Neetel Inside 文芸新都
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255 ××××××××××××.co.ft 20××/11/12(水) 19:37:48.72 ID:adihsayah
てすと

 その日、私は初めて某掲示板に書き込みをした。ちなみに板は「教師萌え」板である。何か問題が生じた時のためにできるだけ過疎な板に書き込んだだけで、他意はない。
 もちろん例のメールの指示に従った。時間遡行術・上級を使い、さらにfusianasanをした上で書き込んだのだ。
 時間遡行術・上級は、初級中級とは明らかに異なる概念である。
 未来や過去への前方後方的な移動を伴う初級。平行世界への右方左方的な移動を伴う中級。それに対して上級は、人間が体感できるような移動を伴わない。
 今この時間点で、垂直に跳ね上がる。自分のいる時間の平面を、高いところから見通すことができる。
 平たく言えば、過去に起こったこと起こるかもしれなかったこと、未来に起きること、起きるかもしれないことを、網羅的に知ることができる。
 そして未来に断絶する崖があれば、そこを飛び越えることができる。この点については、まだ試したわけではないが、理論的にはそれが可能だ。
 そのような時間遡行術・上級を行った状態(長いので今後は上級モードとしよう)で、私は某掲示板に書き込みをした。
 上級モード特有の高揚感と、この時間点での存在感が希薄となったような見た目(鏡で確認したら髪と目の色が少し薄くなっていた)で、私は「fusianasan」と入力した。
 一体私は何をやってるんだという気持ちもあったが、どうにか書き込みボタンを押す。
 上記の「てすと」云々は表示された書き込みである。
 気になったのは名前欄に表示された最後の部分だ。私は日本から書き込みをしたので、普通であれば「.jp」となるはずである。
 試しに上級モードを解除して書き込んでみたら、やはり名前欄には「.jp」が表示された。
「.jp」が日本を示すなら、「.ft」は何を示すのだろうか。
 理系の私が思いつくのは、Fourier Transmission、フーリエ変換くらいだ。
 現代っ子の私は、すぐにブラウザを立ち上げて「ドメイン 国 一覧」と入力した。正しくはドメインではなく国名コードと言うらしい。
 表示された国名コード一覧を眺め見て、私は「.ft」を探した。
 しかし、見つからない。そもそも存在しない国名コードであることがわかった。
 私はイスの背もたれにもたれかかり、体を楽にした。
「上級モードでfusianasanをしてみた」→「IPアドレスがこの世に存在しないものになった」←結論
 過去や未来を行ったり来たりしている私である。いまさらこの不思議な現象を、あり得ないと切り捨てることはしない。
 要は、こういうものなのだ。上級モードでインターネットを行うと、存在しないホストからのアクセスが可能になる。
 それだけの話だ。
 理屈も意味もわからないが、納得するしかない。
 そしてもう一つ納得しなければならないことがある。
 
 「時間遡行に関する基礎研究とその理論」。あの論文を書いたのは、私なのだ。

 内容もさることながら、上級モードであれば存在しないホストから書き込めるということもわかった。ここまでわかって、それでもあの論文は私が書いたはずが無いと思うほど、私は能天気ではない。
 パソコンの電源を落として、私は立ち上がる。そろそろ行くとしよう。私がどうして時間遡行術・上級を身に着けたのか。それを思い返す。
 全ての決着を着けに行こう。
 彼女を救い出そう。

 最後の、時をかけて。

       

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