Neetel Inside 文芸新都
表紙

東京スケッチ
潔癖症の街(前編)

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(めっきり寒くなってきたなぁ‥‥)
 駅の階段を下り、昼の三時の閑散としたロータリーを見渡しながらMは思う。少し目線を上に移すと、低く垂れ込めた薄暗い雲がMの視界を圧迫し、東京に来てから二度目となる冬の到来を告げていた。Mの足元は、ロングブーツにミニスカートという組み合わせ。風が吹くたびに襲う身震いするほどの寒気に、Mはコートの襟を立て、首を縮こまらせて歩いていた。
 彼女も本当はこんな寒い時期にわざわざミニスカートなど履きたいとは思っていない。それでもMは、大学にいる友達の服装の派手さを考えると、自分もこれぐらいしなければ「地味で目立たないつまらない女」だと思われるような気がして、今日も寒さを堪えてとびきり短いスカートを履いているのだった。
 Mは自分の数メートル先の地面だけを見つめながら家路を急ぐ。その間中、ブーツがアスファルトに立てる硬く乾いた足音が、規則正しいリズムで刻まれていく。
こつ、こつ、こつ、こつ。
途中、Mが視界の端に他人の影を捉え、一瞬、足音は変則のリズムを刻む。
かつっ、かっ、かつ、かつ。
そして再び一定のリズムで足音は孤独に繰り返されていく。
こつ、こつ、こつ、こつ。
駅前から商店街を抜け、ひっそりと静まり返った住宅街に至るまで、Mはずっと数メートル先のアスファルトだけを見つめて歩き続けた。
 20分弱の道のりを経てようやく家に辿り着き、Mはすぐに暖房のスイッチを入れた。とたんに室外機の排気音がくぐもった音響となって室内に響き渡る。Mはハンドバックを仕舞い、ベットに腰掛けた。
 Mの家のインテリアは、机もベットもクローゼットも全て白色に統一されている。部屋の大部分を占めるその白色は、美しいけれども冷たくて、澄んだ静かな水面を連想させるような色だった。そんな色のせいなのか、Mは自分の部屋にいても、いつもなんだか落ち着かないような気がするのだった。
 また、Mの部屋の中は常に完全に整理整頓され、塵一つないほど清潔に保たれていた。この部屋には余計な物は何一つ無い。それは、一人暮らしを始めて半年ほどたった頃から、Mが極端に物を買わなくなったのが原因であり、雑誌もぬいぐるみも、生活に必要ないものはその頃に全て捨ててしまったのだった。そうしてMの部屋からは次第に無駄な物が無くなっていき、いつしかこの部屋を支配するものは、統一された家具たちの白色なっていた。
 室外機は相変わらずぼんやりとした連続音で部屋を満たしていた。いつの間にか部屋はだいぶ温まり、空気に触れるMの肌の緊張も大分緩んできたようだった。Mはコートをクローゼットにしまい、ベットに横たわる。
 Mが目を閉じてぼんやりしていると、単調な音の連続がMの顕在意識にヤスリをかけ、その削りカスを頭の中にゆっくりと降り積もらせていった。窓の外の遠くから聞こえてくるサイレンの音が曖昧に消えていき、Mの脳は顕在意識の削りカスに埋もれて窒息していく。そうしてMは、深い深い眠りの底に落ちていった。

 Mは机の上の携帯電話から聞こえる、間の抜けたバイブ音で目を覚ました。壁の時計に目を向けると、今は午後六時。窓の外はもう暗くなっていた。机の上から携帯を取り、メールの内容を確認する。送信者は今は地元で働いているはずの姉だった。

 「新宿で一緒にご飯食べない?七時半に東口改札に集合で。」

       

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