Neetel Inside ニートノベル
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「さて、着きました。こちらへお入りください」
 男が促がす先には、扉が一つ。特に変わったところは無いように思うが、周囲を見渡してみると、廊下には他にも似たような扉が並んでいるのに気付く。
 ともかく、俺は言われたとおりに扉を開いてみる。
 すると、そこには……家具やら何やらが一式揃ったリビングルームがあった。
「これ、は?」
「貴方にはこれから、ここで生活していただきます。例の、地球外生命体に関する一件が終息するまで」
「……は?」
「あのメッセージの通りなら、来週また、地球のどこかに襲撃があるという事になります。つまり、再び貴方がたの力を必要とする可能性が高いというわけです」
「だ、だからってここにいなくても良いじゃないですか。何かあれば駆けつければいいんでしょ?」
「そうするとは限りませんよね、実際は」
「へ?」
「我々は、強制したいんですよ、貴方がたの活躍を」
「……ちょ、何を言い出してるんだか――」
「確実に守れるという保証が欲しいのです。ですから国は、貴方のような特殊能力を持っている人を管理する必要があります。そして有事の際には、確実に出撃していただく」
 嫌な予感が当たり始めた。
 つまりなんだ、俺を囲うって事か?
「ふ……ふざけるな! 何でそんな扱いをされなきゃならんのだ! そんな事しなくても、ちゃんと戦うっての!」
「これは、国の、延いては世界の防衛に関わる話なのです」
「だからって……」
「それに、ちゃんと相応の報酬も約束します。また、ご家族の保護も約束します。必要とあらば、ご家族のお部屋も用意します」
「そういう事言ってんじゃ……いや、それも大事だけど、その前にさ!」
「……ちなみに、拒否権はありません。拒否するのであれば……反逆罪に問われます」
「はあ!?」
「罪の真偽なんてどうにでもなります。何せ、世界が懸かってますから」
「な……」
 淡々と、しかし妙な威圧感を伴いながら、男は説明を続ける。
「それに、貴方が反逆罪に問われるだけでは終わりません。ご家族にも影響が出るでしょうね。時にそれは、命に関わることかもしれませんよ?」
「お、脅しか?」
「事実です。いいですか? 貴方がたは強力な兵器と同じなんです。自由にうろつかれては困るのです。他国に囚われたり、亡命されたり、その他色々の可能性がありますのでね」
 兵器……? 俺を、兵器扱いするってのか? そしてそうする為には、家族を人質にするってのか?
「お前ら……それでも人間か?」
「……人情的に考えれば、貴方の気持ちはよく分かります。ですが、事はそれほど単純ではありません。ご理解頂きたい」
「できるか!」
「できなくとも、そうさせます。冷静に考えてください。これは貴方がたにしかできない仕事なのです。仕事ですからちゃんと報酬ももらえるし、何より世界の為になる。勿論、多少の不自由はあるでしょうが、こちらもなるべく貴方がたに不満の出ないように努めるつもりです」
「……いきなり家族を人質にするような事言われて、冷静になれだと?」
「貴方が貴方の決意されているとおりに行動するのであれば、何の問題もないのです。だって、何かあったら駆けつけるつもりだったのでしょう?」
「くっ……」
 納得いかねえ……いかねえが、まあ確かにそうだ。
「……ご理解いただけましたよね?」
「……ふん! いいだろう……でもな! その代わりすげ~我侭言うからな!」
「ええ、まあ、できる限りお応えしましょう」
 そう言って、男は扉を閉めていく。後には、俺一人……

 くそ、くそ! どうにもムシャクシャする!
 そりゃな、冷静に考えれば……やること自体は同じだし、それで金やら何やら保証してくれるってんだから悪い話じゃない。
 でも、これは気持ちの問題だ! ヒーロー扱いされるのと、兵器扱いされるのでは全然、気の持ちようが違うだろ!?

 くそ……レッドとゴスロリ、あいつら今頃テレビに出てるんだろうな……それで、国民的アイドルみたいになってくんだろうなぁ……
 なんで、なんで俺だけこんな扱いなんだ……納得、行くか!!

 …………でも、学生寮にある俺の部屋より、いい部屋だな。


 ――そうして一週間後、敵襲来の予定日

 俺は部屋で、その時が来るのを待っていた。

 ちなみに、外部との連絡は今の所許されていない。機密保持だかなんだか知らんが、家族との電話すらできないのだ。携帯も没収されたしな……
 だから、今現在家族に何らかの危害が及んでいたとしても、俺にはそれを把握する術がない。このままで良いとも思えないが、しかし、今の俺にはどうする事も……

 ――と、その時、施設内に緊急事態を告げる放送が流れ始める。
『世界全域で巨大生物が暴れているとの報告! 迎撃部隊は至急、ブリーフィングルームへと集合してください!』
「世界全域……だあ?」

 集合に応じ、ブリーフィングルームへ。そこには、俺以外にもヒーロー予備軍だった奴らがいた。自分から来たのか、それとも捕まったのかは分からんが。
 と、そこへ大道寺のおっさんがやって来た。そして、その後に続いてレッドとゴスロリも。何だよ、早くも高官扱いか?
 三人が席に着くと、それに合わせたかのように部屋が暗くなる。そして、スクリーンに向かって世界地図が投影された。
「さて諸君、宣言どおりに宇宙人は、新たな刺客を送り込んできたようだ。しかも今回襲撃を受けているのは……世界各地!」
 世界地図には良く見ると、赤い点のようなものが幾つか記されていた。どうやらそれらは、世界の主要各国の周囲に付けられているようだ。
 で、当然のように日本のすぐ近くにも一つ……
「そして、これが襲来してきた巨大生物の姿だ」
 大道寺の言葉に合わせ、スライドが切り替わる。そこに映し出されていたのは、巨大な……蜘蛛。
 粉塵が舞い上がっていて、細かな様子までは分からないが、針金のように細長い足で街を跨り、その足に支えられた胴体部分は妙に小さい。
 とは言え、それは全体像を見ての印象であり、やはり巨大である事には変わりない。
「見た目はこんなだが、やはり既存の兵器等では傷をつけることすら適わないようだ。しかし、日本には君達がいる。そして、世界にも……」
 次のスライド。なんとそこには、他国のヒーローらしき者達の姿が! 
 ってか、どっかで見たような奴らだな……胸に大きなSの字の赤マントとか……
「前回同様、君達の活躍に期待したいわけだが、しかし無秩序に行動するだけでは被害が広がってしまうばかりだ。そこで、今回はこの二名を中心に作戦を立てて行動して頂きたい」
 大道寺に促がされ、レッドとゴスロリが立ち上がる。
 しかし、よくよく見るとレッドの恰好は神風戦隊のモノではなくなっていた。黒く、裾の長い詰襟みたいな服装……何となく、ゴスロリの恰好に合わせたような姿だ。
「前回のドラゴンのような敵に対し、最も活躍した二人だ。諸君らはこの二人をサポートし、攻撃を効率化させ、素早く確実に敵を排除することを目的としてもらいたい」
 納得いかん……ゴスロリはともかく、レッドは活躍してないだろ。それに一番活躍したのは俺……と言いたいが、本当はあの巨人女だ。
 だが、他のヒーロー予備軍は特に不満を口にする事無く、その代わりに静かな闘志を燃やしているようだ。
「今回こそ活躍するぞ……」
「あの二人に負けてられん」
「今日こそ、グライダーキックを決めるっ」
 どうやら、どいつもこいつも大道寺の作戦なんて聞いていないようだ。自分だけが活躍する事を考えているのだろう。
 いや、それでいいのだ。そうとも、あいつらだけいい恰好させてなるものか!
 ――だが、
「尚、本作戦に背くものは、相応の処罰を覚悟するように。秩序なき力は、脅威だ。敵と変わらん」
 シーンと静まり返る室内。
 結局……そうなるのか。
「敵は現在太平洋上を本土に向かって進行中だ。到達予定時刻はあと20分ほど。質問がなければ、各自作戦準備に入ってくれたまえ」
 ヒーロー予備軍達は、うなだれながら部屋を出て行く。納得は出来ないのだろうが、世界を相手どってケンカを吹っかける度胸まではないのだろう。
 ああ、俺もそうだ。

「ねえ、健太郎君」
「んあ? 沖田、さん、なんスか」
 俺も部屋を出ようとしたその時、レッド沖田が声を掛けてきた。
「レッドでいいよ。あのさ、どう思うこの恰好」
「……まあ、神風戦隊ではなさそうですねぇ」
「そうなんだよ……赤くもないしさ。せめて色だけは鮮やかな赤にしてくれって頼んだのに、そんな派手な色は似合わない! って、怒られちゃった」
「そんなに赤いの好きなんすか?」
「当たり前だろ!? ヒーローは赤いんだよ!?」
「……別に赤に限定されないと思うんですけどね」
「むう。でもなんか……違うと思うんだよなぁこの恰好」
「いいじゃないですか。テレビ出たんでしょ、ヒーローとして」
「うん、まあね」
「よかったっすね、ヒーローになれて。俺達下級戦士の憧れッス!」
「……嫌味だよね、それ」
「うん」
「……はあ……僕は神風戦隊カイテンジャーで良かったのにな……」
 心底つまらなそうに、自分の服をつまんでいるレッド。
 まあ、拘りがあるのは分からないでもないが。
「大体、戦隊って言っても一人じゃないっすか」
「そうなんだよねぇ……あ! 君さ、神風戦隊に興味――」
「ない」
「……カイテンジャーイエローとか――」
「ないっつの」
「はああ……流行らないのかなぁ、戦隊は」
 ぶつぶつと言いながら、部屋を出て行くレッド。
 しかし、俺から言わせりゃ贅沢な悩みだ。そもそも勝ち組のイケメン俳優で、今はヒーローまでやってるわけだからな。
 村上とやってるテレビ広告も見たが、ま~なんつうか、本当にアイドルみたいな、普通のCMになっていた。
 ネットもあいつら二人の話題で持ちきりだしよ……羨ましいっつうか。
「ねえ、健太郎」
「んお? 今度はお前か」
 今度はゴスロリ村上が声を掛けてきた。
「沖田さん、あんまり乗り気じゃないみたいね、あの恰好」
「レッドがいいんだと」
「……沖田さんの特殊能力って何だか知ってる?」
「そういや、知らんな」
「熱気を放出できるんだって。だからレッドなのかしら」
「ふ~~~ん」
「……何、そのあからさまに不満げな声は」
「お前、随分ノリノリでテレビ出てたな」
「あ、羨ましいんだ!」
「ふん」
「……拗ねないでよ、バカ」
 村上は俺の肩をバシっと叩き、部屋を出て行く。
 べ、別に拗ねてないやい! バカって言う奴がバカなんだ! バーカバーカ!


 長いエレベーターに乗って地上に向かうと、人工的なシェルター内とは打って変わって、木々が生い茂る林の中に出る。
 ここは、東京湾の南方にある小島。噂では、地図にも載っていないらしい。
 小島なので、林と言っても大した規模ではない。少し歩くとすぐに海岸に出られるようだ。
 そして海岸には自衛隊のヘリが二台ほど待機していた。空を飛べないヒーロー予備軍はこれに乗れって事だろう。

 しかし、それよりも……敵だ。
 その巨体と異様な形状は、この時点で既に目視できる位置にまで来ていた。で、どうやらまた今回も東京に向かって進行しているらしい。
 何なんだろうな、首都を狙うようにできてんのかね。他国に来てる奴もそうなのかな。

 まあいい、他の奴らも移動を開始しているようだし、俺も行くか。
 尤も……今回はあの二人に手柄を譲らなきゃならないらしいので、やる気が全然でねえんだけどな!

       

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Neetsha