Neetel Inside ニートノベル
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 そうして後に残されたのは、黒こげになった巨大蜘蛛の死体。
 すると次には、蜘蛛の死体は徐々に黒い砂のようなものに変わり始め、そのまま宙に散り始めていく。これは前回のドラゴンとは違う、死んだからこその変化、だと思われる。
 つまり俺達は、今度こそ完全な勝利を上げたのだ。ただ、トドメはやはりゴスロリになってしまったのだが。
「や、やったわ!! 見てた健太郎!? アタシがやったのよ!!」
「へいへい……そりゃあんだけお膳立てすりゃ当然だろ……」
「何~? 何か言った~?」
「べ~つに~!」
 勝利に酔いしれるゴスロリ……まあ、気持ちは分かるんだが、俺は素直に喜べないな。


 ゴスロリ達を置いて本土に帰ってみると、そこには既に巨人女の姿は無かった。
 まあ……今回は自衛隊とかの目の前で思いっきり姿を見せちまったからな……隠れるのも早くする必要があったのだろう。

 ともかく、これで今週の敵は撃退した。
 自衛隊の隊員の話によると、他の国の敵も徐々に片付き始めているらしい。
 そんなわけで、俺達も帰る事になった。

 ふと気がつくと、周囲にはどこから沸いてきたのかマスコミの連中が集まり始めていた。そして帰り支度している俺達を余所に、遅れて戻ってきたゴスロリとレッドに群がって、取材を始めた。
 あ~あ……今回こそ、本当に活躍したのは俺なのに……ま、いいけどさ、もう。


 施設へ戻ると、大道寺を始めとする16師団の幹部達が俺達を出迎えた。
 一応、口では慰労の言葉をかける幹部達。
 だが、俺はそいつらの目が全然笑っていない事に気付いた。その理由も……大体想像は着く。
 で、俺以外にもそれに気付いてる迎撃部隊メンバーがいる。今回の戦いで、活躍できなかった連中だ。

 ヒーロー予備軍にも力の優劣というか、能力差があるというのが今回分かってしまった。だから恐らく、常人よりちょっと強い程度の奴は今後の扱いも変わってくるだろう。
 その内容によっては……色々面倒な事になりそうだ。

 まあ正直、俺にはあまり関係のない話だとは思う。俺はちゃんと活躍したしな。
 そもそも、大した実力もないのにでしゃばったりするからこんな事になるんだ……そうとも、俺には関係ない。


 ともかく、これ以上余計な事に首を突っ込みたくないので、早々に部屋に戻る事にした。それなりに、疲れてるしな。
 途中の自販機コーナーでジュースを買い、今日の夕飯はなんじゃろうなぁなんて思いつつ、廊下を歩いて……
 で、自室のドアを開けると、
「やあ、おかえり健太郎君」
 ドア閉める。

 ……はて? ここは俺の部屋、だよな。
 も、もう一度開けてみるか。
「何をしているのだ、早く部屋に――」
 ドア閉める。

 ……俺の部屋に、今ここに居てはいけない人物がいる。
 しかも、どうにも様子がおかしい。とにかく、もう一度開けて確かめてみよう。
「さっきから、何をしているんだ健太郎君?」
「な……何をしているはこっちのセリフだ! あ、明美……いや、お前誰だ!?」
 そう、俺の部屋に居たのは……妹の、明美……
 いや、正確には明美によく似た人物、だ。ここに明美がいるわけないし、何より俺の事を健太郎君などと呼ぶわけがない。
 その明美によく似た人物は、大きめのシャツ一枚だけを着て、部屋のソファにちょこんと座っていた。妖しげに、微笑みながら。

 本物のワケが無い……本物の明美は今、病院にいるはずなのだから。

 しかし、腰まである長い黒髪や華奢な体つき、そして落ち着きのある声……見れば見るほどそっくりだ。

 強いて違いを上げるとするなら、印象と言うか……気配というか……
 それに、本物の明美は歳相応の、子供らしい笑い方をする。こんな、妖艶さすら感じさせるような表情はしない。
 この少女……何者だ?
「ふむ、色々考えているようだね。でもまあ、明美でいいんじゃないかな」
「な、なんだと?」
「この体は確かに君の妹のものだ。借りたのだよ」
「はあ!? お、お前誰だよ!」
「私は君たちがドラゴンと呼称する存在……先週は失礼したね」
「ど、どら……ドラゴン!?」
 ドラゴンって、あのドラゴンか!? 俺達が戦った、あの!?

 自らをドラゴンだと言う明美の体を借りた何者か。
 明美本人の邪気眼的なものなら良かったのだが、それが有り得ない事もよく分かっている。この地下施設に、しかも一人で、あの病弱な明美が来れるわけがないのだから。

 確かにあの時、ドラゴンは逃げた。さっきの蜘蛛の死に様から考えて、それは間違いなかった。
 で、あの時奴は、あの巨体から小さな光の球体へと姿を変えていた。
 あれがもし、一時的に肉体を捨てたというような行為であるなら……霊が人間にとり憑くのと同じような形で妹の体を乗っ取る、というのも可能なのかもしれない。
「な、なんで妹にとり憑いた!? さっさと妹を返せ!」
「それは無理だな。少なくとも、今すぐ出ていく事はできない」
「ふざけるな! ってか、何で俺の妹なんだよ!?」
「まず、私を追い詰めた三人の中で、心情的にも近しい身内がいるのは君だけだった。あの巨人には身寄りはいないし、魔法使いは両親を憎んでいるようだからね」
 魔法使いって……ゴスロリの事か? 両親を憎んでる……?
 いや、今はそれどころじゃないか。
「で、なぜ君達の身内に入り込もうとしたかだが……まあ要するに、安全に身を休める為だ。君の妹の中に居る以上は、君達は私に手を出せないだろう?」
「身体を、休める? 治ったらどうするつもりだ!」
「……さあ? 考えてないな。まあ、君達が望むなら、もう一度世界を襲ってあげてもいいけどね」
「な、だ、誰が望むかそんなもん!」
「そうかい? 君は、望んでいたんじゃなかったかな? 敵の襲来って奴を」
「ぐ……」
 まるで、俺の心を読み取るかのように見詰めてくるドラゴン。
「ふふふ……まあ、そういうわけだからよろしく頼むよ」
「た、頼むって、何をだ」
「君達が望めば、家族の同居も許されるんじゃなかったかな?」
「な、なんだと? じゃあお前、このまま俺と一緒に住もうってのか!?」
「愛しい妹の為だ、構うまい?」
「お前は妹じゃないだろ!? せめて、妹の意識を返せよ!」
「――お兄ちゃん」
「う、お? え、明美?」
「……ふふふ」
「く、からかうんじゃねえ!!」
 俺は思わず、明美の体に向かって拳を構えてしまう。
 だが……勿論、殴ることなんてできない。
「ぐ……う……くそ……」
「……すまん。悪ノリしすぎたな。君の妹は今眠りについている。少なくとも私が出て行くまで、目を覚ますことは無いだろう」
「なんで、よりによって明美なんだよ……明美、体弱いんだよ……」
「……私も、生き残るのに必死だったのでな。君にとって、より大切な人を選んだ結果、こうなった」
 そう、こいつの目論見は正しい。俺からすれば実に胸糞悪いが。
 こいつが妹の体に入ってしまった以上、俺にはもうどうする事もできない。俺は肉弾戦なら得意だが、そういう、精神がどうのなんて、どうすればいいのか見当もつかないから。
 だから……それならせめて……
「……出て行く気、ないんだな?」
「ああ、すまんが」
「だったら! 絶対その体を傷つけるなよ! いいか、1ミリたりともだ! もしその身体でスッ転んだりしてみろ、その時は……」
「その時は……?」
「え、えーと……く、くすぐってやる」
「……あははははは! な、殴れないから、くすぐるって言うのか、あははははは!」
「わ、笑ってんじゃねえ! くすぐりの刑を舐めんな! もう、泣いて謝っても許さないからな!?」
「くくくく……ああ、いいさ。心して置くよ、兄上殿」
 こんな時だけ、子供の顔で笑うドラゴン。

 ええい、どうしてこうなった! 何か、悪い方向にばかり話が行くじゃねえか! よりにもよって、明美まで巻き込むなんて!

 いや……全部、俺のせいなのか? 俺も、実力の無いヒーロー予備軍同様に、でしゃばらなければこんな事には……

       

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