Neetel Inside ニートノベル
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僕はポンコツ
3-4『決めた』

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 立川から「卑怯」と言われ、バカな妹からご大層なことを言われて、数日。
 彼の生活は何一つ、変わりはなかった。
 
 朝は「おはよーはよー」と挨拶されて。
 授業中は世間話程度の手紙のやりとりをして。
 放課後はいっしょに勉強。
 帰りに寄り道をしたりしなかったり。
 
 今までの過ごし方を今まで通り、同じように繰り返していた。
 
 
 
 彼はとっくにわかっていた。
 
 こちらから何も言わない限り、向こうは何も訊いてこない。
 
 
 
 そうとわかれば安心だった。
 このままアクションを起こさなければ、ずっと無害で平和、ありきたりで代わり映えのない日々を送れる。
 
 ずっと彼女とも同じ日々を送ることができる。
 
 何より、自分に害が及ぶことはぜったいにない。
 
 安心で平穏。これ以上望むことがあるだろうか。
 
 ……ない。
 
 そう、これでいい。これが、いい。
 
 
 
 
 でも。
 
『だからね、その人のこと、頼ってみたら、どう?』
 
 バカな妹の言葉。
 
『何を悩んでるの?』
 
 立川の言葉。
 
 2人の言葉が脳裏にちらついた。
 
 
 
 おそらくバカな妹は確信犯的に言ったんだろう。あの出来事を知っている数少なく人間なのだから。
 
 なら立川は?
 
 彼女はあのことは知らない。なのにあの察し方。何を企んでいるのかわからなかったが、悪い気はしなかった。
 
 
 
 悩んでなんかいない。ずいぶん前から思いつめているだけ。
 
 考える。
 考えてみる。
 
 立川に言ったとして、どうなるんだろう。
 ちょっとした慰めぐらいもらえるかもしれない。
 
 ………………
 
 この際、慰めとかはどうでもいい。
 聞いてほしい気がする。言いたい気がする。楽になれる気がする。
 
 ………………
 
 
 
 放課後の勉強会。この日も、いつものように勉強が始まろうとしていた。
「あ、今日さー、帰りに本屋寄っていい?」
「新刊の発売日やねん」と、がたがたと机をくっつけながら立川は嬉しそうに言う。
 彼はそんな立川を見て思う。このまま勉強会を始めたら、適当なところで切り上げて、本屋に寄り道をして、その新刊の話しを聞きながら帰るんだろう。
 
 ああ、きっと楽しいに違いない。
 
 でも、それはしない。少なくとも、今日はしない。
 
 彼は決めた。
 立川に話そう。話したい。それは相手のためでもなんでもなく、ただ自分の気持ちを整理するためだけの、自己中心的で自分勝手な理由だとしても。
 
「……どしたん?」
 いつもの違う様子の彼に、立川は疑問を投げかける。
 息を吸い、吐く。気持ちを落ち着かせ、落ち着かせ、落ち着く。
 
「立川さん」
「は、はい」
 
 気を張りすぎてやや怖い声が出てしまった。彼女が、少し怯えているように見えた。
 
「あれから考えてみた」
「お、おう。なんだよぅ。なにがだよぅ」
 
 
「この放課後という時間は、僕にとってはすごく大事な時間なんだ。
 と言うのも、1日の中で最も集中できる時間なんだ。この時間に勉強するとすごく頭に入るし、不思議と疲れない。
 だからこの時間こそがんばろう、そう思っているんだ。
 
 そんなとき、立川さん、キミが転校してきた。そしてこの放課後という時間に、乱入してきた。
 
 最初は、正直言うとけっこう邪魔だなぁと思っていた。放課後だけじゃない、授業中に手紙は廻すし、寄り道しようと言うし、もういろいろ予定が狂いまくったときもあった。
 
 でも。
 
 最近は、満更でもないかなと。気が置けない人だなと思ってる」
 
 
 ここで沈黙。
 5秒。
 10秒。
 15秒。
 
「えっと、ありがとう……で、つまりどゆこと?」
 沈黙に耐え切れなくなったのか、立川は恐る恐る尋ねた。
 
「つまり」
 
 さあ、言おう。
 
「聞いてほしいことが、ある」
 
 硬直、のちに驚き。しかしそれも一瞬で、彼女はその言葉に応えるように、イスを彼に向け、座りなおした。
 彼女も、彼と同じぐらいに緊張していた。普通ではない雰囲気、2人きりの教室。そんなシチュエーションが彼女の鼓動を早めていく。
 
 すぅっと1つ深呼吸。胸を数度摩り、落ち着かせる。
 そして。
 
 
 
「うん、聞かせて。アサダくんのこと、知りたい」
 

       

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