気が一気に引いた。
 透明吸血鬼がそおっと背後から私の血を吸っているような気がして、背後を振り返ってみたけれど、冷たい壁があるだけだった。
 私は、熱っぽい額を手で押さえて、校内のポスターなどで宣伝されている吸血鬼についての単語を思い出した。


『吸血! ダメ! ゼッタイ!』

『生まれたらちゃんと死のう』

『カンオケよりも万年床、生き血よりもナポリタン』

『愛なきSを処分します ――ソフトSM愛好会有志代表アマガミより――』

『八重歯萌え厨の方、一口五百円で嗜好洗脳ほどこします ――人体実験部――』



 ぶんぶん首を振って嫌な記憶を締め出す。
 バレたらまず確実に死ぬ。
 一度吸血鬼になったものは処分か実験に回される。しかも私は、たぶん学園都市とエルフが提携するようになって初めて現れた吸血エルフだ。
 たぶんあんなことやこんなこともやられる。でんぐり返しのまんぐり返しでお嫁にいけない汚ぇ花火大会もされる。
 絶対にやだ。死んでもお断りだ。
 ていうか、吸血鬼にされた時点で私は死んでいるのだろうか?
 そのあたりは不死者の哲学を専攻しているやつに聞いてみないとわからないが、十六の身空で死んだとは思いたくないので、これも一種の生命のカタチだと思うことにする。じゃないとなんだか泣けてくる。
 だって、もし、いまの状態が死んでることになるとしたら、私の未来の彼氏はあれか? ネクロフィリアか? 私の隣歩いてたら石投げられてつまはじきにされちゃうわけか? やーいおまえのツレ、死体愛好家~とか言われちゃうのか?
 居たたまれない。
 私が。
 口元を手で覆って牙を隠す。べつにこの路地にいま、誰かがいるわけではないけれど……。
 どうしよう、吸血鬼の牙は耐魔力が高いから、私の魔法では小さくしたりはできない。
 この長さじゃ、明日のランチで通報逮捕のコンボは必定。最後に見たのはクラスメイトの悲しそうな顔でした。てへっ。
 てへっじゃねーよ!
 私は思い切り路地裏のつやつやした新素材ウォールを蹴りつけた。あっけなく吸音されるがガシガシと蹴り続ける。
 命かかってんだぞ! 真剣に考えろ、私!
 ぜえ、はあ、ぜえ、はあ。
 ひとまず。
 誰かを頼らなくては。
 私のこの清廉な人格と深遠な知性の輝きが吸血鬼になっても衰えることはないと思ってくれる優しくて、なおかつ今後の対処の仕方を知っている人……。
 私の脳裏に、しわくちゃの箒を擬人化させて四十年間処女のまま熟成させたような顔が浮かんだ。
 そうだ、オーククラフト副校長。あの人なら道を示してくださるかも。
 私は制服のポケットから大仰な懐中時計を取り出した。いまの時刻なら、まだ仕事をしているかもしれない。
 目的地は決まった。タージェルハイム学園、その最上階の執務室。
 何事もなく、ましてや吸血鬼に見つかることもなく、そこへ辿り着かなければ!
 私は路地をそおっと抜け出した。
 人通りの多い繁華街や、寝ぼけた馬鹿が徘徊する学生寮付近は避けなければならないから遠回りになる。
 箒に乗る訓練をするのにも使われる牧場・湿地帯方面から学園を目指そう。エルフ+吸血鬼の身体能力をもってすればそう時間はかからない。
 そう思って路地から首を出し、あたりを窺おうとしたところでバッタリ知人に出くわした。
 まず右見て、左を確認したらそこにいたわけで、これは私の非ではないと思う。
 パスは私を見て、栗毛色のふわふわした髪を逆立ててるほど驚愕した。
「リリス! あ、あなたその牙――」
「がぶっ」
「あっ」




 てへっ。
 ついうっかり噛んじゃった! いっけねいっけね。反省反省~。
 でもさぁ処女の生き血ってすごい美味しいよ。ポッポウイング堂のチョコレートケーキくらい。あ、今度おごってあげるよ。お詫びの印に。
 ね、パス?
 いくらそう言っても、伸びたての牙を生やしたクラスメイトはすすり泣くのをやめてくれなかった。
 まァこれから先、どれだけイケメンの彼氏作ってもそいつがネクロフィリアという十字架を背負っちゃったんだから無理もない。
 私はよしよしとパスの髪を撫でたが恨みがましげな怖い顔を返されてしまった。
 う~ん、目撃されたショックと動揺とあとささやかな食欲から噛んじゃったけど、これはこれで仲間が増えたと思おう!
 幸い、パスは吸血鬼のなりそこないのゾンビにもなっていないし。
 旅は道連れ世は末期。
 いざゆかん、オーク婆の根城へ!













 ……いやだからさぁごめんってばパスったらもー泣きやんでよー終わったことじゃーんしょうがないじゃーん冷たい身体にも熱いハートがあるのよって言えば童貞の二人や三人釣れるってーねーパスーねー口きいてよー(泣)
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