Neetel Inside 文芸新都
表紙

道化師達と長い夜
日曜日

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 起きてすぐ時計を見ると、針は午前十時ちょうどを指していた。
 十二時くらいまでは寝ているつもりだったから、ちょっと早起きだ。
 今日は日曜日。
 しかし俺には何の予定もなかった。
 彼女とは先月別れたばかりだし、悪友共は俺を置いてみんなでドライブに出かけた。
 誘われなかったわけでは無いのだが、俺はその誘いを断った。
 別に理由があるわけでは無い。
 ただ何となく、だ。
 そんなわけで今日は何も予定がない。
 遊ぶ相手もいない。
 自ら手にした退屈とはいえ、やはり何もすることが無いのはどこか寂しい。
 しかしいまさらどうする事もできない。
 俺はとりあえずコーヒーでも飲もうと台所へ向かった。
 食器棚を開けてお気に入りのカップをとりだす。
 するとカップの縁が欠けているのに気付いた。
 かけらはカップが置いてあった辺りに見当たらなかった。
 俺はがっかりするとともに何だかそれを不吉に感じた。
 とりあえずカップを元の場所に戻し、二番目に気に入ってるやつを手に取った。
 コーヒーをいれ、胃に流しこむ。
 とりあえずこれで朝食はおしまい。
 俺はベッドに寝ころび、このあいだ買った小説を手に取った。
 最近話題の本なので買ってはみたが、内容はどこかで読んだような話だった。
 こんなのを絶賛する評論家の気が知れなかったが、だまされた自分も悪いとページをめくった。
 内容は薄いくせにページ数はやたらと多い。
 もう二三日読んでいるのだがまだ半分ほどだ。
 俺は急に読むのが面倒になって本を置いた。
 かといって他にすることも無いので、とりあえずテレビをつけた。
 しかしこれもくだらないバラエティーであった。
 俺は何だか悲しくなってテレビの電源を切ろうとした。
 するとその時ニュース速報が入った。
 文字の点滅の後、内容が流れ始める。
 それは世界的ロックスターの急逝を告げるものであった。
 俺はファンというほどでは無いが、以前はけっこう好んで聞いていた。
 俺はもう一度繰り返されるニュースを見ながら彼の曲を思い出していた。
 しかしどれも断片的で完全には思い出せなかった。
 ニュース速報が終わったのでテレビの電源を切り、俺はまた本を手に取った。
 どこまで読んだか忘れてしまい、しおりをはさんでおいたページの初めから読み始めた。
 内容はまったく頭に残っていなかった。
 それでも俺は読み続けた。
 まったく根っからの貧乏症である。
 この性格のせいで苦労したり失敗した事は無いが、時にこういった無駄な時間を過ごす羽目になる。
 俺は本のページをめくり続けた。
 主人公がついにヒロインに告白、というところで腹がなった。
 時計を見るともう十二時だった。
 とりあえず本を置いて台所へ向かう。
 冷蔵庫を開け何か食べる物はと探す。
 しかし何もない。
 しかたなく俺は横の戸棚からカップラーメンを取り出した。
 買い置きしてあるのはこれが最後。
 あとで買いに行かなきゃな、と考えながらお湯をわかす。
 ただ待っているのも退屈なので、俺はまたテレビをつけた。
 女性の声とともに映像がフェードインする。
 大型台風が沖縄に上陸したそうだ。
 こちらはうってかわって快晴。
 なのに俺は家の中で何をしているのやら……
 なんて思ってるうちにお湯がわいた。
 カップ麺の器にお湯を注ぐ。
 その時テレビからまたあの音が聞こえた。
 ニュース速報。
 俺は画面に注目した。
 文字が流れる。
 見知らぬ国でクーデターが起こったそうだ。
 俺はただ「大変だな」とだけ思った。
 冷たいと思われるかも知れないが、誰だってそんなもんだろう。
 見知らぬ国での出来事は、おとぎ話と変わらないのだ。
 タイマーが三分経ったことを知らせる。
 俺は蓋を開け箸を取った。
 いただきます。
 器はそれから十分後には空になっていた。
 片付けを終えると俺は再びベッドへと戻った。
 満腹になったせいかやけに暑い。
 俺は窓を開けた。
 冷たい風が吹き込んでくる。
 今は七月。
 これで本当に地球温暖化は進んでいるというのか?
 俺はベッドに横になり目を閉じた。
 食って寝る。
 これ以上の堕落はない。
 こんなんで明日からちゃんと日常に戻れるのだろうか?
 そんな思いをよそに、俺の意識は闇に消えた。

 Zzz……

 ……目を覚ますともう五時過ぎだった。
 どことなく空気も寂しげである。
 俺は上体を起こしベッドの上に座り直した。
 窓の外では買い物帰りの主婦らしき女性が家路を急いでいた。
 ふと俺は寂しくなった。
 携帯を取る。
『メール作成』
 本文にただ『寂しい』とだけ書いた。
 さてこれを誰に送ろうか?
 俺はとりあえず例の先月別れた彼女に送ってみた。
『送信完了』
 それを見て急に後悔した。
 あいつはこんなメールを見て、俺をどう思うのだろう?
 女々しい奴だと思うだろうな。
 その時携帯の着信音が部屋に響いた。
 この音はメールだ。
 おそるおそる受信したメールを見てみる。
 内容は……
『送信エラー』
 アドレスでも変えたんだろうか。
 俺は何だかむなしくなった。
 気晴らしに夕飯でも食べようと、コンビニに行くことにした。
 店までは歩いて五分。
 何かを考える間もなく到着。
 カップ麺五個とおにぎりを三個、そして缶ビールを二本買って店を出た。
 俺はその足で近くの川へと向かった。
 ちょっと早めの夕飯は、そこで食べようと考えたのだ。
 ビールはぬるくなるのが嫌なので、歩きながら飲んだ。
 ちょうど一本目の缶が空く頃に川へと着いた。
 土手に腰を下ろし、袋からおにぎりを取り出す。
 そして二本目の缶を開け、一人きりの晩餐を始めた。
 その時ふいに肩を叩かれた。
 振り返るとそこには見知らぬ男が立っている。
「横、いいですか?」男は俺が返事をする間も無く隣に腰を下ろした。
 その時俺はさっきまでの寂しさはどこへやら、ちょっと居心地の悪さを感じた。
 そんな俺にその男はこう質問した。
「お一人ですか?」
 俺は「ええ」とできるだけそっけなく答えた。
 しかし男はそんなこと気にもせず言葉を続けた。
「私もなんですよ」
 そんなことは見ればわかる。
 しかも男はそこで急に黙り込んだ。
 いったいこの男はどういうつもりなんだろうか?
 まったく変な奴につかまったもんだ。
 何かの勧誘とかだったら嫌だな、などと思っていると男がぽつりと呟いた。
「お互い、寂しいですね」
 俺はその言葉にカチンときた。
 そこでちょっと声を荒げてこう言った。
「初対面のあなたにそんなこと言われたくありません」
「ああ、ごめんなさい。そんなつもりでは……」男はそこでちょっと黙った。
 俺はそのままどっかに行ってくれないか、と思ったのだが願いは届かなかった。
「今日はお仕事、お休みなんですか?」男はその場を取り繕うように言った。
 無視してやろうかとも思ったが男の雰囲気があまりに寂しげだったので、俺はもう少しだけ付き合ってやることにした。
「いえ、大学生なんです。それに今日は日曜日じゃないですか」俺がそう返事をすると、
「日曜日、ですか?」と男は驚いたように言った。
 俺が「そうですけど何か?」とたずねると、
「ああ、いえ、何でも無いです」とだけ言ってそれきり黙りこんでしまった。
 空気が急に重くなった。
 ちょうど食事も終わったので、俺はゴミを袋に入れ立ち上がった。
「あの……僕、そろそろ……」
 男は私の声に気付かないのか、振り向きもせずになにかぶつぶつつぶやいている。
 俺は逃げるようにその場を立ち去ろうとした。
 その時男が俺に何か言った気がしたが、よく聞きとれなかった。
 俺は走って家に帰った。
 家に着くとすぐに風呂に入った。
 何だかシャワーがやけに気持ちよかった。
 風呂からあがった俺は、頭を拭きながら明日のことを考えていた。
 授業のこと、友達のこと、バイトのこと……
 何だかそのどれもが懐かしく思えた。
 俺は髪も乾ききらぬまま、ベッドに寝転び布団に包まった。
 そして早くこの日曜日が終わってくれないかと願った。
 そこでようやく願いは受け入れられ、俺は深い眠りへと落ちていった。

 次に俺が目を覚ましたのは月曜日の朝だった。
 時計代わりにテレビをつける。
 ニュースではうちの近所で無職の男性の首吊り死体が見つかったと報じていたが、俺にはまったく関係の無いことだった。

       

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Neetsha