Neetel Inside 文芸新都
表紙

新都社作家の後ろで爆発が起こった企画
リア充の爆発って多分こういうことでしょ?/七瀬楓

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 すべきことはあったはずなのに、そんなことは三本目のビールと共に流されてしまった。
 夏の暑い日。冷房もつけない締め切った部屋で、キンキンに冷えたビールを飲みながら、俺は汗だくになりながら彼女と共に逢瀬を楽しんでいた。
「冷房入れてよ。すごく暑い」
 テーブルを挟んで向かい合っていた彼女は、黒い髪をくくりながら唐突にそんなことを言った。俺からしたら唐突だっただけで、彼女はずっと考えていたのだろう。言うタイミングがたまたま今だっただけだ。
 彼女は俺の部屋にありながら、一度も使われていないエアコンを見た。色目を使ったと言ってもいい。しかし俺はエアコンをつける気はなく、彼女の汗ばんだ脇を見ながら応えた。
「エアコンは嫌いなんだ」
「じゃあなんで持ってるの」
「引っ越してきた時からあった。先住民ってやつだ。だから追い出すわけにいかない」
「あ、そ」
 彼女は汗をかいたビール缶を持ち上げ、流し込んだ。そして、俺が作ったチューリップハムとレタスのサンドイッチにかぶりついた。
「なにか違うお酒ない」
「冷たいビールがあるからいいだろ」
「私は白ワインの方が好きなの」
「あるよ」
「出してよ」
 ため息と一緒に立ち上がる。まるでエンジンを一噴かししたみたいに。
 キッチンまで行き、冷蔵庫の中から新聞紙にくるまれたボトルを取り出して、グラスと一緒に彼女へ差し出した。
「あなたは?」
「ワインはよほど気が向かないと飲まない」
「なんであるわけ?」
「いつ気が向くかわからないからね。そうなれば、なにをしても飲みたくなる」
「ふーん。まあ、たまにあるけどね。対して好きじゃなくても、鼻の奥でふわっと香りがして、たまらなく欲しくなる」
「多分、それと同じ」
 ワインが並々と注がれたグラスを傾け、唇を濡らす。
「おいしい。高いの?」
「安物。値段の話はやめよう。その話は嫌いだ」
「お金ないから?」
「ないものねだりが嫌いなんだ」
「そうなの」
「ただ金が嫌いっていうわけじゃないんだ」
「そういうことにしといてあげる」
 彼女はもう一口ワインを口に含む。舌全体にまんべんなく広げ、空気を含ませて味わっている。それが無性に美味しそうに見えて、俺は彼女が置いたグラスを取り、白ワインを飲む。ほのかな酸味が心地良い。
「ちょ、全部飲まないで」
「わかってるってば」
 言いつつ、並々と注がれていたワインを半分以上飲み干した。
「あー、ふわふわしてきた。もう酔ったかな」
「もう? いま、キミはもうって言ったか?」
 机の上に積まれた空き缶を横目に、責めるように言う。
 彼女はすでに半ダースほどビールをその胃袋に流し込んでいる。少量のつまみで最大の酒量だ。僕はその半分の半分程度。そろそろいい加減にしたほうがいいんじゃないか。提案してみても、彼女は聞く耳持たず。グラスを空けて、また白ワインを同じ量注いだ。
「今は昼だ」
「知ってる。太陽が鬱陶しいから」
「昼間からそんなに酒を飲むのはどうかしてる」
「どうして?」
「今日は平日だ。しかも昼間だ。俺達には行くべき場所で、やるべきことがある」
「大学なんて行かなくても世界は回ってるでしょ。私達もみんなが勉強してる間に、美味しいお酒が飲める。幸せってこういうことだわ」
 これは確かに幸せだけど、そんなに憚らずに言ってもいいのか。答えかねていたら、彼女はすでにグラスを空けて、新たにワインを注いでいた。
 俺はもう忠告をやめることにした。受け入れられない忠告なんて意味がない。意味がないとは存在しないということだ。
「顔が赤い」
「いけない? あなたも赤いけれど」
「キミほどじゃないと思う」
「そうかしら。これでもお酒には強いのだけれど」
「知ってる。目の前に証拠が転がってるから」
 適当な空き缶を手に取り、軽く振って中身がないことを確認する。彼女にも中身がないことは伝わったらしく、にこりと笑ってワインを喉に流し込んだ。
「お酒に強いかどうかは遺伝が八割らしいね」
「そうなの?」
「らしい。人の体にあるアルコールを分解する酵素の量は遺伝によって違っているんだって」
「だって、って?」
「テレビで言ってたんだ」
「ふーん。テレビね。どうもテレビの言うことは」
「信用できない?」
「いいえ。――テレビって、それなりの人間が見ているじゃない」
「そうなるね。今やテレビは、テレビ以外でも見れるから」
「知識って、知られたら知られるほど質が落ちると思わない? 酒は飲んだら酔うなんて、一応立派な知識なのに、みんな知ってるから知識として自覚されないのよ。……あるいは、一足す一が小一からもバカにされるみたいにね」
 彼女の言うことは、筋さえ通ってはいたがどこに向かっているかさっぱりわからなかった。だだっ広いアメリカの道路みたいに。まっすぐ、ずっと先へ続いているのに、どこへ向かう道なのか。
「……酔ってる?」
「さっき言ったでしょ。お酒は飲んだら酔うって。私が飲んでいた物がコーラだったんなら、話は違ってくるけど」
「しっかりビールだった。ついでにワインも」
「なら酔ってるわ。わかりきったこと訊かないで」
「もう飲むのはやめた方がいい。飲みたいなら、一度酔いを覚ましてからにしよう」
「それもいいかもしれないわね。酔うためのお酒なのに、酔いを覚ましてからまた酔うなんて」
「小休止だよ。運動だって疲れたら休憩して、せっかく体力が回復してもまた動くんだ」
「無駄なことね」
「そうでもない。楽しみが長くなる」
 彼女は上機嫌に笑って、覚束ない足取りでベッドへ倒れ込んだ。俺はどうしようか。もう少し飲んでいるべきか迷っていたら、彼女は俺を見ながら、手を広げていた。
 来いという合図だろうか。ベッドの傍らに立つと、彼女は俺の手を引き、ベッドへ無理やり倒す。彼女の上にのしかかるような体勢になり、彼女から香るアルコールと汗の飾らない匂いに興奮を感じる。
「窓を開けなくて良かった」
 開けていたら、きっと今ほど汗はかいていなかった。
「……どういうこと?」
「閉める手間が省けたから」
 そう言って、俺は彼女の服の中に手を入れ、ブラジャーをずらし、その豊かな膨らみの輪郭を丁寧になぞる。彼女の唇から漏れてきたほのかな吐息。それが欲しくて、俺は彼女の唇に唇を重ねた。
 むせかえるアルコールの匂い。
 しかしそれが逆に愛しく感じて、舌が勝手に動くのを止められない。触れていない場所なんてないように、丁寧に彼女の口内を舌で撫でる。
 されるがままの彼女は、普段と違っていて、俺は唇を離し、彼女の顔をじっと見る。
 服の中から手を出すと、今度は彼女が着ていた桜色のキャミソールを脱がせる。ライトグリーンのブラジャーは先ほどずらした為、すでに乳房は露出していた。白くて吸い込まれそうなそれに釘付けになる前に、今度はジーパンも脱がせ、彼女は裸になった。
 俺も急ぎすぎないように服を脱いで、もう一度彼女とキス。軽く触れて、唇の柔らかさを確かめるみたいにし、今度は無理やり舌で口をこじ開ける。わざと音を立てるようにして。
 そうしたら、首筋、胸、腹と段々下へ位置をズラしていく。
 指先を使い、彼女が開いたかどうかを確認して、準備ができたのを確かめ、挿入した。
「あ――」
 小さな声を漏らした彼女に、俺はえぐるような感覚で腰を振る。上に、深く、突き上げるみたいに。
 彼女は声をあまり出さない。しかし、彼女はその代わり吐息で応えてくれる。だから俺は彼女の唇に耳を寄せて、それを逃さないようにする。
 彼女の吐息に耳を澄ませていたら、頭が真っ白になり、どこかに意識が飛んでいくような感覚に陥る。かと思えば、下腹部に熱く込み上げてくる物を感じ、俺は彼女の中へそれを解き放った。

 爆発のような勢いだった。高まった熱は行き場をなくし、蓄積された興奮と共に弾けてしまったのだ。

 多大なるエネルギーを使って引き起こしたそれに満足し、冷めた興奮を胸に、俺は彼女と繋がったままで、呆然と彼女を見ていた。
 彼女も虚ろな瞳で俺を見つめ返してくる。
 汗ばんだ額に張り付く髪を指で拭ってやると、俺の顎から彼女の腹へ汗が落ちる。
「暑い……」
 彼女の呟きで、俺の体にも熱が戻ってきた。興奮の熱ではなく、気温を自覚した。二人とも汗で体が濡れている。ベッドも湿っているように感じる。さすがに気持ちのいい物ではない。
「少し休んだら、もう一度しましょう」
「……まだするのか?」
 彼女からの提案に、さすがの俺も素直に乗ることができなかった。
「私とするのが楽しくないなら、もうしないけど」
 ため息を吐いて、俺は彼女に体を預ける。ゼロの距離で、小さな声で、二人だけの話をした。


  ■


 何度目かの行為を終え、体の水分がすべて汗になって出て行ってしまったような渇きを感じながら、しばらく二人で裸のままベッドで他愛のない話をし、シャワーで汗を流した。
 同時に、部屋の換気と消臭も。部屋中が二人の匂いで充満してしまって、このままだと彼女以外の人間を呼べない。
 それらすべてが終わると、すでに外は暗くなっていた。
「――それじゃ、私は帰るわね」
 身嗜みを整え、玄関に立った彼女はそう微笑んだ。
「泊まっていかないのか?」
「今日は帰る。このままいても、自堕落じゃない」
「キミがそれを言うのか?」
「そう思われてるから言うのよ」

 苦笑しながら、「じゃあね」と背を向け、彼女は扉を開けた。しかしなぜかピタリと止まって、振り返る。

「雨降ってるんだけど、傘貸して?」
「なくした」
「なくした、って。一つもないの?」
「ない。元々一つしかなかったんだ」
「……じゃ、泊まっていく」
「そうしなよ。今は休憩中だっただろ」
「そうね。また酔うことにする。たまにはそういう贅沢もいいかな」
 靴を脱いで、彼女は再びリビングに腰を降ろすことになった。

 またビールと、ほんの少しの肴を用意しなくては。どうせ雨が上がるまで、外には出ないんだ。
 なら、それまでは自堕落でいてもいいだろう。

       

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Neetsha