Neetel Inside ニートノベル
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あぁ自分疲れてると思った瞬間アンソロジー
VRMMORPG

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 VRMMORPGなどやったことはなかったが、まさかいきなりデスゲームに巻き込まれることになってしまうとは。
 まあでも悩んでいたって仕方ないので俺はもう三年もこのゲームをやっている。
 剣と魔法を駆使してモンスターを倒す。パーティを組んでダンジョンに挑む。
 うーん、いい響きだ。
 ばしゅっ、ばしゅっ。俺はモンスターを切り捨てる。レアドロップものの片手剣を振り回してもロックオン搭載なので勝手に当たってくれる。
 デスゲーム?
 これのどこがだと思う。封印早々スーパーハカーの吉谷くんが解析してくれたおかげで俺たちのステータスはカンストしていてポケモンでいうとバグったエビワラーみたいになっている。裏ボスだって俺たちのHPを削りきることはできない。つまりデスゲームではあれど死なないのだ、俺たちは。



 製作者は外で発狂しているんだろうなって思う。
 こんなものはいわばひとつの人体実験で、人間を異世界に放り込んだらどうなるのかという観察対象に過ぎないのに未帰還になってからわずか18分で吉谷くんは天性の才能を発揮してこのゲームを根底から書き換えてしまった。なんであんなことしたのって聞いたら「すげーむかついたから」……こいつはやっぱり天才だなって3年前の俺は思った。
 むかついたからってデスゲームをシステム面から攻略してしまうなんて、凡人の俺には真似できないしよくわからない。
 とはいえその吉谷くんもこのゲームからの脱出方法までは分からなかったらしい。製作者は「クリアしたら帰して上げる」とかぬかしていたが吉谷くんによればクリアしてもそんな脱出コマンドは用意されていなかったとか。最近は卑怯者が大手を振って歩いているので製作者も「ちょwwww脱出とかwwwwあるわけないじゃんwwww」がやりたかったのかもしれない。アンフェアなやつにチンコってついてる意味あんの? もげればいいのに。



 なので俺たちは今日も絶対に負けない狩りを続けている。
 まあそれほど悪いものじゃない。負けはしなくてもHPはある程度減るし受けたダメージ回数が画面に残るように吉谷くんがしてくれたし、俺たちはいろいろな俺ルールを作っては遊んでいた。負けないのならより負けそうになったやつの負け。人間はいろいろ考えてみるもん。



 狩りを終えてパーティメンバーと談笑しながらダンジョンから出てくるとからりとした日本晴れ。いい天気だ。俺たちはもうここから出られないのかもしれないが外に戻って何があるというわけでなし、未来? そんなもんは俺以外の誰かの持ち物でしかなかった。
 外に出れないことを嘆くやつもいるけど俺からしたらちゃんちゃらおかしい。外に出て何したい? って聞いても「普通の暮らしに戻りたい」って言うだけ。はっ。普通の暮らし? いかにも中流階級で穏やかにお育てあそばされたガキがいいそうなこと。人に「気持ち悪い」って言われたことある? ないでしょ。そんなだから何者にもなれねえ甘ったれのまま生きてこれたりするんだよ死んじまえ。


 外に出たいなんて言えるのは何かするべきことを見ているやつだけだ。たとえば吉谷くんとか。ああいう「突き抜けた人間」には生きてる価値があるが、そうでない何者にもなれない人の真似事しかできないやつなんていくら生きてても仕方ないんだってどうして気づかないのかな。
 俺は、自分にそんなものがないことをあんたらよりもよくわかってる。だからここでこうして終わらないゲームに文句も言わずに付き合っている。この電子の牢獄が俺にはぴったりの墓場だと思うから。このまま何も出来ず吉谷くんにもなれずにゆっくり死んでいくのが俺には似合いの死に方だってことをあんたらに言われるまでもなくよくよくわかっているから、俺は今日もこうして何もせずにいる。嘆きも悲しみもせず。



 丘を越えて町のそばの平原に出るとチャンバラをやっているやつらがいた。実に楽しそうだ。笑顔を振りまいて汗を流して剣と剣をぶっつけあっている。
 あの攻撃モーション、16通りしかなくて初動を暗記してれば3通りのカウンターで絶対に勝てるって知ってた?

       

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