Neetel Inside ニートノベル
表紙

蒼き星の挿話
挿話の果てにアイを囁く

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 リーズナ―のコトダマ使いが放ったワーストワードによって、戦場はもはやこれ以上戦闘を継続できないほどに双方被害を受け、混乱した。
 ジノーヴィはコトダマを全力で使った反動のせいか意識を失い、私の目の前で地面に突っ伏していた。
 私は元々このままジノーヴィを連れ去り、ジノーヴィのコトダマを用いて自らを消滅させるつもりではあったが、そのジノーヴィが意識を失っていたことで予定を変更せざる負えなくなった。
 コトダマの出力にはコトダマ使いの精神に大きく影響する。つまりはジノーヴィには”わたし”を心の底から消すように仕向けねばならない。なら意識を失った状態のジノーヴィを連れていくよりは、ジノーヴィが自らの意思で”私”の言葉を受け入れさせ、コトダマを全力で使用させなければならないからだ。
 私はここにこのまま自分の姿を晒していることは、問題があると考えその姿を消した。無論誰かがジノーヴィに危害を加えないように周囲に気を配りながら意識だけはそこに留めた。

 ジノーヴィはその後ミラージュに保護、いや、拘束された。元々ジノーヴィに宿っている禍紅石はミラージュのモノだったからだ。
 私は予定ではジノーヴィが回復してから接触を図るつもりだったのだが、どうやらそう時間は無いらしい。オラクルを信仰する者以外には極めて排他的なミラージュの首脳陣がこのままジノーヴィの禍紅石をそのままにしておくとは考えにくい。
 私はジノーヴィが裁かれるその時に、行動を起こすことにした。
 ジノーヴィはコトダマを使えないように、猿ぐつわと肺活量を極端に制限する拘束具を付けられたまま謁見の間の中央で跪かされていた。その目には精気がほとんど見られない。
 私はそんなジノーヴィの目の前で姿を現した。
 ざわつく周囲に気を配りつつ私は告げる。
「悪いがこの男を殺すことも、禍紅石を取りださせることも、させるわけにはいかない」
 私はそう言うとジノーヴィに向き合い、その目をじっと見つめた。これだけのことが起こったにも拘らず、ジノーヴィは何の反応も見せない。
 そんな中、ジーノを拘束するために控えていた兵士の一人が私に飛びかかった。
「何者だ、きさまぁあああ!!」
 大きく振りかぶられたその剣は、そのままの勢いで私の首元を直撃する。
 ――ガンッ
「のけ」
 私はその兵士に視線を向けることすらせず、力場を発生させ兵士を吹き飛ばす。もはや私が人間の振りをする理由は何一つない。
「聞け、ジーノヴィ。お前の復讐はまだ終わっていない」
 コストの過剰な支払いによってほとんどの感情を奪われてしまったジノーヴィは、ゆっくりとその言葉に反応する。
「元を断たねば意味はない。お前の復讐心は、実行者だけを殺しただけで満足できるようなものなのか?」
 ジノーヴィは手枷を軋ませながら拳を握る。弱々しかった目も、次第に憎悪の灯がともってゆく。
「そうだ。そして殺せ。あの組織”リーズナー”を創ったこの私を――」
「――っ!!」
 目を大きく見開き、猿ぐつわと手枷をしたままでジノーヴィは私に掴みかかってきた。
「そうだ。感情を、憎しみをその心の中で猛らせろ」

 ――ザッ
 私達の周りを取り囲むミラージュの兵士達、その奥から唱響の聖唱女が私に話しかけた。
「あなたを殺してしまう前に聞きたいのだけれど、あなたは誰なの?」
 その言葉に私は振り向かずに答える。
「お前達にそれを話すつもりはない」
 そう言うと私は目線を入り口をふさいでいた兵士たちに向けた。私は自分の胸に手を当てると、そこから何かを引きずりだすような動作をする。すると、そこからジノーヴィの武器であるバスタードソードブレイカ―を取りだした。
 手になじむその感覚に私は懐かしさを感じずにはいられない。
 周りが一気にざわつく。ジノーヴィもその妙な光景を微動だにせず見ていた。
 私は人間離れした動きで、いや、人間の目には捕えられ荷ほどのスピードで移動し、入り口を固めていた兵士達を一瞬で薙ぎ払う。その中心で私はバスタードソードブレイカ―を片手で振り回す。それは周りから見れば、小さな嵐がそこに突然発生したかのように見えただろう。
 その嵐の暴風が駆け抜けた後には、胴体が真っ二つになる者、手足を吹き飛ばされて床に這いつくばっている者、それががまき散らした血肉で赤い道ができていた。
「来い、沈黙のジノーヴィ。お前は成し遂げるためにここまで来たはずだ」
 その言葉にジノーヴィはゆっくりと立ち上がる。
 自らの意思で、信念でその足を動かすジノーヴィを見て私は笑みを浮かべずには居られなかった。
「ジーノ!!」
 ジノーヴィが謁見の間を出た時、横から女の声が聞こえる。ジノーヴィはそちらを鋭い視線で一瞥すると、そのまま私の後ろを歩く。
 思いもよらないジノーヴィの拒絶の視線に、女は崩れるように床に尻もちをついた。
「ジーノ、なんで…。なんでよぉ」
 血肉でできた赤い道を歩いたジノーヴィの赤い足跡を女は呆然と見詰める。
 もはや誰の声もジノーヴィの耳に届くことはない。憎悪で魂を震わせ、前に進むことしか考えなくなった彼の心は、もはや”わたし”のモノなのだから――。

       

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