Neetel Inside ニートノベル
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一石高校文芸部
第二話 主張は控えめなほうが良いという主張

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 そのような俺の心良い気持ちをぶちこわしたのは教師だった。およそ二十代半ばぐらいの彼はこう言った。彼の名は坂田良吉だ。
「静かに。静かに」
 その一言で教室は静まった。彼はまじめそうで大人しそうな小柄な教師だった。
 そのあと入学式と始業式が始まるのだが、特記する事もないのでこの辺りの下りは大体割愛する。校長の話など誰も読みたくはないだろうから。
 唯一特筆すべき事と言えそうなのは一色心を見かけた事だけである。
 彼女について説明しよう。俺の中学校時代の同級生である彼女は八月六日生まれで、o型である。また、中学校時代にはバスケ部に所属していた。そのためか健康的な体をしていて、容姿はついさっきまで比類できるものがいなかった。胸の傾斜は普通より小さい。
 何故、これほど情報を知っているのか。それは一義には俺が彼女との関係を円滑に進め発展させるためである。決して下心はない。いや、彼女に好意を抱いていないと言えば嘘になってしまうが……。
彼女はいつものように仲良く友達と喋っていた。明るく、人と接するのがうまい。全く、俺にも少しはその才能をわけてほしいものだ。
 彼女は俺の結構斜め上のほうに座っていた。偶然ではあるが見えやすかった。日頃の行いによる天恵か。おかげで校長がつまらない話をしている間にも寝る事がなかった。

我が一石高校の入学式にして始業式の日は学校案内の後、終日授業だ。やれやれと思った。ゆとり教育は遠くなりにけりだ。しかし、いい事もある。昼食の時間に部活勧誘の冊子が配られたのだ。俺は勇と佐々木と一緒に食事を摂っていた。
 俺が入りたいと思っていたのは文芸部だ。なぜなら自分は幼少の頃より小説を書き連ね、自分でも少しばかりの実力があると自負していたからだ。今でもそう思っている。冊子を開いてみると文芸部の欄に写真が載ってあった。なんというか人によっては非常に欲情を刺激させられる写真であるかもしれなかった。無論俺はは違った。そのような不埒な人間ではないのだ。
写真には本を抱えた一人の少女が写っていた。後ろには本棚もある。説明文には
「部室にて部長木曽詩織」
 とあった。これだけだと普通の写真だ。卑猥なところなど全くないではないか、著者は色ぼけでおかしくなっているのではないかと危ぶむ読者諸賢もおられるだろう。が、しかし問題ははっきりと分かりやすく言うと彼女の乳にあった。彼女は百人、いや数百人に一人の豊満な胸を有していた。しかも非常に欲情を刺激することに、ブラウスから胸がはち切れんばかりになっている。このポーズは意識的にやっているのではないかと思った。
 無論俺は巨乳好きというわけではない。そこを早合点してもらっては困る。むしろ、……。いやこれは言わないでおこう。だが、巨乳から告白されて受けるかどうかと問われれば、拒否は決してしない。
 だが、俺はきちんと自分の感情を制御した。軽薄な反応をしたのは勇だ。人目を全く憚らずにこう叫び、俺に呼びかけた。
「すげーおっぱいだ! なあお前ら」
 周りの女子から一斉に冷ややかな目線が注がれたのは言うまでもない事だ。勇が損をするのは一向に構わないし、一片の同情も感じない。自業自得だからだ。だが、しかし俺や佐々木にまでその視線が向けられているのは、何故だろうか。俺は何も悪い事などしていないというのに。ああ、あの子までもが……。
 そして勇は思わぬ事を言い出した。
「新一、一緒に文芸部に入らないか。お前こういうの好きだろ。それに親もそういう職業だろ」
 これはまた誤解を招くような言い方をしやがった。俺は冷静に答えた。
「ああ、昔から小説が好きだな。親も小説家だ。最初から入るつもりだったよ」
「よし、それじゃ決まりだ。えーと地図には東館四階の図書館準備室が部室だって書いてあるな。今日の放課後にさっそく行ってみよう」
 最近友人から聞いた話ではあるがこの時文芸部の驚愕すべき事実を知っていた数名はくすくすと俺たちの行動を笑っていたらしい。何故、その事実を哀れな俺たちに教えてくれるものはいなかったのか。友人は苦笑しながら言った。
「お前らさあ、初日から悪目立ちし過ぎなんだよ。知り合いでもないし、話しかけづらいじゃないか」
 結局のところ勇の巨乳好きが悪いのである。やはり乳はなるべく主張が強くなく、控えめなほうが美しい。そうだ、あの子達のように。良識ある男性諸君はまよわずに首肯してくれるだろう。

       

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