Neetel Inside ニートノベル
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 足が軽かった。息切れもなかった。今なら何でも出来る気がする。現場はパニックを起こした人々や野次馬でごった返していた。俺は近くに公衆便所を見つけるとそこに入り、持っていた通学バックを開く。中にはヒーロー変身グッズが一式。そして俺はそれに速やかに着替える。バッグはすぐに取りに来るだろうと隅っこの方に隠すように置いた。
 現場は公園に行く前より人が多くなっていた。俺はその人混みを掻き分けて進む。
「あれ? ヒーローじゃない?」
「ただのコスプレだろ」
 いつもなら人混みなどはひとっ飛びで越えられるのだが、まあ文句を言っても始まらない。それに、何を言われても俺は俺だ。力が在った時も俺、それがない今の俺も俺だ。
 何とかビルの中に入ると、従業員が必死に避難支持を出していた。俺は申し訳なくもそれを無視して上の階へと向かう。そして一階づつ人の有無を確認した。二階、三階と人影はなかった。従業員の手際の良さに感心しながら四階に入ると、フラグでも立てたのだろうか、偶然逃げ遅れた子供数人をゲームコーナーで発見した。
「まだカード出てきてねーんだよ」
「だって、お金がもったいないじゃないですか!」
「でもヒーローに会えたし、やっぱここにいてよかったー!」
 最近の子供は図太いのか常識が無いのかよく分からない。子供達に避難を促した後、俺は気を取り直してどんどん上と進む。
 しかし、俺は少し考えが甘かった気がする。七階は別次元だった。降りたシャッター、その向こうから壁越しに伝わる熱気。シャッター隣の小さな扉を見つけると、俺は意を決してそこから中へと入った。
 中は火の海だった。これは、グズグズしていると自分も危ない。
「誰か居ませんか!」
 俺の声は炎の音の中にすっと消えていった。返事は無かった。といっても中に人が居ないとは限らない。俺は炎の中をひた走る。実は俺のヒーロースーツは防火素材。こんな大層な物は不必要だと俺は言ったが、形から入れとヒロミに貰ったのだ。まさか役に立つとは思わなかったが。ヒロミには感謝してもしきれない。
 しかし、限界が無いわけではない。力を失った俺には長時間熱気に耐えるのはさすがに辛い。もう居ないだろうと諦めて戻ろうとした。その時だった。
「うえぇ……ぐすっ……」
 微かな泣き声。しっかりと聞こえた。それは一番炎の薄いトイレの近くから聞こえてきていた。急いでそこに向かう。人間の生存本能がそうさせたのか、火の手が回りにくトイレの通路に、しかもうずくまるという体制で出来るだけ体を小さくし、酸素を維持しながら幼い男の子がそこにいた。偶然が重なった結果かもしれない。だが、必死に生きようとしているこの子を絶対に死なせはしない、そう思った。
「もう、大丈夫だぞ! すぐ助けてやる!!」
 男の子の背中に手を当てる。心臓の鼓動が伝わる。しっかりとした、力強い鼓動。
「……ヒーロー?」
「ああ! 俺が来たからもう安心だぞ! さあ、立てるかな?」
 そう促すと、男の子はよろよろと立ち上がり、こんな状況下であるのに俺に微笑んだ。俺は彼を抱き抱え、極力外気に体が触れないような体制を取った。このまま一気に先ほどの出口まで突っ走る。それだけだ。

 ……それだけだったのに!!!

 一瞬だった。急に炎の明るさ以上の光がこのフロアを包み込んだ。俺はとっさにその光に背を向け男の子を守った。



       

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