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1夜目 海・縁日・やるでありますか!?その挑戦受けて立つであります。

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暑い夏の日差しを砂浜が反射して上からと下から肌を焦り焦りと焼いていく。
風によって運ばれ来た潮の匂いが鼻をくすぐり、若い女性たちがキャキャっと波打ち際ではしゃいでいる。
砂に足を付けると太陽によって焼かれた砂が今度は俺の足を焼いて思わずペンギンプラス鶏のような歩き方になってしまう。
俺は一歩一歩砂を足を踏みしめて歩く。
海はいい。夏はいい。太陽はいい。なぜなら人を大胆にさせるからだ。
太陽よ。もっと熱くなれ。
そうすることによって人はもっと大胆かつもっと露出していていくのだから・・・。
実にいいことだ・・・。

百鬼「夏であります!海であります!太陽であります!!」

そんな気持ちで浜辺を眺めていると更衣室から飛び出してきた百鬼が俺の横を駆け抜けて海にダイブするのが見えた。

十紀人「あぁなんと眩しい女性たちだ。」

あんまりはしゃぐと危ないぞ百鬼。

静「お兄ちゃん今なんて言いました?」
十紀人「いやなんでもない!!」

しまった!!つい、本音と声を逆で言ってしまった。

白雪「まったく。ご主人様は相変わらずだ。」

百鬼のを追って白雪と静が更衣室から出てきた。
実にすばらしい。
豊満に育った胸と小ぶりだが実に形がいい胸の膨らみが並んでいるではなか!!
水着という名の下着の上からでもよく見て取れる。
っとそんなことを言っている場合ではない。
訂正しなければと思い俺は口を開く。

十紀人「そんなことはない!!さっきのは言葉のあやまりでな!!」
静「はぁ~わかりましたからはやくパラソルを開いてください。」
十紀人「・・・はい」

静に急かされ俺は砂浜にビーチパラソルを突き刺して広げる。

百鬼「それにしても白雪はバインバインでありますね。」
白雪「こら百鬼!触るな!!あぅっ!!」

いつの間にか海のダイブから帰ってきた百鬼が白雪の後ろから絡みついて胸を持ち上げる。
白雪が変な声をあげるもんだから俺は白雪の方に眼が行ってしまう。
決して白雪の鷲掴にされたバインバインのおっぱいを見たいとかそう言うのではない!!

静「おぉにいちゃ~ん」
十紀人「こっ!これは!!違うんだ!!」
粋「相変わらず。十紀人のところは賑やかだね。」
十紀人「粋。助けてくれ・・。」
粋「おやおや。」

我が妹に首根っこをつかまれ眼を潤ませて俺は粋を見る。

黒川「主。パラソルはここでいいですか?」
粋「うん。ありがとう。黒川。」
黒川「いえ、お安い御用です。」
静「お兄ちゃん!聞いてますか?」
十紀人「はい!お兄ちゃんはちゃんと聞いてますよ。」

そう言いながら俺は黒川を横目でみる。黒川も白雪に負けず劣らずの豊満な胸だ。
それよりもだ彼女たちが来ている水着の紹介がまだだ!!
流石、俺が選んだだけあってみんなの魅力を十二分に引き出している。
まず紹介するのは静だ。
妹系の静には定番のスクール水着を着せている。
いや、スクール水着と言っても海で着ても違和感のないデザイン仕上げてある。
控えめな胸がうまく強調されていて俺の萌心をかき乱されてしまう。
いやなんといってもオーバーニーソックス型に作った水着ソックス型シューズがなんとも言えない味を出している。
彼女の魅力を引き出していると言ってもいい。
次は百鬼だ。
赤と白の水玉模様のビキニタイプでミニスカート型のパレオを付けており可愛さを演出している。
上はホルター式で露出を多めしていて美しい生肌が俺の心を掴んで離さない
全く、我乍らニクイ演出をしているものだ。
そして白雪。
白のホルターキャミソール、ショーツ、スカートの三点セット、一見露出が少ないように見えるが後ろに回ると大胆に開けた背中が男心をそそらずにはいられない。
なっと言っても素晴らしいのがスカートだ!!片側にV字カットをいれているためそこから見える太ももやショーツのチラリズムが男の理性を崩壊させずにはいられない。
最後に黒川だ。
真っ黒なワンピース型に足丈まであるパレオを着用している。
実に普通だ。だが諸君聞いてくれ。
このベーシックな水着を魅力的に着こなせるの程のスタイルかつ気品さ!!流れるようなラインが強調されて彫刻のような美しさ!!。
あえて言おう、萌えであると!!!

百鬼「マスターの鼻の下が伸びてるであります。」
静「はぁまったくお兄ちゃんは。」
白雪「ご主人様・・・。」
黒川「・・・・。」
粋「十紀人は昔と変わらないね。」

くそ!みんなの目線が痛い。
だが、耐えて見せる!!俺にはこの天国があるからな!!
などと興奮しながらビーチテントやビーチテーブルなどの用意にとりかかる。
そもそもなぜ海に来たかというと百鬼の一言からだった。
・・・
・・


百鬼「涼しいであります。」

百鬼はリビングのソファーに寝転びながら窓の外を見ていた。

百鬼「暇でありますね。」

リビングには百鬼一人だけだった。
静はなにやら図書委員の仕事とかで朝から学校に行っていて白雪とマスターは訓練でどこかに行ってしまった。
そして残った百鬼は家でお留守番となってしまった。

百鬼「こんなことならマスターと一緒に行けばよかったであります。」

そんなことを口走っては見たが外を見ると日差しがサンサンと降り注いでいるのを見てため息をお漏らす。
もうそろそろお昼時だが一向に誰も返ってくる気配がない。
意識通信でマスターに話しかけようと思ったが訓練の邪魔をしては悪いと考えて思いとどまる。
百鬼はテーブルに置いてあるリモコンを手に取りテレビを付ける。
画面には無表情の女性が淡々と昨日の出来事を語っていた。

キャスター「では、次のニュースです。」

テレビがそう言うと今度はいかにもつくり笑顔がよくわかる顔でこちらに語りかけるようにしゃべりだす。

キャスター「夏も本番に入り、各地の海水浴場では家族連れや観光客で賑わってます。」

女性の横に小窓のような物が現れて海水浴の風景が映し出されていた。

百鬼「海水浴でありますか・・・。!!。」

百鬼は勢い良く立ち上がりリビングを出て行った。

キャスター「次のニュースです。連続行方不明事件ですが警察側も一連の事件の関連性を調べていますが進展もなく市民の不安も高まっています・・・・。」
・・


十紀人「くはぁ~。疲れた。」

俺は林の少しひらけた場所に倒れこむ。

白雪「流石、ご主人様だな。成長が目に見えて分かる。」
十紀人「そういわれてもなぁ。今日も白雪から一本も取れなかったからなぁ」
白雪「ご主人様は強い、もっと自信を持つといい。それに日に日に危なかったと思わせられる回数が増えていっている。私も今のままでは駄目だと勉強させられるよ。」
十紀人「よっと。・・・ありがと。」

上半身だけ起こし空を見上げると太陽が丁度真上ぐらいに来ていた。

白雪「そろそろいい頃合いだな。帰らないとまた、百鬼がごねるぞ。」
十紀人「たしかに。じゃ帰ろうか。」

立ち上がり俺は白雪と共に家に向かう。
ここは街から離れた山の中だ。
以前の戦い以来、政府の人たちの動きが活発になってきてる。
これは粋から得た情報だから間違いないだろう。
そのために家の庭での特訓はやめて近くの山の中まで来ている。
まぁこっちのほうが足場が悪いし視界の妨げになるものが多いため集中力や状況判断能力まで一気に鍛えれるから訓練としてはいい場所だ。
ただ家から遠いことを除いては・・。
ちょっとだけ以前を振り返ろう。
粋との戦いのあと粋はうまく政府の人たちから逃れられたらしい。
そのとき誰かに手助けをしてもらったらしいが正体はわからなかったという。
そして落ち着くまで身を隠すと言ってどこかに行ってしまった。
幾らかはメールで情報のやりとりをしているから今のところ安心している。
あれからそんなに日が経っていないことが驚きだ。
もう、何ヶ月も前のことに思えてしまう。
そんなことを考えながら俺たちは家路を急いだ。
ここから家までは走って一時間くらいかかる。
家につくころには丁度お昼くらいになっていた。

十紀人「ただいま。」

玄関のドアを開けるとそこにはおかしな格好をした百鬼が立っていた。

百鬼「お帰りであります。」
白雪「今戻った。!!。百鬼どうしたのだ。頭でも打ったのか?」

白雪の反応もあたりまえだ。
百鬼はゴスロリの格好、ここまでは普通だが・・腰に浮輪を付けて頭にはシュノーケル用のゴーグルとシュノーケルを装備していて足にはフィンまで付けて玄関に立っているのだ。
いや百歩譲ってシュノーケル3点セットと浮輪を装備しているのはよしとしよう。
だが、ゴスロリファッションとそれらが融合したときを想像してみてくれ・・・。
なんということでしょ・・・これは匠の技を使っても素晴らしい演出にするのは難しいのではないだろうか・・・。

百鬼「マスター。」
十紀人「な、なんでしょうか。百鬼さん」
百鬼「百鬼は海はいいと思うであります。」

百鬼は遠い目をしながらそんことを言った。

十紀人「そ、そうですか・・。」
白雪「百鬼よ、お前は何が言いたいのだ?」
百鬼「海であります!!」
十紀人「海がどうしたというのだ?」
百鬼「まったく物分りがわるでありますね。」

そう言って百鬼は腰に手を当ててため息をお漏らす。

百鬼「いいでありますか?今や巷では夏が本番といってるであります。」

どこの巷だ・・・。

百鬼「夏と言えばなんでありますか?白雪くんであります。」
白雪「へ?」
百鬼「へ?って間の抜けた返事ではないであります。夏と言えば暑い太陽、焼けた砂浜そして輝いた海・・そう海であります。」

どこから引っ張り出してきたフレーズだ・・・。

白雪「だからそれがどうしたといのだ。」
十紀人「白雪。俺は思うんだがきっと百鬼は海に行きたいんだと思う。」
百鬼「そうであります!!せっかくの夏であるます!!海に行かずに何をするでありますか!!」
十紀人「たしかにこう暑いと水浴びがしたくなるな。」
百鬼「そうであります。暑い=海水浴であります。」

どうしてそうなるは理解しがたいが、俺てきにも海に行くことは賛成だ。
静とは何度か行った事があるがみんなとはまだ行ったことがない。
多分、百鬼も白雪も海事態に行くのははじめてだろう。

白雪「そうだな、海か・・。最近修行詰めだったからな。」
十紀人「なら、決まりだね。後は静があいてるかだな。」
百鬼「ふふ、海であります。」

百鬼が嬉しそうにリビングに戻って行くのを見送って俺は白雪を見た。
白雪も百鬼の後ろ姿を見送っていたがその横顔はニコやかだった。
きっと白雪も海が楽しみなのだろう。

十紀人「静ももうすぐ帰って来る頃だと思うからお昼の準備をしようか。」
白雪「そうだな。」
・・・
・・


それで今にいたる。

十紀人「静。このクーラーボックスはここでいいか?」
静「はい。お願いします。」

俺は肩に下げていたクーラーボックスを地面に置く。

粋「そういえば静さんと会うのは初めてだね。」
黒川「私もお初にお目にかかります。今後ともよろしくお願いします。」
静「はい。お二人の噂はお兄ちゃんから兼ね兼ね聞いてます。これからもお兄ちゃんをよろしくお願いしますね。」
粋「可愛い子だね。十紀人。」
静「か、かわいいですか。」

粋の言葉に静が恥ずかしそうに顔を赤らめる。

十紀人「うちの妹はやらないぞ。」
粋「あはは、それは残念だな。」
黒川「粋様。」

さっきまで荷物の整理をしていた黒川が一瞬で粋の後ろに回りこむ。

粋「う!そんなことぜんぜん思ってないから安心してくれいいよ十紀人。」

笑顔で答えるが顔が引き攣っているように見えるのは俺の気のせいだろうか。
いや、気のせいにしておたほうがいいだろうないろいろと・・・。

白雪「ご主人様。私は百鬼と共に泳ぎに行くがご主人様はどうする?」
十紀人「俺は後でにするよ。」
白雪「そうか。なら行くぞ百鬼」
百鬼「静も行くであります。」
静「え?あっ!ちょっと待ってください!引っ張らないでください!!」
百鬼「速攻、特攻、突撃であります!!」
白雪「百鬼。そんなに急ぐな!!」
静「百鬼さん落ち着いてください。」

騒ぎながら遠ざかるみんなを眺めながら俺はサマーベッドに腰を降ろす。

粋「黒川も行ってきなよ。」
黒川「ですが・・。」
粋「僕も後で行くから、遠慮しないで・・。」
黒川「わかりました。」

黒川は立ち上がって白雪らが居る方向に歩いて行った。

十紀人「いやぁ美人たちを見ているのは眺めがいいな。」
粋「素直に同意しておくよ。・・それより僕と話がしたかったんでしょ?」
十紀人「よくお分かりで・・それでどうなんだ?」
粋「そうだね。今は伊集院グループの人たちのお陰で落ち着いているよ。前より政府の人たちも大人しくなってくれたしね。ただちょっと嫌な予感がするんだ。」
十紀人「嫌な予感?」
粋「僕が作ったドールズの一体がもしかしたら政府に確保されたかも知れない。」
十紀人「それって!!」
粋「まだ、決まったわけじゃないんだけどね。けど、ドールズの一体が行方不明なって居ることも事実だから・・・。十紀人たちとの戦いで作ったトールズたちは全部百鬼が壊してくれたし残った残骸も爆破したはずなんだけど・・。製造ナンバーGK666だけが消息不明になってしまっていたよ・・。ネットワークも切断されている・・。」
十紀人「666・・・不吉な番号だな・・・。」
粋「なにもなければいいんだけどね・・。」
十紀人「まぁな」
百鬼「隙ありであります。」

突如、顔に冷たい塩水をかけられてビックリする。

白雪「ご主人様、難しい顔をしてどうしたんだ?」

前を向くと白雪たちが並んで立っていた。
そうだな・・今すぐ何かが起こるわけでもないし今俺達に出来ることもない。
だからと言って楽しい時間に水を差したくはない・・・。

十紀人「なんでもないさ。さて!!泳ぐぞぉ~!!百鬼、覚悟しろよ!!百倍返しだ!!」
百鬼「百鬼と勝負でありますか?望むところであります!さぁかかってくがいいであります。」
黒川「主も一緒に行きましょう。」
粋「そうだね。今はこの優しい時間を楽しいもう。」

夏の陽射しは高く、砂浜は太陽に焦がされて熱を増していく・・。
遠くを見ると陽炎が世界を歪めて夏の暑さを引き立てている。
・・


日が傾きかけてくると家族やカップルたちでにぎわっていた砂浜も落ち着きを取り戻してまばらになってきた。
俺たちも帰りの支度を済ませて今は日が沈むのを眺めているところだ。
遠くでバーベキューを楽しむ人たちも出てきている。
みんなはしゃぎ疲れたのだろうか静かに寝息をたててシートの上で丸くなってしまった。
粋は黒川と一足先に俺の・・・親父の別荘に帰ってしまった。
といってもここから別荘は徒歩で3分もかからないところにある。
バルコニーに出れば俺たちが今いるところが見えるくらいだ。

白雪「・・・ん。何だ。私は寝てしまったのか。」

白雪は、眠たそうに目をこすりながら体を起こして俺を見た。
その姿はまるで妖艶で思わず見惚れてしまう。

白雪「ご主人様。すまない寝てしまったようだ。」
十紀人「い、気にしなくていいさ。」

白雪は起き上がって俺の横に座りなおした。
太陽は海に沈みかけ半分だけ水面から顔を出して世界を茜色に染め上げる。
そんな光を波打つ水面が反射して銀色の宝石を散りばめたようにキラキラと輝いてとても幻想的だ。

白雪「綺麗だな。」
十紀人「俺もそう思うよ。」
白雪「ところで黒川たちはどうした?」
十紀人「先に帰るってさ。」
白雪「そうか・・。」

太陽は水面に隠れて太陽の光にさえぎられて隠れていた星たちが徐々に顔を見せ始める。

十紀人「俺たちもそろそろ帰ろうか。」
白雪「そうだな。」

俺と白雪は寝ている二人を起こして近くの別荘に戻った。
別荘の中に入ると静はすぐに食事の準備をするといって台所に向かう。
どうやら先に帰った粋たちが買出しを済ませておいてくれたらしい。
女性陣はみんな静の手伝いをしている。
男陣は暇を持て余しているのだ。
俺はリビングのソファーに座り台所から聞こえてくる賑やかな声に耳を傾けていた。

粋「お帰り。」
十紀人「っつ!!」

後ろから粋の声と同時に頬に何か冷たいものを押し付けられビックリして振り返る。
そこにはコップを二つ持った粋がにこやかに立っていた。

粋「十紀人も飲むかい?」
十紀人「貰うよ。」

粋からコップを受け取るとコーヒーの匂いがほのかに漂ってきて鼻を擽る。

十紀人「アイスコーヒーか。」
粋「僕が入れてみたんだ。好きな量だけ入れてくれて構わないよ。」

目の前にガムシロップとミルクが置かれる。
まず一口コーヒーを飲む。

十紀人「美味し。」
粋「十紀人にそう言ってもらえると淹れたかいがあるよ。」 

そのあとで俺は適度にガムシロップとミルクをコーヒーに入れてかき混ぜる。
黒かったコーヒーにミルクが溶けこんでいって茶色に変わっていく。

粋「もうすぐ夏も終わるね。」
十紀人「そうだな。あと二週間もすれば学校も始める。」
粋「学校か・・。」
十紀人「お前さえよければ親父に頼んで・・。」

俺が通っている学校に行けるように手配できるぞ・・っと言おうとしたが話の途中で粋は首を横に振った。

粋「十紀人の気持ちは嬉しいけど僕は・・。」
十紀人「・・・そうか。」
粋「それに今の僕には学校に通っているほどの暇はないからね。十紀人の気持ちだけ受け取っておくよ。」
十紀人「あぁ。」

俺の残念という気持ちがつたわったのだろうか、粋はまったくといった感じでため息を漏らして口を開いた。

粋「僕よりも彼女たちを学校に通わせたらどうだい?」

そう言って粋は台所の方に眼をやる。
白雪たちは楽しそうに晩ご飯の支度をしている静を手伝っていた。
白雪も百鬼も見た目は俺とさほどからない。

十紀人「ん~。たしかにいいとはおもうんだけどな。」
粋「彼女たちが他の男になびくかもしれないから怖いのかい?」
十紀人「なっ!!違う!!」
粋「心配しなくても大丈夫さ。」
十紀人「違うって!!」
百鬼「騒がしいでありますね。どうしたでありますか?」
粋「いやぁ十紀人が」
十紀人「っちょ!!」

料理の準備を終えたであろう百鬼が台所からリビングに歩いて来る。
俺は慌てて粋の口をふさいだ。
にこやかにフガフガとなにか言っている。

静「ご飯出来ましたよ。お兄ちゃん、じゃれてないでちゃんと席についてください。」
白雪「今日はカレーだぞ。」
百鬼「百鬼が丹精込めて作ったでありますから覚悟して食べるであります。」
白雪「お前はつまみ食いばっかりだっただろう。」
百鬼「ちゃんと野菜を洗ったであります。」
黒川「まぁまぁいいじゃないですか。主。お飲み物はお水でよかったでしょうか。」
粋「ありがとう。」

さっきまで少し静かに思えたリビングはあっと言う間に賑やかになった。
それがとても心地よく感じられ・・とても大切な物に感じられた。
・・


食事が終わりみんな各々のやりたいことをしていた。
俺はというと夜風に当たりたくなり二階のバルコニーにおいてある椅子に座って紅の満月を眺めていた。
俺はこの月が嫌いだった。
いつも悪いことが起きるときは決まって紅に染められた真っ赤な満月が俺を見ているようにそこにあったからだ。
桜姉ちゃんが死んだときもそうだ。
黒川に襲われたときも・・いつだってその月があったそこにあった。
だけど白雪と初めて会ったときも粋と友達に戻れたときもこの月はただ夜空に浮かんで俺を見ていた。
そう思うとこの赤い月も悪くはないと思えてきてしまう。

白雪「綺麗な月だな。」

不意に背後から声をかけられる。
俺は振り返らずにそのまま紅い月を見上げていた。
声で相手が白雪とわかったからだ。

十紀人「うん。」
白雪「なぜ月は時々赤くなるんだろうな。」

昔、学校帰りに紅い月を見たとき俺も白雪と同じ疑問をいだいたときがある。

十紀人「地平線や水平線に近い位置にあるときは、光が目に届くまでに地球の大気中をより長く通過しているんだ。それで大気中では波長の短い光は散乱しやすくなって波長の長い光だけが残って目に届きくらしいよ。」
白雪「なるほど。赤色の光だけがここまで届いているといことか・・。」
十紀人「まぁ要約して言えばそんなところだと思うよ。」
白雪「赤い月か・・・。私とご主人様が会った時も赤い月だったな」
十紀人「そうだね・・・。」

今度は二人で紅い月を眺めた。

静「今日は満月ですね。お茶でもどうですか?」

今度は静がトレイに飲み物を乗せてやってきた。
そしてテーブルの上に飲み物を置いて席についた。

白雪「すまないな。」
十紀人「ありがとう。」

静に薦められたお茶を口に運ぶ。
冷えたお茶が喉を冷やしていくのが分かる。

十紀人「百鬼は?」
静「疲れてもう寝てますよ。」
白雪「あいつははしゃぎ過ぎだ。」
十紀人「百鬼らしくていいじゃん。」
静「そうですね。」

三人の笑い声が夏の夜空に消えていく。

静「月といえば、満月の夜は犯罪や事故が増えるそうですね。」
十紀人「バイオタイド理論だっけ?」
白雪「なんだそれは。」
十紀人「人間の体内は80%水分で出来ている。海の潮の満ち引きが月の引力に左右されるならそれが人になんらかの影響を与えてる可能性があるっていう仮説だよ。」
粋「でもその理論は統計の取り方などに問題点があるとして、科学的見地からは疑問が投げかけられているみたいだね。」

そう言って粋が話に入ってきた。
お風呂上りなのだろうか粋の髪は少し湿っているよに見える。

粋「けど、僕はその理論が好きだよ。たしかに満月を見ていると惹かれるものがあるから・・。きっと月には引き寄せられる魅力があるだろうね。」
白雪「引き寄せられる魅力か・・・。」
静「今お茶を持ってきますね。」
粋「いや、通りがかったときに面白い話が聞こえたら寄っただけだから遠慮しておくよ。それに今日は疲れたからもう寝ることにするよ。」

再び月を見上げるとさっきまで紅かった月は既に銀色に輝いていてその光でやさしく俺たちを照らしてくれる。

十紀人「さて、俺もそろそろ寝るか。」

そう言って残ったお茶を一気に飲み干して俺は席を立った。

静「そうですね。」
白雪「私もそうする。」

俺達はバルコニーを後にして各々の部屋に戻っていた。
自室のベッドに倒れこむと布団が優しく俺を包んでくれる。
窓が少し空いているのか風がカーテンを揺らして心地よい風が部屋に入ってくる。
瞳を閉じると夕食の前に粋に言われたことを思い出した。
『僕よりも彼女たちを学校に通わせたらどうだい?』

十紀人「たしかにいい考えかもしれないな。」

たしかに、彼女たちが学校に来たら今以上に面白いかもしれないし、彼女たちにとってもいいことだ。
でもそれと同時に彼女たちの正体がバレる可能性も増えてしまう。
どうやら俺には決められそうにない。
彼女たち本人に聞くのが一番だろう。
この海が終わったら聞いてみよう。
そう思っていると徐々に睡魔が襲ってきて俺はそれに身を委ねて眠りへを落ちて行く。

十紀人「きっと明日も楽しくなるだろうな・・・。」
・・・
・・


早朝に目が覚める。
あたりは徐々に明るくなり始めて小鳥たちも次第に起き始めて歌いだす。
俺は服を着替えて部屋を出てるとバルコニーに粋の姿があった。

十紀人「おはよう。」
粋「おはよう。いつもこんな時間に起きてるのかい?」
十紀人「最近はな。早朝のランニングが日課になってるからな。」
粋「昔、僕がよく起に行ったのが懐かしいよ。」
十紀人「出来れば幼馴染の女の子に起こしてもらいたかったがな。・・それより粋も早いじゃなないか。」
粋「今日は目が覚めてしまってね・・・こんなにはしゃいだのは久々だからかな・・。」
十紀人「楽しんでもらえたらよかったよ。」
粋「そういえば知ってるかい?」
十紀人「なにを?」
粋「神隠しっていってね。最近一部地域で行方不明者が出ている。数日後に帰って来る人もいるが帰って来ない人もいるって噂さ。帰ってくる人に何をしていたか聞いてもいなくなってからの数日間の記憶はないらしい。警察もこの事件に関してあまり動いてないらしい。もしかすると政府が裏でなにかやっているかも知れない。」
十紀人「それって!」

俺は思わず身を乗り出してしまう。

粋「あくまで予測だよ。僕も気になって調べては居るんだけど犯人もなかなか尻尾を見せなくてくれなくてね。」
十紀人「ドールズの次は神隠しか・・・嫌なだな」
粋「全くだよ。政府じゃなくてただの一般人の犯行ならいいだけどね。」
十紀人「一般人の犯行でも許せない。」
粋「あまり派手には動かないほうがいいよ。」
十紀人「分かっているさ。」
粋「何か情報が入ったらすぐに連絡するよ。」
十紀人「頼んだ。」

あたりはすっかり明るくなってまだ朝方というのに日差しは熱く、俺たちを照らしていた。

粋「そういえば十紀人は走りに行くじゃなかったの?」

そういて粋はジャージ姿の俺を見る。

十紀人「そういえばそうだった。ちょっと走って来るよ。」
粋「うん。僕はもう少しここで朝の日差しを楽しむとするよ。」

俺は粋と別れて日課となった早朝のランニングに出かける。
・・


ランニングを終えて戻るころには既にみんな起きて来ていた。
俺は軽くシャワで汗を流して静の作った朝食をとる。
午前中は特にすることがなくみんな各々の好きなことをやっていた。
静は帰り支度をする為に荷物をまとめているようでリビングと部屋を何度も往復している。
粋と黒川は町に出てなにやら買出しをしてくるということだ。
百鬼はリビングのソファーに寝転びクーラーと戯れている。
白雪はというと特訓をすると言って部屋にこもっているようだ。
俺はというと特にすることがなく百鬼の対面のソファに座って暇を持て余しているところだ。
ふと百鬼を眺める。
彼女たちは謎に包まれている。
彼女たちには生命力と言われるものが無い。
これはクロから・・・桜姉ちゃんや粋から聞いたとこだ。
人であって人でないものガイノイド、ヒューマノイド、そう言った類のものらしい。
コアデバイス・・。
彼女たちの心臓とも言っていい物だ。
彼女たちは主になった者からコアデバイスを通して生命力を貰うことによって力を得る。
言わば主の武器・・・デバイスということだ。
生命力の供給に使うのにポートと呼ばれるものを繋ぐらしい。
ポートは主のDNAによって彼女たちにつながる。
白雪は粘膜接触、百鬼は血液接触で俺とポートをつないだ。
俺自身も彼女たちと契約を結ぶことで力を手に入れた。
生命力を使うことで防御障壁や体の一部に生命力を集めて相手にぶつける内部破壊などだ。
どれも昔の自分からは考えがたい話だ。
今思えば常識をはるかに越えている。
これを他人話したところで精神異常者か中二病患者と勘違いされるだけだろう。
飛んだSF小説のような話だ。
しかし、俺はもっと彼女たちや自分の可能性を知る必要がある。
じゃないと彼女たちを守れない。

百鬼「どうしたでありますか?」

いつの間にかソファーから起き上がった百鬼が俺の顔を覗き込んできた。

十紀人「なんでもないよ。」
百鬼「そうでありますか・・。」
十紀人「そうだ。百鬼今暇だよね?」
百鬼「暇といえば暇であります。」
十紀人「良かったら手合せしてもらえないかな?」
百鬼「百鬼がでありますか?」
十紀人「うん。白雪も今忙しそうだから・・いやかな?」
百鬼「いやじゃないであります!!百鬼がマスターを鍛えてあげるであります。」

百鬼はやる気満々に立ち上がり腕を大きく回し始める。

十紀人「はは。お手柔らかに頼むよ。」

俺は百鬼と共に裏庭にでる。
さっきまでクーラーがかかった部屋いいたためか外に出ると暑い熱気が体を包みこみカラッとした暑さが体を包み込む。

百鬼「うぇ~あついであります。」

裏庭はそこそこ広いためちょっとやそっと暴れたくらいじゃ全く問題ない。

百鬼「さて、暑さに負けたらダメでありますね。マスターどっからでも打ち込んでくるいいであります。」
十紀人「じゃぁ遠慮無く。」

俺は左足に力を入れて地面を蹴って百鬼の間合いに入る。
百鬼は拳を大きくふりあげて突っ込んで来た俺に目掛けて振り下ろす。

十紀人「防御障壁!!」
百鬼「っな!!」

百鬼の振り下ろした拳を防御障壁を使って受け流す。
ガラ空きになった百鬼に目掛けて最近覚えた技を打ち込もうと掌を百鬼に向ける。
しかし、流石というべきだろ百鬼は大人しく技を喰らってくれるはずはなかった。

百鬼「甘いであります!!」

百鬼はわざと体をぶつけて俺の体制を崩して技の発動を阻止する。
俺はバックステップで百鬼との距離を取り大勢を整える。

百鬼「驚いたであります。マスターはいつの間にかなりレベルアップしていたみたいでありますね。」
十紀人「百鬼に褒められるとうれしいよ。」
百鬼「ちょっと面白くなってきたであります。」

百鬼の表情が変わる。
あの表情は今まで白雪と手合せするときにしか俺は見たことがない。
つまり百鬼が俺の実力を認めてくれた瞬間だった。
嬉しくなって俺は改めて百鬼を見つめる。

百鬼「今度は百鬼から攻めるでありますよ。」
十紀人「来い!!」
百鬼「行くであります!!」

流石だ。百鬼は一瞬で俺の懐に入り込んできた。

百鬼「はあぁぁぁ!!」
十紀人「っく!」

百鬼の右フックを紙一重で避けた。
いや、紙一重でしか避けれなかったと言っていいだろう。

百鬼「しっかり避けないと大怪我するでありますよ!!」

空振りした勢いを使って今度は回し蹴りを繰り出してくる。

十紀人「防御障・・・。!!」

俺はその蹴りを受け止め・・・られなかった。いや、完璧なタイミングで防御障壁を張れたはずだったのだ。
しかし、それが出来なかった。俺はあるものに眼を取られてしまったからだ・・。
そうして俺は百鬼の回し蹴りをモロに顔面にくらい吹っ飛ばされ地面を10回転くらい転がる。

百鬼「あれ?マスター!!」

百鬼が大慌てでこちらに走ってくる。
健全な男なら俺が何を見たか分かるだろう。
百鬼の服はゴスロリ系なわけだ。
当然下はスカートになるわけだ。
それで回し蹴りをする為に足を高くあげるわけだ。
そなると見えるのは一つしか無いわけだ。

十紀人「縞々、最高です・・・。」
百鬼「マスター!!死んではダメであります!!マスター!!」
・・


十紀人「痛つつっ。おもいっきり食らっちゃったよ・・。」
百鬼「大丈夫ありますか?」

俺はさっきの一撃で気絶してしまったらしい。
今はソファーの上で休んでいるところだ。
少し張れた頬に百鬼が優しく冷えたタオルを置いてくれている。
百鬼が申し訳なさそうな顔をして俺の顔を覗き込んでくる。

十紀人「いやいや、俺が気を取られたからまずかったんだよ」
百鬼「なにに気をとられたでありますか?」
十紀人「いやぁーなんといいますか・・。」
白雪「どうしたんだ?ご主人様。バツの悪そうな顔をして。」
十紀人「いやぁ百鬼のパンツに見惚れてしまってモロに回し蹴りを喰らってしまったよ。はっはっはっは。」

っは!俺としたことが不意に白雪に話しかけられてつい本音を漏らしてしまった!!

白雪「っぷ!あはははは。ご主人様らしい。」
百鬼「そうだったでありますか・・。心配して存したであります。」
十紀人「いや違うんだ!!」

さっきまで優しく看病してくれていた百鬼がいきなり素っ気無くなってしまう。

静「みなさん揃ってますね。そろそろお昼にしますがなにかリクエストとかありますか?」
百鬼「素麺がいいであります!!」
白雪「おっ!!いいな。」

そして誰もいなくなった。
気のせいか静も若干冷たい気がするのは俺だけだろうか・・。

粋「今帰ったよ。」
黒川「ただいま戻りました。」
十紀人「粋ぃぃ。」
粋「おや、十紀人どうしたんだい?」
十紀人「いろいろあってなぁ~」
粋「おやおや。それは災難だったね。予測なんだけど百鬼さんと手合わせして彼女の回し蹴りを受け止めようとしたらある物が目に映り油断したところを蹴り飛ばされて何も知らない百鬼さんに看病して貰っていたがついつい口を滑らしてある物を見たことを言ってしまい。みんなからいじめにあっている。こんなところかい?」

こいつエスパーなのか?

静「粋さん、黒川さんすぐにご飯の準備をしますのでもうちょっと待ってくださいね。」
黒川「私もお手伝いをします。」
静「ありがとうございます。」
十紀人「・・・」

・・・どうやらここには俺の味方はいないらしい。

十紀人「そういえば買い物ってお前どこ行ってたんだ?」
粋「あとでのお楽しみかな?」
・・


昼食を済ませてダラダラと過ごしていると日が暮れ始めてしまう。
俺はリビングのソファーに寝転びぼんやりと外を眺めていた。
あたりはいつの間にかオレンジ色になっていて世界を染め上げている。

粋「さて、」

そう言ってソファーに座って読書を楽しんでいた粋がいきなり立ち上がり俺を見た。

十紀人「どうした?」
粋「そろそろ。いい時間かなって思ってね。」
十紀人「どういう事だ?」
粋「この近くでお祭りがあるんだ。みんなで行ったら楽しいそうかなって思って。」
十紀人「いい考えだな!!」
粋「黒川。みんなに伝えてあれを渡してくれないかな?」
黒川「わかりました。」

そう言って黒川はリビングを出て行った。

十紀人「粋、あれって何だ?」
粋「十紀人も見たいでしょ?みんなの浴衣姿。」
十紀人「粋・・。お前は心の友だ!!」
粋「十紀人。抱きつかなくてもいいだよ。」

そうやって粋とじゃれあって時間をつぶしているとみんながリビングに集まってくる。
左から静、黒川、白雪、百鬼の順だ。
みんなしっかりと浴衣を着こなしている。
ここでミスユニバースを決めるとしたらここにいる全員だろう。
それぐらい美しいのだ!選べないくらいみんな輝いているのだ!!
あぁ~みんなに挟まれたい。
実に挟まれたいものだ!!
あぁこの素晴らしさを俺はみんなに伝えたい。
だが俺がいたらなかったばかりに・・・。
いや ほんとならこれがどれほどの美しさかを千の言葉を用いて褒め讃えたいところだ。
でもいかんせん俺の舌はそんなに早く回らない・・・。
もっと言いたいことはあるのに俺は美しいの一言に気持ちをこめるしかないんだ・・。
でもそれだと彼女たちのこの美しさがどれだけのものかわからないわけだ。
歯がゆいよ・・。
あぁできることならどこが美しいかを万の言葉を用いてレポートにまとめ上げてたい。
でもいかんせん今の俺にはそんなに時間はない。
ふできな俺でごめん、ごめんなさい、本当にごめんなさい。

静「お兄ちゃん。鼻の下が伸びてますよ。」
十紀人「そんなことはないぞ妹よ!お兄ちゃんの凛々しい顔をよく見るんだ。」
百鬼「伸びてるであります。」
白雪「伸びてるな。」
黒川「伸びていますね。」
粋「伸びてるね。」

いかんいかんついつい口元がゆるんでしまう。

十紀人「えぇい!話は後だ!!いざ、祭り会場に行かん!!」
百鬼「そうであります。早く行くであります。」
白雪「そうだな。私も早く行ってみたい。」
静「話をそらされました・・。」
粋「まぁいいんじゃないかな。」
黒川「粋様行きましょうか。」
粋「うん。今いくよ。」
十紀人「ほら、先に行っちゃうぞ。」
百鬼「マスター!!待つであります!!」
静「もぉ。あんまりはしゃぎ過ぎると転びますよ。」
白雪「まったく。いつも騒がしいものだな。」

ぞろぞろとみんなで別荘を出て行く。

黒川「みんな楽しそうですね。」
粋「そうだね。やっぱり十紀人たちといると楽しいよ。」
黒川「そうですね。」
粋「僕はね。十紀人たちがいるこの場所を守りたい。」
黒川「はい。」
粋「黒川これからも頼むよ。」
黒川「畏まりました。」
十紀人「粋!黒川!早く来いよ。」
粋「今いくよ。行こう黒川。」
黒川「はい。」
・・


祭りの会場は地元の人や観光客の人たちで賑わっていた。
縁日の灯りで夕闇を照らしてみんなの笑い声が縁日の楽しさを引き立てる。
粋と黒川は俺達の一歩後ろを歩いていた。
俺は祭りの雰囲気が好きだ。
笑い声や太鼓の音、笛の音色、屋台の呼び込みの声そういった音が混ざり合って気持ちを盛り上げてくれる。
そしてみんなも笑顔にさせるんだ。

百鬼「ん!?白雪!これで私と勝負するであります!!」
白雪「ん?射的か?いいぞ、受けてたとう。」
静「待ってください。最初にお金を払わないといけないんですよ。」
十紀人「まった!!俺もその勝負参加するぞ!」
白雪「いくらご主人様相手でも私は勝ちに行くぞ。」
十紀人「おぉ!こう見えても俺はこういったゲームは得なんだぞ。」
百鬼「負けないであります!」
的屋「おお!!やるきだねぇ?一人500円だ。」
白雪「真剣勝負だかな。」
十紀人「任せろ。」
百鬼「早くするであります。」
静「ちょっと待ってくださいね。」
百鬼「静はやらないでありますか?」
静「私は見ていますよ。」

コルクを銃身に詰めて構えを取る。
みんな真剣に的に狙いを定めて引き金に指をかけて一気に引いた。
百鬼の弾は明後日の方向に飛んで行き白雪の弾は的をかすめる。
俺はというと的の真を捉えて商品をゲットする。

十紀人「俺の勝ちだな!」
百鬼「さて、今からが本番であります。」
白雪「今のは練習だ。」
十紀人「っな!お前らなぁ」
静「ふふふ。みんなさん楽しんでくださいね。」

結局のところ勝敗は俺の勝ちのはずだったが何故か引き分けということになった。
これが火種になったのか百鬼はいろいろと勝負を持ちかけ始めた。
金魚すくい、ボールすくい、ピンポールや、輪投げ、焼きそばの早食いなどだ。
百鬼がボールすくいに熱中するあまり水槽を倒したり白雪が焼きそばを喉に詰まらせて水を求めて走りまわったり。
そんな楽しんでいる彼女たちは普通の女の子そのもだった。
決して作られた物とは思えない。
だから俺は彼女たちを守らないといけない。
彼女たちが彼女たちでいられるこの場所を・・。
俺は守って見せる。
そう思い俺は彼女たちを見て再度心に決める。
・・


十紀人「あれ?」
白雪「どうした?ご主人様。」

しばらく歩いているといつの間にか堤防を歩いていた。
あたりを見渡すと静や百鬼たちの姿はなく俺と白雪だけになっていた。

十紀人「いや、みんながいつの間にかいなくなているから。」
白雪「そういえばそうだな。」
十紀人「みんなを探しに行くか?」
白雪「あいつたちも子供ではない。何かあれば連絡をよこすだろ。」
十紀人「それもそうだな。」

俺は白雪と二人で並んで歩く。
この辺では大き祭りなのだろう。
堤防まで出店が並んでいる。

十紀人「ちょっと疲れたな。休もうか。」
白雪「そうだな。・・・ご主人様。ちょっと下に降りてみないか?」

そう言って白雪が指差す方向には川が流れていた。

十紀人「賛成だな。」
白雪「では行こう。」
十紀人「おう!」

白雪は俺の手を引っ張って堤防を川の方に降りていく。

十紀人「そんなに慌てると転ぶぞ。」
白雪「大丈夫だ。」

白雪の手は温かくやわからい。
川原に腰を下ろして足だけを水に付ける。

白雪「涼しいな。」
十紀人「たしかにね。あぁ~遊んだな。」
白雪「あぁ。こんなに楽しい思いをしたのは初めてだ。」

白雪のその笑顔が俺に向いたとき俺はドキっとしてしまった。
その笑顔が可愛くて美しくて俺は見惚れて思わず時を忘れてしまう。

白雪「どうした?私の顔になにか付いているのか?」

その言葉で俺は正気に戻り恥ずかしくなって顔を背ける。

十紀人「な、なんでもない。」
白雪「私はこんな時間が得られるなんて思っていなかった。」
十紀人「え?」
白雪「私たちは兵器だ。」

白雪はそう口に出した。
それは彼女たちが作られた本当の理由だ。

白雪「それは変えようのない事実だ。そのために作られた私とこうしてご主人様は暮らしてくれる。それが私には嬉しいことなんだ。例え作られた意味が兵器だったとしても・・。人ではない力があるとしても。だけどそういった事実が時に自分を現実に引き戻していく・・・。」

そそう言って白雪は口を閉じた。

十紀人「俺は白雪たちを兵器だと思ったことはないよ。たしかに白雪たちには人では到底及ばない力がある。そして白雪たちは人の手によって作られた。それはたしかに変えようのない事実。でもここで笑っている白雪たちはたしかに人間だよ。作られたとか力があるとか本当はどうでもいいことなんだ。そこに心があればどんな物でも人間になれる。白雪が思っている以上に人間とそうでない者の壁って薄っぺらいものだから。」
白雪「ご主人様。」

突如、周りの灯りがすべて消える。

白雪「え?」

そして、大きい音と共に光り輝く大輪の花が夜空に浮かび上がる。

白雪「・・・・」

そしてその光が白雪の顔を照らしてすぐにまた暗くなる。

十紀人「きれいだね。」
白雪「あぁ。すごく綺麗だ。」
十紀人「あるよ。白雪にも、ちゃんと・・心が。」
白雪「ありがとう。ご主人様。」

俺はそっと白雪を抱きしめる。
抱きしめた白雪からはちゃんと温もりが感じられた。
それこそが白雪が人間である証だ。
白雪と目と目が会う。

白雪「ご主人様・・・。」

白雪がそっと目を閉じる。

十紀人「しら「見つけたであります。」」

その声とともに水しぶきが俺たちにかかりベチャベチャになる。
川の中から百鬼が叫ぶ。

百鬼「探しであります!!」
静「お兄ちゃん。なぁに白雪さんにいたずらしてるんですかぁ?」
十紀人「し、静!!」

俺はとっさに白雪から離れて静を見る。
静さんいまなら見えます。あなたの後ろに般若が見えます。

十紀人「静落ち着けこれには深いわけがあるんだ!!」
静「へぇ~そですか白雪さんとそんな深いわけがあるんですか。わかります。」
十紀人「いや!わかるな!!」
白雪「っふ。あはははははははは。」
静「白雪さん?」
白雪「ははははははは。楽しいな!百鬼!よくも私に水をかけたなぁ!百倍返しだ!!」

そう言って白雪が百鬼に目掛けて川へダイブした。

百鬼「やるでありますか!?その挑戦受けて立つであります。」

そうしていつもの百鬼と白雪のじゃれ合いが始まった。

静「・・まったく。お兄ちゃんは・・白雪さんは大丈夫なんですか?」
十紀人「ん?」
静「落ち込んでたんですよね。白雪さん。」
十紀人「まぁな。」
静「そうですか・・・。えい!」
十紀人「え?」

いきなり静に押されて俺は川へダイブする形になった。
なんか俺達らしくて笑えてしまった。
そして俺達の笑い声は花火に負けないくらい大きな声を縁日の会場に微響きわたらした。

粋「黒川も混ざってくる?」
黒川「私は主のそばにおります。」
粋「そっか。」
黒川「はい。・・・わかりますよ。」
粋「何がだい?」
黒川「主がこの場所を守りたいと思うのが・・・。」
粋「そうかい。」
・・・
・・

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