犯人たちが連絡に使っている掲示板にたどり着いた内藤は、
履歴を調べ何か手がかりがないか探していた。
小谷直はまだしゃべり足りないのか勝手に今日あった出来事を語り始めている。
「犯人たちにとって、俺は捕まってしまった玉木の穴を埋める駒に過ぎなかった。
だから何も教えてもらえないし、一方的な指示に従うだけでヒマでした。
なんとか彼らに近づこうとしたんですが、
犯人たちからは警察以上に監視されているだろうからうかつに動けない。
その時、思い出したんです。
実は柳川太一と初めて会ったときもそういえば京都だったんですよ。
京都の料亭に初めて連れて行ってもらい、
こういう料亭には必ず裏口があるのだということを教えてもらったんです。
それでひらめいたんです。
裏口を使って監視の目を巻こうって。
作られたのが江戸時代といっていたから、
幕末の志士たちもこの裏口をくぐったのかもしれませんね。」
「ちょっと待て。お前はどうやって犯人たちを見つけ出すつもりだったんだ。」
「柳川さんからこれをもらったんですよ。」
そういうと小谷は持っていたタブレット端末を見せた。
「これに向こうから一方的に指令が来るんです。
つまり犯人たちもおそらくごれをもっているので、
これをもっている人間を探していたんですよ。」
「なんでそれを先にいわないんだ。」
内藤はこのことを一文字に知らせなければと思い、無線をかけた。
その時一文字たちは東大路通と七条通の交差点の近く、
ちょうど三十三間堂が見えるあたりにいた。
「一文字、今の状況を説明しろ。」
「挙動不審な男が建設現場の建物の中に消えていくのを佐野さんが見かけたので、
遠くから様子をうかがっています。」
「その男はタブレット端末を持っていないか。」
「はい。それらしきものを持っています。」
「犯人の可能性が高い。確保しろ。」
一文字はすぐに奥に踏み込んだ。
男は隠しておいたリュックから違法改造したガス銃を取り出すと、
躊躇せず撃ってきた。
弾丸がヒュンと耳もとをかする。
二人は建築資材の後ろにかくれ、
佐野と一文字が交互に援護しながら犯人を追い詰める。
ふと佐野の動きが止まる。
一文字は佐野が撃たれたのだと思ったが、
実際には注射で打たれた毒が今になって牙をむいたのだ。
一文字は先に進めない。
息が荒くなり、むせる。
「こんなときに……。」
ぜんそくの発作だ。
佐野を助けようと戻る。
急げば急ぐほど、
焦れば焦るほど咳き込んでぜんそくがひどくなる。
病気がちだった一文字が警官を続けてこれたのは
自分の射撃の腕前がずば抜けていたからだ。
そう自負していた。
それだけが支えだった。
自分が生きてきたのは今頑張るためじゃないのか。
そう自分に言い聞かせて、息を整えながら佐野のもとに駆け寄る。
銃声が日暮れの建設現場に響く。
無線機は遠くの寺でなっている鐘の音だけしか伝えない。
「一文字、一文字たのむ、返事をしてくれ。」
内藤は何度も根気よく呼びかける。
5度目の呼びかけでやっと反応があった。
「惜しかったね。でもチェックメイトだ。」