Neetel Inside ニートノベル
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「はいー、いらっしゃいませー...平野君?」
「あー、どうも。お久しぶりです」

ライブの打ち上げ。ボク達は以前お世話になった一之瀬親子が経営するらーめん屋ひいらぎに訪れた。

食券を買ったマッスが一足先にテーブル席に座って注文を取りに来た司くんに食券を突き出した。

「とんこつらーめん、全部のせ!!ティラノのおごりで!!」
「おい、また何かやらかしたのか?平野洋一?」

食券を買うとボクは照れ笑いで席についた。あつし君が今日のライブを統括するように言う。

「いやー、本番前にロックスで演っといて本当に良かったよ」
「ホントだよな。本番で『少年ジャンク』スベってたら大変なことになってたからな」
「おいおい~でもあの曲、結構苦労して書いたんだぜ~?」

ボクはギターケースから愛用のストラトキャスターを取り出した。ラーメンが出来上がるまでに次の曲のアイデアを膨らませようと思ったからだ。

しばらく指で弦を弾いていると頭にメロディが浮かんだのでボクはそれを言葉にしてテーブル席のメンバーに向けて歌った。どっかで聞いたようなこんなメロディーだ。

「ら~くな道に誘われて~ 受給するよあぶく銭
河本の影にヤラれた ナマポファイター、ナマポファイター、遊ぼうYO☆」

「それDOESのバクチダンサーだろ」
「はい、とんこつらーめん3丁お待ち~」

マッスがすぐに曲の元ネタを当てると司くんがラーメンを運んできた。「おい、お前。全部食べられるのか、それ?」

意地の悪い司くんの問いかけに耳を貸さずにマッスは箸を割り、もやしが器の上10cm以上積まれたドカ盛ラーメンに勝負を挑み始めた。

ボクがテレビに目を向けると地元のキー局で町長選挙のニュースがやっていた。再選確実、と紹介されたかっぷくの良い偉そうなおっさんがアナウンサーのインタビューに答えていた。

「毎年経営難と言われている光陽ライオット、サンライトライオットですが今年で最後の大会になるのでは?と音楽ファンの間で噂されています。
実際のところ、どうなんでしょうか?」

「このおっさんだれ?」
「現町長の馳海舟(はせかいしゅう)じゃない?」

あつし君が答えるとマッスが煮玉子をつまんだ箸でテレビを指した。

「向陽町の馳海舟っていったら金に汚いことやってるって有名だぜ?ヤクザや宗教団体からも金をもらってるらしいし、
町おこしのために裏金を撒いたり相当汚いことをやってるって噂だ」

「散々『向陽町は絆の見えるまち』ってキャッチフレーズを吹いて廻ってるけど震災被害者の誘致や瓦礫の受け入れをことごとく断ったりして他の町からの印象も悪い」

「光陽ライオットは向陽町が全国に誇る一大イベントだからな。ライオットの知名度を利用して物販の売上やスポンサー資金を自分の懐に入れようって魂胆なんだろ。本当腹立つよ」

テーブルの周りで罵詈雑言がとぶ。しかしマイクを向けられた町長はそれらの言葉を吹き飛ばすように豪快な態度でアナウンサーの質問に答えた。

「いやいや!キミは何を言っとるのかね?光陽ライオットは今年で10年を迎える向陽町を代表する大イベント!この町の町長として
若者達の希望の火を絶やすことはできまい。選挙期間中は町民のいかなる要望でも答えよう。キミ達の一票に期待している」

「へっ、若者に媚を売りやがって」

カウンターに手をついていた司くんが悪態をつく。「これ、司。客の前だぞ」キッチンの奥から鏡店長が出てきてボクに頭を下げた。

ボクが頭を下げ返すと店長はテーブルの前まで来てボクに話を聞いた。

「平野くん、どうだい?怪我の調子は?」
「ええ、時たま痛みますけど、これはしょうがない、って医者に言われてますんで。しょうがないっすよ。はは」
「あん時は本当にビックリしたよー。ヤクザの息子相手にいきなりチキンレース挑むんだからなー。他になかったのかよ?話し合って和解するとかさ?」
「そんなこと出来る訳ないだろ。ティラノか青木田。どっちかが退学しなきゃいけないような状況だったんだぞ?そんな甘い話で済むなら最初っから喧嘩なんかしてねぇよ」
「お前に聞いてんじゃねーよ。平野に聞いてんだよ」「あんだと、コラ!」

思い出話で小競り合いするマッスと司くんを横目にあつし君が小声でボクに言った。

「ティラノ、正直言って学祭のライブでメチャクチャされた時は腹がたったけどさ。
でもあの時からお前、変わったよ。学祭のライブではみんなに認めてもらえなかったけど今度は大丈夫だよ。優勝出来るようにがんばろうな」
「へへ、ありがと...」

「なんだ、お前らも出るのか。光陽ライオット。俺たちも出場するから決勝戦で会おうぜ!」
「フィッシュマンズのコピーバンドが決勝までいけるほど甘い大会じゃねぇよ。光陽ライオットは」「んだと、てめぇ」
「はは、なんだか楽しくなってきた。店長!ビールひとつ!」
「キミ達は高校生だろ。まぁいい。今日だけ特別だ」

ボクがふざけて店長に酒を頼むとビール瓶を取りに店長はキッチンの奥に戻っていった。ボクは椅子の背で大きく仰け反った。本番が近づいてきてる。あ~。でも全然、良い曲が浮かばねぇ。どうすればいいんだろ。

ボクは人知れず抱えた苦悩を発泡酒の高揚感に預けて、懲りずに口喧嘩を続けているマッスと司くんの二人を眺めていた。

       

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