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6月

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 6月、友人の結婚式に出席した。
 梅雨時に珍しい快晴、大安吉日、そしてジューンブライド。これだけ条件の揃った完璧な結婚式は珍しい。
 聞いたところによると、嫁さんの実家がどこかの会社の社長で、恐ろしい程の金持ちらしく、費用は全て出してもらったそうだ。ちなみに友人は商店街の酒屋主人。どこでどう知り合ったのか、全く不思議なカップルだった。
 大きな式場に呼ばれた我々友人一同は、ついでに久々の再会も祝していた。
「高校時代、一番モテなかったあいつがなぁ」
「逆玉って奴だな。一体どんなインチキをしたんだ」
「中学の時うんこ漏らした話を嫁さんに教えてやろうか」
「それいいな」
 ボロクソに言うものの、嫌味っぽい所は少しもなく、むしろ何年経っても変わらない距離感に、俺は随分安心出来た。
 結婚式は何事もなく無事に終わり、パーティー会場での二次会も済み、俺を含む、十人ばかりの男たちが、居酒屋で飲んだくれていた。よく見るとその中に、新郎の姿もある。
「って、なんでお前がここにいるんだ!?」
 普通、新郎新婦が付き合うのは二次会までで、このようなプチ同窓会には、顔は出さないはずだ。なぜなら今日は大事な、
「新婚初夜だろうが!」
 時計は12時を回っている。
「いやなぁ~、結婚式の後でなぁ、あっちの親父さんになぁ、『今日だけは! 今日だけは娘を持っていかないでくれ! 結婚許すから!』って泣きつかれちゃってなぁ」
「なんじゃそりゃ」
 未練たらたらな親父もあったものだ。
「そんなのむげに断れないじゃんかぁ。奥さんも、仕方ないわね、みたいな感じになってるしだなぁ。もうなぁ、それはなぁ、仕方ないじゃんかなぁ」
 ここで思い出したのだが、こいつは酒屋の癖にものすごくタチの悪い酔い方をする。ぬらぬらとした妖怪みたいになって、ぽろぽろと愚痴を零しながら、どんどん飲むペースが上がって行く。
 まともな返事は得られないかもしれないが、身内だけになった今、ずっと聞きたかった事を聞いてみる事にした。
「それにしても、どうやってあんなべっぴんさんと知り合ったんだ? 接点なんて無いだろ」
「ん~? ふがふが……」
「何言ってるかわかんねえよ」
「転がり込んできたんだよぉ、奥さんがさぁ」
 と言ったきり、テーブルに伏して眠ってしまった。まだ焼酎三杯しか飲んでないのに、どんだけ酒に弱いんだ。
「俺が説明するよ」
 と言ってくれたのは、新郎と同じ商店街に店を構えるクリーニング屋の同級生。俺とは違って、それなりに深い交流があったらしい。
「ある日突然家出した箱入り娘の新婦が、こいつの酒屋でビールを買って飲んだんだ。生まれて初めてな。大事に大事に育てられてきたからだろう、あまりの味に気絶しちゃってさ。なんでも炭酸入りのジュースすら飲んだ事無かったんだと。それで、いきなり倒れた新婦を新郎が保護して、それをきっかけに仲良くなったって事らしい」
「そんな漫画みたいな話があるか!」
「実際あったんだからしょうがない」
 もし本当なら、とことんついてる奴だ。うらやましすぎる。
「けっ。俺の所に転がり込んでくるのは、せいぜい野良猫くらいだよ」
 俺は焼酎を一口飲んで、ふてくされながらミケを思う。
 ひょっとしたらあの小生意気なミケも、どこか大金持ちの飼い猫だったりして。
 ミケを助けたきっかけで、そこの令嬢と俺も仲良く……。
「馬鹿馬鹿しい!」
 アホな妄想に思わず叫ばずにはいられなかった。
 三次会が終わり、帰路につく。次に会うのは多分、また誰かの結婚式だろう。少なくとも、俺のではない事は確かだ。
 家に帰ると2時。ミケはまだ起きて、パソコンをやってやがった。俺はよく知らないが、ブログをやっているらしい。猫にブログ? 何のことわざだ。
「ただいま」
 と言っても無視。キーボードとにらめっこしながら、ひとつひとつ押している。肉球が邪魔そうだ。
「なあ、一応聞いておきたいんだが、お前どこかのお屋敷の元ペットとかじゃないよな?」
 俺も少し酔ってるらしい。
「はぁ? いきなり何? 喧嘩売ってんの?」
 この口の利き方。ビール一杯で気絶する、どこぞのお嬢様とは偉い違いだ。
「いや、ただ聞いてみただけだ」
「……ははーん」ミケはムカつく顔をして「あんたの友達、そういうのと結婚したんだ?」
 女も猫も、勘が良い。だから雌猫は一番タチが悪い。
「お屋敷のペットじゃないけど、あたしがお嬢様かもよ?」
「あん?」
「ふふん、あんたがどうしてもって言うなら、あたしが結婚してあげてもいいわよって言ってんのよ」
「はあ!?」
 間違いなく、今まで生きてきた中で、一番大きな「はあ!?」だった。
「な、何よ……」
「何言ってくれてんだお前。お前となんか結婚できるか!」
「ちょっとした冗談よ! こっちこそ、あんたなんてお断りだわ」
 そりゃそうだ。猫と結婚なんて、漫画だってそんな馬鹿な話は無い。
 思いつつも、気づく。
 ほんの一瞬だけだったが、ミケの台詞を本気にした俺自身は、凄く恥ずかしい奴なんじゃないか、と。酒が入っているとはいえ、「結婚してもいいわよ」なんてミケに言われて、すぐにそれを冗談だと判断できなかった事自体がまずいんじゃないか。
 幸い、ミケはぷんぷん怒っていて気づいていない。
 危機一髪、といった所だ。
「まあ、あいつも金持ちってだけで結婚したんじゃないだろうからな。むしろ、色々としがらみがあって窮屈そうだし、奥さんも結婚後はあいつの酒屋を手伝うそうだし」
「ふーん。結婚した後も働くなんて、その女はよっぽど馬鹿ね」
 涼しい顔で、ミケがそう言った。
 断言しよう。こいつ、絶対いき遅れる。








 モテかわ猫ミケの日常 6月




 ブログのタイトルかえた




 センスいいのにかえた




 ていうか




 そろそろわたしも




 けっこんとか




 かんがえてる




 かっこよくて




 ねんしゅういっせんまんあって




 せがたかくて




 やさしくて




 あたしのことを




 しあわせにできて




 けづくろいがうまい




 オス




 いたらきて




 マジ




 けづくろい




 だいじ
3

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