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エピローグ

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カーテンの隙間から入る光が顔に当たり眩しさで目を開ける。
カーテンを閉めきっているせいか部屋の中は薄暗く、ただ隙間から入ってくる太陽の光がほんのりとあたりを照らしていた。
部屋の中は冷たく、吐く息が真っ白になって空気に溶けていく。
朝は随分と冷え込むようになり風はより冷たくなっている。
昨日の家に押入れから毛布を出して正解だった。
季節は秋から冬へと移り変わりまだ雪こそ降ってはいないが北風が運んできた冷気は俺の部屋だけでなく街全体を冷たくしている。
斉藤たちとの戦いから数ヶ月たった今、俺達は平穏な毎日を送っている。
いや、平穏なのか・・・・・・。

翠「十紀人殿!!起きろ!!朝だ!!休みだからといってダラダラと寝るな!!」

突如、ドアを活きよいよく開けて俺の部屋に入ってきたのは緑だった。

十紀人「おはよう。翠。」
翠「おはよう。さぁ起きろ!」
十紀人「なっ!!」

翠はドタドタと俺のベットに近づいてきて布団を俺からひっぺはがす。

十紀人「さっぶ!!翠、布団を返してくれ!!」
翠「断る!!食事の準備が出来ているのだ。早く起きろ!!」
十紀人「休みぐらい。寝かせてくれ!!昨日は百鬼と赤に付き合わされて夜遅くまで起きていたんだ。」
翠「そんなことは私に関係ない!!」

布団を取られまいと懸命に布団にしがみつくが翠は負けじと布団を離そうとはしなかった。
俺は布団を引く力にグッと力を入れる。

翠「きゃっ!!」

勢いに負けた翠が俺に覆いかぶさる様にしてベットに倒れてきた。
俺はとっさに抱きとめる。
翠の顔が俺にぶつかるかぶつからないかのところで停止した。

十紀人「・・・・」
翠「・・・」

翠の息が俺にかかる。
そして俺の息も翠にかかる。
それくらい近い位置で俺達は停止している。
翠は何も言わずただ目を見開いて俺を瞳を見ている。
俺も翠と同じように翠の目を見つめていた。
いや、どうしていいかわからなかった。俺が動けば確実に翠と唇が触れてしまうだろう。
かと言って声をかけようにもなんと言えばいいものか、あいにく俺の頭の中に適切な言葉が浮かんでこない。
沈黙が部屋を包みこんでいた。
すると翠は静かに口を開く。

翠「このまま私が動けば十紀人殿の唇をうばえるのか・・。」
十紀人「・・・・」
翠「私は・・・私は・・・・」

翠がゆっくりと目を閉じようとした・・・

楓「翠。ご主人様は起きましたか??」

楓が開けっ放しになっていたドアから顔を覗かせる。

楓「・・・・翠。」

翠の目が大きく見開くのがわかった。同時にこれは俺に取ってよくない出来事が起きると悟ってしまった。
翠は直ぐ様俺から飛び退いて慌てた口調で弁解をする。

翠「楓お姉様!!これは違うのです!!これは不可抗力というものです!!私は別に・・その・・・せ、接吻をしようとしたわけではゴニョゴニョ・・・」

最後の方は何を言っているのか聞き取れなかったが翠は顔を真赤にしてそういった。
俺はゆっくりと起き上がり二人にバレないようにクローゼットの中に隠れようとした。
今から考えると自分でもなぜそのようなことをしようとしたかはわからない。
ただ、人間というものは目の前によくない出来事あると分かっていると逃げてしまうものだ。

楓「いいんですよ。翠。ただライバルが一人増えるだけのことです。」
翠「待ってください!!私は楓お姉様のライバルでは・・。」
楓「みなまで言わんくても分かっておりますよ。翠。」

楓はそっと翠に近づいて肩に手を置く。

楓「そして、ご主人様?」

隠れようとしていた俺に楓はそう言ってニコッと笑った。
俺は体半分をクローゼットの中に入れようとしていて恐る恐る楓を見ると綺麗な笑顔ではあったが目は全然笑っていなかった。
翠も翠で俺を睨みつける始末だ。

楓「わたくしに言ってくださればいつでもお相手しますので是非。」
十紀人「あはは。」

俺の乾いた笑い声が部屋に響く。
楓と翠が部屋を出て行ったあと俺は着替えを済ませてリビングに降りる。
既に全員テープルに並んでいた。
以前は俺と静、白雪、百鬼の4人だったのでこのテーブルは狭くもなく広くもない丁度いい感じだったが、今はそれに楓、翠、赤が加わり狭いより窮屈になっている。
テーブルを買い換えようと思ったのだがなかなかいいのが見つからずに今日まで過ごしていた。
あの戦いから家を無くした翠、赤は俺の家で暮らすようになり楓がでは私もということでなぜだかここで暮らすようになった。
両親が家に時々返って来ることを条件にここで暮らしてもいいという事になっているという。
俺としてはOKなのだが・・・楓の両親もよくそれで納得したものだ・・・。
今は俺を含めて計7人でこの家に住んでいる。
本家に行けばもっとゆったりと暮らせるが俺はこの家が好きなのだ。
ここにはいろいろな思い出が詰まっている大切な場所だから・・・。
などと過去を少し振り返りながら俺は朝食が用意されていた席に付く。

白雪「おはよう。」
百鬼「マスター遅いであります。百鬼はお腹がペコペコであります。」
赤「僕もお腹ぺこぺこっスよ。」

白雪の挨拶とともに百鬼と赤はダラリとテープルもたれかかる。

十紀人「おはよう。」

俺はみんなと挨拶をかわす。

静「はいお兄ちゃん。」

静が俺の前にゆっくりと味噌汁をおくとモクモクと蒸気があがり味噌の匂いを運んでくる。
全ての料理を運び終えた静がゆっくりと席に付く。
静の作った朝食を終えてひと休みした後俺は一人で家を出た。
ある人達と久しぶに会うために約束している場所に向かっている。
しばらくすると俺の目の前にお寺の門が見えて来た。
そこに二つの姿が見える。
一人は車椅子に載っていてひざ掛けをしていてもう一人はいつもの真っ黒なメイド服姿だ。
二人に近づことした時、不意に声をかけられた。

白雪「ご主人様。」

俺が振り返るとそこには白雪の姿があった。

十紀人「白雪か。」
白雪「クロ・・・いや、桜の元に行くのだろ?私も一緒に連れていってくれ・・・。」

俺は何も言わずそっと手を差し伸べる。
白雪の顔がパッと明るくなり差し出した手をしっかりと握り返してくる。
俺は白雪を引っ張てあいつらの元へと急ぐ。

十紀人「粋!!黒川!!またせたな!!」

空気は冷たく、風は気温をグッと下げて俺達の体をすり抜けていく。
木から最後の一枚の枯れ葉が落ちて道路脇の溝に静かに着地をする。
空には分厚い雲が覆い、あたりを薄暗くしていく。
ゆっくりと空から氷の結晶が一つ落ちてくる。
それが地面に押して一瞬で水滴に変わるのを合図に空かはいくつもの氷の結晶たちが踊りながら落ちてくる。
俺達が出会いいくたの日々が周り季節は冬。
こうして俺達はいくつもの季節を過ごしていくのだろう。
これからずっとこの優しい俺達の居場所が続く限り。

第二期 紅月の夜 完








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