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【去年 五月】

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 高校に入学してもう一カ月が経とうとしていた。
 人付き合いが上手くいかず、孤立していた私だった。そう鬱になる話ではない。元々解っていたことだし、ならねばならなかった。
 学校から帰り、家のドアをあける。私が居ない限り必ず無人であるので、お帰りという言葉は期待できない。そんなことがあれば幽霊の仕業だろう。
 リビングに入ってまずテレビをつける。夕方だからさほど面白いものはやっていないだろうけれど、何か音が鳴っていた方が寂しくない。そう言う理由だから、チャンネルはうるさいタレントの騒ぐバラエティが多い。
 今日も楽しそうでいいなぁと。
 画面の中を羨ましがって。
「さて」
 そうして私はリビングを出て、二階へ。自分の部屋へと向かう。二階の部屋といえば該当するのは3つあるが、そのうち一番階段から遠い部屋だ。
 ドアを開けてまず、左手にある勉強机に鞄と度のきつい眼鏡を置く。そしてそこからすぐ右手奥、つまりドアの真ん前のベッドに倒れこむ。
 ふかふか。
 気持ちいい。
 ひとしきり楽しむと、ベッドの下の収納スペースから着替えを取り出して着替える。と言っても、もう外に出ないと思われるのでパジャマだ。制服はハンガーにかけて壁の自作したフックにかけておいた。
 私の部屋にはあとは本棚が一つあるくらい。けれど、そこは殆ど教科書で埋まってしまっている。残りは文庫本だ。
 そこまで置いた所で、のこったスペースは、私が寝そべると一回転出来るかどうかの場所しかない。
 さして広くもない部屋だけど、気にならない。というかこのぐらいが丁度いい。
 第一、こんなたかが女子高生に一軒家なんて大き過ぎるのだ。家賃を払わなくていいから住んでいるようなものだ。無駄な広さは虚無感を産む。良いことなどない。
 それなりに思い出も詰まっているはいる。家族がいた家だ。でも、それよりはるかに嫌な思い出もいっぱい詰まっている。
 着替え終わると、文庫本を本棚から一冊さらっていってリビングへと戻る。騒がしい番組をBGMにしながら、テレビの真ん前にあるソファーに横たわり本を広げる。もう何度読んだかも知れないのですぐ読み終わるだろう。晩御飯になる頃には。
 誰が作ってくれるわけでもないけれど。
 ああ。
 つまらない。

8

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