Neetel Inside ニートノベル
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第2章出発
 人形はあらかじめ決められていた行動を終えると、電池が切れた時計のように突然行動を終える。
 夕日に照らされた指揮車から現れた人影が指に挟んだ棒状のものに、ポッと赤い緋を灯す。
 ガザ地区からユーラシアへやってきたその人形は、人形遣いに従ってやってきた。識別番号は77653番。
 人形が繋がられている輸送車へと人影は近づいてゆく。
 そこには同じような人形が数体並んでいた。一見すると出来の悪いおもちゃのようだが、現存するシリーズの中では最新のものだった。
 77653番に近づいた人影は手馴れた様子で作業を始める。
 彼は人形についている汚れを落とそうと、人形を洗い始めた。神経質なくらい汚れを落としたあとに、今日の成果を確認するために人形の見てきた記録を確認するために、無造作に人形の頭を開け人の脳のようなものにジャックを差し込む。
 次々と映し出される殺害現場の数は全てで16回。相手は無造作に、ただそこにいただけで不運にも殺されることになってしまったものや、こちらを伺っていたであろうと思われるものの姿が映し出された。
 灰皿にタバコを押し付け、新たなタバコを吸い始める。
 結果は満足するに十分に足るものだった。引きちぎり、切断するその様は子供が無邪気に虫を殺すがごとく嬉々として見える。
 これでレポートに並べられているテストケースはあらかた確かめることが出来た。あとは思いつくだけのテストを行ってみる必要があると感じられる。
 過去に彼が手がけた作品は、全てが好評だった。今回はそれを越える評価の作品を作る気でいる。
彼は暴発する銃を誰もが欲しがらないように、作品に欠陥があってはならないと信じている。
故郷で禁止されている実験も、ここでは行えるので作品を限界まで調整することができる。
誰よりもしっかりしたテストが出来るので、予想外の自体が起こりにくいから安全な商品になるだろう。
彼の品はそのおかげで他者の作品よりも高い値段で売買されるのだ。
彼はレポートから目を離すとそばにある通信機の電源をつけた。
そろそろ次のテストを始める時間だった。
相手が通信に応答するまでの間、彼は灰皿から溢れ出たタバコの灰を見て、タバコの量を減らしたほうが体にはいいかもしれないと思っていた。


エアバイクを運転しながら、僕たちは主に言われた場所へと向かっていた。
先頭を走るのは、戦闘用の機械人ザッソーとリーダーのイシュ、次に装甲戦士であるエリルと僕のペア、すぐ後ろに整備士のミーシャとクラッカーのレイナードのペア、後尾に付いているのは索敵用の機械人マリアと狙撃主のクラウドの二人、計8人のメンバーだ。
移動を始めて1時間ほどたった時だった。
「約束の時間までには目的地に着けそうだな。少しぐらい休憩を取ってゆくか、なあイシュ?」
通信機に馴れ馴れしいミーシャの声が響く。振り向けば沢山の工具に囲まれたミーシャが眼下に見える街を指差して言う。
彼の使うのは主に工具だ。しかし強力な武器よりもより多くの価値が彼の使う工具にはある、機械人たちが使うような特殊な武器や工具を彼は解体し使うようにすることができる。また嘘か本当かは分からないが機械人そのものを破壊するのではなく、解体したことがあるという噂もある位だ。
ミーシャにはポリシーがある。彼いわく「戦うしか能の無い連中より、何かを直したり作ったりすることのできる人間はそれだけで周りの人間よりも価値があるんだ」といってはばからない。そう広言してるのだからミーシャの態度は常にふてぶてしいが仕方の無いことかも知れない。
でもいうだけのことはあると思う今乗っているエアバイクもミーシャのお手製の作品だし、邸にいる機械人はミーシャ達整備士によって整備されているのだから…
 「そうだね。ちょっと寄っていこうよイシュ」
 ミーシャの提案に、レイナードが賛同の声をあげる。
 通信機から聴こえる声は、僕が聞いたことの無いレイナードの声が聞こえてきた。そうどこか媚びているような
 「…任務が優先だ。仕事が終わった後に街に寄ることしよう」
 イシュが少しの間、考えてからそう答えた。
 「あーあ、残念だな。少しぐらい休んだって問題ないのにさ」
 レイナードが再び、甘い声で囁く様に言う。
 「あんたが仕事優先だっていうんなら、それに従うけど少しはこっちのことを考えてもらいたいな」
 レイナードの台詞はまるで恋人が言うみたいな台詞だなと思う。
「無駄話はそれくらいにしてくれ」
 初めて聞く声だ。通信をしてきたのは一番後ろのエアバイクを指す4号機から発しられている。クラウドだ。
 「一緒に行動しているこちらの身になってみてくれ…」
 明らかに不機嫌な声で話している。
クラウドの台詞にレイナードが過敏に反応する。
「何! 文句があるんだったら俺が相手になるよ」
レイナードの言葉を遮る様にしてイシュからの通信が入る。
 「…分かった。以降目的地まで指令の変更は一切ない。無駄話は止めるぞ」
 「えー、いいじゃん少しぐらい」
 「うるさい、いいから黙れ」
心なしかイシュの声に険悪な響きを感じる。レイナードもそれを感じ取ったのか、それ以上は何も言わずに黙った。
通信機のスイッチはONになったままだが、それから話そうとするものはいなかった。このまま行けば30分後には目的地に着くだろう。
エリルが運転をしている為、暇な僕はとりあえず再び今回の任務について考えていた。任務に赴くのに与えられた情報は極端に少なく。指令自体も対象の奪取もしくは破壊、それらが不可能な場合は情報を『邸』にもって帰る事。最上が奪取で次が破壊。及第点で情報収集か。まあ現時点で対象そのものが不明なので結局何がなんだかわからないのだが…
それにしても今回のメンバーはどのような状況を想定した組み合わせなのだろうか?
今回与えられた指令書で唯一はっきりしたことが書かれている部分。パラパラとメンバーの経歴を見てみることにした。
リーダーに分析官のイシュ、サブリーダーに剣鬼エリル、そして機械人のザッソーとマリア、クラッカーのレイナード、技師のミーシャ、スナイパーのクラウド、それに裏業使いの僕。
なんとはなしにクラウドの経歴情報を見ていて僕は少しクラウドに興味を持った。クラウドの経歴に賞金稼ぎと書かれていたからだ。『邸』に集うのは雑多な種類の者たちなので賞金稼ぎを過去にやっていても不思議ではない。現にエリルも『邸』で働く前は賞金稼ぎをやっていたことがあるはずだ。
ただ僕の眼を引いたのはクラウドが所属していた賞金稼ぎのギルド名だ。それはつい最近滅亡した街の名前が書かれていたからだ。
その街の滅亡は噂では機械人の襲来の為だと言われたり、恐ろしい伝染病が流行ったためだといわれている。
「見えたぞ。あそこが目的地だ」
 イシュからの通信が入ってきた。眼下を見てみるとうっそうと茂った林の中に、小さな集落の廃墟があった。
 僕たち4台のエアバイクは集落にある一番白く見える家の壁の前にゆっくりとバイクを止めた。
「ここでほかのチームと合流することになっている。約束の刻限が来るまで自由にしていい。これから本格的な作戦が始まったら『邸』に帰るまで休息は取れないと思っておけ」
 言いながらイシュは休憩の要らない機械人に辺りの索敵を命じている。
 「マリアからの連絡があった場合は各自すぐにこの場所に集まること」
 イシュが廃墟になった家の中を除きながら、後ろ指でエアバイクの置いてある場所を指差す。
 「約束の刻限までは3時間程あるが、最低15分前までにここに集まっていてくれ」
 それだけいうとイシュは廃墟の家の中に入っていった。
 「俺は一応、この家の中にいるから、なにかあれば呼んでくれ」
 慌ててイシュの姿を追いかけるレイナードとミーシャの姿も家の中に消えた。
取り残される形になった僕とエリルとクラウド。周りでは辺りを警戒する機械人の二人が規則正しく動いている。
互いに相手のことをよく知らない仲同士の人間が集まっても何か話が弾むわけが無いので、すぐにエリルは日当たりのよさそうな場所で寝始めだし、クラウドは長い銃身の部分を磨きだした。
僕は特に何もやることがないのでボーっとしていた。
廃墟となった村でボーっとしていても仕方がないので辺りをぐるりと見渡してみると、廃墟となった家の一つに、ちょうど僕がやっと通り抜けられそうな穴があるのを見つけた。
暇つぶしに穴を覗いて見ると、なにかが這った後が残っていた。僕はその穴に興味をそそられ入ってみようかと考えた。
少しの間考え他のメンバーといてもすることが無いし、索敵中のマリアが何も反応を示さないことはこの辺りに危険が無いことだし、ちょっとぐらい穴の中を探ってきても支障はないだろうと結論を下した。
 十分な時間があるわけでもないので、それ以上考えるのはやめて入り口に這いつくばって穴に入る格好になると、穴に入りだした。
少しもぐると僕の体が邪魔し穴の中に日が射さないので、僕は裏業使いとして初級の技である暗視を使い、先を探ってみた。慎重にゆっくりと這ったままの状態で先に進むと目に入ってきたのはもう何年も使われていないことを予測出来る部屋の様子だった。
 部屋に繋がった状態の穴から、身を乗り出して部屋の中に入る。
 立ち上がり部屋の中を見回すと思っていたよりも広い。入ってきた穴の反対側に部屋の入り口が見えた。他に何か無いかと見てみると、がらんとした感じで特に興味を引かれるものは無かった。空っぽになった受け皿と、汚れた布が見つかっただけだった。
 僕は扉を開けると、真っ暗な廊下を歩き出した。廊下に出ると、出てきた部屋の扉と同じ物が左右に二つずつ、そして正面には階段が見えた。
 すぐにある部屋に入ろうとすると、鍵が掛かっているのか扉は開こうとしなかった。
 その部屋に入るのを諦めた僕は、左側の扉を開けようとした。
 幸いこちら側には、鍵が掛かっていないのかすぐに入ることが出来た。
 部屋に入って見えたのは最初の部屋と同じがらんとした感じの空間だった。違っていたのは不自然なふくらみを見せた布だった。布に近づいてめくってみるとそこには白い骨が見えた。その白い骨は所々かじられた痕があり、見ていて痛々しかった。多分鼠か何かだろう――
僕は部屋を出ると残った二つの部屋を調べてみることにした。
――そうかあそこは地下牢だったんだ――(閉じ込めていた)
 階段を上りながら、僕はそんなことを思っていた。
 あのあと残った二つの部屋を調べて分かったことは、やはり白骨化した遺体が数体あることだった。
 白骨化した遺体は四体見つかった。僕よりも小さな遺体が二体と、頭蓋骨と胴体だけが残されたいた遺体。頭蓋骨と手足だけが残された遺体。
――ここにはあまりいてはいけない――(恐ろしい恐ろしい)
 ここで何が起こったのか知りたいとは思ったけれども、生来臆病な僕は不必要な好奇心は自身の身を滅ぼすことを知っていた。
 とにかく早く、ここから出て待ち合わせ場所に向かわなくては…
――あの穴から逃げ出したんだ――(何が?)
 思ったよりも階段が長い。
――でも何故、一つだけ扉が閉まっているんだろう?――(あそこには何が?)
 らせん状の階段をくるくる回りながら上ってゆく
――何故子供を閉じ込めていたのかな?――(子供達?)
時々頭になにか考えがよぎる。
――腕と足の無い死体に胴体の無い死体――(どうしてあんな姿で?)
 気が付くと頭上に木の板が見える。僕は下から押し上げるようにして空けようとしたが、外側から打ち付けられているのか空く気配が感じられなかった。ここまで階段を上ってきたのに…腹立ち紛れに数回思い切り、頭上の板を叩いた。
 のぼって来た階段を戻ろうと思ったときに、頭上からドンドンと音がした。なんだろうと不審に思い、また再び板を叩くと上から声が聴こえてきた。
「何、誰か居るの?」
 この声はレイナードだ。
「僕だよ。ティーだ。ここを開けてくれ!!」
「……」
 頭上で板を叩いている音がする。突如バリッと言う音と共にパラパラと木屑が頭に舞い落ちる。突然差す光に瞳が適応しきれずに一瞬何にも見ることが出来なかった。
「なんだ蝙蝠、そこで何をしている?」
 その声は、いつもの不機嫌な声を通り越して、怒りをにじませた声である事に気が付き、光に慣らすよう恐る恐る目を開けて声の方を見た。
「まさか覗きにきたんじゃないよな」
目を開けてみると、眼前に刃物が突き出されているのが分かった。
――冗談じゃない――
「っつ、違うよ…」
レイナードは僕の顔を見てから暫らくの間、逡巡していたが刃物を下ろそうとはしなかった。
「レイ! どうした?」
レイナードの後ろ側からドアを叩くような音とイシュの声が聞こえてきた。
「おい、ミーシャさっさとこのドアをこじあけろ」
「わかっておる。あまりせかすでない」
ドドドッと言う勢いでミーシャとイシュの二人が部屋に入り込んできた。
刃物を突きつけられた僕は、二人に向かって救いを求めるような目を向けた。
「イシュ! ミーシャ! 」
入ってきた二人は、こちらを見て状況を理解したのか、レイナードに落ち着くよう言い出した。
「よせレイ」
「そうじゃ、その男を殺せば探し物が分からなくなる.。落ち着くんじゃ」
「だけどもし見られていたら、どうするんだ!」
――何を?何を見たんだというんだ?――(そうか!)
「僕は地下にあるものは見てない。見てないよ」
いまだ向けられ続けているレイナードの刃物に込められている力が伝わる。
「地下? …いいからレイナードはその物騒なものをしまうんだな」
僕のセリフにイシュはレイナードの刃物をしまわせ、こちらに近づいて僕ののぼって来た階段を覗き込んだ。
「ここから昇って来たのか? この建物には別の入り口があったのか」
「ふむ、わしらが入ってきた所からしか入り口はないと思ってたのにな」
二人は失敗したという感じで話していた。
「で、ここに何があったんだ」
「…いや、なにも…」
「いいから見たモノを正直に話せよ。蝙蝠!」
僕はレイナードを見て、恐る恐る話し始めた。
「…子供の死体」
「子供の死体だと?」
「うん、奇妙な感じの…」

ミーシャもこちらへ近づき真っ黒な暗がりの下を覗き込む。
「ふむ、どうだろう、その坊主は嘘をついておらんようだしこどもの死体とは興味をそそる.、まだ、時間はあるしワシ等も見てみようじゃないか」
暗がりを照らすランタンが、ゆれながら奇妙な4人を照らしていた。

       

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