Neetel Inside ニートノベル
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X   救世主の塔                              X
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X     1階、待ち続ける彼女                       X
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“救世主”はずっと、あの忌々しい超能力者――伊藤月子を待ち続けていた。
 裏切られて塔の主に仕立て上げられてから、どれぐらい経ったことだろう。何秒、何分、何時間、何日、何年……途中から数えることをやめてしまったが、“救世主”は一瞬足りとも伊藤月子への恨みを忘れたことはなかった。

 あるときから、塔の屋上に人(以降は侵入者と呼ぶことにする)の気配が感じるようになった。
“救世主”の胸は踊った。
 姿まではわからなかったが、その中の誰かが伊藤月子かもしれない、そう思うだけで居ても立ってもいられなくなった。
 しかし塔の主の制約なのか、1階より上のフロアに行くことができなかった。なので待つことしかできなかった。
“救世主”は何とも歯がゆい思いをしたが、じっと我慢した。
 まるで遠距離恋愛中の恋人と久しく会う日のような心地。“救世主”にとってそれは『恋愛感情』ではなく『殺意』ではあったが。

 結論から言えば、“救世主”の我慢が報われることはなかった。侵入者が伊藤月子ではなかったからだ。
“救世主”は落胆したまま侵入者を殺し、待ち、殺しては、待ち、殺しては――ずっとこのサイクル繰り返した。


 そして、今回も――


“救世主”は2階に通じる階段の前で新たな侵入者を待っていた。
 もう何人目かわからない。「どうせ今回も違うに決まっている」と思いながらも、「今回こそは――」とすがるように願っていた。

「よう“救世主”殿。ひさしぶりだなぁ」


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◆  “戦士(レベル99)”の立川はるかが現れました             ◆
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“救世主”の願いはあっさりと砕かれた。そこにいたのは、やけに露出度の高い鎧(ビキニアーマー)を着て、刀身がぬらりと輝く剣を持った“戦士”だった。
 その“戦士”は、まるで鏡を見ているように“救世主”と瓜二つだった。その素性が少し気にはなったが、結局は伊藤月子ではない。“救世主”は「またハズレか」とため息をついた。

「ん、今ハズレって言った? おいおい、つれないなぁ。
 こっちはあのとき――ゴブリンに……されたときの恨み、溜まってるんだからなぁ!」

 剣を片手で振り回し“救世主”を挑発する“戦士”。それとは対照的に“救世主”の気分はどんどんと盛り下がっていく。なにせ、『まったく記憶にない』からだ。
 ハズレ相手に余計な労力を割きたくない、これがいつもの本音。けれど今回はちょっと違った。目の前の“戦士”は、剣技だけなら自分より上だったのだ。
 魔法などを駆使すれば何ら問題のない相手だが、近距離戦ならこちらが不利……という判断だった。

「……面倒だから、魔法で終わらせることにするわ」
「ははは、いいねぇ。前と同じ戦略ってわけか。悪くないと思うんだけどさぁ……
 私が、何の対策をしていないとでも?」


 ボンッ!


“戦士”の背後から飛来した火の玉が、魔力を溜めていた“救世主”の右手を焼き焦がした。
 炭となった右手はボロボロと、粉末となって床に落ちていく。それは“救世主”にとって、さしたるダメージではない。けれど、この魔法の使用者だけが気がかりだった。
 間違いなく、自分より格上の魔力が感じられたのだ。

「あらら、ウェルダンを通り過ぎて焦がしちゃった……ミディアムレアが好みなんだけどなぁ」


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◆  “魔法使い(レベル99)”の立川はるかが現れました           ◆
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 真っ赤なローブ、三角帽子の、こちらも“救世主”とよく似た“魔法使い”が“戦士”の後ろから顔を出した。

「遊んでいる余裕はない、そう言っただろう?」
「そうだけどさー……せめて腕の一本ぐらいは、ね?」

(2人もいたなんて……)

“戦士”に続いて“魔法使い”。しかもこの“魔法使い”も自分のそれより強力。考えるまでもなく分が悪い。

 油断している隙に――と、“救世主”は左手を握って『生成』し始める。
 あの2人を確実に仕留めるためのフラグ(破片手榴弾)。知識を総動員してその構造などを思い出していたが――ふと、『嫌な予感』がして、身体を右にずらした。

 激しい銃撃音を同時に、“救世主”の左肩から先が吹き飛んだ。

「うー、耳が痛い……なんて騒々しいモノでしょう……」
「ほほー、なかなかの威力だなぁ」
「これはアンチマテリアルライフル。武器というよりは兵器。剣や魔法の一歩、いえ数万歩も先を行く戦力ですよ。
 ……にしても、この至近距離で避けるなんて」


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◆  “学者(レベル99)”の立川はるかが現れました             ◆
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 セーラー服に白衣を羽織り、眼鏡をかけた“学者”は“戦士”と“魔法使い”の足元で寝転がり、アンチマテリアルライフルのトリガーを引いていた。

「くっ……これは……」

 目の前の、自分によく似た得体の知れない3人。今のままではあまりに不利、“救世主”は一旦退却することを考えた。

 1人1人ならまだ相手にすることができる。まずは傷を癒すことが先決――という考えも、とっくに対策が練られていた。


「魅了(チャーム)」


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◆  “バニー(レベル99)”の立川はるかが現れました            ◆
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「うふふ、逃・が・さ・な・い」

 3人の後ろから現れた“バニー”は、“救世主”に向けてウィンク、そしてペロリと舌を出した。

(ん、あれ……? 身体、が熱っ……動け、ない)

 それは甘く、危険な罠だった。“救世主”の身体は痺れ、動くことができなくなった。
 そしてトドメと言わんばかりに、“救世主”の両目にナイフが突き刺さる。


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◆  “盗賊(レベル99)”の立川はるかが現れました             ◆
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「……“バニー”のこと、あんまり見ないで」
「あらー、“盗賊”ったら嫉妬? かーわいー」
「あいつ嫌い。だってあいつは、バニーの前で、私を……!」
「怒っちゃダメ。あの子、あのときの“救世主”とは違うみたいよ?」
「おい、乳繰り合うのは後にしておけ……よっと!」

 視覚が失われ、棒立ちになっていた“救世主”を、戦士”は振りかぶった剣の腹で叩き端の壁まで吹き飛ばした。

「お前、残機があるんだってな? だからそれがなくなるまで、私たちが丁寧に殺してやるよ」
「え? 私はこんがり焼いて食べたいんだけど。食欲的な意味で」
「研究したいから、食べちゃダメ。排泄物だと正確なデータが取れない」
「私は性的に食べたいなぁ。女性としても、擬似的な男性としても」
「“バニー”!!!! 許さないからね!!!!!」
「……お前たち」

 苛立った様子の“戦士”に、4人はびくりと震えて口を塞ぐ。
 そんな様子に満足し、“戦士”は“救世主”に向き直る。

「まあ目的はどうあれ、私たちは皆、お前に復讐がしたいってことだ。
 さあお前たち、声高らかにあの言葉を言おうじゃないか。
 ……せーの!」



「「「「「さあ、私たちが相手だ」」」」」

       

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