Neetel Inside ニートノベル
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X   救世主の塔                              X
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X     大賢者“ナツメ”と使い魔“アカネ”                X
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 ホッシーナがゴブリンに強姦、撲殺されていたころ――

 大賢者“ナツメ”は使い魔“アカネ”に押し倒されていた。



 順を追って説明すると、ナツメとアカネの2人はホッシーナよりも早く塔に招かれていた。
 ナツメはすぐに、この塔の主が救世主ということに気づいた。自分が呼び出した救世主とはまた別の存在だったが、こうして巻き込まれている以上文句の一つでも言ってやらないと気が済まなかった。なので救世主に小言を言うためだけ2人は探索(アカネはずっと嫌がっていたが、ナツメは無理やり引っ張って)を始めた。

 大賢者“ナツメ”。
 彼女を一言で表すとしたら『全知全能』、これに尽きる。別の世界軸から同一人物を召喚することができるほど知と才を兼ね備えた稀代の賢者なのだ。
 ただ典型的な魔法使いのステータスゆえ肉弾戦は苦手としていたが、そもそも近づく間もなく魔法で殲滅させることができるため、実質弱点は存在しない。
 ただ1つ、ボーイッシュな外見(胸とか腰とかが少々残念)だけが彼女の不満な点であったが、塔の探索にはまったく影響はない(それにそういった需要も確実に存在する。別に気にすることではない)。

 使い魔“アカネ”。
 彼女は無能なサキュバスである。ただ名誉のために言っておくと、サキュバスとしての能力が無能(女性なら誰もが羨むだろうスタイルなのだが、処女。なぜなら異性に興味がないからだ。同性はもっと興味がない。興味があるのは男性同士の耽美な官能シーンだけ)であり、それ以外(家事手伝いや戦闘面)は極めて優秀なのだ。
 何か特技があるわけでもなく、素手ゴロのパワーファイターとしてナツメを護衛するのが今の役目であった。

 能力、スタイルがまったく逆の2人は相性が良く、何ら苦労することなく塔を降りて行った。
 階段を降りるにつれ、ひしひしと感じられる救世主の気配。だが、ナツメはこの塔の救世主がその昔自分が呼び出した救世主と比べ、遥かに格下だということを感じ取っていた。
 そもそも塔の探索も、2人にしてみれば子供向けのアトラクションの延長程度。注意力は散漫し、慢心が生まれ始めていた。

「アカネ、この塔出たら何かおいしいもの食べよう」
「いいですね、カレーとか食べたいです」

 こんな散歩気分なまま探索が続いていたとき、2人は、本来存在してはいけない“彼”から、あってはならない介入を受けた。


『使い魔“アカネ”、サキュバスとして覚醒しろ』


 ナツメは、はっきりとその声を聞いた。あまりに鮮明な声だったので背後に誰かがいる、そう錯覚さえしてしまった。
 ナツメは魔力を撒き散らし、ソナーの要領で周囲を警戒した。だが、人どころか鼠一匹、それに引っかかることはなかった。
「もしかしたら聞き間違いか?」ともナツメは考えたが、それにしては妙に存在感のある声だった。まるで“神様に命令する”かのような、不思議な力が感じられた。

「アカネ、変わりはない?」
「はい、特に何も」
「本当に?」
「ほ、本当ですよ~」

 念のため注意深く反応をうかがってみたが、本人が言っているように何も問題なさそうに見えた。
 そんなとき、ふと、アカネに目が止まった。

 アカネは自身の希望でやや大きめのローブを着込んでいた。自分の体型、特に胸が目立たないようにするためと聞いていたが、アカネのずぼらな性格もあり、すっかり着崩れてインナーが丸見え。その結果、胸がこぼれてしまっていた。

(……なぜ凝視しているんだ、私は)

 普段なら気にも留めない、もはや見慣れてしまっているアカネの身体(そういう意味ではなくて。日常の風景的な意味で)。今さらまじまじと見てしまったことに違和感を覚えた。

「(まあいいか。そんなときもあるのかな)なら行こう。飽きてきたから、ちょっと急ぐよ」
「は、はいっ」

 すたすたと歩き始めるナツメ、それを追うアカネ。これは普段どおりの立ち位置だったが、ここでアカネは思いも寄らない行動に出る。

「……アカネ?」

 先に行くナツメを、アカネは背後から抱き締めた。身長差があるため、ナツメはアカネの腕の中にすっぽりと埋まった。

 こういったスキンシップはめずらしいことではない。ナツメはたびたびアカネに抱き締められていたが、こんな空気を読まないタイミングは初めてだった。

「こらアカネ、今はそんなときじゃないだろう?」

 子供を躾けるように言ってみるものの、変わりはない。

(なぜだろう……変な、気分だ)

 抱きつかれることには慣れている。それなのに、頭に当たる柔らかな感触がいつにも増して気持ちがいい。それにとても良い香りがしていた。甘ったるい、花の蜜ような匂い。

(あ、イケナイ……これ以上は、マズい)

 ナツメはふつふつと興奮し始めていることに気づいた。大賢者とはいえ一人の女、性的に催すことぐらいはある。ただほんのちょっと火がつきやすく、理性が飛びやすい、そんな自分の欠点をナツメはしっかりと知っていた。

「アカネ、早く離すんだ」
「ナツメさん」
「いい加減にしないと怒るよ?」
「ナツメさん」

       

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