目を覚ますと、ひしゃげた鉄パイプが目の前にあった。
燦然と赤い何かが輝いている。
なぜ――こうなってしまったのだろうか。
なぜ――今僕はここにいるのだろうか。
立ち上がり、まず自分の身体を確認する。怪我もないようなので、まあいいだろう。
そしてすぐ鼻につく鉄の臭い。誰にだってわかる。この臭いは――
血。
誰が、もしかしたら小さな子供でさえ、解るであろうこの臭い。その臭いが今、空間に充満していた。
この空間に、自分がなぜ来れたかも解らないのに、本能が逃げろと言っている。しかし、退路はない。進むしかない。
進む。進む。そしてそれと比例するかのように血の臭いは重なり、増していく。込み上げてくる吐き気を抑え、道を進む。
ちなみに、倒れていた空間は白い壁(しかしそのときその壁の大半は赤い血で塗り替えられていたが)で囲まれた小さな部屋だった。なんの変哲もない、普遍的な部屋。赤い血で輝く鉄パイプさえなければ、そこまで驚くこともなかった。
だが、そこには赤い血――おそらく、自分以外の――があるから、事態は変わる。
「……いったい、何でここにいるんだ?」
思わず呟く。だが、返答はない。一人しかいないのだから、当たり前ではあるのだが、それでも尋ねてみたくなる。不安を消し去りたくなる。
でも、返ってこない。虚空に言葉は消える。苦痛でもあり、普通にも思えた。
血の臭いはまだ、続く。一体、どこまで続くのか。
そう思ったとき、道が開けた。
そこにいたのは――見知らぬ女子生徒だった。
「……誰だろう? ……けど、うーん……」
ただ、見知らぬでは片付けられなかった。見覚えがあるからだ。だけど誰かはわからないし、まあきっとそんな深い関係でもなかったのだろう、と思う。
ふと、触ってみる。冷たい。生きている人間が出す温度ではない。
つまり、死んでいる。
そして。
目の前には、気付くと影があった。
僕のでも、彼女のでもない。
そして――僕の意識はそこで途絶えた。