Neetel Inside ニートノベル
表紙

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<Side-K>

「璃奈と鷹崎が勝てない……? それ、どういう意味だよ」
 玄と美里のデュエルが終わり、美里の言った一言に玄が疑問を浮かべる。
「そのままの意味。単純に実力的に勝てないってこと」
 その一言を口にし、心なしか美里は若干うつむいてしまう。
「俺はあの2人のデュエルを知らないから何とも言えないが、別に勝たなくてもいいはずだろ。目的は勝つことじゃなくて、及第点をもらうことだろ? 負けてもいいとは思はないし、そりゃ勝ったほうがいいだろうが、必ずしも勝たなきゃいけない訳じゃない」
「うん……そうだよ。そうなんけど」
「そうなんだけど?」
「音無先輩なら優しいし、多少は甘くつけてくれるかもしれない。でも真子先輩は……」
 段々と美里の口調が弱まっていく。
「優しくないのか」
「いや、優しんだけどね。どちらかっていうと……厳しいって感じかな。きっと、真子先輩に勝たなきゃ合格させない、とか言ってると思うよ」
 予想的中。伊達に入学から1年間一緒にいたわけではなく、真子の性格をよく理解していた。
「さっきからずっと璃奈ちゃんが心配で心配で気が気じゃないんだよ……」
 そわそわとし始める美里。よほど璃奈のことが心配のようだ。
「俺は副部長さんがどんなデュエリストか分からないし、璃奈とだってデュエルしたのは1回だけだ。それでも俺は璃奈を信じるよ」
「白神くん……」
「不安な気持ちもわかるけどさ、お前は璃奈の幼馴染なんだろ? ならあいつの強さはお前も知ってるはずだろ? 信じてやれよ、きっと璃奈は勝つ」
「そうだね……そうだよね」
 美里の目に光が戻る。
「璃奈ちゃんのこと心配だし、第三体育館に戻ろう、白神くん」


<Side-R>

 実は、3つのデュエルの中で最も早く決着が着いたのがここ、第三体育館での璃奈と真子のデュエルだった。
 故に、玄や鷹崎たちはここに着いた時には勝敗はすでに決していた。
 ここから多少、時間を遡る。
 そこは、第3ターンが終了したところ。璃奈の残りライフはたったの300。真子のフィールドには攻撃力4000と3200の《茫漠の死者》が2体、連続攻撃が可能な《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》、効果破壊に強く相手のデッキを削る《ヴァンパイア・ロード》。突破は至難の業である。
「私のターン、ドロー」
 このドローで璃奈の手札は3枚。合計攻撃力12000のモンスターたち。戦闘で破壊するのは無理がある。だが、璃奈のデッキは【ネオスビート】。除去と蘇生はお手の物。
 璃奈は1枚の手札を引き抜き、デュエルディスクに叩きつける。その瞬間、真子のモンスターが黒い渦の中に巻き込まれる。
「魔法カード、《ブラック・ホール》を発動!! これで、モンスターは全滅です!」
 しかし、《ヴァンパイア・ロード》は相手によって効果破壊された次の自分のスタンバイフェイズに蘇生する。
「今のドローなのか、はたまた《手札抹殺》で引いたのか、それとも《ガード・ブロック》で引いたのか。どれかは分からないけど、いずれにせよ大したドロー運ね」
「どうもです」
 ちなみに《ブラック・ホール》を引いたのはこのターンのドローである。もしこのドローで《ブラック・ホール》を引けなかったと考えたら璃奈はぞっとした。
「これでモンスターは4体のモンスターは全滅です。ここから反撃させてもらいますよ」
 しかし、真子も安々と破壊を受け入れるわけではなかった。
「残念だけど、そうはさせないわ。私のモンスターが破壊されたことをトリガーに罠カード発動。《魂の綱》! 自分フィールドのモンスターが破壊されて墓地へ送られたときにライフを1000払ってデッキからレベル4のモンスター1体を特殊召喚。私は《ピラミッド・タートル》を守備表示で特殊召喚するわ」

真子 LP:4900→3900

 一時的にでも真子のフィールドをがら空きにすることに成功したと思いきや、2枚目の《ピラミッド・タートル》。攻撃すれば再び上級アンデットが出てくるのは目に見えている。ただのリクルーターが大きな壁として璃奈の前に立ちはだかる。
(ダイレクトアタックも通せない……やっぱり強いです、副部長さん)
「《E・HERO エアーマン》を召喚して、《E・HERO アナザー・ネオス》をサーチします」
 当然攻撃はできない。攻撃すれば無駄に大型のモンスターを呼び出され、璃奈の首を絞めることとなる。
(それでも、いくらこの人が強くても、私は勝ちます。勝ちたいんです。玄くんや美里ちゃんと肩を並べて歩きたいんです。だから、私は負けません!)
「カードを1枚伏せて、ターン終了です」
 胸に思いを秘め、璃奈は臆せず前に進む。ここで進まなければ、いつまでも進むことなどできないのだから

第4ターン
真子
LP:3900
手札:0
《ピラミッド・タートル》

璃奈
LP:300
手札:1
《E・HERO エアーマン》、SC

「私のターン、ドロー」
 まずはこのスタンバイフェイズ、前のターン《ブラック・ホール》によって破壊された《ヴァンパイア・ロード》が真子のフィールドに蘇える。
 その攻撃力は2000。《E・HERO エアーマン》では太刀打ちできない。
「《ピラミッド・タートル》を攻撃表示に変更。《ヴァンパイア・ロード》も復活したことだし、お待ちかねのバトルフェイズよ」
「待ってませんけどね……」
 むしろ璃奈からすれば来てほしくないものだった。
「《ヴァンパイア・ロード》で《E・HERO エアーマン》に攻撃!!」
 この攻撃を受けても璃奈のライフは0になることはないが、《ヴァンパイア・ロード》がダメージを与えた時、その効果によって璃奈のデッキが削られる。そうなれば逆転はさらに困難なものとなる。ここで璃奈が選んだ選択は――。
「攻撃を……受けます」
 
璃奈 LP:300→100

「《ヴァンパイア・ロード》の効果を発動。私は前のターン同様、「罠」を宣言」
 再び宣言は罠カード。璃奈はデッキを手に取り、数秒考え《サンダー・ブレイク》を墓地へ送る。今後の状況から手札コストを払えないことを考えての選択だ。
「そして……《ピラミッド・タートル》でダイレクトアタック!!」
 この攻撃を通せば、残りたった100のライフでは受けきれない。
「それは通せません、手札の《E・HERO アナザー・ネオス》を捨てて、《サンダー・ブレイク》を発動! 《ピラミッド・タートル》を破壊です!」
 だが、璃奈はもちろん防御用の罠を残しておいた。
 《ヴァンパイア・ロード》の効果で先ほど送ったばかりの《サンダー・ブレイク》。すでに璃奈のフィールドにもう1枚がセットれていたのだ。
 そして《ピラミッド・タートル》が破壊されたことで、真子が璃奈に止めを刺す手段がなくなる。なんとか璃奈は首の皮を一枚つないだ。
「粘るわね」
「粘りますよ。勝ち目があるなら、最後まで」
「そう。それならメイン2へ。カードを1枚伏せてターン終了よ」
 この5ターン目をなんとか乗り切る。そして、続いて第6ターン。璃奈のターンになるが、ここで攻めきることができなければ、璃奈はより一層敗北に近づく。
 ここが、運命の分かれ道となる。

第6ターン
真子
LP:3900
手札:0
《ヴァンパイア・ロード》、SC

璃奈
LP:100
手札:0
無し

「私のターン」
(なんででしょうか……このドロー。逆転のカードを引けなければ負けだっていうのに、不安がありません)
 その顔は諦め、敗北を受けいれた顔に見えたかもしれない。それほどまでに清々しかった。
 だが違う。この時璃奈は、自分の敗北を全く考えていなかった。
 いつも通り、当たり前のように、1枚のカードをデッキより引き抜く。
「ドロー」
(んー? 空気が、変わった……?)
 真子が感じた「何か」など璃奈には知る由もなく、確認したドローカードを即座に発動させた。
「魔法カード、《E-エマージェンシーコール》を発動です。デッキから「E・HERO」1体を手札に加えます。私が加えるのは《E・HERO バブルマン》」
「ここでそれを引くのね……ホント、すごいドロー運ね」
「《E・HERO バブルマン》は手札がこのカードのみの場合、手札から特殊召喚できます。さらに、もう1つの効果を発動」
 《E・HERO バブルマン》には2つの効果がある。1つは特殊召喚効果。そしてもう1つは、ドロー効果。召喚、反転召喚、特殊召喚時に自分の手札及びフィールドにほかのカードがなければデッキから2枚のカードをドローできる。
「2枚のカードをドロー!」
 ここでさらにドローしたうちの1枚を発動。
「魔法カード、《死者蘇生》を発動し、墓地から《E・HERO エアーマン》を特殊召喚! 効果によってデッキから《E・HERO アナザー・ネオス》を手札に加えます」
 璃奈のライフは100。そしてフィールドにはレベル4のモンスターが2体。この条件でのみ効果の発動を許された一発逆転のエクシーズモンスター。
「私は、レベル4の《E・HERO エアーマン》と《E・HERO バブルマン》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 希望の光、《No.39 希望皇ホープ》!!」
 さらに、《No.39 希望皇ホープ》は進化する。
「《No.39 希望皇ホープ》をオーバーレイユニットとすることで、カオスエクシーズチェンジ!! 混沌を光変える、希望の使者! 《CNo.39 希望皇ホープレイ》!!」
 《CNo.39 希望皇ホープレイ》は、自身のライフが1000以下の時、オーバーレイユニットを1つ取り除くことで、《CNo.39 希望皇ホープレイ》自身の攻撃力を500ポイント上昇させ、相手モンスター1体の攻撃力を1000ポイント下げる効果を持つ。この効果が成立すれば、4000のダメージが発生し、ライフ3900の真子に勝利することができる。まさに一発逆転だ。
 だが、真子はそう甘くはなかった。
「罠カード、発動。《奈落の落とし穴》!」
 《CNo.39 希望皇ホープレイ》はあっけなく次元の彼方へと飛ばされてしまう。攻撃どころか効果を発動することすらできなかった。
「《奈落の落とし穴》……」
「これであなたの逆転の札は消えた。と言っても、あなたの手札にはまだ《E・HERO アナザー・ネオス》。そしてまだ召喚権も使ってないわ。私のドロー次第じゃ、次のターンも《E・HERO アナザー・ネオス》を壁にして耐えることができる。さぁ、デュエルを続けましょう」
 真子は、その小さな口で次々と言葉を紡いでいく。だが、璃奈の耳には届いていなかった。必殺の切り札を打ち破られ、まさに希望を失った璃奈の耳には、そんな言葉は入ってこなかった。
 と、言うわけではない。耳に入らなかったのは、別の理由――真の理由があった。
「《奈落の落とし穴》……来ると思ってました」
「ん?」
「きっと副部長さんなら私の攻めを封じるための何かを伏せていると思ってました。信じてました。もしそれが攻撃反応型の罠だったなら、分かりませんでしたけど、それでもなんとなく、《奈落の落とし穴》だと思ってました」
「何を……言っているの……?」
「私の勝ちです!!」
勝利を確信した璃奈の耳に、真子の言葉は届かない。ただただ、前に進む。
 璃奈は通常召喚権を行使し、《E・HERO アナザー・ネオス》を召喚。もちろん、セット状態ではなく、攻撃表示だ。
「これが、私の本当の、最後の逆転の切り札!!」

 Hero Flash!!!!!

 カードエフェクトによって、璃奈の背後に「H」「E」「R」「O」の四文字が光り輝く。
 墓地の《H-ヒートハート》、《E-エマージェンシーコール》、《R-ライトジャスティス》、《O-オーバーソウル》をゲームから除外することで発動できる魔法カード、《ヒーローフラッシュ!!》。
「なっ……いつの間に4枚のカードが墓地に……!?」
 そもそもこの中で《R-ライトジャスティス》は使用されていない。真子の疑問ももっともである。だが。
「そんなに驚くほどの事じゃないですよ。確かに《R-ライトジャスティス》は使ってませんけど、それでも墓地へ置く機会はありました。副部長さん、あなたの《手札抹殺》です」
「《手札抹殺》……あの時手札に残ってた1枚が偶然《R-ライトジャスティス》だったって言うの?」
 ドロー運だけではなく、璃奈はこんなところでもその運を発揮していた。
「《E・HERO ネオス》を蘇生した《O-オーバーソウル》も、その《E・HERO ネオス》を強化して貫通ダメージを与えた《H-ヒートハート》も、《E・HERO バブルマン》を呼んできた《E-エマージェンシーコール》も、《手札抹殺》の効果で墓地へ行った《R-ライトジャスティス》も、どれが欠けても、この状況をあり得ませんでした。でも、だから、偶然でも、そんなすべてが揃ったからこそ、今の私があるんです!」
 そして、《ヒーローフラッシュ!!》の効果が発動する。
「通常モンスターの「E・HERO」1体、《E・HERO ネオス》をデッキから特殊召喚します!!」
 さらに効果はそれだけではない。
「そして、私のフィールドにいる通常モンスターの「E・HERO」はこのターン、相手プレイヤーにダイレクトアタックができます!!」
 真子のフィールドの《ヴァンパイア・ロード》をスルーして真子に直接攻撃を与える。そして。
「《E・HERO アナザー・ネオス》も《E・HERO ネオス》も通常モンスターで、2体の合計攻撃力は4400。副部長さんのライフは、3900。これで、終わりです。バトルフェイズに入ります。《E・HERO アナザー・ネオス》と《E・HERO ネオス》でダイレクトアタック!!」
 2体の英雄が《ヴァンパイア・ロード》を無視し、真子の体目掛けてその全身を猛突進させる。
(通って、通って、通って!!)
「あら残念。負けちゃった♪」

真子 LP:3900→2000→0

 勝者、早川璃奈。

(通った……?)
「あれ、えっと、勝った……? 勝ったんですか私」
 さっきまでの勝利への自身はどこへ行ったのか、璃奈は自分の勝利が信じられないというように口を開いた。
「私……私っ……勝てた……勝てました」
 その瞳は今にも泣きだしそうなほど潤んでいた。勝利の感動を全身で感じていた。
 と、そんなところで不意を突かれ、真子の抱きつき(突撃)に気付かずもろに食らう。
「げほぉぅっ!?」
 およそ女子高生とは思えないような声を上げながら真子に押し倒されるように体育館の床に倒れる。
「きゃー、すごいわすごいわよ! まさかほんとにあの状況から勝つなんて! やっぱり私の目に狂いはなかったわ!!」
 目をキラキラと輝かせながら、璃奈の背中側に回した両手の指をめいっぱいに駆動させ、胸の部分に押し付けた顔で頬ずりする。
「うわっ、ちょっ、やめっ、やめてくださいっ! くすぐったいです! 変なところ触らないでください!!」
 いつの間にか真子の手は璃奈の腰よりも下のあたりまで下りていた。全力駆動しながらも真子の指はさらに下へ向かって突き進む。
「ひゃぁっ! お尻っ、お尻に来てますよ!? やめてくださいってば! ホント、くすぐったいんですよー!!」
「あら? ポヨンポヨンしてる? 案外ふくよかな感じで……いや、案外どころかこれはなかなかの……」
「頬ずりしながら何を吟味してるんですかー!!?」
 

 結局、璃奈が真子の魔の手から解放されたのは玄と美里が第三体育館へと到着したときだった。
 感動で貯まっていた涙は、何かを失ったかのように目から流れ落ち、璃奈の体はぐったりと体育館の床に倒れていた。
「えーっと、これは?」
 美里が倒れこんでいる璃奈の体を指さしながら真子に説明を求める。
「全身マッサージ……かしら」
「嘘でしょ」
「うん」
 玄が璃奈の元まで歩み寄り、屈みこんでその顔を覗く。
「大丈夫……ではなさそうだけど、大丈夫か?」
「うぅっ……もうお嫁さんに行けませんよぉ……」
「大丈夫、私がもらってあげるからね、璃奈ちゃん」
 言ったのは美里だった。
「いや、お前も行く側だから。もらえねぇから」
「じゃあ私がもらうから」
 言ったのは真子だった。
「あんたも行く側だから。っていうかこれやった張本人だから」
 そんなコントをやっているうちに鷹崎と音無も到着。璃奈もなんとか立ち直り、それぞれのデュエルの結果を報告しあった。
 そして。
「と、言うわけで……3人とも合格おめでとー!!」
 真子の歓声と同時に、美里、音無が賞賛の拍手を送る。
「これで君たち3人は晴れて神之上高校決闘部の一員だ。これからよろしく」
 3年、決闘部部長、音無祐介。
「璃奈ちゃんおめでとう。まさか真子先輩に勝っちゃうなんて、驚いたよ」
 2年、決闘部部員、秋月美里。
「偶然ですよ、偶然。私なんてまだまだです」
 1年、決闘部新入部員、早川璃奈。
「いいんだよ、偶然でも勝てば。まぁ、今回に限っては勝ち負けはそこまで重要なファクターじゃないけどな」
 2年、決闘部新入部員、白神玄
「腹ァ……減ったなぁ」
 1年、決闘部新入部員、鷹崎透。
「はーい、みなさんこちらにちゅうもーっく!」
 3年、決闘部副部長、辻垣内真子。
 この6名がこれからの神之上高校決闘部を支え、これから互いが互いを高めていく。
「それじゃあ、新入部員歓迎会ってことで、焼き肉でも食べに行きましょうか。音無くんの奢りで」
 そう言ったのは小さな小さな副部長。
「え?」
「おっ、いいね副部長! 賛成だ」
 賛成したのは低身長の男子。
「ちょっ」
「金欠だったからありがたい」
 笑顔を向けたのは病弱そうな女子。
「おいおい」
「お腹も空いてきましたし……お言葉に甘えて」
 遠慮がちにもあやかる気満々の少女。
「待って!」
「本当に腹が減った。今日は少し体力を使いすぎた。早くいこうぜ」
 目つきの悪い少年が催促する。
「なんで!?」
 理不尽に抗おうと交渉したが虚しくスルーされた部長。
 曲者揃いの決闘部、新生・神之上高校決闘部は、親睦会を含めた歓迎刊をしに焼肉屋に行くのであった。
 ちなみに、流石にかわいそうなので、半分が音無、残りの半分は割り勘ということになった。

       

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