1章
今年の桜もせっかちだった。どれもこれも、入学式の前に花を落としていた
「はぁ、これじゃあ春! って感じがしないなあ」
今年晴れて高校一年生になる福瀬ナナカは頬を膨らませた。
見上げる先には若葉の緑と空の青だけだ
入学式を終えて、ひとり河川敷をゆっくりと歩いていく
川は太陽の光をやさしく受け止め、時にはねかえしている
ふと、その美しさにナナカは立ちどまる
自分のあるく速度より、すこし速いくらいの川の流れは、母のような優しさがあった
この季節になると、ナナカは母のことを思い出す