Neetel Inside ニートノベル
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「――で、最初は門倉の真意を確かめたらすぐバラすつもりだったのが、ズルズル演技まで始めちゃって、ドンドン引っ込みがつかなくなってって、今に至る、と」
 事情を聞いた志馬は静かに言った。
「なあ飛縁魔、おまえ馬鹿だろ」
「すぐに気づくと思ったんだよ」
 飛縁魔はもらったプレゼントがもう持っているものだったときのような顔をした。志馬はため息を吐く。
「気づかないだろ……。誰がやったんだか知らんが、かなり別人だったぜ、化粧したお前」
 それに、と志馬は飛縁魔の髪をくしゃっと撫でて、
「演技もよかったな。とてもあれがおまえだとは思わんよ。誰かに演技指導してもらったのか? アリスとか紙島とかに?」
「いや、べつに……。ていうかさわんな。おまえ嫌い」
 ぱしっと手を払われても、志馬はハハハと笑ってのけた。
「いいよ別に嫌われても。むしろそっちの方が燃えるし」
「おまえもうマジでどっかいけよ。あたし、あいつを探さないと……」
 背中を向けた少女の手を少年が掴む。
「放せよ」
「じゃ、そうする」
 志馬は掴んでいた手をぱっと放した。飛縁魔は掴まれていた部分をさすって、
「マジで意味わかんねー……何がしたいの、おまえ?」
「だからさ、俺はおまえを好きになったわけ。好きなやつが放して欲しいって言ったらそうするだろ、普通は?」
 飛縁魔はいきなり首を捕まれたような顔をした。反応としては悪くない、と志馬は踏んだ。
 追い討ちのかけ時だ。
「なあ、いろいろあったけど悪いことはぜんぶ水に流そうぜ。そんで俺と一緒に来たらいいんだよ」
 赤いブレザーに覆われた両腕を広げて、
「たぶん、あんたがいくら探しても門倉はもう見つからないと思う。というか、見つけたら逆にやばい。だってそんときゃ、あいつが何の策も持たずに残り時間ギリギリでふらふらし続けてたってことなんだから。だから、あいつを探して見つけたら、それはちょっとあんたの負けかも」
 飛縁魔は唇をかみ締めた。
「――なら、どうすればいいんだよ?」
「うん。じゃあ聞くけど、あんたはあいつにどうして欲しいわけ?」
「そりゃあ、消えないで、欲しいけど……いやあいつはさ、ほら、頭キレるし、面倒くさいことは全部あいつ任せにしとくと楽だし、だから、うん」
「じゃあ俺でいいじゃん」
「おまえはヤダ」
 即答だった。予期していても足に来る。だがそれを表には見せない。あくまで明るく、明るく。
「まあ、そうだろうな。でもさ、あいつが消えなかったときは、絶対に俺んとこ来るわけだから、俺と一緒に来れば再会できる可能性は一番高いわけだ」
「あ――」
「俺たちの勝負は終わってない」
 そう、まだ何も終わっていない。始まってすらいない。
 スタートラインにさえ、立っていない――。
 志馬はぎゅっと拳を握り締めて、顔をそむける。視界の奥に、熱が滲んだ。
「まだ何も終わってねえんだ。俺とあいつは、このまま二度と会わないか、もう一度会って、それっきりになるか、どっちかだ。どっちかしかない。他に道はない。そしてあんたは二番目のがお望みなんだろ。だったらついて来た方がいい」
「――それって、もう一度勝負するってことか、あいつと?」
「ああ。あいつが来ればな。もし来たら、今度は逃がさない。全力で叩き潰す。オール・インだ」
 飛縁魔が悲しげに顔を伏せた。
「おまえも、あいつのこと嫌いなのか」
 それは、自分でもわからなかった。
 ただ、わかるのは、たったひとつ。
 それだけは、間違ってないと思えること。
「だってさ――いらねえだろ?」
 ぱしっと拳を掌に打ちつけて、志馬は言った。

「人間の屑は、二人もさあ」

       

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