Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

 その後の白木先輩からの電話の内容はディアナは家にいるし僕に直接話したいこともあるから白木先輩の家に来てほしいというものだった。
 貞操の危険も考えたが流石にそれはない・・・と思う。
 白木先輩の家には行った事がないけれども先ほど教えてもらった住所を携帯端末に入れてみると会社からかなり近い位置にあることがわかった。
 そういえば白木先輩の生態は謎に包まれている。異性の噂も何も聞かない。
 僕の飛び降りのときも僕に抱きついているという形だったし男性が好きだとかいう事も存分にありえる。
 しかしやっぱりディアナを家に保管しているという行為もまたよくわからない。
 とにかく用心しながら行って訊いてみるしかない。

■―●

 携帯端末に導かれて着くとそこには特に面白みのない普通のアパートが建っていた。特徴といえば少し部屋が広そう、なくらいか。
 住所を再確認すると一階の部屋を指し示していた。家の前に立ちチャイムを鳴らす。
「いらっしゃい」
 ドアを開けた白木先輩がむすっとした顔で出てきた。
「な、なにか嫌な事があったんですか?」
「お前・・・飛び降りたのを受け止めて、肩が湿布だらけになった上に勝手に嘘つきの裏切り者にされて、それで機嫌よく迎えられると思うか・・・?」
「す、すみません!すみません!」
 白木先輩は少し苦笑してから
「まぁ、これからその代償を払ってもらうんだけどね」
 と、呟いた。
 怖い。

●―■

 中に案内されるとそこにはセクサロイドのパーツが大量に待ち受けていた。手足胴体頭が棚にぎっしりと詰められある意味猟奇的な光景になっている。
 もしかしてディアナもこのバラバラになっているパーツ群の中に含まれるのか、という考えが浮かぶ。
「安心しなよ。こっちの部屋だ」
 白木先輩はとなりの部屋のふすまを開ける。
 リビングだけでなく寝室にまでセクサロイドのパーツの棚が並んでいた。パーツだけでなくセクサロイドも棚の外に三体ほど並んで立っていた。一番手前に立っている綺麗な黒髪に切れ長の瞳を持っているのは――ディアナだ。
 ボロボロと涙がこぼれ出ているのがわかった。
 白木先輩は呆れた顔で僕を見ているのだろうか。いや、この際どちらでも良い。
 呆れられようが涙を止める気はなかった。僕の打ったプログラム、僕が制御させた動き、僕のための全て、それが彼女につまっているのだ。
 ひとしきり泣き終えると、僕の中には白木先輩に対しての感謝の気持ちがあふれ出ていた。
 白木先輩のどんな願いでも叶えて恩に報いよう。心からそうしようという覚悟に包まれていた。

■―●

「簡単に言えば、六号機の話だ。僕は紅香って彼女を呼んでいるんだけれども彼女を人間に近づけたい」
 この家にはこんなにもセクサロイドのパーツが集まっているのだ。それはつまりそういう方面の事なのだろうと事前に思っていたためあまり驚きはしなかった。
「本当の意味でセクサロイドにしたい、ということですか?」
「そうだ。僕も我流でプログラミングをしてみようと試みたが全然だめだった」
 便宜上セクサロイドと呼んでいるがうちの会社の商品はセクサドールと呼んだ方が正しい。両者の違いは感情の有無。無感情がドール。あるのがロイド。
 うちの会社のは感情があるように表面上見せかけているだけだ。彼女達には表情の変化があるが感情による行動の変化というものがない。
 怒っていようが泣いていようが言ったとおり、プログラミングしたとおりの動きをなぞるばかりなのだ。
「そういえば六号機・・・紅香さんは何か不思議な感じがあったので何かいじっているのかと前々から思っていました」
「不思議な感じ?」
「何かプログラミングと実際の行動が少しかみ合っていないような気がするんです」
「色々いじったからな、でもプログラミングの方はしてないぞ」
 ちょっと考えた後でまあいいと一言言って
「とりあえずちょっとこの動作見てくれないか?」
 白木先輩のプログラミングお披露目会が始まった。

●―■

 結果的に言うと白木先輩のプログラミングはお世辞にも良い動きという物ではなかった。むしろ悪い。
 なにせ実際に動かしたらセクサロイドたち二体の動きが直線的なものと円弧の軌道ばかりなのだ。
 滑らかな動きを表す関数の組み合わせを避けているのだろう。
 ニヤニヤしてると白木先輩が恥ずかしそうに言う。
「笑うなよー。もうすぐディアナもこうなるところだったんだぞ」
 背筋が凍りつく。僕のつけた動きを上書きとか躊躇なくしそうで本当に勘弁してほしい。
「紅香さんを人に近づけて、それからどうするんですか?」
「会社から買い取り、だな」
 買い取りなんていう行為をしたのは客の中でも一人しかいなかった。買取はそれだけお金がかかる行為なのだ。
「お金、大丈夫なんですか?」
「そうだな、そうなんだよ。だけども一目ぼれした相手だ。なんとしてでも、な」
「・・・」
「先にその栄光を手に入れたお前を祝福するよ」
 白木先輩がディアナを指差してからフフと笑う。どうやら僕にディアナを譲る気らしい。
「いいんですか?」
「良いよ、そうしたらプログラミング手伝ってくれるだろう?」
 僕は大きくうなずいた。
 ふと社内で同じ性癖の仲間を見つけたら一度訊いてみたかった事を思い出した。訊いてみることにした。
「つらくありませんか?人に抱かれ続けるセクサロイドを愛してしまうなんて」
 白木先輩は少し上を向いて何か考えてからこう言い放った。
「つらい。つらいよ。でも諦めた方がよっぽどつらい」

 この人は、僕と同じ結論を持っていた。なおさらこの人の手伝いがしたくなった。

       

表紙
Tweet

Neetsha