百鬼が来て既に数週間たった。
俺はというと相変わらず学校と家の行き帰りがの日々が続いている。
公園の一件以来、粋からの襲撃はまったくなく平穏無事な日々だ。
俺と静が学校に行っている間クロや白雪や百鬼は家で待機している。
はじめは俺がまたいつ襲われるかわからないといって学校に付いて来ると言って聞かなかったが静が説得してくれてその場は収まった。
まぁ粋も真昼間の学校を襲撃するほど常識のない人間ではないだろ・・・・多分。
白雪『ご主人様聞こえるか。』
窓の外をぼんやりと眺めているといきなり白雪の声がした。
俺はあたりを見渡すが白雪の姿はどこにもない。
気のせいかと思い再度窓の外を見つめ直す。
白雪『聞こえているなら応答しろ。』
まただ、どうしたというのだ・・。
白雪『おかしい。確かに繋がっているはずだが・・。』
十紀人『なぜ白雪の声がするんだ?しかも声が頭に響いてくる感じだ。』
白雪『なんだ繋がっているではないか。』
十紀人『え?』
白雪『どうしたのだ?ご主人様』
十紀人「なんで白雪の声がするんだ。」
授業で静まり返った教室に俺の声が響いた。
生徒や教師の視線が一斉に俺へと集まる。
俺は恥ずかしくなり思わず顔を伏せる。
白雪『そうか・・。話し方を説明してなかったな。ご主人様心のなかで喋ってくれそうすれば会話ができる。』
十紀人『こんな感じか?』
白雪『そうだ。』
十紀人『白雪よ、そういうことははじめに言ってくれ。』
白雪『すまない。』
十紀人『いや、そう素直に謝られるとなというか・・。ところでこれはなんなんだ?』
白雪『これか?これは意識通信だ。』
十紀人『意識通信?』
白雪『そうだ。DNAで繋がっているから私とご主人様は意識の中で会話できるようになったのだ。』
十紀人『不思議な機能だな。』
パソコンでいうボイスチャットみたいなものか。
ここで白雪に構造のことを聞いたところで知らないと言われるだろう。
まぁもし知っていたところでそれを聞いても俺には理解できなのだろうけど。
こういう物は出来るから出来ると思ったほうがいいのだろうな・・。
十紀人『ん?待てよ。これは俺からも飛ばせるのか?』
白雪『できるとおもうぞ。相手を思いそれに言葉を載せる。簡単だ。』
十紀人『なるほどな。ちょっと試してみるか・・。えぇ~こちら十紀人。聞こえたら応答してくれ。こちら十紀人。聞こえたら応答してくれ。』
百鬼『ん?マスターでありますか。・・これは意識通信でありますね。』
十紀人『おぉ~繋がった。』
百鬼『いきなりどうしたでありますか?』
十紀人『いやちょっと話しかけてみただけだ特に用事はない。』
ということは二人を同時に思えば・・・。
十紀人『二人共聞こえるか?』
百鬼『聞こえているであります。』
白雪『聞こえている。・・っな!百鬼なぜお前がこの意識通信に!!』
百鬼『マスターによばれたからであります。』
十紀人『思ったとおりだ。いや、面白いな意識通信というやつは。ところで二人共ちゃんとお留守番は出来ているか。』
白雪『あぁ任せろ静から言われたことは守っている。』
百鬼『同じくであります。』
白雪『ところでご主人様、浮かない声をしているがどうしたんだ?学校でなにあったのか?』
十紀人『ん?いや何もないさ。』
白雪『そうかならいいんだが・・。』
学校のつまらなさがどうやら心の声に影響したのかも知れない。
白雪『そういえばさっきメイド服をきた者が訪ねてきたぞ。』
百鬼『一瞬、黒川が攻めてきたと思ったであります。』
最近全く来なくなったから忘れていた。
本家から家の様子を見に来る家政婦さんがいることを・・・。
十紀人『それでその人は今どうしてるの?』
百鬼『百鬼が排除したであります。』
十紀人『排除!?』
白雪『百鬼言い方が悪いぞ。勝手に家に上がろうとしたから包丁をチラつかせて丁重に帰ってもらっただろ。』
おいおい、包丁をチラつかせている時点で丁重もなにもないぞ・・。
これはあとで本家に電話しなくてはいけないな。
授業の終了を告げるチャイムがなり教室が騒がしくなる。
白雪『まぁこれからはこれで会話ができるから身の危険を感じたらこれで私を呼んでくれ。』
十紀人『そうさせてもらうよ。』
百鬼『マスターは百鬼が守るであります。』
白雪『いや、私が守る。』
百鬼『白雪では力不足であります。』
白雪『貴様、言わせておけば!!そもそも私がはじめにご主人様と契約したのだぞ!!』
百鬼『はじめとか関係ないであります。』
頼むから人の意識の中で言い合いをするのはやめてくれ・・・。
白雪と百鬼の言い合いを意識の中で聞きながら俺は窓の外の方に眼をやった。
校庭では下級生たちが元気よく走り回っていた。
どうやら次の体育の授業の準備をしているのだろう。
そのなかに静を見つける。やはり静はかわいい。
下級生にかわいい子がいないというわけではないのだが、静はその中でも飛び抜けてかわいいのだ。
こんなことを言っているとシスコンだと思われてしまうかも知れないがそれも甘んじて受けよう。
白雪と百鬼にならぶ可愛さなのだから仕方が無いというものだ。
俺は席から立ち上がり廊下に出て中庭を目指した。
中庭には校庭を一望出来てなおかつ木陰になって休めるベンチがある。
そこから授業をさぼり静を見守ろうというわけだ。
体育などという危険な授業で静が怪我をしたら誰よりも早く駆けつけるためだ。
決して下級生のブルマ姿を堪能したいという下心からそこに行くのでない。
そんな気持ちは宇宙の塵ほどもないと断言して言えよう。
俺はベンチに座り手に持っていた小説を開き校庭を眺める。
中庭から校庭に向けて吹く風が俺に夏がもうすぐそこまで来ていることを知らせている。
十紀人「そういえば連休が近いな。」
携帯を開いてカレンダーを見ると今週末に連休があることに気付く。
一昨年や去年は静と旅行になんどか行ったが、今年になってまだどこにも行っていない。
これはいい機会かもしれない。それに今年は俺たち二人ではなくて白雪に百鬼そしてクロもいる。
みんなで行く旅行はきっと楽しいだろうな。
家に帰ったらみんなに提案してみよう。きっとみんな賛成してくれるだろう。
そんなことを考えている自然と顔がにやけてしまう。
女「あ、あの・・」
急に声をかけられて俺はにや付た顔をキリッと変えて声の方を見た。
俺の目の前にいたのは小柄な女子生徒だった。
蒼い髪が印象的で前髪で眼が隠れているため表情が掴みづらい。
その少女の奥には数人の女子生徒がこちらの様子を伺うようにチラチラこちらを見ている。
十紀人「俺に何か様かな?」
制服のリボンのからこの女子生徒は同級生だということが分かる。
この学校はリボンの色で学年を分けおり1年生が白で2年生が赤そんでもって3年生は青だ。
ちなにみ我が妹の静は1年生なので赤色のリボンを付けている。
女「よ、良かったら今日の昼にお食事でもご一緒しませんか・・。」
十紀人「すごい魅力的なお誘いだね。俺でよければ。」
女「ホ、ホントですか」
おっとりとした口調でゆっくりと話す少女は一言で言えば清楚という感じだ。
不安そうになていた口元が嬉しそうに歪むのはとても可愛らしかった。
眼が見えればもっといいのだろうが、鼻と口のパーツがいいのできっと美人さんだろう。
そんな子の食事の誘いをなぜ断らなければ習い!!いや!!男として断れないだろ!!
クロ「にゃあ」
女「ん?猫さん?」
いつの間にか俺の隣に黒猫が座っていた。
クロよ、貴様は滅多に無いチャンスを邪魔するというのか・・・。
俺は眼でクロに訴え掛ける。
クロ「にゃあぁぁぁぁ」
クロは俺を見つめて猫の鳴き声をあげる。
別邪魔するわけではない。ただ私はここに居合わせてしまっただけの話さぁ私に遠慮せず昼食の誘いで儲けたらどうだと言いたげな眼を向けてくる。
十紀人「すまない。非常に残念なのだ。あぁどれくらい残念かというと万の言葉を用いて説明したいんだが今は時間がない。だから今は一言だけ言わせてくれ俺は君と非常にお昼をご一緒したいのだが用事を思い出してしまった。その用事のせいで今日は一緒にお昼をご一緒にできなくなってしまった。本当にすまない。出来れば今度都合が合うときにまた声をかけてくれ。」
なるべく紳士的に俺は言ってのける。
女「え?」
十紀人「ではさらばだ!!」
女「あっ待ってください・・・。」
俺は隣にいたクロを抱えてその場を逃げ出した。
後ろから待ってくださいと俺を呼び戻そうとする声がしたが俺は泣く泣くその場を去って体育館裏にまで走った。
クロ「人間、そんな慌ててどうしたというのだ?」
十紀人「慌ててなどいない!そんなことよりなぜお前がここにいる!」
クロ「何故と言われてもな。」
クロは俺の腕の中から飛び降りて俺の方を見る。
クロ「私は人間の警護をしているだけだ。」
十紀人「誰に頼まれた。」
クロ「白雪だ。お前がいつ襲われるかわからないから近くにいてくれと頼まれてな。」
どうりで朝、家を出る時にクロの姿が見えないと思ったがそういう事だったのか。
クロ「白雪ともう意識通信はしたのだろ?私でも白雪が来る時間稼ぎはできるからな。それに猫だと何かと動きやすい。」
十紀人「全くいらない世話をやいてくれるな。」
クロ「不服なのか?」
十紀人「いや、ありがたいのはありがたいのだけど・・。」
クロ「さっきの女のことか?」
十紀人「いや、そういうわけでは・・・」
クロ「分かりやすい奴め。しかし、人間は意外にモテルのだな。」
十紀人「なにを言ってるんだ?俺がモテル?彼女いない歴=年の俺がモテルだと!」
クロ「気づいていないところがお前らしい。」
十紀人「おい!クロ待てもっと詳しく・・・」
クロは俺の呼び止めも聞かずにそのまま歩き出しその場を去っていた。
十紀人「・・まぁいいか。さぁて授業ももう始まっている頃だろ。どこかでフケるか。」
もう一度中庭に戻ったが先程の蒼髪少女の姿がなかった。
仕方なく俺はマスターキーを片手に屋上に上がった。
屋上のベンチに寝っ転がると眠気が襲いかかってきた。
最近いくら寝ても眠気が止むことはない。不思議だ。
俺はただその眠気に誘われるまま眠りにつく。
・・
・
静「全く、授業をサボってこんなことろで寝ていたんですか・・。」
どうやら俺は思った以上に寝てしまったらしい。
それでも眠気は収まらなかった。
いつものように昼食を誘いに来た静が俺のいないことに気づき屋上まで探しにきたところで起こされたのだ。
起こされたときに既に静の顔は河豚のように膨れ上がっていた。
静のお説教をやり過ごして昼食とるころには既に昼休みの半分を過ぎていた。
静「ところでお兄ちゃん。私が体育の授業の準備をしているときに中庭のベンチに座ってましたね。」
十紀人「あぁ、静の体操服姿を見たかったからな。」
静「ありがとうございます。」
静はニコやかな笑顔を俺に返してくれた。
いつも俺がほめても静は動じることもない。
白雪や百鬼は少なからず頬を染めて答えてくれるのに静はいつもニコやかな笑顔をするだけだ。
確かにその顔もかわいいが俺的にはもっと違った反応を期待したいところなのだ。
静「それでですね。あのお兄ちゃんに話しかけていた人なんですけど誰ですか?」
俺は口に運ぼうとした箸を止める。
これはまずい。食事の誘いを受けてたなんて言ったら静の現実逃避が始まってしまう。
さてなんて説明したのものか・・。
クロ「食事の誘いを受けていたぞ。」
十紀人「クロ!!」
ひょっこり現れたクロがもろに地雷を踏んでくれた。
静「へぇ~そんなんですかぁ。お食事の誘いを・・・。」
クロ「ん?私は何か地雷を踏んだか?」
十紀人「ばっちりな」
クロ「・・・そうか。では私は退散しよう。」
十紀人「逃がさないぞ。クロ。」
クロ「人間、尻尾を放してくれ。」
そのまま立ち去ろうとするクロの尻尾を俺はすばやく捕まえる。
十紀人「クロくん。ちゃんと説明してくれるよね。」
静「ぶつぶつぶつ・・・・。」
クロ「はぁ腰が折れるな」
十紀人「誰のせいだと思っているんだ。」
その後昼休みの残り時間をフルに使って静を現実世界に戻すことに成功した。
俺は一度教室に戻り授業が始まる頃に再び屋上に戻った。
クロが屋上に残るといったからだ。
俺はクロと話がしたかったのだ。
大事な話を・・。
これからの俺の身の振り方を・・。
屋上の扉を開くとベンチの上で丸くなって寝ていたクロが顔を上げて俺の方を見る。
クロ「どうした人間。なんでもどってきたんだ。」
十紀人「クロ、お前に聞きたいことがある。」
クロ「なんだ改まって?」
十紀人「生命力について教えてくれ。」
クロは難しい顔をして黙った。
俺はクロが口を開くまでじっと待った。
数分後にクロは静かに口を開いて俺を見つてきた。
クロ「・・・いいだろ。少し長くなるベンチにでも座ってゆっくり話そうか。」
十紀人「わかった。」
俺がベンチに座るとクロは俺の膝の上に座り話し始めた。
クロ「一般的には生命力とは生きようとする力だ。それは活力・気力・元気・精力から生まれる力だ。人によってバラバラではあるが生命力には限度というものがある。器をイメージしてくれ、大小様々ではあるが人にはそれぞれそういった生命力を貯めておく器のようなものがある。それを私たちは生器と呼んでいるんだ。そしてそこにたまった生命力がなくなれば人は死ぬ。運よく生きていたとしても生気がなく死んだような状態になる。」
十紀人「それは困るな、俺はまだ死にたくない。・・生命力を伸ばす方法とかはないのか?」
クロ「生命力を伸ばす方法か・・。理論的言えば活力・気力・元気・精力を伸ばせば自然と生命力は伸びると思うが。」
十紀人「つまりは体力と精神力を鍛えれば自ずと生命力があがるということか?」
クロ「やった事が無いからはっきりとはいえんが伸びるはずだ。」
十紀人「ん?待てよ・・減った生命力はもう戻らないのか?」
クロ「いや、生命力が少なくなると眠気が本人を襲ってくるからそのまま寝れば生命力は回復する。」
なるほど。だからか、最近寝ても寝ても眠気が取れないのはそうのせいだったのか。
十紀人「なるほど・・。鍛えてみる価値はあるか。もう一つ質問してもいいか?」
クロ「構わん。」
十紀人「クロが出す防御障壁だっけ?あれはどうやってだしてるんだ?」
クロ「自分の生命力を具現化して壁を作っているだけだ。」
十紀人「それは俺も作れるのか?」
クロ「・・・。白雪と百鬼と契約しているお前なら使えるかもしれんな。」
十紀人「クロ、俺に使い方を教えてくれ。」
クロ「断る。」
十紀人「なぜだ。」
クロ「ただでさえ白雪と百鬼で人間の生命力はギリギリまで削られているというのに自分で自分の生命力を使ってみろ本当に死ぬぞ。」
十紀人「・・・。」
クロ「・・・人間はなぜそこまで自分を追い込む。」
十紀人「もう・・もう守られたばっかりは嫌なんだ。」
自然と拳に力が入る。
クロ「・・・・。」
十紀人「俺もみんなを守りたい。・・いやそんな贅沢は言わない。せめて白雪や百鬼の足で纏にはなりたくないんだ自分のみぐらいは守れるようになりたいんだ。・・たのむ。クロ。」
クロはしばらく俺を見つめて口を開いた。
クロ「・・・ふぅ。私が嫌だと言っても人間は自分でするのだろ・・。」
十紀人「・・・・」
クロ「人間の性格など分かっている。無駄に生命力を使われて死んでも困るからな・・わかった。教えてやる。」
十紀人「ありがとう!!師匠!!」
クロ「私は厳しいぞ。」
十紀人「任せろ。なんでも乗り越えてみせる。」
・・・
・・
・
学校が終わり静が教室に俺を呼びに来て一緒に学校を出る。
校門のところでクロと合流して3人で家を目指した。
帰り道に俺の決意を静に話して聞かせたら静は不安そうな顔をして呟いた。
静「修行ですか。」
十紀人「あぁ今日から生命力をあげるためにやるんだ。」
静「お兄ちゃんが決めたことなら私は何も言いませんが・・。無理はしないでくださいね。」
十紀人「あぁ、カワイイ妹と悲しませるよなことはしなさ。静に迷惑がかかるかも知れないけどよろしく頼む。」
静「はい」
静から不安そうな顔を消して元気よく返事をしてくれた。
早く修行をしたいというのが俺を急かしていたのだろう。
俺たちはいつもよりちょっと早いペースで家を目指した。
玄関の前に立つと俺は勢い良くドアを開けて中に入った。
十紀人「ただい・・ま・・・。」
玄関を開けたときは俺は眼を疑った。
目の前にある光景に俺は絶望すら感じた。
玄関で百鬼が倒れていて背中には深々と包丁がささていった。
そこから流れだすおびただしい量の血は玄関を真っ赤に染め上げている。
十紀人「百鬼?うそ・・だだろ・・・。」
静「どうしたんですかお兄ちゃん」
クロ「・・・」
何が起きているかわからない。
俺は固まってしまった。
眼に見えるものを現実として受け入れることが出来ない。
十紀人「百鬼!!」
白雪「ん?ご主人様、帰ったのか。」
十紀人「え?」
リビングの方から顔をだした白雪がこちらにやってくる。
白雪はこの状況をみてやけに落ち着いていた。
十紀人「白雪!落ち着てる場合じゃない!!百鬼が!!」
白雪「・・・いや、なんだ。ご主人様・・・とりあえず冷静になって百鬼を見てくれ。」
十紀人「冷静になんてなれるかよ!!百鬼が!!」
クロ「人間、白雪のいうとうおりだ一度冷静になるといい。」
俺は二人に言われて落ち着いて周りを見た。
おびただしい血と百鬼の背中にはナイフ。
あたりはケチャップの匂いが充満していた。
ん?ケチャップの匂い?
百鬼の体が小刻みに震えているのがわかった。
百鬼「くくくく。」
十紀人「え!?」
百鬼「引っ掛かたでありますね。マスター」
十紀人「は?え?」
白雪「はぁ百鬼は死んだふりをしていただけだ。」
十紀人「えええぇぇぇぇ!!」
俺は驚きよりなにより安心感でいっぱいになってしまった。
しかし俺の後ろでただならぬ殺気を放っている人がいた。
静「百鬼さん・・。食べ物を粗末にしたらいけないと習わなかったのですか?」
百鬼「し、静、どうしたでありますか。お、穏やかではないであります。」
静のただならぬ殺気に百鬼が怯えてしまっている。
リビングから顔を出していた白雪は既に顔を引っ込めていた。
クロもいつの間にか姿を消していて玄関には俺と百鬼と静だけになっていた。
十紀人「まぁまぁ静。落ち着いて。」
静「百鬼さん、廊下を汚すのはいいです。掃除をすればいいだけですから・・。ですが、調味料や食べ物を粗末にするのは許しません。そこに座ってください!!」
静に一喝されて百鬼は直ぐ様正座をする。
なぜだか俺もその場に正座して百鬼の横に並んでしまう。
ふんだん怒らない人が起こるというのは怖いものだ。
静「いいですか百鬼さん。食材というのはですね尊い物なのですよ。それを作るためにどれだけの材料と――――。」
静の以下に食材や調味料が大切なのかを永遠と聞き今回は事なきを得た。
あとで聞いた話だが意識通信の時の声に俺の声が浮かない声だったので百鬼なりに俺を楽しませることを考えたときに出てきたのが死んだふりというわけだ。
その行為は嬉しいのだがもっと別のやり方があっただろうに・・百鬼とともに玄関の掃除をするはめになった。
余談ではあるが百鬼は俺の反応がツボに入ったのかそれ以来俺達が学校から帰ると懲りずに玄関で死んだふりをしているようになったのだ。
もちろん、調味料や食材を使って死を演出することはなかった。
百鬼も静の説教には答えたのだろう。確かにあの静かな迫力は誰でも怖いだろう。
まぁ最近では玄関のドアを開けるのが楽しみだったりする。
訓練は次の日から朝から始まった。
朝起きてからのジョギングから始める。
学校にいる間はイメージトレーニングや瞑想など精神力を鍛える。
学校が終わり家に帰ると筋肉トレーニングやクロとの手合わせで体力を鍛える。
これが一日の訓練だ。
はじめの二日間は大変だったが三日目となると余裕が出来くる。
もともと運動とかは小さい頃良くしていたから体力にはそこそこ自信があったがなかなかハードなものだった。
十紀人「くはぁ~疲れた。」
俺はリビングのソファに倒れこむように座る。
連日の訓練で既に体のあちこちが筋肉痛になっていた。
静「お兄ちゃん、ここに飲み物置いときますね。」
十紀人「すまないな。クロ、これでほんとに俺の生命力は伸びているのか?」
クロ「わからん。生命力が見れる装置でもあればいいのだがな。」
白雪「ご主人様がこれだけ頑張っているんだ。生命力はきっと上がっている。」
十紀人「だといいんだけどね。」
まぁ少しずつ実感では出てきている。以前に比べて眠気がなくなってきているのがなによりもの証拠だ。
これは単純に生命力が上がったためだと俺は信じたい。
俺はそう思いながら静が用意してくれた飲み物をカラカラに乾いた喉に通す。
ふと以前考えていた旅行のことを思い出す。
明後日には連休に入るのだからみんなに話しておひたほうがいいだろう。
十紀人「今度の連休にみんなでどこかにいかないか?」
静「あっいいですね。私行きたいです。」
百鬼「賛成であります。」
白雪「そうだな、断る理由がないな。」
クロ「それはいい考えだな。」
静「ですけど、どこに行くのですか?」
十紀人「それなんだよな。まだ考えていないんだけどみんなは行きたいところある?」
白雪「私はそういうものをしたことがないから提案出来ない。」
百鬼「同じくであります。」
クロ「そうだなぁ私は人間に任せよう。」
静「そうですね。私は個人的に行きたい場所がありますね。」
十紀人「ん?どこかな?」
静「温泉です。」
クロ「温泉!!」
十紀人「ん?クロどうしたんだ?」
クロ「いや、んでもない。」
百鬼「温泉でありますか・・。」
白雪「温泉かいいな。行ってみたい。」
十紀人「決まりだな。」
静「では私が場所とかを決めていいですか?お兄ちゃん」
十紀人「あぁ任せるよ。」
静「じゃぁ予約取っておきますね。」
静は嬉しそうに鼻歌を歌いながら温泉宿の電話番号を調べ始めた。
白雪「楽しみだな。」
百鬼「そうでありますね。」
クロ「・・・」
十紀人「さてお風呂でも入って寝るか。」
百鬼「では、背中を流すであります。」
白雪「なに!!貴様!!この前ちゃんと話し合って背中流しはなしといったではないか!!」
百鬼「百鬼はそんな昔のこと覚えていないであります。」
白雪「貴様まぁ~!!」
百鬼と白雪の言い争うをスルーして俺はお風呂に入った。
最近では百鬼と白雪の言い争いも見慣れたものだ。
時々百鬼はわざと白雪を怒らせて楽しんでいるようにも見える。
白雪も怒りはするがどことなく顔はにや付いているような気がする。
なんだかんだ二人は仲良しなのだろう。
静もそれが分かっているから二人が言い争いをしていてもニコニコしながら二人を見ている。
十紀人「・・楽しいな。」
自分の周りに人が居てくれるということはこんなにも楽しくて暖かい気持ちになれるなんてな・・。
いや、忘れていただけだろう。昔は粋がいたしあの人だっていた。
いつの間に俺は忘れていたんだこの暖かい気持ちを・・・。
俺は感謝しないといけないな・・。
この感覚を思い出させてくれた二人に・・。
十紀人「今度は守りきってみせる。この空間を守りきって見せる。・・・粋。」
お風呂場の窓から見える月に向かって俺は拳を突き立てた。
月はたが優しく光り俺の拳を照らしていた。
・・・
・・
・
旅行の日になるまではあっという間だった。
俺はみんなでの旅行が楽しみでいつもより早く起きてしまったのだ。
カーテンを開けると暁時で早起きのスズメたちが起きたことを強調するように鳴いている。
静から聞いたところ俺達が行く温泉やとは人街離れたところの山奥にあるらしい。
ここから駅に行ってそこで電車に乗って田舎まで行く。
詳しい場所は聞いていないがあまり有名ではないがいいところだそうだ。
静はそういう物を探すのがうまい。そしてどれも間違いなく最高なのだ。
そんな静がいいところだというのだから今回も間違はないだろう。
俺は階段を降りてリビングに顔を出す。
台所では静が静が朝食を作っている最中だった。
静は俺に気付いて少し驚いた顔をして言った。
静「お兄ちゃん。おはようございます。」
十紀人「おはよう。」
静「いつもこの時間に起きてくれれば助かります。」
十紀人「善処するよ。」
台所に行くと静は朝食と一緒にお弁当を作っているのがわかった。
十紀人「お弁当なんているのか?」
静「長旅になりますからいりますよ。」
静は俺に笑顔を向けて言った。
テーブルに付きみんなより先に朝食を取り時計をみるとまだ出発までに時間があった。
丁度、家の周りのランニングコースを回れるだけの時間がある。
俺はジャージに着替えて玄関でランニングシューズを履く
十紀人「ちょっと走ってくるは」
静「出発までにはもどってきてくださいね。」
十紀人「わかったよ」
紐をきつく結びながら返事をすると部屋から白雪が部屋から眼を擦りながら出てきた。
白雪「何だご主人様。どこに行くんだ。」
寝癖で髪が乱れていてパジャマのまま白雪は登場した。
なんともかわいらしいパジャマを着ているものだ。
十紀人「ちょっと家の周りを走ってくるよ。」
白雪「そうか。気をつけるのだぞ。」
十紀人「わかったよ。それより寝癖直したほうがいいよ、後、パジャマも着替えたほうがいいと思うよ。」
俺の指摘で寝ぼけていた頭から覚めたのだろう。
顔が急激に赤くなっていくのがわかった。
俺は白雪になにか言われるよりも先に玄関のドアを開けて勢い欲く外へ出た。
背中で白雪の叫ぶ声が聞こえたが俺はかまわずそのまま走る。
走っていると薄暗かった空は次第に明るくなり太陽があたりを照らし始める。
俺が走り終わり家で軽くシャワーで汗を落として頃にはみんなの出発の準備は整っていた。
静「では行きましょうか。」
百鬼「行くであります。」
白雪「百鬼!!少しは荷物を持ったらどうだ。」
百鬼「か弱い乙女に荷物を持たせるでありますか!」
白雪「誰がか弱いだ!」
十紀人「まぁまぁ百鬼の分は俺がもつから。」
白雪「ご主人は百鬼に甘すぎる!それは奴のためにならない!!」
クロ「まったく騒がしい奴らだな。少しは大人しくできんのか?」
静「いいじゃないですか。騒がしい方が楽しいですし。」
クロ「それもそうだな。」
十紀人「早くいくぞ。」
そんな会話をしながら俺達は最寄の駅を目指す。
駅に着くと既に電車は来ていて俺達は指定された席について温泉宿を目指す。
百鬼も白雪も電車は初めてだとはしゃいでいた。
俺は窓から見える風景を眺めていた。
車窓の風景は進むに連れて都会の風景から田舎町の風景に変わっていた。
田園風景はずっと都会に住んでいた俺からすれば見慣れないものですごく新鮮なものだった。
静の作ったお弁当は車内でも気軽に食べれるサンドウィッチだった。
住んでいる街から電車を二駅乗り継いでそこからバスで小一時間揺られてやっと温泉宿に着いた。
ロビーで受付を済ませると仲居さんに部屋まで案内された。
仲居「お食事は7時頃にお部屋にお持ちします。それでは御ゆるりと。」
そう言い残して仲居さんは部屋を出て行った。
静「よいっしょっと。」
百鬼「やっと着いたでありあます。疲れたであります。」
百鬼はついて早々に畳の上に大の字で寝転ぶ。
白雪「お前ははしゃぎ過ぎだ。」
クロ「まぁいいじゃないか。」
みんなの会話聞きながら部屋の窓を開けると新鮮な空気が部屋の中に入ってきた。
流石は山奥というだけあって都会の空気より美味しい。
もともと田舎に住んでいたらこんな気分は味わえないだろう。
それは都会に住んでいる俺達の特権である。
窓から見える風景は絵になるくらい綺麗だった。
十紀人「ちょっと散歩に出かけてくるよ。」
クロ「私も行こう。」
白雪「私はちょっと部屋で休みたいのだが」
静「私も部屋で待っています。」
百鬼「動けないであります。」
十紀人「じゃぁお留守番よろしく。」
静「はい。」
温泉宿から出ると左側はすぐに山になっていて右側には川が流れていた。
十紀人「川でも見に行くか。」
クロ「いや、山がおすすめなのだが。」
十紀人「いや、川な気分だぞ。」
クロ「しかし・・。」
十紀人「なにか問題でもあるのか?」
クロ「ないが・・。」
十紀人「じゃぁ決まりだな。」
川岸までいくと川の中が見えるくらい透き通っていた。
川の水を飲んでも大丈夫なような気がしてくるくらいだ。
小魚が気持よさそうに泳いでいて都会の溝川とは比べ物にならない。
いや、比べるのがまずまちがっているだろう。
十紀人「ちょっと走るか。」
クロ「こんなところまで来て修行とはな・・。」
十紀人「まぁ気持よさそうじゃないか」
クロ「はぁ、わかった。付き合うぞ。」
十紀人「ありがとな。」
クロ「・・・。」
俺はクロと共に山の中なの川沿いを走っていることにした。
川の方から緩やかに吹き抜け風は走って暖まる体温を優しく下げてくれる。
道は整備されておらず荒れて踏み場を間違えればそのまま転びそうになってしまう。
これは集中力、注意力、体力が一気に鍛えられるいい修行になるかも知れない。
空気も美味しく修行にも適している。山ごもりという修行の方法があるが今ならなるほどとうなずけてしまうだろう。
しばらく上流に向かって行くと視界がひらけたところに出で俺は眼を奪われた。
十紀人「・・すごい。」
俺達の目の前にひらけたのは10数メートル位から落ちる滝だった。
その滝は人が手を入れた形跡もなく人知れずそこに佇んでいた。
これまでの物なら観光地として扱っても人が来ると思うくらいだ。
それぐらい滝は美しかった。
クロ「綺麗だな。せっかくここまで来たんだ。お前も休んではどうだ?」
十紀人「そうだな。」
俺は靴を脱いで水に足を付ける。
十紀人「冷たくて気持ちイイな」
クロ「だな。・・・どうだ。人間」
十紀人「ん?何がだ?」
クロ「自分でも感じるだろ。己の生命力が伸びているのを。」
十紀人「そうだな。漠然とだけど感じるよ。最近二人が力を使っても眠たくならなくなったし俺の中で活力がみなぎっている。
今なら何でもできそうだ。」
クロ「・・・私は迷っている。」
俺は黙ってクロを見つめた。
クロは眉間にシワを寄せ滝を見ながら口を開いた。
クロ「確かにお前は訓練をして格段に生命力が上がった。しかし、たとえそんなに生命力が上がったとしても無茶をすれば死んでしまうことは変わらん。お前に私が使える技を教えてしまえばお前は無理にそれを使って自分を死へ追い遣るかもしれない。そんな技をお前に教えていいものかとな。」
十紀人「・・クロ。」
俺はそっとクロの頭に手をおいた。
十紀人「心配してくれてありがとな。でも俺は大丈夫だ。かわいい女の子たちを置いて先にあの世に行くような無粋な真似わしない。」
クロ「・・・人間。」
十紀人「それに俺はお前も守りたいんだ。」
クロ「・・・・」
十紀人「俺はクロを家族だと思ってる。静も白雪も百鬼もだ。俺はこの大切な家族を守りたい。みんなで守っていきたいんだ。白雪がリビングの椅子に座りながら外を眺めて百鬼が悪戯をしてクロがソファーで寝ていて静が台所に立つそんな空間を俺は守りたい。俺に出来ることは少ないかも知れないけど少しでも俺は彼女たちの力になりたいんだ。」
クロ「そうか・・。決めたのだな。」
十紀人「あぁ。お前たちに会った時から決めている。今度こそまもって見せる。」
クロ「なら、私はもう何も言うまい。・・・立て人間。今から修行を開始する。」
十紀人「おう!」
俺は立ち上がりクロの前に立つ。
・・・
・・
・
白雪と静は窓側に置いてある椅子に座り外を見た。
百鬼「さて、今日はどういう死に方をしてマスターを驚かせるでありますか・・。」
白雪「まったく。まだそのようなくだらぬことを考えているのか。」
百鬼「くだらぬとはなんでありますか。百鬼はマスターに喜んでもらいたいのであります。」
静 「百鬼さん。ここではちょっと遠慮してくれませんか。」
百鬼「静までそんなこと言うでありますか!・・・しかし、静言われてはしかたないであります。」
白雪「百鬼よ、なぜ私の言うことはきけんのだ?」
百鬼「白雪の命令に従うの不服であります。」
白雪「ほぉ~そろそろどちらが上か決めておいたほうがいいのかもな。」
百鬼「決めるまでもないであります。百鬼が上に決まっているからであります。」
白雪「なんだと!!私が貴様に――――。」
白雪と百鬼に言い合いが始まり騒がしくなる。
二人の言い争いを聞きながら静は窓の外を見て十紀人が走って行った方向を見つめる。
静 「はぁ~お兄ちゃん遅いですね」
窓の外を見つめていると静は不意にそんなことを口から漏らしてしまった。
白雪「・・全くだな。静はご主人様が好きか?」
静「え!?」
静は不意にそんな事を言われて目線を窓の外から白雪に向ける。
白雪は百鬼との言い争いを終えて窓の外を静かに眺めていた。
白雪「私は好きだ。静はどうなんだ?」
静「す、きですね。」
白雪「そうか。」
白雪は満足そうな顔をして窓の外をみている。
静には白雪が目的なのかがわからなかった。
いや、目的なんてなかったのだろうただ聞きたかっただけなのだろう。
静ははじめで十紀人のことをどう思っているかを口にだした。
その言葉を口にすると自分の心臓の鼓動が早くなるのがわかった。
きっと顔をも赤くなり始めているだろう。
それを気づかれまいと静は話を変えることにした。
静 「ここの温泉は有名なんですよ。美人の湯って言って入るだけでお肌がもちもちになるそうです。」
白雪「なるほど、それはさぞ気持ちいいのだろうな。」
静 「私も入ったことがありませんが期待できると思います。」
百鬼「あっ。帰ってきたであります。」
百鬼は静と白雪の間にあるテーブルに身を乗り出して外を見る。
百鬼が言ったように目線の先にはジャージ姿で出て行った十紀人の姿と横にクロが歩いている。
白雪「ほんとだな。」
静 「ではみなさん。お風呂に行く準備をしましょか。」
百鬼「マスターの意見を聞かなくていいでありますか?」
静 「大丈夫です。お兄ちゃんのことですから帰ってきたなりお風呂に行くって言いますから。」
そう言って静は風呂に行く準備をし始めた。
白雪「百鬼、私たちも準備をするぞ」
百鬼「分かっているであります。」
静のあとに続いて白雪と百鬼も風呂に行く準備をし始めた。
太陽は山にかかりあたりをオレンジ色に染め上げる頃だ。
・・
・
十紀人「あぁ疲れたぁ。クロ厳しすぎだ。」
クロ「そうか。お前ならあれぐらいどってことないと思ったがな。」
クロは嫌味そうにニヤつきながら言葉を返した。
十紀人「っく。そうだな。あれぐらい俺にはたしたことないぜ。」
無理に疲れた体を張っていばってみせる。
クロ「そうかななら明日もみっちりとしごいてやるから覚悟するんだな」
十紀人「うっ・・そんなことより風呂だな!風呂に入れば疲れも癒える。」
クロ「私は遠慮しよう。」
十紀人「何を言ってるんだぁ?お前も体が汚れただろ。ちゃんと洗わないとな」
クロ「うっ・・しかしだな・・。」
十紀人「ん?もしやお前風呂がきらいなのか?」
クロ「な、なんのことだ?」
十紀人「ほぉ~へぇ~ふぅ~ん」
クロ「な、なんだ?その目は私は別にだな。」
十紀人「そうかなら問題ないなほら行くぞ。」
クロ「ちょっ!こら!引っ張るな!!」
横で唸るクロをつれて俺は部屋のドアを開ける。
静 「お帰りなさい。お兄ちゃん。」
百鬼「戻ったでありますか。マスター」
白雪「ご主人様。お帰り。」
三人を見ると既に風呂の準備をしていた。
十紀人「なんだもう風呂に行く準備をしていたか。」
静 「はい。帰ってきたらすぐにいくと思っていたので。」
十紀人「全く、よくできた妹だよ。」
そう言って俺は静の頭を撫でた。
百鬼「マスター。百鬼も大人しく待っていたであります。」
十紀人「そうか。えらかったな。」
百鬼「えへへであります。」
白雪「ごほん!」
百鬼の頭を撫でていると窓側に居る白雪がわざとらしく咳払いをした。
十紀人「白雪はどうだった?今日はゆっくりできたか?」
白雪「あぁ、ご主人様のおかげで英気を養えた。」
十紀人「そうか良かったよ。じゃぁみんなで風呂に行くか。」
静 「はい。」
俺達はみんなで部屋を出て温泉へと向かった。。
来たときは気付かなかったが人里はなれた温泉宿ともあって宿泊客は少なかった。
俺達の貸切ではないかと思うほどだ。
温泉に向かうまでちょっと距離があったが誰ともすれ違うことはなかった。
クロ「・・・」
十紀人「どうした。クロ」
クロ「いや、認めよう私は水が苦手なのだ。」
白雪「そういえばそうだな。お前が水浴びをしているところは見たことがない。」
たしかに猫とは水が嫌いだ。喋るからと言って猫の本質的なところは変わらないのだろうか・・。
クロ「しかし・・。たしかに今日は汚れたから洗わないといけないが・・はぁ憂鬱だ。」
静「クロさん、大丈夫ですよ。私がちゃんと綺麗にしてあげますから。」
クロ「いや、そういう問題では・・。」
百鬼「クロは臆病でありますね。」
などと話していると温泉の入り口についた。
温泉は男女で別れており入り口で別れて脱衣場に入る。
服を脱いで脱衣場から出ると露天風呂になっていた。
山の上にあるだけあって眺めは最高だ。
夕日でオレンジ色に染まる山々を一望できるほど開放的に視界はひらけている。
俺が住んでいる街では到底見れることのない景色だろう。
お風呂に浸かると訓練でできた傷がしみる。
でもそれ以上に気持よさが勝ってしまいそんなことはどうでもよく思えてきてしまう。
しばらくすると壁の向こう側から賑やかな声がしてきた。
・・・おそらく白雪たちだろ。
その声を聞くぶんにはみんなに楽しんでもらえているのだろ。
俺はそっと耳を済ませてその話を聞く。
百鬼「何をしているでありますか。みんな早く来るであります。」
白雪「百鬼は急ぎすぎだ。すこしは落ち着け。」
百鬼「百鬼はいつも落ち着いているであります。」
静「百鬼さん、前を隠してください!」
百鬼「ここには百鬼たちだけであります。隠す必要があるとは思わないでありますが。」
静「おもってください!!」
百鬼「しかたないでありますね。・・・それにしても静のおっぱいは小さいであります。」
静「っな!!変なこと言わないでください。」
白雪「百鬼よ、静をいじめるのもそのへんにしておけ。」
百鬼「なんででありますか?白雪もじつはそなに・・・。」
白雪「ん?どうした?」
百鬼「白雪は着痩せするでありますね。」
静 「・・・・。」
・・・
十紀人「いったいどう言う話をしているんだ。全く。けしからん。」
壁に耳を押し付けながらみんなを会話を聞いていた。
ん?まてよ!この壁の向こうに側には裸の白雪と百鬼それに静がいる。
俺としたことがこのシュチュエーションをわすれているとは何たることか!!
ここは温泉!そして露天風呂!!壁一枚向こうには女神たちが水浴びをしている!!
この3つがそろったとき男であるならば必ずしなければならない任務がある!!
そうだ!!それをしないということは女神たち対して大変な失礼に値するというものだ!!いや万死に値するといってもいいだろ!!
俺は足に力を入れて力強く立ち上がり壁に手をかけて一歩登っる。
十紀人「っく!!」
壁はお湯で滑りやすなっていて俺は壁から滑り落ちて湯船にダイブする形となった。
だが、すぐさま起き上がる。この強大な壁の向こうにはまだ見ぬ桃源郷を求めて再び壁に手をかける。
十紀人「俺は負けない!!この先にある俺待っている人たちのためにこの壁を登り切ってみせるぜ!!」
俺はなんども壁を登った。その度に壁は容赦なく俺を湯船にたたき落とす。
もう何度目の挑戦か忘れてしまったがやっと壁の天辺に手をつけることができた。
十紀人「よく頑張った俺!!俺は今この高みに立つことを許さたのだな!!」
既に腕はパンパンに張っていて足は震えている。
最後の力を振り絞り俺は腕に力を入れようとする。
クロ「ここまで来た努力は認めてやろ。」
十紀人「な、なぜ、お前がここに!!」
クロがいつの間に壁の天辺にいて俺の手上に足を置く。
十紀人「クロ、何をする気だ!!」
クロの口元だけが釣り上がる。
十紀人「やめろ!!クロ!!」
クロ「何をやめろというのだ?」
クロは俺の天辺に付いている指を一本一本外していく。
十紀人「話せば分かる!!クロ!!」
クロ「いや、分からんだろ。」
十紀人「クロ、俺はここまで来るまで並々ならぬ努力をしたんだ。少し位ご褒美がもらえてもいいだろ!!」
クロ「そうか、なら私の裸を見れたのだ。満足だろ・・ふんっ!」
最後に掛かっていた指が壁から離れる。
十紀人「裸って!!おまえ毛で覆われてるじゃん!!」
俺はそう言い残して湯船に堕ちて行った。
クロ「えてして無駄な努力というのもはなんとも儚いものか」
静 「クロさん。体洗いますよ。」
クロ「っぐ!!・・はぁ~今行く。」
十紀人「・・・」
・・・
・・
・
しばらくして俺は風呂を上がることにした。
あたりはすっかり夜になっていて月のない星の綺麗な夜になっていた。
部屋に戻る途中、俺は中央テラスに居る白雪を見つけて話しかけることにした。
十紀人「湯冷めするぞ。」
白雪「ご主人様か。あんずるな私はそんなに柔じゃない。」
十紀人「そうかい。どうしたんだこんなところで。」
白雪「ちょっと昔を思い出していたんだ。」
十紀人「・・・ごめん。まだ思い出せないや。」
白雪「いや、そういう意味でいったのではない。」
白雪は困ったような顔をしてこちらを見てくる。
白雪「ご主人様。私はもうご主人様が覚えていようが覚えてまいがそんなことはどうでもいいのだ。今の私にはご主人様と会ってからの日々がある。それは忘れ用もないかけがえのない思い出だ。ご主人様はそれを覚えていてくればいい。私はそれだけで満足だ。」
十紀人「ありがとう。白雪はやさしいな。」
白雪「っな!!何をいきなり。」
少し顔を赤らめる白雪はとても可愛かった。
十紀人「そういえば白雪と二人きりで話すのは久しぶりだね?」
白雪「そういえばそうだな。」
いつも俺達のまわりには静や百鬼やクロがいて二人きりになれるときなどあまり無かった。
十紀人「白雪たちが来て俺の家も随分騒がしくなったよ。」
白雪「それは迷惑をかけてしまったな」
十紀人「ちがうんだ。家に帰れば百鬼が悪さをして白雪は呆れたようにしてそれでクロがそれを見ながらソファで丸くなっている。そんな風景がも う当たり前になって騒がしい毎日が俺には尊い物になってきているんだ。」
白雪「ご主人様・・。」
十紀人「俺にとってもう白雪も百鬼もクロももう家の大切な家族だから。」
白雪「ご主人様に会えてよかった。やっぱり私のご主人様は貴方でないとだめなのだな。」
そう言って笑いかけてくれる白雪はとても綺麗で俺はなんだか恥ずかしくなってしまって白雪から顔を背ける。
白雪「けど、ご主人様。私たちを家族と認めてくれるのなら、一人で無理をしなくてもいいんだぞ。」
十紀人「え?」
白雪「家族とは支え合い初めてひとつになる。それならご主人様一人で守る必要はない。」
十紀人「・・・そうだな。うん。白雪これからもよろしくね」
白雪「こちらこそよろしく頼む。」
十紀人「・・・ちょっと身上話でもしていいかな?」
白雪「なんだ、聞いてやるぞ。」
十紀人「昔さぁ、俺には許嫁がいたんだ。俺がまだ小さい頃だよ――――。」
俺は桜姉さんを守れなかったことを白雪に話した。
白雪はた黙って俺の横で話を聞いてくれていた。
話し終わる頃にはお風呂で熱っていた体も冷めて夜風が吹くと少し肌寒い。
白雪「そんなことがあったのか・・。それはさぞ辛かっただろうな。」
十紀人「うん。でももう大丈夫だ。俺には白雪や静や百鬼やクロがいる。もう寂しくない。」
白雪「そうか、それなら良かった。ご主人様。話してくれてありがとう。」
十紀人「いやいや、話したいと思ったから話したんだよ。」
自分でもちょっと不思議だった。昔の話を人にするなんてなかった。
静にだってこの話をしたことはないのに俺は自分の過去を白雪に話した。
粋に会ったせいなのか田舎の開放感なのか原因はわからないが白雪なら話してもいいと思えたのはたしかだ。
十紀人「じゃぁそろそろ部屋に戻るよ。白雪も早めに部屋にもどってきなよ。」
白雪「心得た。」
俺はテラスから離れて部屋の方に向かった。
白雪はその背中を見送りながらつぶやく。
白雪「ご主人様、貴方の隣は良い心地がよすぎてしまう。・・・私たちに居場所をくれた恩は忘れないからな。」
その言葉は十紀人の耳まで届かなかった。
白雪「今日は星が綺麗だな。クロ。」
クロ「・・・・。」
こうして一泊二日の温泉旅行は幕を閉じた。
・・・
・・
・
温泉旅行から数日後期末試験も終わりあたりはすっかり夏の気配で木に止まった蝉たちが騒ぎ出していた。
十紀人「明日から夏休みか。・・今年は何をしようかな。」
試験も既に終わり俺は教室の自分の席について窓の外を見ながらそんなことを考えていた。
この後に続く終業式を終えれば晴れて俺達は夏休みとなる。
明日から夏休みということもあってクラスは夏休みをどう過ごすのかで賑わっていた。
いつもならそんな会話を聞きたくなく屋上へと逃げるのだが、今の俺はそんなことすら気にしていなかった。
これも白雪たちのおかげだろうか。
そのように思うとなんだか顔がにやけてしまう。
百鬼『マスター。』
窓の外を見ていると百鬼からの意識通信が飛んできた。
十紀人『百鬼か、どうした。』
百鬼『なにか嫌な予感がするであります。』
十紀人『嫌な予感?』
百鬼『はいであります。なにかこう・・胸騒ぎがするであります。』
十紀人『胸騒ぎねぇ・・。』
百鬼『気をつけるに越したことはないであります。』
十紀人『確かにそうだね・・。』
百鬼『今日は寄り道せずにそのまま帰ってくるであります。』
十紀人『わかったよ。今日はあと終業式が終わればもう帰れるから』
百鬼『そうでありますか・・。』
十紀人『心配しなくても大丈夫だよ。』
百鬼『・・・』
百鬼が黙っていると教室に教師が入ってきて整列するように生徒たちに呼びかける。
十紀人『呼ばれたから行くね。』
百鬼『はいであります。』
十紀人『そんなに心配するな。すぐ帰るから』
百鬼『・・・わかったであります。』
俺は廊下に出て体育館に向かう。
終業式は校長の無駄に長い話を聞き流し生徒会長から夏休みの過ごし方の手ほどきを聞いて終了した。
教室もどると生徒たちは我先にという感じであいさつもそうそうに教室を飛び出していった。
そんななかそそくさと静が教室に入ってくるのが見えた。
静「お兄ちゃん、今日はちょっと委員会の仕事があるので先に帰ってもらえませんか?」
十紀人「委員会って珍しいな。図書委員だったか?」
静「そうです。夏休みに入ったら図書室をどうするかということで会議があるんです。」
十紀人「そうか。分かったよ。じゃぁ俺は先に帰るけどお前は気をつけて帰ってこいよ。」
静「はい。お兄ちゃんも女の人に誘われたからってのこのこと着いて行ったらためですよ。」
十紀人「わかったよ。」
静「では行きますね。」
十紀人「おう。頑張ってな。」
静「はい。」
静は教室を去って行った。
俺は鞄を持ち教室を後にして下駄箱で靴に履き替えて校門を潜る。
日差しは容赦なく照りつけて額が汗ばむのを感じる。
女「あ、あのぉ。」
校門を潜ると一人の可愛らしい女の子が俺に話しかけてきた。
制服を着ているところからしてこの学園の生徒でリボンを見れば俺と同学年。
女の子の眼は前髪で隠れているので眼を見ることは出来ない口と鼻が整っているのできっと可愛らしい子だろう。
以前もどこかで会ったような・・・。
十紀人「君は!!あの時食事を誘ってくれた子だね!!」
女「覚えててくれたんですか!嬉しいです。」
十紀人「当たり前だ。俺は美人を忘れない」
女「美人だなんて・・・とんでもないです。」
男「ん?そこの二人さん。道を聞きたいのですが。」
十紀人「ん?」
横から話しかけられてそちら方を見るとそこには一人の男が立っていた。
外見からして俺と同じ年くらいだろう。ここの制服とは違う制服を着ている。
男「職員室まで案内してくれないか?」
十紀人「正面玄関を入って左に行けばすぐだ。」
男「いや、僕は案内を頼んでいるのだが・・。」
十紀人「大丈夫だ。行けばすぐ分かる。」
男「・・・・。」
俺は男に道順だけ言うと女の方に向きなおった。
十紀人「それで俺になんかようかな?」
女「え?あっ・・良かったら、そのですね。一緒に帰ってもらえないかなぁって思いまして・・。」
女は恥ずかしそうにモジモジさせながらそう言って頬を赤らめている。
その仕草はなんともかわいいものだ。
一緒に帰りたいのはやぶさかななのだが静に言われたこともあるからな・・。
などと考えていると女の後ろにこの熱いのにひときわ目立つメイド服を来た黒川を見つける。
十紀人「ごめん。ちょっと用事あるからまた夏休み明けにでも誘ってくれその時は是非一緒に帰らせてもらうから。」
そう言い残し俺は黒川を追いかけるようにその場を去った。
後ろに女のあって言う声が聞こえたが俺は足を止めずに走りだした。
男「行ってしまったか。」
女「・・・」
男「彼が?」
女「話しかけないでください・・・。用事がありますので失礼させていただきます。」
さっきまで優しい口調だった彼女口から発せられた言葉は冷たいものだった。
男「・・・・さて、職員室でもさがしますか・・。」
男はそんな彼女の後ろ姿が見えなくなるのを見送ってとぼとぼと十紀人教えられたように正面玄関の方にむかった。
・・・
・・
・
十紀人「どこいったんだ?」
黒川を追いかけて商店街まで来たのはいいのだけどそこで見失ってしまった。
仕方なく商店街の周りを回ってみたが黒川は見つからなかった。
十紀人「しかたない。帰るか。」
俺が諦めて帰ろうとしたら後ろから声をかけられた。
黒川「十紀人様ですね。」
十紀人「黒川!探したよ。」
黒川「私をですか?」
黒川は不思議そうに首をかしげる。
十紀人「うん。学校の近くで黒川を見つけたから話しかけようと思って・・。」
黒川「相変わらずわからない人です。敵に話しかけようと思うなんて。」
十紀人「俺は黒川のこと敵だと思ってないからな。」
黒川「それでも現実、私は貴方の敵です。」
十紀人「まぁそうかも知れないけど、今は違うだろ。」
黒川「・・・・」
十紀人「もしお前が言うように俺が敵ならお前はすぐに攻撃をしかけてきただろ?」
黒川「今貴方を攻撃しろという任務はないのでしないだけです。」
十紀人「じゃぁその任務が出るまでは俺たちは敵同士じゃないってことだ。」
黒川「困ったものです。」
黒川は困ったような顔をしているがその奥に笑みを隠しているような気がした。
俺はそれの顔を見てドキッとして思わず眼を反らして話す。
黒川もずいぶん表情を変えるようになった。
十紀人「それより、何してるんだ?。」
黒川「今日は夜まで暇をもらったので散歩をしています。」
十紀人「そうか、良かったらその散歩に俺も参加してもいいかな。」
黒川「ただ歩くだけですから暇ですよ。」
十紀人「黒川がそばにいるだけで暇じゃなくなるさ。」
黒川「・・・・」
黒川は黙って歩き出した。
きっと今の一言で黒川は照れているのであろう。
何故なら黒川の頬が一瞬赤くなったのを俺はみのがさなかったからだ。
俺は黒川の横につき歩幅をあわせて歩き出した。
十紀人「いつも暇をもらったら散歩しているのか。」
黒川「はい。あまり部屋に居るのは好きではありませんので」
十紀人「だから散歩して外を回ってるって感じか。」
黒川「そうです。」
俺はそのまま喋りながら黒川の隣を歩き続けた。
商店街を向け住宅街を向けて途中途中に喫茶店で休んだり近くの公園のベンチで休んだりして俺達は散歩を続けた。
そして俺達は中央公園と書かれた無駄に広い公園の中に入った。
ここは俺がよく休日の眼の保養をしに来るところだ。
そして粋と戦った場所でもある。
黒川「少し疲れました。」
十紀人「なら少し休むか。」
黒川「そうですね。」
そう言って近くのベンチに俺達は座った。
十紀人「ちょっと待っていてくれ。」
黒川「・・はい。」
俺は近くにあった自動販売機でジュースを買って戻っる。
十紀人「お待たせ。」
買ったジュースを黒川に手渡す。
黒川「ありがとうございます。」
十紀人「おう。」
黒川「・・・・。なぜです。」
十紀人「ん?」
黒川「なぜ貴方は私にやさしくするのですか?」
十紀人「・・・別に優しくしているつもりはないよ。ただ俺がそうしたいからそうしているだけ。」
黒川「不思議です。・・貴方と居ると忘れていたなにか大切な物が蘇ってくるような気がします。」
十紀人「大切なもの?」
黒川「私には欠落していたもの。それがなんなのかかさえ忘れてしまいました。だけどそれが大切なものって言うことは覚えています。」
十紀人「ならそれは思い出さなきゃな。」
俺は黒川に笑いかけた。
黒川「・・・。そうですね・・。」
黒川とベンチに座りながら話しているといつの間にか日が沈みかけて月が顔を出し始めていた。
十紀人「あっ!」
黒川「どうしたんですか?」
十紀人「百鬼に言われたことを忘れていた。」
黒川「・・・。」
十紀人「今日は寄り道せずに帰ってこ行って言われてたんだ。こりゃ怒られるな。まぁいいか・・。」
黒川「大丈夫なのですか?」
十紀人「多分。まぁ怒られるのはなれているからな。それよりも今は黒川の話が聞きたいかな。」
黒川「そうですか。」
十紀人「ところで黒川はなんで粋を主に選んだんだ?」
黒川「・・・・誰だって良かったのです。」
黒川は遠い目をして話し始める。
俺はそれを黙って聞くことにした。
黒川「そうです。誰だって良かったのです。初めてあったのが主だったそれだけです。・・・ですが、貴方が私の主だったならもっと人をすきになれたかもしれませんね。」
そうか、今わかった。黒川の冷たい態度は俺が敵だからそういうものじゃない。
元々彼女は感情というものを欠落させてしまっていたのだ。
ただそれだけの話なのだ。
粋「君はまた人のおもちゃで遊ぼうとしている。趣味が悪いよ十紀人。」
十紀人「粋。」
粋「黒川。時間だよ。十紀人をここまで連れてきたことを褒めてあげるよ。」
俺達の前に粋が現れた。粋は口元を釣り上げながらそう言い放った。
背筋が凍るほど冷たい口調で・・・。
あたりはすっかり暗くなり真っ赤に染まった月がただ俺たち三人を照らしている。