Neetel Inside 文芸新都
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早く早く、負け犬の裏庭で
暮らしている

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トマトの皮の湯剥きをしようと思って
大きめの鍋にお湯をぐらぐら沸かしていて
真っ赤に熟れたトマトにフォークを突き刺して
台所に突っ立って
じっとお湯を見つめていたら
唐突に自分がいまどんどん年を取っていくんだなって気がついて
時間が信じられないくらいのスピードでこの肌の上を
じゅくじゅくと経過しては宇宙に吹っ飛んでいくんだなって
別にトマトみたいに自分の皮を剥きたいと思ったわけじゃないんだけど
なんとなく
指をぽきぽき折って
お湯に入れられたらなと思った
デュラムセモリナ、
ちょっと古くなったパスタみたいに
指から腕までぽきぽき割り入れて
しんなりするまでお湯でぐらぐら煮られてみたいなと思った
そうしたら何かがちょっと楽になるような気がしたのだ
この大きめのお鍋に
うまく収まるくらいの存在でありたいなと。


*


今日はなんだか
身体にとどまっていることが
悪い冗談みたいな気がする日
こういう日はダメだ
絶対うまくご飯が作れない
言い訳じゃなくて
本当に。
でも私は今から果敢にナスの煮物を作るので
こんな日に果敢に包丁を扱ってみせるので
今日はそれでわりとがんばって生きたってことにならないかな
ならないな


*


素足でクローバー踏んだ
足の指で病気の葉を抜いた
膝小僧に蚊が止まるのを無心で追い払った
その辺を歩く人の声が優しければ老若男女問わずときめいた
夕日が落ちていく方に犬が小股で歩いていったから
途端に景色が完成してしまって戸惑ってうっかり足を止めた

全力であらゆるものに無視されたままでいたかったので
泣くより先に息を呑んだ


       

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Neetsha