野良犬のマルボロが、柵越しに話しかけてきた。
「すげぇもんみてきたど。あんなデッカイ生き物みたのオラ初めてだぁ」
食事中なので無視していたが、しつこく話しかけてくる。
「オラが見たときにはもう死んでたんだがよぉ。村の人間もたくさん集まっとるよ」
飯食ってんだから話しかけてくんなよ、うっとおしいな。
そういえば野良犬って普段何食って生きてんだろう、生ゴミでも漁ってんのかな、嫌だなぁ嫌嫌。
「あっ、おめぇデッカイ生き物っつたらグレートデンみたいな大型犬のこと想像したっぺ?」
この野良野郎は相手から返事も貰えないのによくもまぁペラペラ話せるなぁ。
「あの大きさはグレートデンの比じゃないがよ。まるで次元が違うとね、次元が。」
嫌に饒舌だな。気に障る。
「アレに比べたらグレートデンなんて、ちっさいちっさいチワワやがねチワワ」
散歩してて知り合いになったグレートデンにチクってやる。
「もっぺん見てくる、ほんでこの目に焼きつけてくっとよ」
はいはい、お好きにどうぞ。早く帰っておくんなまし。
「おめぇも来ねぇか。浜に行くと見れんだけど。早いうちに見とかねぇと、そのうち村の人間に処理されて無くなっちまうぞ。」
「別に行きたくもないし、行けない。飼い犬だからな。」
「なんでぇ?飼い犬だからって行けないこたぁねぇだろう」
俺は顎を上げて、つながれてある首輪を見せた。
「浜は散歩のルートに入ってないし、俺の主人が気まぐれでも起こしてルート変えない限り浜に行くことはないよ。」
「あぁ~散歩、あれ面白いよなぁ」
「お前一人でぶらぶらしてるだけだろ、なんで散歩が面白いって言えるんだよ」
「いやいや違う違う。犬が人間に連れられてる様子を見るのが面白いんよ。なんだが滑稽というかよ。鎖に?がれて引っ張られて、ありゃ傑作よ、ははは」
俺の怒りを嗅ぎ取ったのか、マルボロはそそくさと立ち去っていった。
主人が呼んでる。
どうやら散歩に行くらしい。
続く