Neetel Inside 文芸新都
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手だけでは足りず、腕にも料理を置いているが、先程呼んだ時と大差ない速さで歩いている。
それを見て正直は感嘆する。
「お待たせしました。クリームグラタンに自家製パンの方。」
「はい。」
磨理が手を上げた。料理が置かれていく。グラタンがくつくつと鳴るのを聞いて、唾液が増えるのが分かった。
「ハンバーグと海老フライのセット、それとライスです。」
「はーい。」
さっきまでの怒りはどこへいったのか、のんきに返事をする正直。既に頭は感心と食欲で支配されていた。
「鉄板は熱くなっておりますのでお気を付け下さい。ではごゆっくりどうぞ。」
ウェイトレスは頭を下げ、別の客の方へ行く。
目の前の料理を見て、意味もなく二人は沈黙する。
正直がナイフとフォークを取り出した。
「どーれ、いっただっきまーす。」
磨理もスプーンを取り、手を合わせる。
「いただきますっと。」
二人は黙々と食べる。美味しいだの熱いといった感想も何もなく、ただただ自分の腹を満たすことだけに集中している。二人は食事は静かに食べたいだけなのだが、若い男女が同じテーブルで黙々と食事をすることは、傍から見たら少々滑稽に思えた。
二人を知っている人は食事中に会話をさせようと試みているのだが、全て失敗に終わる。そして口を揃えてこう言うだろう。言うだけ無駄だ、と。
先に食べ終わり、コップに手を掛けたのは正直だ。水を一気に飲み干すと、立ち上がり、お代わりをしに行った。
戻ってくる頃には磨理も食べ終わり、背もたれに全体重を乗せ、溜め息をついていた。
「まあまあだね。」
「嘘こけ。グラタン来た時今にも喰いかかるような眼してたぞ。」
「空腹は最高の調味料ってやつだよ。」
「言ってろ。」
正直は席につき、コップ片手に磨理を見る。
視線に気づいて磨理も正直を見た。
「なーに。あんた私もじゃないかとか疑ってんの?」
ふん、と鼻息を鳴らし口を拭いた。
「そうだな。別にさっきあんな話したんだから気を使えとは言わねえよ。他人の愚痴をテキトーに相手してくれたしな。感謝したいくらいだ。」
「良いよ別に、お互い様だし。」
微笑む。つられる様に正直も笑う。
「美味かったな。」
「そうだね。」
「また来るか。」
「暇だったらね。」
 正直は水を飲み、立ち上がる。
「帰るか。」
「帰ろう。」
レシートを持って勘定に済ませようと向かおうとした時、後ろから肩をたたかれた。振り向くと、千円札と少量の小銭を渡された。
レシートの合計金額のちょうど半分であった。


                                 完

       

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