Neetel Inside 文芸新都
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MTGについて少し話そうと思う
voL.Ex「ムラサのMTGプレイヤーズリポート~M14プレリ編~その2」

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 2日目、筆者は《明けの星、陽星(CHK)》のめざめとともに起床するとプレリに必要なもののほかにタオルやうちわなど遠征用のアイテムを急遽GUで購入したバッグに詰めこんで出発した。時間にすこし余裕があったので駅前のマクドナルドに寄って朝食をとることにする。優雅に朝マックを食べながら村上春樹を読むという大学生の9割があこがれるであろうシチュエーションにひたりながらきょう1日ぶんのエネルギーを《補充(UD)》する。本のなかでは主人公が白い息をはきながら冬の北海道を旅していた。
《来世への旅(CHK)》のすえに到着したのは立っているだけで汗がふきだす酷暑の池袋だった。中学生のころから知るにぎやかなサンシャイン60通りをゆきながら筆者は過去をなつかしむ(夏にはロッテリアが店頭でシェイクを販売していてよく買ったものだ)。かつて獲物をもとめてハイエナのように街中をうろついていたエウリアンの姿こそみかけることはなくなったが、駅の反対側ではいまだにG-BoysとBlack Angelsのはげしい抗争がつづいており、目的地であるカードショップのすぐそばには埼玉県の支配の象徴たるサンシャイン・ビルがそびえていてさいたま軍の憲兵や民兵たちが血のにおいのしみついた街を闊歩していた。なにもかわっちゃないな、と筆者はかぼすシェーキを飲みながら歩みをはやめた。
 なんとか無事にカードショップにたどりつくことのできた筆者は開店したばかりで人のまばらな店内をうちわで涼をとりながらうろついていた。まだプレリ開始まで1時間ばかりあったのだが、今回はとある人物とまちあわせをしていたためだ。
「新都社のムラサさんですか?」
 リーバイスのジーンズ1本ぶんの値段のついたデュアルランドたちをながめていた筆者に声をかけてきたのは新都社の永遠のライバルたる週刊少年ワロスで『バトルギャザリンガー剣-TSURUGI-』という超絶MTG漫画を連載中のラッチ先生だった。彼はほかにも少年たちとMTGの出逢いをえがいた『魔法使いの夏』や伝説のクリーチャー《甲鱗のワーム(5th)》に挑む無謀かつ勇敢なものたちの物語である『ベラッカのワームが甲鱗様に挑むようです。』など多数のMTG漫画を描いており、またブログでは日々のMTG的活動やカードスリーブのレビューや土地への想いをつづり、拡張アートやリスキーな海外通販にも挑戦する気鋭のプレインズウォーカーであり工匠でもあった。はじめに『魔法使いの夏』から知って最初にブログを読んだときは「これは〝カードにも魂は宿る〟と信じている側の人間だな……」と畏怖すらおぼえたものである。しかしマジック・ザ・ギャザリングとニュー速VIP発というふたつの縁もあって本日こうして会することになった。ラッチ先生にかんして筆者は「体脂肪率1ケタ」「ひさびさの水泳で軽々1キロを泳ぐ」「《狂気盲いの山(SHM)》からK2東壁までアタックする赤プレイヤーもおののく登山家」「部屋に侵入してきた蚊を空間ごともぎとる」という前情報をウィキリークスから入手しており、解体屋ジョネスや『魔法少女プリティ☆ベル』の高田厚志兄貴のような人物を想像して戦々恐々としていたのだが、あらわれたのはみごとにソフィスティケートされたリーヴ・シュレイバー似のナイスガイだった。
「そうです。あなたがラッチ先生ですか?」
「はい、死にたいです」
 と彼は意味ありげな微笑を浮かべた。筆者はすでに〝死に体〟であるということだろうか。たしかに元ネイビー・シールズの手にかかれば旧ファイレクシアの住人である筆者などゾンビのいない《肉占い(TE)》みたいなものだろう。筆者は息をのみながら彼とデュエルスペースへと移動した。
 席につくやいなやラッチ先生がとりだしたのはきのう購入したばかりというサプライ収納のついたアメリカンなゴツいデッキケースだった。さすがはサプライマニアである。筆者はイベントデッキの箱からデッキをとりだすと入念にシャッフルしてさっそく1戦まじえることにした。
 先日のブログで青単デッキについて書いていたのできっとそのデッキだろうと思いこみ、ゾンビ速攻で蹂躙する気まんまんの筆者だったがラッチ先生が最初にプレイしたのはまさかの《沼》であり、さらに《島》がでてくる青黒デッキであった。『ギルド門侵犯』のプレリでお世話になったディミーア家とこんどは対峙することになったわけだが、筆者のタフネス小さなゾンビたちは《鬱外科医(ISD)》にあっさりとめられてしまい主導権をにぎられてしまう。さらに《夜帷の死霊(GTC)》に空から攻められてアドバンテージをバンバン稼がれたり強引に突破しようとさらにクリーチャーをならべたところに《もぎとり(M13)》がとんできたり《思考を築く者、ジェイス(RTR)》で14年ぶりにカードを山分けさせられたり《禁忌の錬金術(ISD)》で墓地を肥やされたりと散々やられてしまった。筆者も《鬱外科医(ISD)》で対抗したり《霊異種(DGM)》を《肉貪り(GTC)》の重ねがけで葬ったりして抵抗をこころみるが、頼みの綱の《ゲラルフの伝書使(DKA)》と《墓所這い(DKA)》も《鬱外科医(ISD)》で追放されてしまい、とどめは《墓所の怪異(GTC)》からの《忌むべき者の軍団(ISD)》で13体のゾンビに逆襲されて筆者はバラバラにちぎられてニューファイレクシアの地にばらまかれてしまった。「これのためにマイケル・ジャクソンのカードをトークン用として大量に買ったんですよ」とラッチ先生がスリラーをおどりながら教えてくれた。イニストラード・ブロックでは大活躍のことだろう。
 そのあとはめずらしいスリーブ(ナポレオン・ボナパルトやクールミントガム)や《チャンドラ・ナラー(LRW)》《炬火のチャンドラ(M13)》の拡張アートをみせてくれた(彼はチャンドラマニアでもあるのだ)。とくに拡張アートを手にとってみるのははじめてだったのでウルザズ・レガシーで最初にフォイルをみたときのような感動すらおぼえた。いつか《Juzam Djinn(AN)》の拡張アートに挑戦してみてほしいものである。
 そうこうしているうちにプレリ開始の時間がきて筆者はパックを受けとると黙々とあけはじめた。前日にくらべると引きはそこまでよくはなかったが、わるいと言うほどでもなく《吸血鬼の印(M14)》《死体運び(M14)》《凶眼のコカトリス(M14)》《血の幼子(M14)》《血の儀式文(M14)》《夜翼の影(M14)》《呪われたスピリット(M14)》《執拗な死者(M14)》の黒は確定であとは2色目を赤にするか緑にするかというところだった。赤は《チャンドラのフェニックス(M14)》を筆頭に《ショック(M14)》《チャンドラの憤慨(M14)》《溶岩の斧(M14)》《炬火の炎(M14)》と豊富な火力に《稲妻の鉤爪(M14)》×2まであり攻撃力はもうしぶんなかったが軽いクリーチャーがおらず序盤になにもできない可能性があるのが気になるところだった。緑は《命取りの出家蜘蛛(M14)》《エルフの神秘家(M14)》《ルートワラ(M14)》《レインジャーの悪知恵(M14)》《帰化(M14)》《垂直落下(M14)》《茨潰し(M14)》《暴風(M14)》と柔軟性に富んだラインナップで安定したゲーム運びができそうだが緑自慢のビーストが1体もおらず決定力に欠ける感じは否めなかった。
 ゆくゆく悩んで筆者は黒緑を選択した。リミテッド=クリーチャー戦という図式がすりこまれていた筆者は黒赤にややリスキーな印象を持ったからだ。基本セット2013、きのうの基本セット2014のプレリではいずれも黒緑を使用しており手についている感があったのも大きい。だがこのあと筆者はリミテッドの奥深さを痛感することになる。


《沼》……10
《森》……7

《エルフの神秘家(M14)》……1
《林間隠れの斥候(M14)》……1
《命取りの出家蜘蛛(M14)》……2
《執拗な死者(M14)》……2
《死体運び(M14)》……2
《血の幼子(M14)》……1
《ルートワラ(M14)》……1
《斑の猪(M14)》……1
《凶眼のコカトリス(M14)》……1
《呪われたスピリット(M14)》……2
《夜翼の影(M14)》……1

《暴風(M14)》……1
《巨大化(M14)》……1
《垂直落下(M14)》……1
《茨潰し(M14)》……1
《吸血鬼の印(M14)》……1
《血の儀式文(M14)》……1
《漸増爆弾(M14)》……1
《炎叫びの杖(M14)》……1


・1戦目
 対戦相手はかなり年季のはいったガンダムのスリーブが印象的な青白。序盤からクリーチャーをならべあう展開となり《エルフの神秘家(M14)》《命取りの出家蜘蛛(M14)》《死体運び(M14)》とこちらは地上から攻めたてるが《突進するグリフィン(M14)》《訓練されたコンドル(M14)》《イーヴォ島の管理人(M14)》とむこうは空から攻めいってきてやや不利なダメージレースを強いられる。さらに《霜のブレス(M14)》で1ターン失ってしまい、クロックを底あげしようと《呪われたスピリット(M14)》をプレイするも《取り消し(M14)》で打ち消され、2体目の《呪われたスピリット(M14)》はなんとか通るもすでに遅すぎる援軍でしかなく1ゲーム目を落としてしまう。つづくゲームは《時の引き潮(M14)》からの《取り消し(M14)》からの《古術師(M14)》からの《取り消し(M14)》と《呪文破(M14)》《本質の散乱(M14)》となにもさせてもらえず、そのうちに《記憶の熟達者、ジェイス(M14)》が降臨してライブラリーを一瞬で消しとばされてあえなく終戦となった。
〝 [0]:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分のライブラリーの一番上から10枚のカードを自分の墓地に置く。〟
「……こんなの絶対おかしいよ」とテキストをみながら呆然とつぶやく筆者に「まだ時間もあるのでフリープレイでもしながらデッキを調整してみましょう」と対戦相手が持ちかけてきてくれたのでさっそく手持ちのカードを差しだす。
「(デッキに使っていないカードをみながら)あー《強迫(M14)》はどうしても通したいクリーチャーがいるときに相手の除去やカウンターをぬけるんでいいっすよー、《祭壇の刈り取り(M14)》も相手の除去にたいしてアドとれるんでいいカードです、《肉体のねじ切り(M14)》《レインジャーの悪知恵(M14)》はコンバットトリックで使えるんでこれも使いたいっすねぇ」と解説つきでつぎつぎとピックしてくれる。「でもそこまでまもりたいクリーチャーがいないんですよね……」「(デッキをみながら)あーそうっすねぇ、ちょっと生物が小粒ですねぇ、あーでも《呪われたスピリット(M14)》はいいカードですねぇ、あーこれは強いっす」「でも緑のクリーチャーが微妙なんですよね。赤とどっちにするか悩んだんですが」「(赤のカードをみながら)あーなるほどー、あーでもこれもしかして赤のほうがいいかもしれないですねぇ、うーん、火力もあるし、あー《チャンドラのフェニックス(M14)》これいいっすねぇ、これいいカードっすよ、ぜったい使ったほうがいいっす、これは強いっす」「ですかねー?」「赤のほうが攻撃力あがるんでこっちのがいいと思いますねぇ」
 というわけで筆者は急遽デッキを黒緑から黒赤に組みかえることにした(構築とちがって1戦ごとにデッキを自由にかえられるのもリミテッドの魅力だ)。


《沼》……9
《山》……8

《執拗な死者(M14)》……2
《死体運び(M14)》……2
《血の幼子(M14)》……1
《チャンドラのフェニックス(M14)》……1
《凶眼のコカトリス(M14)》……1
《呪われたスピリット(M14)》……2
《無法の槌角(M14)》……1
《夜翼の影(M14)》……1

《肉体のねじ切り(M14)》……2
《炬火の炎(M14)》……1
《チャンドラの憤慨(M14)》……1
《ショック(M14)》……1
《稲妻の鉤爪(M14)》……2
《溶岩の斧(M14)》……1
《吸血鬼の印(M14)》……1
《血の儀式文(M14)》……1
《漸増爆弾(M14)》……1
《炎叫びの杖(M14)》……1


 改良後のデッキはこんな感じになった。生物のほそさを火力と《稲妻の鉤爪(M14)》《吸血鬼の印(M14)》《炎叫びの杖(M14)》でおぎなう構成だ。まわしてみると黒緑よりずっと打撃力があがり、《肉体のねじ切り(M14)》と火力のおかげで小まわりもきくようになった。ここからの巻きかえしを期待できるだろう。筆者はデッキ構築の助言をくれた対戦相手に感謝しながらつぎなるたたかいへとむかった。

・2戦目
 対戦相手は白緑。筆者とおなじくクリーチャーがおとなしめで《神聖なる好意(M14)》《武勇の誇示(M14)》《巨大化(M14)》《レインジャーの悪知恵(M14)》《大型化(M14)》などの強化スペルで補助するという筆者のデッキと似たような構成になっていた。だが彼のほうがよりテーマが明確でプレイも的確だった。1ゲーム目は《神聖なる好意(M14)》《真面目な捧げ物(M14)》《新緑の安息所(M14)》のライフゲインでねばられる展開に筆者はガス欠に陥ってしまい《トロール皮(M14)》のついたクリーチャーへの《大型化(M14)》はまさに一撃必殺となった。2ゲーム目も《死体運び(M14)》《チャンドラのフェニックス(M14)》《稲妻の鉤爪(M14)》で果敢に攻めるも《次元の浄化(M14)》でリセットされてしまい、火力を引けば《チャンドラのフェニックス(M14)》で勝てるという状況でなかなか引けないまま《大型化(M14)》×2でまたしてもワンパンチでしずんでしまった。だが1戦目にくらべると手ごたえはじゅうぶんあったし、ライブラリーアウトよりは豪快になぐられて負けるほうが気持ちよかった。また彼ともゲーム後フリートークがはずみ、「破壊不能ってなんかダサいですよね」「ですねぇ、〝~は破壊されない〟のほうがマジックっぽくて好きですね」とかゴブリンのフレイバーテキストについておしゃべりした。ちなみに筆者のお気にいりは《ゴブリン穴掘り部隊(5th)》だ。

・3戦目
 対戦相手の色は失念。《憑依された板金鎧(M14)》がはいっていたのは記憶しているが《呪われたスピリット(M14)》《夜翼の影(M14)》と闇と空から攻めたてて2ゲームとも連取。勝った試合はそれほど印象にはのこらないものなのかもしれない。ゲーム後はとなりの卓のプレイヤーもまじえてデュアルランド&フェッチランドの暴騰やショックランドの暴落などドミニアの不動産事情について盛りあがった。さらにそこへ上位卓からおりてきたラッチ先生がくわわって《紅蓮の達人チャンドラ(M14)》の奥義の潜在能力について議論が白熱した。この時点で筆者は1-2で負け越し、ラッチ先生は3-0と負けなしで、われわれはそれぞれイーブンパーと優勝をかけて最終戦へと望んだ。

・4戦目
 対戦相手はたぶん黒青。《死体運び(M14)》《血の幼子(M14)》《凶眼のコカトリス(M14)》とこちらと構成が似ていたが《センギアの吸血鬼(M14)》が頂点に君臨していて《霜のブレス(M14)》《閉所恐怖症(M14)》など青いカードもやっかいであった。だが《呪われたスピリット(M14)》《稲妻の鉤爪(M14)》で《霜の壁(M14)》をシカトしつつ2枚目の《稲妻の鉤爪(M14)》を今引きして速攻で1ゲーム目をとる。2戦目は《執拗な死者(M14)》と《凶眼のコカトリス(M14)》《炎叫びの杖(M14)》で守りをかためながら《夜翼の影(M14)》でライフをじわじわと削り、最後は《溶岩の斧(M14)》でとどめをさした(すでに対戦のおわっていたとなりの卓のプレイヤーふたりが「そらよッ!」と筆者のかわりに言ってくれた)。ちなみに《センギアの吸血鬼(M14)》は2ゲームとも《漸増爆弾(M14)》で封じることができ、「リミテだとやっかいなカードは3マナ以上がほとんどなんで3つまではどんどんカウンターを乗せてからあとは状況をみたい感じっすねー」とレクチャーしてくれた1戦目の対戦相手さまさまであった。ゲーム後は対戦相手が「2ターン目にきっちり爆弾置くのやめてください(T_T)」といきなりヴァンパイア化してとびかかってきたので筆者はあわてて《漸増爆弾(M14)》をデッキからさがしだしてカウンターを乗せはじめるがまにあわず90%ほど血を吸われて《墓所這い(DKA)》となってしまう。そこへ《聖なる力(5th)》を4枚まとった店員がやってきて黒マナをもとめてデュエルスペースを荒らしまわる筆者を吸血鬼となった対戦相手とともに光のかなたへと消し去った。エイメン。


 というわけでプレリ2日目は2-2という戦績におわった。ラッチ先生も最終戦で《テューンの大天使(M14)》《ザスリッドの屍術師(M14)》を擁するオルゾフ対決にやぶれてしまい3-1でフィニッシュとなった。《復活の声(DGM)》によってなんとかよみがえった筆者はそのあと2戦目であたった対戦相手とスタンで対戦したりラッチ先生とウィンストンドラフトなるもので遊んだりとデュエルスペースに居すわりつづけた。けっきょくラッチ先生にはいちども対戦で勝つことができなかったが、あらたな目標を手にすることができた。もっと積極的にプレリやFNMに参加してプレイ経験を積み、デッキもきちんと構築していずれラッチ先生に勝ちたい。
 いい時間になって店をあとにしたわれわれは四国より次元転移してきた居酒屋にて《ぎらつく油(NPH)》で乾杯し、《ダンダーン(5th)》のタタキや《泥沼のヤツメウナギ(MM)》のじゃこ天や《島魚ジャスコニアス(4th)》のから揚げなどをつまみながらMTGや新都社やワロスの話などをした。とくにシャンディ・ガフなる提督的なものを飲みながらラッチ先生の語る魔血堕(裏切りのティル・ナ・ノーグ)での血を血で洗う闘争やギアナ高知県への冒険談はまこと壮絶で筆者の手もとの黒霧島も心なしか《血染めの月(CH)》によって赤くそまっているようにみえた。また「ところで蕎麦の話なんですが」となにげなくはじまったラッチ先生のそばトークは朝方までつづき、そのあいだ筆者は刺し身に使うぶんには当分こまらないほどのワサビをすりおろした。ラッチ先生にはぜひ我孫子駅の唐揚げそばをいちど食してみてもらいたいものである。
 そうこうしているうちに退店時間となりミラディン陣営の店員を生け贄にささげて《弱者選別(EX)》で支払いをすませるとわれわれは『星を継ぐもの』の結末のあまりの力技ぐあいについて話しながら(ハントとダンチェッカーもあれには舌を巻いたことだろう)池袋駅まで歩いた。長かった1日もようやくおしまいだ。
「むっ?」
 ここまで見送ってくれたラッチ先生に別れをつげて改札をとおろうとしたとき筆者はみょうな異変を感じた。気づくと筆者のからだは床からしみだしたどす黒い油によって暗黒に染めあげられている。筆者はすでにニューファイレクシア病に感染してしまっていたのだ。
〝《ネクロポーテンス(5th)》でカードを7枚わきにどけます〟〝じゃあディスカード・フェイズ前に本体に《火葬(5th)》《火炎破(VI)》《火炎破(VI)》撃ちます〟
〝《暗黒の儀式(US)》から《ファイレクシアの抹殺者(UD)》をだします〟〝エンド前に《ショック(ST)》で〟
〝《サルタリーの修道士(TE)》に《浄化の鎧(WL)》をつけます〟
〝《たい肥(UD)》を置きます〟
〝《ジェラードの評決(AP)》を撃ちます〟〝《十二足獣(AP)》を2枚捨てます〟
〝《陰謀団の貴重品室(TO)》から全力で《霊魂焼却(IN)》を……〟〝あ、《方向転換(OD)》で〟
 かつての旧ファイレクシアでの記憶がフラッシュバックするとともにすこしずつ意識が遠ざかっていく。どうやら故郷の地をふたたび踏むことはかなわなそうだ。
「おまえはスレの意識に馴染み過ぎ、ネットと共に生き、自らも勝利だけが目的の捕食者となってしまったのだ。だがいまならスレに馴染みつつ、自分のやりたいマジックをできるだろう」
 そのときラッチ先生の声があたまのなかに響き、深淵へと引きずりこまれつつあった筆者の意識がふたたびハッキリしはじめる。いままさに筆者をのみこもうとしていた油が後退していくのがわかった。みるとラッチ先生の右手には《肉体と精神の剣(SOM)》がにぎられており、構内には《天界の曙光(MI)》が満ちあふれている。完全に正気にもどった筆者はなにが起きたのかを悟った。彼はみずからの〝プレインズウォーカーの灯〟を筆者にあたえることでニューファイレクシアによる肉体の《汚染(US)》と心の《蝕み(IN)》から救ってくれたのだ。
〝(あなたはすでに)死に体です〟――最初に会ったとき彼はすでに筆者がニューファイレクシアにとりこまれつつあることを知っており、いずれこうなることを予見していたにちがいない。
「世界(ドミニア)をたのんだぞ……」
「そんな! だって週刊少年ワロスで大絶賛連載中の漫画版『バトルギャザリンガー剣-TSURUGI-』はどうするんですか? とちゅうで投げだすんですか!?」
「いい物語というのは読者に想像する余地をのこすもの。それにわたしがいなくともバトルギャザリンガーシリーズはつづいていくだろう」
「冬コミはどうなるんです!? 『虎よ、虎よ!』読破は? 水蕎麦は? テーロスは? マジックで世界を支配するという夢は?」
「人の生涯は宇宙的スケールからみればほんの一瞬にすぎない。成せることもあれば成せぬこともあるだろう。だからわれわれはいまを大切に生きるのだ」
 池袋駅全体を照らしだしていた光がじょじょに弱まっていく。アリーヴェデルチ、とラッチ先生が《最後の言葉(DST)》を唱えると異教的な鎧とマントをまとった彼の全身を闇の覆いがつつみこみ、やがてだれもわからない〝なにか〟のなかへと姿を消した。あとには《リリアナの肉裂き(M14)》だけがのこされていた。それを忘れ形見に筆者は生まれ育った町を第二の魔血堕やニューファイレクシアにしないように――ひとりの少年に〝ブレードチルドレン〟という重い宿命を背負わせたり青や緑に《四肢切断(NPH)》のような悲劇をくりかえさせないために――プレインズウォーカーとしてたたかいつづけていくことを決意する。そして《死せる願い(JU)》からサーチしてきたSuicaで機械の門をぬけると《ファイレクシアの核(NPH》》から解放された筆者は乾いた風に吹かれながら独りきり歩いていく――忘却の空へたどりつけるまで。(《血染めの月(CH)》ののぼる街「異消武苦炉」編――完)


 というわけで2日間にわたる基本セット2014プレリのリポートは以上だ。残念ながら後味のわるい結末となってしまったが、つねに戦火のなかに身を置くプレインズウォーカーたるのもこれも試練のひとつとして乗り越えていかねばならない(あるいは正気でなくなるかだ)。
 今回のプレリでは多くのプレイヤーと交流が持つことができて非常にたのしい時間をすごすことができた。1戦目の対戦相手で筆者のデッキ改良を助言してくれたガンダムの熟達者ジェイス氏、2戦目の対戦相手でありプレリ後のスタン対戦では《吹き荒れる潜在能力(DGM)》《疲労の呪い(DKA)》のコンボで筆者に「エンプティ・ハンドロック」以来のロックの恐怖を味あわせてくれたジャクロ二世氏、3戦目の対戦相手で浦島太郎状態の筆者とのMTGトークにつきあってくれた《憑依された板金鎧(M14)》氏ととなりの卓でみごとなカードピラミッドをつくりあげて驚かせてくれたヒソカ氏、4戦目の対戦相手で店員にその肉の最後の一片まで絶滅させられてしまったセンギアヴァンパイア氏、1日目に勝負のゆくえは最後の最後までわからないことを思い知らせてくれたジョジョ氏にはとくに感謝したい。そしてなにより今回のプレスリリースにさそってくれたラッチ先生には《ネクロポーテンス(5th)》で11枚ドローからの《死体の花(MI)》で11枚ディスカードからの《彼方からの雄叫び(5th)》で最大限のお礼を言いたい。彼自身は《The Abyss(LE)》へとのみこまれてしまったが、筆者が《解呪(5th)》で暗黒のフタをあけるそのときまでラッチ先生は生と死を超越した存在として〝在り〟つづけるだろう。はるか宇宙の彼方に煌々と燃えあがるギャザリングソウルを感じつつ今回はおわろうと思う。では諸君、つぎは神々の世界でお会いしよう。

       

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