「なんで、嫌な、嫌なはずなのに……! ふぁぁあ、ダメ、だめっ……!」
快楽の波が押し寄せてきている。
このままではいけない。恋人、神道陽太の顔を思い出し、我慢しようとする。
だが快楽を知っている身体が我慢をするには、あまりに強い刺激だったのだ。
「イく、イっ、アアアあぁぁぁぁっ!」
びくっ
びくんっ
大きく震え、そして小刻みに痙攣する。
人外の、しかも身体半分を呑み込まれている、そんな異常な状態で彼女は絶頂を迎えてしまった。
「あっ、アッ……え、ダメ、そこ違う……」
前を散々楽しんで飽きてしまったのか、舌はぬるりと滑って降下する。
そこは、何も受け入れたことのない、場所。
「だめ、ぜったい……そこは、あ、アッ」
恋人にすら触れられたことのないところを弄ばれている。だが、それとは裏腹に背筋が凍るような快感が襲いかかる。
「やだ、やだよぉ……ダメ、だ、め……! ……!」
達したことによる倦怠感、そして化物に蹂躙されたことによるショック。そんな現実から逃避するように、伊藤月子の意識はブラックアウトした。
完全に抵抗がなくなったことで、巨大カエルは口をもぐもぐと動かし――
ぱくんっ
ばくっ
肩まで呑み込んだ。
じゅるっ
舌が包み込むように伊藤月子の顔に巻き込み――
ごっくん
伊藤月子を丸呑みにした。
・
・
・
・
・
「んっ……んん……」
伊藤月子は寝心地の悪さに目を覚ました。
そこはとにかく狭かった。それに加えて鳥肌が立ってしまいそうなほどに不快な感触の壁。
押した分だけ跳ね返ってくる低反発の壁に囲まれ、少しも動けそうになかった。とにかく壁がぎゅうぎゅうと押しつけてくるのだ。
さらにその壁から湧き出ているのか、鼻を刺す異臭を放つ液体。それはとても熱く、肌が焼けていまいそうだった。
「えっと、私は……うう、暗い……」
そしてあまりに暗かった。目を凝らしても今自分がいる空間がまるでわからなかった。
比較的体力は戻っていたので透視を使用することにした。
「……なにこれ?」
伊藤月子が見た光景は、至って普通の塔の中だった。今まで暗かった周囲に明かりが灯った、その程度の変化だった。
だが、少しずつ記憶が戻り始めていた。
この空間に閉じ込められる直前の、あの悲劇のことを。
「……、…………!」
透視の精度を落とす。すると、見てしまった。
カエルの体内。筋肉や血管、臓器など、グロテスクな部位をしっかりと見てしまった。
「ウッ……お、ェ……!」
激しい嘔吐感が伊藤月子を襲う。喉元まで酸っぱい液体が込み上げたが、かろうじて我慢し飲み込んだ。
そう、そうなのだ。カエルに捕食、丸呑みにされてしまったの。しかも舌で散々弄ばれた上で!
「出ないと、早く、早く出ないと!」
縮こまった両脚をぐいっと伸ばし、同時に両手でカエルの体内を殴った。
しかしぶよぶよとした肉壁が多少形を変えただけで、とてもカエルへの攻撃にはなっていなかった。
ここでテレポートを使えれば簡単ではあるが、それにはまだまだ体力が足りない。念動力で攻撃する、という選択もあったが、その一撃で身体を突き破ることができなければ詰んだも同然。
テレポートが使えるまで待つか、一縷の望みを賭けて念動力にするか。二者択一であったが、実際のところ待てるかどうかも定かではない。
今いるところはおそらく胃。つまり、そこは捕食したものを消化する部位。悠長にはしていられない。
「……? ……わ、うわ、うわっ」
大きな選択に悩んでいたそのとき、体内がぶるぶると脈動し、伊藤月子はひっくり返ってしまう。
「なに、なになになに!?」
尻餅をつくように座り込んでいた体勢から文字通り一転、仰向けになってしまった。
どうやら足元にはぬるぬるの液体が溜まっていたようで、背中からびっしょりと濡れてしまう。
せっかくプレゼントしてもらった服が汚れてしまう。それにいつの間にかボロボロだった。それがとても悲しかった。
だが、ここからが始まりだ。
ぽた、ぽたぽた
べと……べと……
上から雫が落ちてきた。
肌に当たると、それは熱い。いや、痛い。
その液体がなんなのか。考えるまでもなかった。
「うそっ、溶か、溶かされ――!」
液体――消化液に触れた皮膚は引っ掻いたような痛みが走った。
服は染み込んだ瞬間にずくずくと溶ける。
「いたっ、痛い、痛いっ……ヒィィィィッ!」
もはや服は無残なもので、あれほど丁寧に作られていたワンピースはボロ布のようになっていた。しかし伊藤月子はそれを気にする余裕はない、ブンブンと手を振って消化液から身を守ろうとする。
「う、グッ……ああ、アアアアッ!」
降りかかる悲劇は消化液だけではない。壁や床――胃がぐねぐねと動き出し、伊藤月子と溜まった消化液を混ぜ始める
顔や身体が肉壁にぶつかる。大した衝撃はないがどんどんと体力が削られていく。
ろくに抵抗もできないまま、消化液は身体半分が浸るほどに溜まっていた。
「アハ、はぁ。脚、あし、がぁ……」
完全に溶解したわけではない、皮膚が灼けたことで感覚がなくなっているだけなのだが、伊藤月子の中では脚はとっくに溶解し、精神が崩壊してしまった。
「ごめんね、陽くん……もう、いっしょに歩けないや……」
その言葉を最後に、伊藤月子の身体から力が抜けた。最後まで踏ん張っていた手脚が緩んだことで、頭の先まで消化液に沈んだ。
全身が溶かされるよりも早く、伊藤月子は溺れ死んだ。
【ゲームオーバー】