Neetel Inside ニートノベル
表紙

黄金決闘
第5話 地区予選

見開き   最大化      


 デュエリストには、デュエリストレベルという1~10の10段階で格付けが成される。
 デュエリストレベルは、デュエリストの強さの指標。数字が小さいほど弱く、多き程強い。レベル1が最弱で、レベル10が最強。
 公式から無料配布されるデータカードをデュエルディスクに挿入し、自動でデュエリストたちの各デュエルごとのデータが事細かに記録される(パソコンに挿入すればその情報を得ることも可能)。またそのデータはリアルタイムで「コナミ」本部に送信され、誰がいつどこで誰とデュエルをし、何ターン目にどんなプレイングをして何ターン目で決着が着いたまですべてデータバンクに記録されている。そのデータをもとにデュエリストレベルは1年ごとに更新されていく。
 そんな中で、「最強」と評されるレベル10のデュエリストをも超えるデュエリストがこの世界にごくわずか、いや正確に数字として表すならば12人だけ存在する。
 あるときは『枠外の決闘者(カウンターオーバー)』と呼ばれ、またあるときは『限界突破(レベルイレブン)』とも呼ばれる。そして、数ある俗称の中でももっとも有名なものが――。
「『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』。世界最強を超える、天下無敵の12人だ」
 7月16日。「MAGIC BOX」におけるアンナとの邂逅から1日が経ち、玄はその事実を決闘部全員に告げていた。
「アンナ・ジェシャートニコフ。ロシア人。性別は女。15歳で高校一年生。身長は140㎝にも満たず、頭からは無駄に長い銀髪をぶら下げていて、真っ青の瞳はまるで海のように輝いている。決闘留学生。日本語は超うまい。語尾によく「だよ」とつける。一人称は「アンナ」。両親と兄貴の4人家族で、全員デュエリスト。誰にでもすぐに懐く。そして、『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』だ」
 ゴクリ、とその場の全員が喉を鳴らした。
「『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』……。正直そんなものは迷信だと思っていたよ」
「その……どれくらい強いのかしら? 知り合いの玄くんや、実際にデュエルした璃奈ちゃん的にはどうなの?」
 名を呼ばれた2人。先に反応したのは璃奈だった。
「そうですね……。うーん……? うぅーん? うぅ~ん?」
 じっくりと悩みに悩んで出たのは一言。
「よくわかりません」
「……えっとそれは、強すぎてよくわからないってこと?」
「いえ、そう言うわけではなくてですね。いやとても強かったんですけど。うーんっと、なんて言えばいいんでしょう……」
「アンナは目に見えて異常なデュエリストじゃない」
 そこで口を開いたのが玄だった。アンナについてこの中で一番知っている彼の言葉に全員が耳を向ける。
「あいつはデュエリストの延長線上。運が他人より良いくらいの、それだけのデュエリストだ」
 一同、言葉を失う。
「それ……だけ?」
「それだけじゃないさ。まぁ詳しい話は後にするけど、基本的にプレイングは洗練されてるといっても過言じゃないし、はっきり言ってそこら辺の奴らが束になったところで足元にも及ばない」
「……なんつーか、聞いてたものとは随分違うな。もっと化け物チックって言うか、人外みたいなのを想定してたんだが」
「まぁ、確かにそんなデュエリストもこの世には何人かいるけど、アンナは違う。あいつは非常識に強いんじゃない、常識の範囲で強いんだ。だからって油断も過信も許されるような相手じゃない」
「いまいちすごさが伝わらないわ。もっと具体的に」
 真子からの駄目出し。玄はあー、と天井を見上げながら数秒考えると。
「(璃奈+鷹崎+美里+真子先輩+音無先輩)×3くらい?」
「いや、具体的すぎてよくわかんねーよ」
「って言うかさりげなく自分の名前だけを入れてないのがちょっとむかつくね……」
「まぁ、心配しなさんな皆の衆。あいつは……俺が倒す」
 強く思いのこもった一言で、玄はその言葉を口にする。『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』を、アンナ・ジェシャートニコフを倒すと。
「そうね……。いつまでも項垂れててもしかないし、現状勝てる可能性があるのはあなただけ。そのアンナって子のことは玄くんに任せるわ」
「しかし、どうやってそいつと当たるつもりだ? 一度登録した順序でしか参加できないんだ。その辺うまく当たるとも限らねぇだろ」
 1度先鋒戦に出てしまえば残りの試合もすべて先鋒戦。オーダーの変更は認められない。
「それも心配いらない。あいつは絶対に大将戦に出てくる」
「すごい自信だね。何故そう思うんだい?」
「いや、昨日普通に「アンナは大将で出るからー(」・ω・)」クロも大将で来てねー(/・ω・)/」っていうメールが来たからな」
 メールの画面を全員に見せる。
「まさかのメル友……」
「っていうか盛大に顔文字間違えてますね」
 いつの間にか、場の空気はすっかりといつも通りに戻っていた。
「それじゃあ、大会に向けて作戦を考えようか。まずは……」
 数分前の暗い雰囲気が嘘のように晴れ、調子を取り戻した決闘部。大会までそう日はない。対策を練り、己を鍛え、心を強く持ち、大会に備える。
 この時、璃奈は頭の隅で1つのことを考えていた。
(昨日見た「あれ」……もしもあの黄金色のものが、『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』特有のものだったなら。クロくん、あなたはいったい……)
 しかし、そんな璃奈の疑問は晴れず、大会の日は迫る。

 
 8月1日。全国高校生デュエル大会地区予選東ブロック、初日となる。
 参加校は全部合わせて29校。その内、去年のベスト3に残った3校はシードとして参加する。神之上高校決闘部は、去年このブロックで優勝を果たしているため、シード校。最初の対戦は昼前、午前11時からとなっている。
「私たちは今日、最後まで勝ち残れば3戦することになるわ」
 現在、午前9時。
 神之上高校決闘部は、国際デュエル場のホールに集まっている。
「勝ち残れば、じゃなくて勝ち残るんだよ」
「うんうん、その調子だ鷹崎君。今年も僕たち神之上高校決闘部がこのブロックを通過する。そうなれば5年連続で地区優勝だ」
 今日行われるのは準決勝まで。決勝戦は明日、8月2日を丸々使って大々的に行われる。シード校である神之上高校はほかの校に比べ1戦少ない。その分実力を決勝戦まで隠すことができ、決勝戦まで力を晒す回数が少なく済む。
「それにしても、そのアンナって子がいる栖鳳学園。ここ10年の大会戦績を見たけど、最高で三回戦進出。ここ3年間では一回戦突破すらしてなかった」
「その子が1人入ったからってそこまで変わるとも思えないけど……」
「って言うわけでもないんだよ」
 そこで口を開いたのはやはり玄だった。
「どういうことですか?」
「何もアンナは最初から最強だったわけでも、無敵だったわけでもない。秘められていたポテンシャルを努力によって開花させた。天才は天才でも、あいつは努力の天才だった。故にあいつは、努力の仕方ってのを知ってる」
 何をすれば強くなり、どこを改善すれば強くなり、どんな武器を持てば強くなるのかを、彼女は熟知している。そんな彼女にかかれば、弱者を強者に変えることも可能だ。
「さらに、去年の大会での栖鳳のデータを気になって調べてみたんだけど、2年生が2人で3年生が3人。その内2年生の2人は対戦相手に圧勝していて、3年生は全員が惨敗だ」
 つまり、今年の3年生の内最低2人は相当な実力者。少なくとも、去年の一回戦敗退の原因となっている3年生はもう残っていない。それに加え、決闘留学生のアンナの存在。栖鳳学園は去年までの様な弱小校ではないということだ。
「残念ながら映像データは残ってなかった。まぁ、一回戦のデュエルだから仕方ないと言えば仕方ないが」
「油断は禁物ってことですね……」
『神之上高校決闘部の団体戦参加者は、ホール中央の受付にて運営の指示に従いエントリー確認を行ってください。繰り返します神之上……』
 ホール中にアナウンスが響き渡る。元より、11時から試合の玄たちがなぜ9時現在会場にいるのかと言うと、エントリー確認のためである。念のために口答で大会側のデータと相違はないかを調べる。
「私たちの順番よ。ほら、みんな早くー」
「そんなに急がなくても行きますよ」
 受付の女性の前に、音無を先頭にして集まる。
「神之上高校決闘部、部長の音無です」
「はい。それでは、各選手は先鋒から順に、お名前、学年、デュエリストレベルを宣言して言ってください」
 本人確認。と言っても、形式的なものではある。
「先鋒、鷹崎透、1年、デュエリストレベル7」
「次鋒、音無祐介、3年生、デュエリストレベル8です」
「中堅、秋月美里です。2年生で、デュエリストレベル7です」
「同じく中堅の辻垣内真子、3年、デュエリストレベルは8」
「えっと、副将の早川璃奈です。1年生、デュエリストレベルは6です」
「大将、白神玄。1年生で……デュエリストレベルは10」
 各々順番に宣言。
「はい。データ通りです。それでは試合まで専用の控室でお休みください」
 あちらです、と受付女性が指した方へとデュエルステージを囲むように道が続いていた。どうやらそっちに神之上高校の控室があるようだ。
(クロくんのデュエリストレベルは10。データ通りってことは、あの時私が見た「あれ」はやっぱり勘違い? 目の錯覚?)
 ふぅ、と一呼吸して思考を切り替える。
(あの時はちょっと疲れてましたし、やっぱり勘違いです。それよりも、みんなの足手まといにならないように頑張らないと)
 そうして、時間は過ぎさり、玄たちの出番。
「よし、行くよみんな。僕たちの側には大した強豪校はいない。さくっと決勝まで行ってしまおう!」
 部長、音無の言葉を聞き、全員が頷く。
 そして――。


「――さくっと準決勝も勝利!」
 8月1日。本日の日程終了である。
「まるで一瞬の出来事のようでした……」
「いや実際、鷹崎、音無先輩、美里&真子先輩が全試合ストレートで勝ったからな。俺らの出番なかったし」
 全試合でストレート勝ち。全く苦戦の色を見せずに楽々決勝進出を決めた。
「それはともかく、決勝進出校はやっぱり栖鳳だったね」
 玄の言った通り、栖鳳学園は去年までの弱小校とは思えないほどの強さを誇っていた。しかも神之上高校と同じく、全試合ストレート勝ち。副将及び、大将であったアンナもその実力の片りんすら見ることはかなわなかった。
「しかも、栖鳳は去年の2位と3位、シード校である花松(はなまつ)高校と緑里(みどりざと)高校にも圧勝してるのよ。あの2校には去年の私たちも相当苦しめられてるはずなんだけどね。へこむわ」
 そう言ってがっくりと肩を落とす真子。
「うーん、五分五分ってとこか……」
「栖鳳と俺らの実力がか?」
 玄の呟きに鷹崎が反応する。
「ああ。今日の栖鳳の試合を見た感じだと、決勝ではほぼ間違いなくどのデュエルも接戦になるだろうな。今日のように甘くはないだろうな」
「それに鷹崎くんの相手、先鋒の人は……今日出てたメンバーの中じゃきっと一番強いよね。油断……なんてしないとは思うけど、やっぱり警戒くらいはしといたほうがいいよ」
 美里が心配そうに鷹崎に目をやる。しかし鷹崎はいつも通りぶっきらぼうに返す。
「んなことは分かってんだよ。相手が誰であろうと俺が勝つ」
「そりゃ重畳。なんにせよ、先鋒での勝敗が流れを掴む要因でもある。頑張れ」
「言われなくても」
 そうして一夜が過ぎ、決勝戦当日となる。


 8月2日。午後1時50分。すでに玄たち神之上高校決闘部はデュエルステージ前に集まっていた。スタートは午後2時から、あと10分で雌雄を決するための最初のデュエル、先鋒戦が始まる。
 各々自分が最もリラックスできる状態で待機している。
 美里は選手用ベンチに座り読書。真子はアイマスクを付け、耳栓をして外部からの情報を遮断。音無は足腰を伸ばしてストレッチ。璃奈は小さく深呼吸。玄は眠たそうに欠伸をしながらベンチにもたれかかる。そして先鋒、鷹崎はただ待ち構えていた。対戦時間を、対戦相手を、ただただ待ち構える。
 と、神之上高校決闘部メンバーの前に、一人の訪問者が。
「ハーイ! リナ、久しぶり」
「アンナちゃん……どうしてここに?」
 もうすぐデュエルが始まる、と言うタイミングで現れたのは対戦校、栖鳳学園の大将、アンナだった。
「一応、デュエルの前に挨拶しておこうかなって思ったんだよ。調子はどう?」
「すこぶる良好ですよ。アンナちゃんは?」
「うん、とってもいいんだよ!」
「そうかい。そりゃなによりだよアンナ」
 そこで会話に割り込んできたのは玄だ。さっきまでベンチにもたれかかっていたはずが、いつの間にか璃奈の背後まで近づいていた。
「クロ! 久しぶりだね。最後にあったのっていつかな?」
「あー、10か月くらい前……かな、多分。つーかお前、俺がこっちにいるって知っててこっちの高校に留学なんぞしやがったな。誰に聞いた」
「トゥルーデだよ」
 璃奈にとっては初耳の名前。アンナ同様外国人と言うことしか分からなかった。
「あっ……あんのやろうっ……! ぺらぺらとしゃべりやがって、今度会ったら延髄チョップをくらわせてやる!」
「それでもリナと一緒の高校だとは思わなかったんだよ。昨日ソレを知ってすっごく驚いた」
 はぁ、っと一度だけため息をつくと、玄は少しっ表情を緩ませる。気を張っていても仕方ないと思ったのだろう。
「まぁいい。それはともかく、今はこれからのデュエルの事だ。俺はお前同様大将。それまでにそっちが3敗する……なんてことはあったりしねぇよな?」
 挑発を交えながら話を転換する。
「それは心配いらないんだよ。こっちはみーんな強いんだからね。そっちこそ私とデュエルする前に終わっちゃったりしないでよ?」
「それこそ心配ないな。こっちのメンツも相当手ごわいよ。ま、お前とのデュエル楽しみにしてる。そろそろ帰れ」
「私も楽しみだよ、クロとのデュエル」
 そう言って背を向けるアンナ。そのまま栖鳳学園の仲間がいるベンチへと戻った。
「へー、あれがアンナちゃんか。本当に真子ちゃんより小さいね」
「ねぇ、そろそろ私の身長を基準に話すのやめない?」
「可愛いね。お人形さんみたい」
「あれ、本当に強いのかよ」
 玄と璃奈以外のメンバーは初めてアンナの姿を近くで確認し、各々言いたい放題言っていく。
 そんなことをしていると。
『ご来場の皆様お静かに。これより、全国高校生デュエル大会地区予選東ブロック決勝戦、栖鳳学園VS神之上高校のデュエルを開始いたします』
 無機質な女性の声がスピーカーを通して会場に響き渡る。人間味の感じられないその声は、おそらく合成音声だろう。
 そして、このアナウンスが入ったということは、遂に決勝戦が始まるということだ。
『まずは先鋒戦の選手の発表から。神之上高校1年、デュエリストレベル7、鷹崎透選手。栖鳳学園3年、デュエリストレベル8、新塚彩花(にいづかあやか)選手』
 ワッー!! と、一般客から昨日敗退した選手たちまで、その数は2000人を超える観客の声。会場が振動するような大きな歓声であった。
 新塚彩花。高身長の女性徒で、墨を被ったかのように光る長い黒髪をなびかせている。落ち着いた雰囲気の中に、鋭い何かを感じる。
「レベル8、ですか。鷹崎くんよりも上ですね」
「別にデュエルリストレベルがすべてを決めるわけじゃないさ。現に璃奈だって真子先輩を倒してるだろ? 不安になるのは分かるが、鷹崎を信じようぜ」
「はい……そうですね。頑張ってください、鷹崎くん」
「ああ、行ってくる」
『それでは両選手はステージ真ん中のデュエルフィールドに立ってください』
 言われた通り2人は移動する。すると大がかりな装置が稼働し、デュエルディスクとリンクしてソリッドビジョンシステムが唸りを上げる。
『それでは、両選手準備が終了次第デュエルを開始してください』
 互いに剥き出しの闘志を惜しまずぶつけ合う。その緊張感は控えの選手がいるベンチだけでなく、観客席まで届いていた。

「「デュエル!!」」

 先攻を手にしたのは、栖鳳学園、新塚彩花だ。
「私のターン、ドロー」
 彼女の使うデッキは【六武衆】。味方がいることで能力を発揮する侍集団。その能力はどれも強力なものばかりで、まるで侍の扱う日本刀のような切れ味で迫ってくる。
「まずは《六武衆の結束》を発動よ。そして通常召喚、《六武衆-イロウ》。そしてフィールドに「六武衆」がいることでこのカードは特殊召喚できる……現れなさい、《真六武衆-キザン》!」
 さらに、《六武衆の結束》は自分フィールドに「六武衆」が現れるたびに「武士道カウンター」を1つ置く。

《六武衆の結束》 C(カウンター):0→1→2

「《六武衆の結束》自身を墓地へ送ることで、乗っているカウンターの数だけドローする。2枚ドロー!」
 フィールドにモンスターを展開しつつ、手札を増加させる。もちろん、この程度ではまだまだ「六武衆」は止まらない。
「さらに、《六武衆の荒行》を発動!」
 自分フィールドの「六武衆」を選択し、選択した「六武衆」と同じ攻撃力の「六武衆」をデッキより呼び出すカード。彩花は《真六武衆-キザン》を選択。デッキより同攻撃力の《六武衆-ザンジ》を特殊召喚した。
(フィールドにレベル4が3体。これは昨日何度か見たパターンだな)
「私は、レベル4のモンスター3体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》!!」
 そして彩花は即、《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》の効果を使用する。

《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》 ORU:3→2

「モンスター、魔法、罠のいずれかを選択。選択した種類のカードを、次の私のターンまで発動不能にする。私は……「モンスター」を選択するわ」
「チッ」
 モンスター効果による大量展開をメインとする鷹崎がモンスター効果を封じられるのはかなりの痛手。挽回は困難なものとなる。
「さらに、カードを枚伏せて、ターン終了」

第1ターン
彩花
LP:8000
手札:3
《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》、SS

鷹崎
LP:8000
手札:5
無し

 デッキの要であるモンスター効果の発動を封じられた鷹崎。
「なら、モンスター以外でどうにかすればいいって話だろ。魔法カード発動だ」
 その宣言の瞬間、《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》が黒い渦に飲み込まれる。
「このカードエフェクト……《ブラック・ホール》ね。これは読み間違えたかしら?」
「いつまで悠長な態度を取ってるかは知らねぇが、攻められてから焦っても遅ぇからな。通常召喚、《聖刻龍-ドラゴンヌート》!」
 効果は使用できないといっても、攻撃力1700の下級アタッカー。ダイレクトアタックを通す分には十分だ。
「バトル! ダイレクトアタックだ!」
「通すわ」

彩花 LP:8000→6300

 モンスター効果を封じられ不利かと思われたが、先制ダメージを与えたのは鷹崎のほうだった。
「カードを使うのに迷いがないわね。いいわねそういうの、結構好きよ」
「まだまだ余裕ってか? 俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

第2ターン
彩花
LP:6300
手札:3
SS

鷹崎
LP:8000
手札:3
《聖刻龍-ドラゴンヌート》、SS

「私のターン、ドロー。ふふ、いいカードを引いたわ。2枚目の《六武衆の結束》を発動!」
(ちぃっ……!)
「まずは《六武衆のご隠居》を特殊召喚。そしてさらに《六武衆-ヤイチ》を通常召喚よ」
 2体の「六武衆」が召喚されたことで、《六武衆の結束》にカウンターが貯まる。

《六武衆の結束》 C:0→1→2

「《六武衆の結束》を墓地へ送り2枚ドロー。そして《六武衆-ヤイチ》の効果を発動! 自分フィールドにほかの「六武衆」がいる場合、1ターンに1度、戦闘を放棄してセットされた魔法・罠を破壊できる! そのセットカードを破壊するわ!」
「チェーン発動! 《スキル・サクセサー》! さらに《聖刻龍-ドラゴンヌート》の効果が発動!」
 《聖刻龍-ドラゴンヌート》の攻撃力を400上げると同時に、《聖刻龍-ドラゴンヌート》の効果でフィールドに《青眼の白龍》を攻守0にして特殊召喚した。

《聖刻龍-ドラゴンヌート》 ATK:1700→2100

「あら残念、不発ね。でも、これであなたの伏せはなくなったわ。フィールドに「六武衆」がいることで2体目の《真六武衆-キザン》を特殊召喚。さらに、レベル3の《六武衆のご隠居》と《六武衆-ヤイチ》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《M.X-セイバー インヴォーカー》!! 効果を発動よ!」

《M.X-セイバー インヴォーカー》 ORU:2→1

「デッキからレベル4、地属性、戦士族または獣戦士族を1体守備表示で特殊召喚する。呼び出すのは、《H・C エクストラ・ソード》!」
「来る! 新塚先輩の《M.X-セイバー インヴォーカー》による瞬殺コンボだ……!」
「でも鷹崎くんのフィールドには壁がいるよ。このターンでライフが0になることはないはず」
 玄たちの心配も余所に、彩花はさらなる展開を続ける。
 《M.X-セイバー インヴォーカー》の効果によって特殊召喚した《H・C エクストラ・ソード》を、フィールドに残った《真六武衆-キザン》とオーバーレイし、《機甲忍者ブレード・ハート》をエクシーズ召喚する。《H・C エクストラ・ソード》の効果でその攻撃力を1000上昇させ、《機甲忍者ブレード・ハート》の効果で2回の攻撃権を自身に付加する。

《機甲忍者ブレード・ハート》 ATK:2200→3200 ORU:2→1

 これにより《M.X-セイバー インヴォーカー》の攻撃力1600と《機甲忍者ブレード・ハート》の攻撃力3200×2回で、その合計値は8000。がら空きの状態で攻撃を受ければライフは一瞬で0となる。
 だが幸い鷹崎選手のフィールドにはモンスターが2体。このターンでライフがなくなることはない。
「そうでもないわね。リバースカード発動、《諸刃の活人剣術》!!墓地から《真六武衆-キザン》、《六武衆-ザンジ》を特殊召喚!」
 さらにモンスターが2体フィールドに現れる。これでは鷹崎はすべての攻撃を受けきることができない。
「昨日までのデュエルを見ていればいやでも気付く。新塚先輩は《聖なるバリア-ミラーフォース-》や《激流葬》なんかのモンスターを除去するタイプの罠カードを入れてないんだ。モンスターはモンスターで対処する。防ぐ暇があるなら一度でも多く攻撃を通すことを考える。受けた痛みより多くの痛みを与えればいい」
 それが新塚彩花というデュエリストのデュエルスタイル――。

『七転抜刀(サムライブレード)』

 しかし、ただで終わる鷹崎でもない。
「そのタイミングだ! 手札の《ドラゴン・アイス》を手札から捨て、今捨てた《ドラゴン・アイス》を特殊召喚!」
 相手が特殊召喚に成功したときに、手札1枚をコストに手札または墓地から特殊召喚される《ドラゴン・アイス》。壁はさらに増える。
「なら、《諸刃の活人剣術》で蘇えらせた2体でオーバーレイし、2体目の《機甲忍者ブレード・ハート》をエクシーズ召喚よ!」
 さらにその効果を発動させ、2回攻撃権を得る。
 
《機甲忍者ブレード・ハート》 ORU:2→1

「バトルよ! 《M.X-セイバー インヴォーカー》で《青眼の白龍》を、攻撃力3200の《機甲忍者ブレード・ハート》で《ドラゴン・アイス》と《聖刻龍-ドラゴンヌート》を攻撃!」

鷹崎 LP:8000→6700

「そしてもう1体の《機甲忍者ブレード・ハート》で2度のダイレクトアタック!!」
「ぐぅぅっ……!!」

鷹崎 LP:6700→2300

「これでターン終了よ」
 彩花の猛攻撃を耐え、鷹崎のターンへと移る。

第3ターン
彩花
LP:6300
手札:2
《M.X-セイバー インヴォーカー》、《機甲忍者ブレード・ハート》×2

鷹崎
LP:2300
手札:2
無し

「俺のターン、ドロー」
(防ぎ切ったとは言え、正直このライフ差はかなりやばいな。とりあえず……)
「《バイス・ドラゴン》を特殊召喚! さらに、チューナーモンスター《ドレッド・ドラゴン》を通常召喚!」
 合計レベルは7。シンクロ召喚の準備は万端だ。
「レベル5の《バイス・ドラゴン》に、レベル2の《ドレッド・ドラゴン》をチューニング! 漆黒の花弁を持つ薔薇よ、世界を劫火で包み込め! シンクロ召喚! 吹き飛ばせ、《ブラック・ローズ・ドラゴン》!!」
「《ブラック・ローズ・ドラゴン》……!」
 《ブラック・ローズ・ドラゴン》はシンクロ召喚成功時に自分もろともフィールドのカード全てを破壊する効果を持つ。いかに彩花のモンスターの攻撃力が高いとはいえ、すべてを吹き飛ばされては意味がない。
 その効果はすんなりと通り、それによってフィールドはリセットされる。
「あらあら。スッキリしちゃったわね」
 しかし鷹崎に追撃の札はない。今の一撃はあくまで最悪だった状況をある程度ましにしたくらいの意味しかない。
(はっきり言えば、同じ短期決戦型速攻タイプのデュエリストとしては俺の方が今一歩劣っている。だが、その程度の事だけでデュエルを諦めるほど潔よくわねぇし、「あいつら」はこんな程度じゃねぇ!!)
「ターンエンドだ!!」

第4ターン
彩花
LP:6300
手札:2
無し

鷹崎
LP:2300
手札:1
無し

「私のターン、ドロー」
(あれで止めを刺しきれなかったことも、あれをすべてやられたことも想定外。流石決勝戦ね。今までとは全然違う)
 そうは思いつつも、彩花は焦りを感じてはいなかった。むしろ強い相手とのデュエルに心を震わせていた。
(それでも……勝つのは私よ)
「《六武衆-ニサシ》を通常召喚。そして《真六武衆-キザン》を特殊召喚よ!」
 これで2体の攻撃が通れば鷹崎の負け。だが。
「特殊召喚トリガーに、手札を1枚捨て、墓地の《ドラゴン・アイス》を守備表示で特殊召喚だ」
 さらにコストとして捨てられた《伝説の白石》の効果でデッキから《青眼の白龍》を手札に加える。
(手札を減らさずに壁を用意した……か。《ドラゴン・アイス》は厄介だけど、今はどうすることもできないわね)
 《ドラゴン・アイス》守備力は2200。それに対し、彩花のモンスターの攻撃力は1400と1800。超えることはできない。
「それなら、レベル4のモンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《六武衆の影-紫炎》!」
 なるべく高打点かつのちの展開を考え、「六武衆」である《六武衆の影-紫炎》を彩花は場に出した。
「バトルよ! 《六武衆の影-紫炎》で《ドラゴン・アイス》を破壊!」
「くっ……!」
 再び鷹崎の場はがら空き。手札は最上級モンスターが1体。ライフ差も4000ポイント。ほぼ逆転は不可能な状況となってしまった。
「カードを1枚伏せて、ターン終了。さぁ、来なさい。この程度じゃ終わらないんでしょう?」
「はっ……当たり前だ!」

第4ターン
彩花
LP:6300
手札:0
《六武衆の影-紫炎》、SS

鷹崎
LP:2300
手札:1
無し

「俺のターン、ドロー!」
 勢いよくカードをドローする鷹崎。ドローカードを確認すると即座に発動させる。
「魔法カード、《貪欲な壺》!!」
 墓地のモンスター5体――《聖刻龍-ドラゴンヌート》、《バイス・ドラゴン》、《ドレッド・ドラゴン》、《ブラック・ローズ・ドラゴン》、《伝説の白石》――をデッキに戻し、カードを2枚ドロー。
「さらに、《調和の宝札》を発動。《伝説の白石》をコストに2枚ドロー!」
 《貪欲な壺》で引いた2枚のカードを使用し、さらに手札を交換。加えて捨てられた《伝説の白石》の効果でさらに《青眼の白龍》が手札に加わる。
「魔法カード、《トレード・イン》! 《青眼の白龍》を捨て、さらに2枚ドロー!!」
 3連続のドローカードによって、鷹崎の手札は前のターンからは考えられないほどの変貌を遂げた。
「まだだ、《闇の量産工場》により墓地の《青眼の白龍》を2枚手札に加える!」
(手札に《青眼の白龍》が3枚……。まさか……っ!)
 彩花の予想はそのまま現実となり、フィールドに姿を現す。
「《融合》を発動! 3体の《青眼の白龍》を融合! 現れろ、《青眼の究極竜》!!」
 攻撃力4500を誇るの三つ首の竜。雄々しくも輝かしいその姿が会場の目を奪う。
「手札がたったの1枚の状況から《青眼の究極竜》を出すなんて……。あなた、いいわよ。最高ね」
「そりゃどうも。それじゃあ行くぜ。《青眼の究極竜》で《六武衆の影-紫炎》を攻撃! 滅びのアルティメット・バーストォォッ!!」
「くぅっ……!!」

彩花 LP:6300→4300

「まだだ! 速攻魔法発動、《融合解除》! 墓地より《青眼の白龍》を3体特殊召喚!!」
「!?」
 《青眼の究極竜》がフィールドから消え、代わりに3体の《青眼の白龍》が現れる。そして今はまだバトルフェイズ。攻撃の権利は残っている。
「出ました! 私を倒した鷹崎くんの必殺コンボです!!」
「これが決まれば鷹崎君の勝ちだ!」
 3体の《青眼の白龍》がその大きな口に白いエネルギー体を溜める。攻撃の準備はできている。
「滅びのバーストストリーム! 3連打ァ!!」
「させないわ! 《究極・背水の陣》!!」

彩花 LP:4300→100

 彩花は《究極・背水の陣》でライフを100になるように払い、墓地より可能な限りの「六武衆」を特殊召喚した。《六武衆-イロウ》、《六武衆-ザンジ》、《真六武衆-キザン》、《真六武衆-カゲキ》、《六武衆-ヤイチ》を蘇生。
「だが、それくらい読んでたぜ。メイン2、《青眼の白龍》2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! ぶっ壊せ、《サンダーエンド・ドラゴン》!! 効果を発動!」

《サンダーエンド・ドラゴン》 ORU:2→1

 《サンダーエンド・ドラゴン》はオーバーレイユニットを1つ外すことで、《サンダーエンド・ドラゴン》以外のすべてのモンスターを破壊する効果を持つ。鷹崎のフィールドの《青眼の白龍》と共に、彩花のフィールドの「六武衆」全てがが破壊される。
 フィールドはほぼリセット状態。
「ターンエンドだ」
 手札は0枚。セットするカードなどない。
「手札も魔法・罠も0枚。フィールドには《サンダーエンド・ドラゴン》。玄くん……どう思う?」
 問いかけたのは美里。
「正直分からないな。次の新塚先輩のドロー次第だ」
 運命のドロー。このドロー次第では勝負の行方が決することとなるだろう。

第4ターン
彩花
LP:100
手札:0
無し

鷹崎
LP:2300
手札:0
《サンダーエンド・ドラゴン》

「私のターン、ドロー」
 この瞬間、両者の運命が決まる。彩花はゆっくりと、手札のカードを確認した。
「魔法カードを発動。《貪欲な壺》!」
 前のターンに鷹崎が使用したカード。彩花は《究極・背水の陣》で蘇えらせた5体のモンスターをデッキに戻し、新たに2枚のカードをドローする。
「……私の勝ちよ。《六武衆-ザンジ》を通常召喚し、《六武衆の荒行》を発動!」
 《六武衆-ザンジ》と同じ攻撃力の《真六武衆-キザン》をデッキからフィールドに特殊召喚。そして。
「エクシーズ召喚! 《No.39 希望皇ホープ》! さらにカオスエクシーズチェンジ! 混沌の使者、《CNo.39 希望皇ホープレイ》!!」
 その効果が発動され、《CNo.39 希望皇ホープレイ》の攻撃力は4000まで引き上げられ、《サンダーエンド・ドラゴン》の攻撃力は0となる。
 そして《CNo.39 希望皇ホープレイ》の一撃で、先鋒戦はあっけなく幕を下ろした。

『勝者、栖鳳学園、新塚彩花!!』

 客席からドーム揺らすほどの歓声。勝利した彩花に対してだけでなく、敗者の鷹崎にも賞賛の声が浴びせられた。
「ありがとう。いいデュエルだったわ」
 彩花が握手を求め右手を前に出す。それに応じ、鷹崎も右手をだしがっちりと握りしめた。 
「次は負けない」
「次も負けないわ」
 パチパチパチパチパチパチパチッ! と観客からの拍手のなか、鷹崎はベンチへと戻っていった。
「悪い、負けた」
「気にすんな。いいデュエルだった」
 会話はそれで終了。鷹崎はベンチに座り、休息する。
『続きましては、次鋒戦。神之上高校3年、デュエリストレベル8、音無祐介選手。栖鳳学園1年、デュエリストレベル6、津田浩二(つだこうじ)選手』
 今度は神之上高校側の音無のほうがレベルは上。当然油断はできないが、玄たち部員には安心感があった。新入生部員である玄、璃奈、鷹崎もすでに音無のデュエルを4か月は見ているが、そのデュエルに隙はなかった。
 鷹崎曰く、入部試験の時は試験用に手加減されていた。本気でデュエルしたら100戦やれば100戦負ける気がする。正直あの部長にはまだまだ追いつけない、とのこと。
「それじゃあ、白星を持って帰ってくるよ」
「ええ、心配せずに待ってるわ、音無君」
 ステージへとゆっくり上っていく。
(まぁ、もとから負ける気なんてないけど……)
「負けた鷹崎君のためにも、先輩らしくかたき討ちをしないとね」


To be continue

       

表紙
Tweet

Neetsha