Neetel Inside ニートノベル
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「ちょっと! 手伝いなさい!」
 何とか方向を変え終わった所で、ドラゴンを追う為に引き返してきたと思われるゴスロリ女に話しかけられた。
 ゴスロリ女も空を飛んでいる。多分これも、こいつが使える魔法の一つなのだろう。そして俺達は二人並んで、飛行を再開する。
「まさか惹き付けるだけ惹き付けて、いきなり戻り始めるとは思わなかったわ! あいつ、ただの爬虫類じゃないわね!」
「みたいだな! でも、今はそれどころじゃねえだろ!」
「そうよ、だから手伝いなさい! 何とか上陸だけは防がないと! 人間が殺されすぎたら、ヒーローがどうとか言ってられないもの!」
 同意見だ。だが……ドラゴンの勢いは凄まじく、上陸そのものを防ぐのは無理がある。
「今からじゃ間に合わん! だから、せめて同じ場所に上陸させよう! 東京なら避難が終わってるだろうし、巨人女が残ってる!」
「なるほど……分かったわ! 私は右から行くから、アンタは左から攻めて! アイツのコースを東京に限定させるわよ!」
「了解!」
 
 そこから二人、左右に分かれてドラゴンを追い、何とか隣に並ぶ位置にまで追いつく。
 このまま正面に回りこむだけの技量は今の俺には無いが、ここから威嚇して、コースを限定させるくらいならできそうだ。

 そうして俺とゴスロリの二人でドラゴンを誘導し、ドラゴンもそれに従う形で東京へ。
 だが、ドラゴンも意地があるのか知らんが、微妙に先程とは違う場所へ降りようとしていた。
 人の避難自体は完了しているかもしれない。しかし、無駄に建物を破壊されてしまうのも困る。何とか被害を最小限にできないものか……とは言え、ゆっくり考える間も――

「ええぃ!」
 その時だった! あの巨人女が素早くドラゴンの正面に立ちはだかり、体当たりをぶちかましたのだ!

 巨体を持つドラゴンの滑空と、巨人女の体重を乗せた体当たりとがぶつかりあい、周囲には衝撃波が発生した。そしてドラゴンと巨人女は互いに大きく吹っ飛び、結果として……街の方に向かって倒れた巨人女の方が、建物を少し破壊してしまう。
「いったぁい~」
「あ~あ……でもまあ、まだマシな方か」
「――何を余所見してるの!?」
 ゴスロリ女に突っ込まれ、慌ててドラゴンの方へ向き直る。と、ドラゴンは苦しそうに息を荒げながらも、既に体を起こし始めていた。
「まだ動けるなんて……文字通りの化け物だな」
「だけどここまでよ! 今度こそトドメを刺してあげるわ!」
 そう言ってゴスロリ女は、杖を構えて力を溜め始めた。その身にオーラのようなものを纏い、如何にも強力そうな攻撃を狙っている事が分かる。

 しかしゴスロリ女はまだ、このドラゴンを甘く見ているらしかった。もしくは、功を焦ったのかもしれない。そのせいか、ドラゴンが次の行動に移り始めている事に気付かなかったようだ。
 ドラゴンは、ゆっくりと大きく息を吸うような動きをしていた。この動きから連想するものは一つしかない。
 しかも、あまりにも分かりやすいゴスロリ女の攻撃準備を見て、ドラゴンの標的は完全にゴスロリ女に移っているらしかった。
 だが、当のゴスロリ女はそれが攻撃の為の動作であると気付いていないのか、力を溜めるのに集中し続けている……

 そこで俺は咄嗟に、ドラゴンの攻撃を阻止するべく、その横っ面目掛けて突っ込んで行き、光の力を纏った蹴りを入れた!
 ――だが、ドラゴンもそれは予測していたらしく、腕でガードされてしまった。結果、ドラゴンは少し後退りしただけで、体勢を崩すまでには至らなかった。
 全力だったらガードの上からでも、顔を逸らすことくらいは出来たかもしれない。しかし咄嗟の行動ゆえか、そこまでの力は込められなかったようだ……
 そうして息を目一杯吸い込んだドラゴンは、そこから腕を振り払って俺を弾き飛ばしつつ、口を大きく開き……強烈な、白熱のブレスを吐き出した!

 確かにゴスロリ女はライバルだが、助けられないのは嫌だ! しかし、完全に体勢を崩された俺は救助に向かう事すら出来ず、ただ目を背ける事しかできず――
「きゃあああ!!」
 だが、聞こえてきた悲鳴はどうも、ゴスロリ女のものではないようだった。
 顔を向け直すと、そこには……巨人女の背中が!
 どうやら巨人女もドラゴンのブレスに気付いたらしく、咄嗟にゴスロリ女の前に回りこんだらしい。そして背中でブレスを受け止め、結果としてゴスロリ女だけではなく、街への被害も抑えたと……
「あ、あついよぅ……」
 巨人女は震えた声を出しつつ座り込んでしまったが、しかし背中はちょっと赤くなっている程度だ。
 どうやら巨人女もただでかいワケじゃなく、相当タフらしい。まさかあの、見るからにヤバそうなブレスを受けきって、ちょっとした火傷で済ますとは……

 ――と、少し呆気に取られていたその時、突然、ドラゴンの周囲に雷の球のようなものが幾つも発生した。
「やってくれるじゃないの……正直油断したわ」
 ゴスロリの魔法だ……どうやら、巨人女の影から発動させているらしい。
 ドラゴンは少し後退りするように怯んだが、しかし、最早逃げ場などなかった。
 そして次の瞬間、轟音と共に、雷の球全てから物凄い量の雷撃が走り、ドラゴンの体を貫いた!
「ガアアアアアア!!」
 絶叫とも言える声を響かせ、ドラゴンはゆっくりとその場に倒れて行く。そしてそのまま、受身を取る事もなく地面に突っ伏した。
 まだ辛うじて息があるみたいだが、さすがにもう立つ力もないだろう。後は……トドメを刺すだけ。

 だが、俺はそれ以上攻撃をする気にはならなかった。ゴスロリ女もそうらしく、座り込んでいる巨人女の顔の位置へ飛び、声を掛けていた。
「ほら……いいわよ、トドメ刺しても」
「ふぇ?」
「お、お礼ってわけじゃないけど……と、とにかくやんなさいよ、ほら」
 ゴスロリ女に促がされ、巨人女はゆっくりとドラゴンの方に向き直った。そして、火傷を痛がりながらもドラゴンに近づいていく。
「そこのアンタも、いいわよね? この状況でトドメだけ持っていくような、卑怯者じゃないでしょ?」
「そう言われちまったら、手出しできねえわな……」
 まあ、今回手柄を譲ったとしても、宇宙人のメッセージの通りなら来週も敵が来るわけだしな。それに今回だって充分、活躍したと思うし……
「ほら、早くやんなさい。アンタのバカ力なら、あと一発殴れば殺せるでしょ」
「……は、はあ」
 しかし巨人女は何を迷っているのか、中々トドメを刺そうとはしない。
 ドラゴンがこれ以上動く事はないと思うが、しかしそれも保証のない話だ。トドメを刺すなら早い方がいいのだが……
「どうしたの? 遠慮しなくていいわよ。貸しなんて作りたくないし」
「……」
 すると巨人女は、ようやくと言った感じで拳を振り上げた。そして、勢いよく振り下ろし……ドラゴンの顔――の、直ぐ傍の地面を叩いた。
「な、何してんの? 動かない的を外さないでよ!」
「いいんですよ、これで……」
「はあ?」
 ゴスロリ女の突っ込みを流しつつ、巨人女はドラゴンの顔に自分の顔を近づけていく。そして、
「貴方はきっと、人の言葉も理解している。だから……憶えておいてください。次はありませんよ?」
 やると思った……けど、本当にそれで引っ込むかな、こいつ……
「グ……ウウウゥ……」
 ドラゴンは苦しそうに、か細く息を吐きつつ、巨人女を見詰めている。そうしてしばらく見詰め合った後、静かに目を閉じた。
 もしかしたら、巨人女が見逃すまでもなく、死んでしまったのかも?
 ――と思ったら、突然ドラゴンの体は発光を始め、次の瞬間には小さな光の球のようなものに変わった。そして呆気に取られている俺達を残し、その球は一瞬で空へと消えた。

「ど、どうなったのかしら。逃げたの?」
「ええ、多分そうですぅ」
「そうですぅって、どうすんの? 逃がしていいわけ?」
「分かりませんけど、もしかしたらあのドラゴンさんが、お仲間を説得してくれるかもしれないじゃないですかぁ」
「個人的にはそうなって欲しくないんだけどね……」
 まあ、同感だな。だがそれよりも……
「談笑しているところ悪いんだが……それよりも、その恰好どうにかならんのか?」
「誰が談笑してるってのよ!」
「……恰好? って、きゃああっ」
 巨人女が自分の服を見て、慌てて胸を隠す。
 そう、先程のブレスで背中を中心に、服の大部分が燃え尽きていたのだ。おかげで胸だけでなく、下も大分隠せていない状態に。
「あ~ん、見ないでくださいよぅ~」
「こら! 変態! あっち行け!」
「お、教えてやったのに、変態はないだろ!? 本当に変態だったら、黙って観察を続けとるわ!」
「そう言いながらばっちり見てるじゃないの! あっち向きなさいよ!!」
「ぬ、お……くそ! お前だけは、いつか絶対泣かせてやる……」
「ふん!」
「あ、あ、あのぅ、喧嘩しないでくださいよぅ、折角友達になれたんですから……」
「誰が友達よ!」「誰が友達だ!」
「ひ~ん……」

 ――とにかく、今回の戦いは終わった。
 気がつくと周囲には色んな国籍のヘリとかが飛び交い、俺達を遠巻きに見ている。
 結局誰もトドメを刺していないが、充分称えられて然るべき戦いだったはずだ。これで、少しはヒーローに近づけただろうか?

「うおおお! 間に合わなかったー!! 神風戦隊には機動力が足りないぃ!?」
 と、今更戻ってきたレッドが、悔しそうに頭を抱えている……ってか、今まで何やってたんだろうか、こいつは……

       

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