Neetel Inside ニートノベル
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世界の終わりに、この世の果てまで。
01ポケットを空にして

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01 ポケットを空にして。

 
 九月二十日。本日も変わらず快晴。
 夏は終わったけれど、秋にはまだまだ少し早い。そんな中途半端な季節。私は屋上で一人、ぼんやりと空を眺めていた。
 特別な意味は何もなく。時折、流れてくる雲を何かの形に例えたり。本当はどうでも良いと思っているような事に、考えを巡らせてみたり。
 とにかく、そんな調子で。過ぎゆく時間を退屈しないために、無理矢理に消化していた。
 私が見る限り。世の中は今日も静かな温度を保っている。平和という言葉に置き換えても良い。
 私が生まれ育った愛すべき海沿いの、小さなちいさな田舎町。
 主な産業といえば、漁業ぐらいしかないこの町は、笑ってしまうぐらいに、穏やかな空気に包まれていた。
 都会では暴動だとか、強盗だとかが起こってるとテレビで流れていたけれど。私に見える範囲では、そんな話はとても信じられない。遠いお伽の国の出来事みたいに感じる。
 世界は、あと半年でおしまいらしい。未だ人類が遭遇した事のないような、巨大な隕石が地球に直撃して、私達は死ぬ。
 アメリカのどこかだかの天文台が観測したらしい。テレビのニュースでキャスターの人が、そんな原稿を読み始めたのが三ヶ月前。 
 お父さんも、お母さんも、町の人達も。もちろん、私も。最初は全然、信じていなかった。 けれど、次第に都会の物価が、とんでもないぐらいにはね上がって。この国の治安がどんどん悪くなっていったりして。
 情報に流されるままに、色んな人が色んな事を好き勝手に行動する様子を、テレビで毎日見ているうち。さすがにのんびりしているこの町の人も、やっと現実を受け入れるようになった。
 私も信じてないわけじゃない。だけど、実感は全然ない。
 隕石が衝突して、地球がどかんと爆発して終わりなのか。それとも大半の人が死んでしまうぐらいひどい大災害が起こるのか。
 そんなの、海外の火薬多めの映画だとか。小難しい名前の賞をとる小説だとか。そんな、作り話の世界の中だけじゃないのだろうか? 学校の成績が、あまり良好とは言えない私には、うまく理解できない。
 そもそも将来だとか、人生だとか、そんな自分事さえうまく理解できてない私達の世代が、いきなりあと半年でみんな死んじゃうかもしれませんよー。なんて言われても、そんな現実をどう処理して生きればいいのかわからない。
「つまんないねぇ……」
 思ったままに口に出してみた。
 結局のところ。今の私の胸の中にあるもやもやとした気分を、全部ひっくるめて言えば、つまらない。の一言に尽きる。
 もちろん誰もいない屋上では、返事は無いわけだけど。
「だねー。つまんにゃいねー」
 でもなかった。
 甲高いテレビアニメの中から飛び出してきたような声が返ってくる。
「盗み聞きしないでくれる?」
 予想外の来客に、私は溜息を投げた。
「盗み聞きじゃないよぅ。私が屋上に来たら、七海ちゃんが勝手に話したんでしょーぅ?」「まぁ、別に良いけどさ。聞かれて恥ずかしい事言ってたわけじゃないしさ」
 私はこの現実離れした声の持ち主を知っている。
 同じのクラス。私の前の席に座る芹沢 繭歌(せりざわ まゆか)だ。
 150cmぐらいの華奢な体に、ツインテールの髪型。童顔に大きめの瞳。
 そして、甲高いアニメ声。
 繭歌の将来の夢は声優。でも、本人が既にアニメに出てきそうな容姿をしている。
「でもさー、七海ちゃんも暇してるよね。こんな時まで学校来るなんてさー」
 余計なお世話だと言いたかったけど。正直、その通りだから、何も言い返せない。
「そういう繭歌こそ、なんで屋上に来たわけ?」
「んとね。えとぉ……暇だから?」
「何それ、人の事言えないじゃん」
「だねぇー」
 へへへ。子供みたいに、繭歌は照れ笑いを浮かべた。 
「繭歌と七海ちゃんで、ヒマゴンだねぇ」
「え、何? ひま……なんだって?」
「あまりに暇すぎるとなっちゃう怪獣なんだぁ」
「へぇ……怪獣。そっか、へぇ……」 
わかっていた事だけど。繭歌独特のペースで会話は進む。ハイセンス過ぎるレベルに。一瞬、ついていけなくなる。 
「繭歌は、なんか。相変わらずだね」
 良くも悪くも。という言葉は伏せる。
「うん。まぁ、そだねー。特に何も変わらずな感じだよ」
 こうやって、繭歌と会うのは実に久しぶりだ。
 あの不吉なニュースがテレビで放送されてから。最初の一カ月ぐらいは、みんないつも通りに学校に来ていたけど。一人が欠席し。二人来なくなり……なんだか、性質の悪い流行り病にでもかかったみたいに、日ごとに教室から、生徒の数が減っていった。

       

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