Neetel Inside ニートノベル
表紙

黄金決闘
第10話 本戦:VS宮路森高校(後編)

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「私のターン、ドロー!」
 神之上高校決闘部と宮路森高校決闘。両校とも5人目の選手、早川璃奈と十時直がステージに立っている。
 現在璃奈の初ターン。手札はこのターンのドローを含めて6枚。対する十時は手札2枚に、セットカードが2枚。そして極めつけはモンスターゾーンに唯一居座る《超銀河眼の光子龍》。エクシーズキラーであると同時に攻撃力4500の超重量モンスター。破壊するのはそう簡単なことではない。
 だが、璃奈の手札はそれを覆すことができるカードが集まっていた。
「ライフポイントを半分払って、《ヒーローアライブ》を発動します。デッキから《E・HERO エアーマン》を特殊召喚!」

璃奈 LP:8000→4000

 《E・HERO エアーマン》の効果により《E・HERO プリズマー》を手札に加え、そのまま召喚権を行使する。
「《E・HERO プリズマー》の効果でデッキから《E・HERO ネオス》を墓地へ送ります。そしてレベル4の戦士族モンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 切り裂け、《H-C エクスカリバー》!」
 そのまま即座に効果発動を宣言する。

《H-C エクスカリバー》 ORU:2→0 ATK:2000→4000

「攻撃力4000……それでも《超銀河眼の光子龍》には敵わないわ」
「まだです! 《ヒロイック・チャンス》を発動! 「ヒロイック」と名の着いたモンスター1体の攻撃力を2倍にします!」

《H-C エクスカリバー》 ATK:4000→8000

「早川の奴……あんなカードまで入れてやがったのか」
「従来の【ネオスビート】とは大分違うからな。強力なランク4エクシーズの《H-C エクスカリバー》や《CNo.39 希望皇ホープレイ》、《E・HERO ネオス》の進化形態である《E・HERO エアー・ネオス》。このあたりを十全に発揮するために必殺性を極限まで高めた構築だ」
「これで《超銀河眼の光子龍》の攻撃力を上回りました! バトルフェイズ、《H-C エクスカリバー》で《超銀河眼の光子龍》の攻撃!」
「リバースカード発動、《光子化》。相手モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分自身の光属性モンスターの攻撃力に追加する」
「!?」
 《超銀河眼の光子龍》の攻撃力は4500。そこに《H-C エクスカリバー》の攻撃力8000が上乗せされ、その攻撃力は……。

《超銀河眼の光子龍》 ATK:4500→12500

「いっ……12500!?」
(次のターン《H-C エクスカリバー》を攻撃されたら私のライフは0になっちゃいます! なんとか防がないと!)
「わ、私はカードを2枚伏せてターン終了です」
 そして、《ヒロイック・チャンス》の効力は消え、《H-C エクスカリバー》の攻撃力は4000まで下がる。

《H-C エクスカリバー》 ATK:8000→4000

『十時選手を前に早川選手早くもピンチです! ですがお姉さん的にも早川選手は結構注目選手! どう十時選手に立ち向かうのか楽しみですねっ』



 10-1 ― 勝者と敗者 ―



第23ターン
璃奈
LP:4000
手札:2
《H-C エクスカリバー》、SS×2

十時
LP:8000
手札:3
《超銀河眼の光子龍》

「私のターン、ドロー。バトルフェイズ、《超銀河眼の光子龍》で《H-C エクスカリバー》に攻撃……!」
 攻撃力差は8500ポイント。初期ライフ8000でも一瞬で敗北へと追いやられる数値。ライフ4000の璃奈が喰らえば一溜りもない。
「くっ……《ガード・ブロック》を発動! ダメージを0にしてカードを1枚ドローします!」
 ダメージは0になっても戦闘自体は行われ、《H-C エクスカリバー》は無残にも破壊される。
(この人強いです。最小限の動きで確実にこっちの動きを潰してくる……)
「十時さんってとっても強いですね。でも負けませんよ!」
 その時、無表情な十時が一瞬反応したように見えた。前髪で隠れて見えないはずの表情が変わったように見えたのは、璃奈の『自殺決闘(アポトーシス)』が多少なりとも発動していたからかもしれない。
「楽しそうね……これだけ不利な状況なのに、よくもそう笑ってられるわ」
「笑いますよ。だって、強い人とデュエルするのって楽しいじゃないですか」
「……楽しい? 私は楽しくないわ。格上とのデュエルも格下のとのデュエルも。私より強い人とデュエルしたって負けるのが分かってるし、私より弱い人とデュエルしたって勝つのは分かってる。そんな分かり切ったことをすることのどこが楽しいと言うの?」
 ここに来て璃奈は初めて十時が感情を出したのを感じた。怒りにも近いような呆れにも近いような、しかしそのどちらでもないような感情。璃奈はその感情の正体が掴めずにいた。
「それは……まるでデュエルが楽しくないって言ってるように聞こえます」
「そう言っているのよ。私はデュエルなんて楽しいと思ってない」
「っ……! じゃあなんで部活に入って大会に出てデュエルしてるんですか!」
 十時の態度に璃奈も怒りを露わにする。璃奈にとってデュエルとは楽しいもの。当たり前のそれを真っ向から否定されたのは初めての経験であった。
「詰まらない理由よ。宮路森の決闘部は人数が足りなかった。そこで私に声が掛けられた。もちろん断ったわ。けれど針間くんとミハイルがデュエルを申し込んできた」
 自分たちのどちらかに勝てたら断ってもいい。だが両方に負けたら入部しろ。大会の間だけでもいい。十時は2人が『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』であることなど知らず、それなりに腕に覚えのある彼女はその条件で了承し負けた。
 それが今彼女がここにいる理由だった。
「たったそれだけ。それだけの詰まらない理由で私はここに立っているわ」
「嘘です」
「嘘じゃないわ。後ろの2人に聞けば分かることよ」
「いいえ嘘です。そんな口約束くらい破ることだってできたはずです。それをしなかったってことは、十時さんは自分の意志でここに立っているんです」
「約束くらい守るわ。どうせ大会の間だけなのだし、それくらいの約束は守るわよ」
「じゃあなんでデュエルに応じたんですか? 入部したくないと頑なに拒めばよかったじゃないですか」
「拒んだわよ。しつこいから仕方なくやったの」
 この時、璃奈には十時の抱く感情がようやく分かった。怒りでも、呆れでもなく、これは諦め。十時直はデュエルに対して諦めの感情を抱いているのだと感じ取った。
「言い訳です。十時さんは口ではなんて言ってもデュエルが好きなんです。デュエルが嫌いな人がこんなに強いわけがありません」
「……もういいわ。あなたには何を言っても通じない。カードを2枚セットしてターンエンドよ。さっさとかかってきなさい。あなたとのデュエルは早々に終わらせてしまいたいわ」

第24ターン
璃奈
LP:4000
手札:3
無し

十時
LP:8000
手札:1
《超銀河眼の光子龍》、SS×2

「私のターン、ドロー!」
 このドローで手札は4枚。フィールドにはカードがない。とてもじゃないが攻められる状況ではなかった。
(まずは守り抜くこと。逆転のカードを引くまで是が非でも負けません……!)
「私はモンスター1体を守備表示で召喚。そしてカードを2枚伏せてターンエンドです」
「あれだけ大口を叩いておいてやることはカードをセットしただけ? やっぱりよ……強い方が勝つ。それは変えられない事実よ」
「いいえ、強い方が勝つんじゃありません。勝った方が強いんです。何度でも言わせてもらいます……私は諦めません」
 璃奈の目は真っ直ぐと十時を見つめている。勝負を諦めた様子は全くなかった。
「ええ、いいわ。あなたを黙らせるにはデュエルで分からせるしかないようね。完膚なきまでに潰してあげる」

第25ターン
璃奈
LP:4000
手札:1
SM、SS×2

十時
LP:8000
手札:1
《超銀河眼の光子龍》、SS×2

「私のターン。ドロー!」
(ムカつくわ。あなたを見ていると本当にムカつく。昔の自分を見てる気分になってくる)

 3年前。十時直は全国中学生デュエル大会に参加した。結果としてこの大会の優勝者は鳳瞬となるこの大会、十時直は誰が優勝するかなど全くの見当もつかず、ましてや自分が不戦敗と言う結果で準優勝となることも知らなかった。
 彼女が当時在学していた中学では、200名程度の全校生徒の中に1割ほどしかデュエリストはおらず、その中で彼女は最強を誇っていた。後輩にも、卒業した先輩にも、同学年の人間にも負けたことはなかった。しかし彼女はそんな20人もいない分野での頂点には興味がなかった。いやむしろ頂点にすら興味がなかったと言える。
 彼女が興味があったのはもっと単純かつ明快なもの。「結果」ではなく「過程」。使い古された言葉ではあるが、勝利は二の次で、それ以上にデュエルを楽しみたいという気持ちが強かった。勝っても負けても「いいデュエルだった」と相手と握手できるようなそんな濃い内容のデュエルを求めていた。そのな彼女は、全国中学生デュエル大会へと参加し、期待を膨らませていた。
 たった20人の頂点に立っている自分。そんな自分はいったい全国の同年代のデュエリスト相手にどこまで通用するのだろう。自分はどこまでいけるだろうか? ベスト32? ベスト16? もしかしたらベスト8まで行っちゃうかもしれない。友人たちも応援してくれた。
 その結果、難なくベスト4まで到達。その時点で十時は物足りなさを感じていた。
(拍子抜け……もっとすごい人たちとデュエルできると思ってたのに……)
 それでも彼女はまだ期待していた。次は準決勝。それに勝てば決勝。そこまで行けば今までにないくらい強い人たちとデュエルできる筈。そう考え、自分を鼓舞した。
「あの十時ってやつ強すぎ。あんなの勝てねーって。チートだチート」
「だよなー。おかげでベスト64にも入れなかったっつーの。くっそ、自信あったのになー」
「ありゃ次元が違うって。こっちの動き逐一止められて全然楽しくなかった」
 会場の中を歩いているとそんな声が聞こえてきた。自分の実力に確信を持つ反面、自分に敵う相手がいないのではないかと言う疑念が生まれた。普通に考えればそんなことはない。だが、彼女はそう感じてしまうほどにデュエルに手応えを感じていなかった。
 準決勝。状況は圧倒的に彼女の有利。相手の手札は1枚。フィールドにはカードがない。カードを1枚セットしてターンエンドした。
「速攻魔法、《サイクロン》を発動! エンドフェイズにそのセットカードを破壊するわ!」
 破壊されたのは《聖なるバリア-ミラーフォース-》。対戦相手の逆転の芽は完全に潰え、十時のターン。《銀河眼の光子竜》のダイレクトアタックによって十時は決勝進出が決まった。
 ライフポイントを1ポイントも削られることはなかった。相手は今大会ではそれなりに注目されていた選手らしく、優勝候補とも言われていたことを試合前に彼女は知っていた。優勝候補とデュエルするのはこの大会で2回目。だがこの様だ。決勝戦の相手も優勝候補の1人。しかしこの調子では期待はできないだろうと彼女は考えていた。
 デュエルが終わり、対戦相手と握手する。その間互いに言葉は交わさなかった。「いいデュエルだった」なんて台詞は、口が裂けても言える雰囲気ではなかったし、当然十時自身もいいデュエルだったとは思っていなかった。
 振り返りステージを降りる。その時、対戦相手の呟きが十時の耳に突き刺さる。心に、突き刺さる。
「つまんね」
 十時直は決勝には現れず、それ以来デュエルをやめた。

(あれから3年間、針間くんとミハイルが声を掛けてくるまで私はデュエルをやめた。そして2人とデュエルして私は何年ぶりかの敗北を味わった)
 自分に勝てる相手がいる。3年前の彼女ならそんなことに大きな喜びを感じたかもしれない。しかし、心が大人となった今、彼女にとってその敗北は何かを悟るのに十分なものだった。
 ああそうか、強い方が勝つんだ。下剋上も、番狂わせも、意外な結果もこの世にはない。勝つ者と言うのは決められてるんだ。最初から勝者も敗者も決まってるんだ。
 彼女はより、デュエルに楽しみを感じられなくなった。
(だからムカつくのよ。希望とか、努力とか、そんなものを信じてるあなたが!)
「《フォトン・クラッシャー》を通常召喚」
「《激流葬》を発動! すべてのモンスターを破壊します!」
 モンスターの召喚時に発動できる集団破壊罠(マス・デストラクション・トラップ)。止めを刺そうとモンスターを召喚してくると読んでの一手だ。
「甘い。《魔宮の賄賂》を発動。《激流葬》を無効化する」
 《激流葬》は通らず、十時の場には攻撃モンスターが2体となった。
「……《魔宮の賄賂》の効果で1枚ドローします」
「バトルよ、《フォトン・クラッシャー》で裏側守備モンスターに攻撃!」
「っ……《バルキリー・ナイト》の効果を発動します! 戦闘でこのモンスターが破壊され墓地へ送られた時、墓地の戦士族モンスターとこのカードをゲームから除外して、墓地からレベル5以上の戦士族モンスター1体を特殊召喚します!」
 璃奈は《バルキリー・ナイト》と《H-C エクスカリバー》をゲームから除外する。
「《E・HERO ネオス》を守備表示で特殊召喚です!」
「しつこいわね……《超銀河眼の光子龍》で《E・HERO ネオス》を粉砕!」
「そっちは通しません! 《次元幽閉》を発動! 《超銀河眼の光子龍》をゲームから除外します」
 次元の裂け目へと飲み込まれ、《超銀河眼の光子龍》はフィールドから姿を消した。
(やりました! これで……)
 これで盤面は覆せる。そう心の中で思うよりも早く、十時は伏せカードを発動させていた。
「《フォトン・クラッシャー》をリリースして、《光霊術-「聖」》を発動。除外されているモンスター1体を特殊召喚できる」
 この効果は手札の罠カードを見せることで無効化できる……だが。
「私の手札に……罠カードはありません」
「そう、それならもう1度《E・HERO ネオス》に攻撃!」
 今度こそモンスターが途絶える。
『なんとか防ぎ切りましたが……十時選手はその上を行っていますね。まず《超銀河眼の光子龍》をどうにかしないことには始まらないでしょう……』
「少し延命しただけよ……私の勝ちは揺るがない。カード1枚セットしてターンエンド」

第26ターン
璃奈
LP:4000
手札:2
無し

十時
LP:8000
手札:0
《超銀河眼の光子龍》、SS

「私のターン、ドロー!」
 引いたのは《超銀河眼の光子龍》を破壊することのできるカード。即座に発動を宣言する。
「《E・HERO アナザー・ネオス》をコストに、《ライトニング・ボルテックス》!! 十時さんのフィールドの表側モンスター全てを破壊します!」
「チェーン、《ディメンション・ゲート》。《超銀河眼の光子龍》をゲームから除外する」
 除外されたことで《超銀河眼の光子龍》は降り注ぐ雷撃をかわす。
(またかわされてしまいした。十時さんの場は開いたけど、《ディメンション・ゲート》は私がダイレクトアタックを宣言したときに自壊することができる。そして《ディメンション・ゲート》が墓地へ行ったら除外されてる《超銀河眼の光子龍》は戻ってきてしまう……攻撃はできませんか。それなら)
「《E-エマージェンシーコール》を発動! 《E・HERO バブルマン》を手札に加え、手札がこのカードのみなのでそのまま特殊召喚です!」
 そしてフィールドにもカードは《E・HERO バブルマン》のみ。もう1つの効果によってデッキからカードを2枚ドローする。
「《E・HERO プリズマー》を通常召喚。エクストラデッキの《E・HERO エアー・ネオス》を見せることでデッキから《N・エア・ハミングバード》を墓地へ送って、名称を変更します。レベル4のモンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 疾風の救世主、《ダイガスタ・エメラル》!! オーバーレイユニットを1つ取り外して、効果を発動します!」

《ダイガスタ・エメラル》 ORU:2→1

「墓地から効果を持たないモンスター1体を蘇生! 《E・HERO ネオス》を守備表示で特殊召喚!」
(両方とも守備表示。一時凌ぎに過ぎないわ)
「私はカードを1枚伏せて、ターンを終了します」

第27ターン
璃奈
LP:4000
手札:0
《ダイガスタ・エメラル》、《E・HERO ネオス》、SS

十時
LP:8000
手札:0
《ディメンション・ゲート》

「私のターン。《超銀河眼の光子龍》がいないから大丈夫? このドローで手札はたった1枚だから大丈夫? 壁が2体いるから大丈夫? そんな程度で止められると思っているなら大間違いよ。《マジック・プランター》を発動。《ディメンション・ゲート》を墓地へ送って2枚ドロー。さらに」
 《ディメンション・ゲート》が墓地へ送られたことで、《超銀河眼の光子龍》はフィールドに特殊召喚される。
「《フォトン・リザード》を通常召喚。バトル、《フォトン・リザード》で《ダイガスタ・エメラル》を、《超銀河眼の光子龍》で《E・HERO ネオス》を攻撃……!」
 璃奈を守る壁は2体とも破壊され、再び璃奈のフィールドは壊滅状態となる。
「手札0枚。フィールドにはカード無し。ライフ差も4000……玄くん、これじゃまだ『自殺決闘(アポトーシス)』は使えないの?」
 フィールドの状況を確認し、真子が玄に問いかける。
「いや……『自殺決闘(アポトーシス)』はすでに発動してると思うんですけどね。完全ではななさそうだけど」
「えっ、そうなの?」
「『自殺決闘(アポトーシス)』って発動条件がかなり曖昧なんっすよ」
 昨日の円城とのデュエルではライフが1000を切ったあたりで発動した。彼女のデュエリストレベルが8とそこまで高くなかったせいかギリギリまで発動しなかった。
 対する十時のデュエリストレベルは10。円城の時に比べ発動条件は緩くなっているが、それでもまだライフが4000残っている。『自殺決闘(アポトーシス)』は発動しているが、まだ完全な状態ではないのだ。
「あと1500……いや1000くらいライフが削れれば完全発動まで行けると思うけど」
(と言っても、それは十時先輩が意図的にさせてない感じか。一撃必殺を狙ってるようだし……これは実力以前に璃奈とは相性が悪いかもな)
「メイン2、《フォトン・リザード》の効果を発動。このカードをリリースしてデッキから《フォトン・スラッシャー》をサーチ。ターンエンド」
『またも早川選手は防ぎ切ります。ですけど……』
『遂に手札もなくなってしまいました。次のターンのドロー、これに全てが掛かっていると言っても過言ではありませんね……』

第28ターン
璃奈
LP:4000
手札:0
SS

十時
LP:8000
手札:2
《超銀河眼の光子龍》

「私のターン」
 デッキトップに手をかざす。璃奈の目は未だ勝利を諦めていなかった。
「なんでよ……」
 十時が口を開く。そのせいか璃奈の動きは止まる。
「なんで諦めないのよ……どう見たって勝てるわけがない。こんなの続けたって無駄でしょ」
「無駄なんかじゃありません。まだ私のデッキにはこの状況を打開できるカードが入ってます。それを引ければ、私はまだ十時さんに喰らい付けます」
「引けたらいいかもしれない……でも引けなかったら? 期待するだけ期待して、それでも駄目だったら最悪じゃない! それなら期待しないほうがいい! やらずに後悔するのとやって後悔するのだったら、私はやらずに後悔した方がまだましよ!」
 十時は今までにないくらい声を荒げる。3年前の自分と今の璃奈を重ね合わせ、感情が抑えきれなくなる。
(なんで……なんでこの子は……ッ!)
「確かに……やらずに後悔するのとやって後悔するのだったら、やらずに後悔した方がいいかもしれません。頑張って頑張って駄目だったら、悔しいですもんね。でも、やって満足するのと、やらずに満足するのだったら、私はやって満足したいです! 絶対そのほうが嬉しいですから!」
「っ……!」
「行きます……ドロー!」
 ドローカードを確認すると、璃奈は伏せていた1枚のカードを発動させた。
「永続罠、《リビングデッドの呼び声》を発動! 《E・HERO エアーマン》を特殊召喚して、効果で《E・HERO アナザー・ネオス》をサーチ、そのまま通常召喚です!」
(《E・HERO アナザー・ネオス》を召喚した……狙いはランク4エクシーズ?)
「速攻魔法、《デュアルスパーク》! 《E・HERO アナザー・ネオス》をリリースして、《超銀河眼の光子龍》を破壊します!」
「くっ……そんなカードまで」
 遂にフィールドから完全に《超銀河眼の光子龍》が消え去った。さらに。
「《デュアルスパーク》の効果でデッキからカードを1枚ドローします」
(フィールドには《E・HERO エアーマン》だけ……これだけなら大した脅威じゃない)
 だが、ここぞという場面で逆転の札を引くのが早川璃奈と言う少女だ。そのことを十時も少なからず感じ始めていた。
「魔法カード、《ホープ・オブ・フィフス》を発動! 墓地の《E・HERO プリズマー》2枚、《E・HERO アナザー・ネオス》2枚、《E・HERO バブルマン》をデッキに戻して、2枚ドロー!」
 最高のタイミングでのドローブースト。璃奈は手札に加わった切り札を発動させる。
「行きます、《ミラクル・コンタクト》を発動! 《E・HERO ネオス》と《N・エア・ハミングバード》をデッキに戻して、コンタクト融合!! 羽ばたいて、《E・HERO エアー・ネオス》!!」
『早川選手! このタイミングで《E・HERO エアー・ネオス》を呼び出しましたーっ!! ライフポイントの差は4000! その分だけ《E・HERO エアー・ネオス》は攻撃力を上昇させます!』
『……と言いますか、これは』

《E・HERO エアー・ネオス》 ATK:2500→6500

「合計攻撃力……8300……っ!?」
「これを受けたらナオのライフは一気に0になる……!」
 一発逆転の切り札。その登場に宮路森のメンバーたちも驚きを隠せない。
「行きます……《E・HERO エアー・ネオス》と《E・HERO エアーマン》でダイレクトアタックです!!」
(これが通れば私の勝ち……通って下さい!)
 だが。
「させないわ……《クリフォトン》の効果を発動!」

十時 LP:8000→6000

《E・HERO エアー・ネオス》 ATK:6500→4500

 《クリフォトン》。手札から墓地へ送り、2000のライフを代償とすることで、このターン自身が受けるすべてのダメージを0にする防御カード。いかに合計攻撃力8300と言えど、この防御を突破はできない。
『十時選手、手札に《クリフォトン》を握っていました! 早川選手の決死の攻撃も届きません!!』
「そして、このエンドフェイズに《E・HERO エアー・ネオス》はエクストラデッキに戻る。あなたのフィールドには《E・HERO エアーマン》しか残らないわ」
 形勢逆転ならず。十時の手札はたった1枚だが、そのカードは《フォトン・リザード》でサーチした《フォトン・スラッシャー》。《E・HERO エアーマン》がやられるのは確定だ。
(だから言ったのよ。勝敗なんてすでに決してる。私の勝利は揺るがない……なのに……)
「これも防がれちゃいましたかぁー。やっぱり十時さんは強いですね」
 璃奈は無邪気に笑ってみせる。下剋上も、番狂わせも、意外な結果もこの世にはあるのだと、満面の笑みを浮かべる。
(何で……何でその笑顔を少しも曇らせないのよ……ッ!)
 状況は圧倒的不利。にも関わらず、璃奈は勝負を少しも諦めてなどいない。むしろこの状況を楽しんでいるようにすら思えた。
「璃奈はな……ここにいる誰よりもデュエルを楽しんでいるんだ」
 特定の誰かに向けるわけでもなく、独り言のように玄はそう呟いた。鷹崎も真子も音無も、その独り言を静かに聞いた。
「相手が格上でも格下でも互角でも、男でも女でも子供でも大人でも、ビートダウンでもパーミッションでもフルバーンでもロックでも、璃奈にとっては等しくデュエリストで、璃奈にとってはどれも楽しいデュエルなんだ」
 十時とは全くの反対に位置する璃奈。しかしある意味では十時も全く同じと言えた。少なくとも3年前の彼女とは。
(私は……この子みたいになりたかった……? 相手の実力なんて関係なしに、自分のデュエルをして、無邪気に笑って、勝ったり負けたりを繰り返して、自分の意思を曲げないで、そして誰よりも……)
「今からだって、楽しめますよ」
 璃奈が十時をを見つめる。合わせるように、十時も璃奈を見つめた。まるで心でも読まれたかのように、璃奈は十時の感じていたことを口にする。十時はそれを黙って聞いた。
「今からだっていいじゃないですか。いつでも、どこでも、だれとでも、なにをしても、どうしても、どうやっても……デュエルは楽しいんです。だから、詰まらないなんて言わないで下さい」
 十時は璃奈を見つめていた瞳を閉じ俯いた。何を考えているのかは誰にもわからない。そして10秒も経たないうちに、彼女は頭を上げた。
「はぁ……詰まらないわ。やっぱり詰まらない。年下の女の子にこんなに言われるだなんて、すっごい詰まんない」
「十時さん……」
「私はデュエルが好きだった。ううん、きっと今でも好きなんだわ。だから、嫌いになりたくなかったから、言い訳して、嫌いになったふりをして、自分を騙して、距離を取った。最初からそんなこと分かってたのに……分かってたはずなのに、なんで気付かなかったのかしら。私は勝つわ。実力とか、相性とか、そういうの抜きにして、単純に、あなたに勝ちたくなった……!」
「……はいっ、私も負けません!」
 早川璃奈と十時直の本当のデュエルは、これから始まる。

第29ターン
璃奈
LP:4000
手札:1
《E・HERO エアーマン》、《リビングデッドの呼び声》

十時
LP:6000
手札:1
無し

 前髪を両側に掻き分け、十時の瞳が眼前の少女を映し出す。同時に、璃奈の目にも十時の顔がはっきりと見えた。
(スッキリした。視界もそうだけど、なんかつっかえが取れた気分。こんな気分になるのっていつ以来? いや、そんなことより今は……目の前の彼女を倒すことだけを考えよう)
「私のターン、ドロー! まずは《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚。さらに《銀河零式》を発動! 墓地の《フォトン・クラッシャー》に蘇生させて、このカードを装備する。そしてレベル4のモンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 煌く剣を正義のために振るえ、《輝光帝ギャラクシオン》!! 効果を発動!」

《輝光帝ギャラクシオン》 ORU:2→0

「オーバーレイユニットを2つ取り外し、デッキから《銀河眼の光子竜》を特殊召喚!! バトル!」
 《輝光帝ギャラクシオン》が《E・HERO エアーマン》の体を切り裂く。防御札のない璃奈はこれを受けるしかない。

璃奈 LP:4000→3800

「そして、《銀河眼の光子竜》でダイレクトアタック! 破滅のフォトン・ストリーム!!」
「きゃあああああああああっっ!!」

璃奈 LP:3800→800

(璃奈のライフが一気に減った……これで『自殺決闘(アポトーシス)』が十全に発動するはずだ。だが、十時先輩の雰囲気もさっきとは違う。こりゃあ、本格的にどっちが勝ってもおかしくなくなってきたな)
 向かい合う2人の少女は笑いあう。場も、ライフも、アドバンテージも、圧倒的に差がついている。しかしそんなことは意に介さず、2人の少女はデュエルを楽しむ。
「楽しいですね、十時さん」
「ええ、楽しいわ早川さん」
 もはや勝敗など関係なくなるくらい2人はこのデュエルを楽しんでいた。だからこそ。
((このデュエル、負けられない……いや負けたくない!))
「私はこれでターンエンドよ。さぁ来なさい! あなたの全力を見せて!」

第30ターン
璃奈
LP:800
手札:1
無し

十時
LP:6000
手札:0
《輝光帝ギャラクシオン》、《銀河眼の光子竜》

「私のターン、ドロー!」
(来ました……! これで一気に削らせてもらいます!)
 今引いたカードをデュエルディスクへ読み込ませる。璃奈の全身全霊を込めた1枚だ。
「《死者蘇生》を発動! 墓地から《E・HERO エアーマン》を特殊召喚します!」
 このデュエル中3度目の特殊召喚。その効果によりデッキより《E・HERO プリズマー》を蘇生させる。
「レベル4の《E・HERO エアーマン》と《E・HERO プリズマー》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《No.39 希望皇ホープ》!! そして、このカードをオーバーレイユニットとして、カオス・エクシーズ・チェンジ!! 混沌を光に変える、希望の使者! 《CNo.39 希望皇ホープレイ》!!」
「ここで《CNo.39 希望皇ホープレイ》!? 効果の発動条件は確かに整っている……だがそれでも《銀河眼の光子竜》は倒せないぞ」
「《輝光帝ギャラクシオン》を破壊しても私のライフは2000も残っちゃうしね……」
「それでも今の十時さん相手に《銀河眼の光子竜》を放っておけば十中八九次のターンに負けが決まる。なんとかして《銀河眼の光子竜》は排除しておきたいところだけど」
 鷹崎、真子、音無がそれぞれ疑問を口にする中で、玄には璃奈の思惑に見当がついていた。
「言っただろ、あのデッキは切り札の力を十全に発揮するための必殺性を高めた構築だって。まぁ、見てりゃ分かるさ」
「私は《CNo.39 希望皇ホープレイ》の効果を発動! オーバーレイユニットをすべて取り外し、その数だけ《CNo.39 希望皇ホープレイ》の攻撃力を上げ、相手モンスターの攻撃力を下げます! オーバーレイチャージ!!」

《CNo.39 希望皇ホープレイ》 ATK:2500→3000→3500→4000

《銀河眼の光子竜》 ATK:3000→2000→1000→0

(攻撃力を下げたのは《銀河眼の光子竜》の方……このターンで《銀河眼の光子竜》を攻略するつもりね)
 《銀河眼の光子竜》は戦闘する場合、任意で自身ごと戦闘モンスターをゲームから除外できる。戦闘に関しては敗北はほとんどないと言っていいだろう。しかし、その効果も所詮はモンスター効果、無効にしてしまえば意味を成さない。
「そして、このカードを《CNo.39 希望皇ホープレイ》に装備! 《ZW-一角獣皇槍》!!」
「なっ……!!」
『《ZW-一角獣皇槍》……珍しいカードを使いますね。《No.39 希望皇ホープ》サポートである「ZW」の一種です』
『攻撃力1900とアタッカーライン! 光属性ですから《フォトン・スラッシャー》や《E・HERO アナザー・ネオス》と合わせて《輝光子パラディオス》や《セイクリッド・オメガ》を使えますから、邪魔にはなりませんね。そして、《ZW-一角獣皇槍》は《CNo.39 希望皇ホープレイ》に装備された場合のみ発動する恐ろしい効果があります!』
「《ZW-一角獣皇槍》自身の効果で装備された《CNo.39 希望皇ホープレイ》の攻撃力は1900ポイント上昇し、装備モンスターが相手モンスターと戦闘を行う場合、そのモンスターの効果を無効化します!!」

《CNo.39 希望皇ホープレイ》 ATK:4000→5900

 これで《銀河眼の光子竜》の戦闘回避効果は使えない。《銀河眼の光子竜》は真っ向から《CNo.39 希望皇ホープレイ》の攻撃を受けなければならなくなった。
「バトルフェイズ! 《CNo.39 希望皇ホープレイ》で《銀河眼の光子竜》を攻撃! ユニコーン・スラッシュ!!」
「くっ……きゃっああああああああああああ!!」

十時 LP:6000→100

 残りライフは100。首の皮1枚がギリギリ残る。
「これで、ターン終了です」
(分かっていたことですけど、このターンでは倒しきれませんでした。十時さんのフィールドにはもうカードは残ってない。でも……「何となく」だけど、今の十時さんに1ポイントでもライフを残してしまうのは、とってもまずい気がします……)

《CNo.39 希望皇ホープレイ》 ATK:5900→4400

第31ターン
璃奈
LP:800
手札:0
《CNo.39 希望皇ホープレイ》、《ZW-一角獣皇槍》

十時
LP:100
手札:0
《輝光帝ギャラクシオン》

「私のターン……ドロー!」
 十時は璃奈の瞳を見つめた。同じように璃奈もそうする。十時のその目は、勝利を確信する目でもなければ、敗北を覚悟した目でもない。どうなるか分からないギリギリのデュエルを楽しんでいる目だった。
 そして彼女はドローしたカードを恐る恐る確認した。
「……来たわ! 魔法カード、《貪欲な壺》を発動! 墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」
 最悪の状況から最高のドロー。璃奈の同様、逆境からの最高のパフォーマンスを見せる。
「あなたの全力、見せてもらったわ。だから、次は私が全力であなたを倒す! 《フォトン・サンクチュアリ》を発動!」
 レベル4、光属性、雷族、攻撃力2000、守備力0の《フォトントークン》2体を守備表示で特殊召喚する魔法カード。光の球が十時のフィールドに現れる。
「そして、2体の《フォトントークン》をリリース! 《フォトン・カイザー》! このモンスターが召喚、反転召喚に成功したとき、デッキ、手札から同名モンスター1体を特殊召喚できる!」
 もう1体の《フォトン・カイザー》が現れる。
「これでレベル8のモンスターが2体……っ!」
「レベル8の《フォトン・カイザー》2体で、オーバーレイ! 銀河を覆いし無限の可能性よ、時空を歪め、私を最高の勝利へと導け! エクシーズ召喚! 時空の覇者、《No.107 銀河眼の時空竜》!!」
 禍々しい機械のような姿をした竜。「光子(フォトン)」ではなく「時空(タキオン)」を模られた「銀河眼」のもう1つの姿。
「バトルフェイズ! オーバーレイユニットを1つ取り外し、《No.107 銀河眼の時空竜》の効果発動!」

《No.107 銀河眼の時空竜》 ORU:2→1

「このモンスター以外のフィールドのすべてのモンスターの効果を無効にして、そのステータスを元に戻す!」
「そ、それじゃあ……《CNo.39 希望皇ホープレイ》の攻撃力が……」

《CNo.39 希望皇ホープレイ》 ATK:4400→2500

 《CNo.39 希望皇ホープレイ》は《ZW-一角獣皇槍》の恩恵を受けることができなくなり、その攻撃力を元の数値まで戻す。
「これで終わりよ……《No.107 銀河眼の時空竜》と《輝光帝ギャラクシオン》で攻撃! 殲滅のタキオン・スパイラル!!」
「……やっぱり十時さんはとっても強いですね。私の……負けです」

璃奈 LP:800→300→0

 ソリッドビジョンの衝撃で軽く璃奈の体が浮き、後方へと飛ばされる。対する十時は変わらぬその位置に、2本の足で堂々と立っていた。
「勝った……私が、勝った……!」
 勝利を噛み締めるように、何度も反芻するように呟く。そのままぐっと拳を握りしめ、十時は天高く拳を上げた。
 今まで誰も見たことのないような、楽しそうな笑顔で。


 To be continue

     


「ありがとうございました」
 2人の少女の決闘が終わり、先に口を開いたのは敗者――璃奈だった。
「楽しかったです。またやりましょうね」
「……お礼を言うのはこっちの方よ。ありがとう早川さん。それとごめんなさい。色々、ひどいこと言っちゃったから」
 申し訳なさそうに俯く十時。
「いえ、全然気にしてませんよ。だからそんな顔しないでください。勝者は笑ってないといけないんですよ?」
「……ふふっ、そうよね。本当にありがとう。また今度……次は、チームとかそういうの関係なしにデュエルしましょう」
「はいっ」
『さあっ! 遂にやってきましたよ! 神之上高校からは最後の一人! 現在はレベル10と言うことになっていますが、元『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』の経歴を持ったデュエリスト! 2年、白神玄選手です!』
「よーっやく俺の出番か。滅茶苦茶久しぶりな気がするぜ」
「クロくん……あとは任せましたよ」
「ああ、あとは任されてやるよ」
 パン、と互いの手を軽くタッチし、璃奈はステージから降り、玄はステージへと登っていく。

「さて、白神の出番か。この盤面……神之上の連中にとって吉と出るか凶と出るか……」
 観客席。呟いたのは鳳瞬だ。
「どういうこと、瞬ちゃん?」
「だからその呼び方はやめろと……まぁいい。十中八九このターンの内に白神は十時を倒すだろう。そうなれば次は『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』同士の決闘となる。そこに行きつくにあたって、有利となるか不利となるか……と言う話だ」
「そんなの不利じゃないの? 十時さんを倒すために最低1枚はカード消費するんだから、どう考えたってアドバンテージの面で白神くんの方が不利になるじゃない」
 そう答えたのは春江。言っていることは至って当たり前のこと。先程の璃奈と十時のデュエルも、十時が先にアドバンテージを消費していたためあそこまでの接戦になったが、もしも対等な条件の下デュエルしていればもっと早く決着が着いていただろう。
 だが。
「そうとも限らない」
 鳳はそう返した。
「普通に考えればその考えは正しい。だが、逆に考えれば向こうの大将が来る前に下準備をしておけると言うことだ」
「下準備……ですか?」
「ああ。針間戒……奴がどんな戦術、デッキ、デュエルスタイルを使用してくるかは分からないが、白神には分かっているはずだ。奴ほどのデュエリストなら、十時のライフを0にしつつ、針間の攻めを待ち構えることができるかもしれん」
「なるほどねぇ……」
「とは言っても、あくまで俺の想像にすぎんがな。だが白神ならばその程度の事、やってのけそうだと思ってな……」
 そして……。

第32ターン

LP:8000
手札:5
無し

十時
LP:100
手札:0
《輝光帝ギャラクシオン》、《No.107 銀河眼の時空竜》

「俺のターン、ドロー」
(私のライフはたったの100……はっきり言ってこのターンを生きる残るのは不可能ね。問題はどれだけの戦力を針間くんに残せるか、そして彼の戦力を削れるか。と言っても私のできることはもうないけど)
 玄の手札は6枚。このうち何枚削れるかによって、後続の戒がどれだけ有利になってくるかが変わってくる。
 だが、まさか誰も玄がこのターンのエンドフェイズに手札0枚になるとまでは予想できなかった。
「さぁて、久しぶりだ。うまくやれるかは分からねぇが、気を引き締めてやりますか」
 そう言って玄は誰にも聞こえないような小声で呟いた。
「『明鏡止水(クリア・マインド)』……」
 すると玄は、だらん、と両腕から力を抜き棒立ちした。そして――。
「――すぅー……ふぅーっ。すぅー……ふぅーっ」
 深呼吸をし始めた。
(ちょっ……これってまるで……)
 ミハイルみたいじゃないか、十時は……いや会場中にいる大半の人間がそれを感じていた。
「白神……てめぇまさか……ッ!」
『……これは、どういうことなんでしょうか? ミハイル選手の物真似?』
『……物真似とは何か違いますね。物真似、と言うにはあまりにも……』
 明石プロはそれ以上言葉を続けなかった。いや、続けてはいけないと思った。まるでそんなことはあってはならいと言うように、自らの思考を否定し、口を噤んだ。
 あまりにも……あまりにも――。

「――そのままで有り過ぎます」

 そう呟いたのは璃奈。未だ若干だが『自殺決闘(アポトーシス)』の力が発動したままの彼女は、壇上に立っている白神玄がミハイル・ジェシャートニコフに重なって見えたのだ。
「……ふぅー。さぁ、行くぜ」
 呼吸が、手付きが、立ち方が、視線が……白神玄が行う一挙一動がミハイルのそれそのものだった。
「まずは《先史遺産クリスタル・ボーン》を特殊召喚。このカードは相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合手札から特殊召喚できる。さらに、この効果で特殊召喚に成功した時、手札または墓地から「先史遺産」と名の着いたモンスター1体を特殊召喚できる! っと……まぁ効果は使わないんだけどな」
 あいにく玄の墓地には「先史遺産」は1体もいない。
「次だ。フィールドに「先史遺産」がいるとき、《先史遺産クリスタル・スカル》は手札から墓地へ送ることで、デッキから《先史遺産クリスタル・スカル》以外の「先史遺産」をサーチできる。俺は《先史遺産モアイ》をサーチしそのまま特殊召喚!」
 《先史遺産モアイ》は「先史遺産」がフィールドに存在する場合、手札から特殊召喚することができる。レベル3の《先史遺産クリスタル・ボーン》とレベル5の《先史遺産モアイ》。このままではシンクロもエクシーズもできないが……。
(召喚権がまだ残ってる。出てくるのはチューナー? それともレベル3かレベル5のモンスター?)
 十時のその考えはほぼ正解だったと言える。しかしその展開量は想像を超えていた。
「《先史遺産モアイ》を手札に戻し、《A・ジェネクス・バードマン》の効果を発動! このモンスターを特殊召喚する! そして《先史遺産モアイ》の効果を発動。自分フィールドに「先史遺産」が居れば手札から特殊召喚できる! 再び現れろ《先史遺産モアイ》! 続いて通常召喚だ、《深海のディーヴァ》!」
 《深海のディーヴァ》は召喚成功時にデッキからレベル3以下の海竜族モンスター1体を特殊召喚できる。呼び出したのは同名モンスター。これで玄のフィールドは5体のモンスターに埋め尽くされた。
「どんどん行こうか。レベル3の《先史遺産クリスタル・ボーン》にレベル2の《深海のディーヴァ》をチューニング! 科学と魔術が交差するとき、新たなる物語の1ページが刻まれる! シンクロ召喚! 《TG ハイパー・ライブラリアン》!」
 ジェジャートニコフ兄妹がよく使用するドローブースト効果を持つシンクロモンスター。それが現れたということは玄の展開はまだまだ終わらないということだ。
「続いて、レベル5の《先史遺産モアイ》にレベル3の《A・ジェネクス・バードマン》をチューニング! 煉獄より生まれし紅蓮の炎を身に纏いて、不都合な現実を捻り潰せ! シンクロ召喚! 砕け、《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》!」
「今度はアンナちゃんのフェイバリット……!」
「まだまだ終わりそうにないね……これは」
「《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果で1枚ドロー。そして今引いたカードをデッキトップに置き、墓地から《ゾンビキャリア》を特殊召喚! さらに墓地の《D-HERO ディアボリックガイ》の効果を発動。このカードをゲームから除外し、デッキから同名モンスターを特殊召喚!」
「なっ……いつの間にそんカードが墓地に!?」
「辻垣内真子……ミハイルの発動した《手札抹殺》か。あの時捨てられた4枚のカードの中に《ゾンビキャリア》も《D-HERO ディアボリックガイ》も確かにあった。ここで使ってくるか……」
「レベル6の《D-HERO ディアボリックガイ》にレベル2の《ゾンビキャリア》をチューニング! 2体目の《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》をシンクロ召喚だ!」
 さらに《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果で1枚ドロー。
「そしてもう1度《D-HERO ディアボリックガイ》の効果を発動し、特殊召喚する!」
 本来ならば《D-HERO ディアボリックガイ》は準制限カード。その効果の使用は1度きりとなる。しかしこの変則的なルールならば仲間の力を利用し、その効果を2度発動させることも可能なのだ。
「レベル6の《D-HERO ディアボリックガイ》を、今度はレベル2の《深海のディーヴァ》とチューニング! 瓦礫より生まれし屑鉄の竜よ、その力を存分に振るい眼前の敵をぶっ壊せ! シンクロ召喚! 《スクラップ・ドラゴン》! 《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果で1ドロー……にチェーンして《シンクロ・マグネーター》の効果を発動! このモンスターを手札より特殊召喚する!」
 次から次へと溢れるモンスター。その光景はまさにミハイルやアンナがデュエルしているかのようだった。
「レベル5の《TG ハイパー・ライブラリアン》にレベル3の《シンクロ・マグネーター》をチューニング! 閃光に包まれた決闘の竜……今こそその力を開放しすべてを覆う盾となれ! シンクロ召喚! 照らせ、《閃珖竜 スターダスト》!」
 これで、玄のフィールドには4体のレベル8、ドラゴン族シンクロモンスターが並んだ。
「まずは《スクラップ・ドラゴン》の効果を発動。《スクラップ・ドラゴン》自身と《No.107 銀河眼の時空竜》を選択し破壊する!」
 さらにチェーンして《閃珖竜 スターダスト》の効果を発動し、1度だけの破壊体制を《スクラップ・ドラゴン》に付加し破壊を防ぐ。アドバンテージの喪失なしに《No.107 銀河眼の時空竜》を破壊することに成功した。
「そしてバトルフェイズ……《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》で《輝光帝ギャラクシオン》に攻撃!」
「これで……負け、ね」

十時 LP:100→0

『……あ、えっと、け、決着です! なんだか目の前の出来事がよく分からなかったというか……分かり過ぎたというか……お姉さん軽く放心してました』
『……兎にも角にも、これで両校とも残る選手は1人ずつになりました。遂に……決着の時が来ます』
 2人のプロデュエリストが驚きを露わにする中、再び玄は聞き取れないような小さな声で呟いた。
「『反逆の忘却(ゼロカウンター・パーミッション)』……」



 10-2 ― 限りなく黒く塗り潰された白 ―



『それでは宮路森高校からも最後の選手です! 2人目の『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』、3年、針間戒選手っ!』
「カードを3枚セット。手札は0枚……やることはもうねぇよ。ターンエンドだ。さぁ、来いよ針間先輩」
「言われずとも……そのつもりだ!」

第33ターン

LP:8000
手札:0
《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》×2、《スクラップ・ドラゴン》、《閃珖竜 スターダスト》、SS×3


LP:8000
手札:5
無し

「俺のターン、ドロー」
 このドローによって戒の手札は6枚となる。しかし……。
「針間さんがどういったデュエリストなのかは分かりませんが……このフィールドはそう簡単に崩せないはずです」
 2体の《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》によって魔法・罠はほぼ無力化。破壊しようにも《閃珖竜 スターダスト》の効果で防がれ、壁を作ろうとも攻撃力合計11300のドラゴン軍団に加え、《スクラップ・ドラゴン》の破壊効果。さらには正体不明の3枚のセットカード。並大抵の手札では突破することは不可能なレベルのフィールドだ。
「流石だな白神……この状況は「このターンでは」返せないな」
「はっ、言ってろよ。あんたが何しようが、勝つのは俺だ」
「いいや、俺だ。お前は精々今の状況を楽しんでろ。《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚」
 極めて汎用的なアタッカー。しかし2100程度の攻撃力では玄の布陣は超えられない。
「さらに、《D-HERO ダイヤモンドガイ》を通常召喚。効果を発動する。チェーンはあるか?」
「……ねぇよ。お好きにどーぞ」
「そうさせてもらう。デッキトップを捲り、そのカードが通常魔法だった場合墓地へ送り、次のターンのメインフェイズにその効果を発動することができる。捲れたのは《終わりの始まり》。発動確定だ」
 強力なドローカードである《終わりの始まり》。次のターン、戒の手札は通常のドローを含め4枚引くこととなる。
「中々の好スタートじゃねぇか」
「まだまだ行くぞ。レベル4の戦士族モンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 切り落とせ、《H-C エクスカリバー》!!」
「それは通さねーよ。《奈落の落とし穴》発動だ」
 《H-C エクスカリバー》は効果を使われることなく、奈落の底へと落ちていく。
「このまま何にもなけりゃあ次のターンで一気に決めるぜ?」
「このまま終わるかよ。ダメージ入ればいいかくらいに考えてたが、まぁ通らねぇよな。それじゃあ……」
 4枚の手札を右手に持ち替え、戒はその全てをデュエルディスクに差し込んだ。
「カードを4枚セット。ターンエンドだ」
(なるほど。最初からそっちが狙いね……まぁそれでも2枚は止められる。なら怖いのは……)
「手札が0枚じゃなくなる瞬間。ドローフェイズでのタイミングですね」
 《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》の効果は非常に強力だが、自らの手札が0枚でなければ発動することは敵わない。そしてドローフェイズならばその条件は崩れる。誰もが考え付くありきたりな手だが、それ故に実行しやすくまた成立させやすい。
(でも……)

第34ターン

LP:8000
手札:0
《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》×2、《スクラップ・ドラゴン》、《閃珖竜 スターダスト》、SS×2


LP:8000
手札:0
SS×4

『スタートから両選手とも手札0枚と言う全力前回な展開! 針間選手は白神選手の布陣を突破することができるのでしょうか!?』
「俺のターン、ドロー」
 戒が狙うのはこの瞬間。《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》が力を失うこの瞬間だ。だが。
「この瞬間、優先権を行使させてもらうぜ。速攻魔法、《サイクロン》!」
 璃奈がアンナと初めて出会った時のデュエル。その時璃奈はセオリーに従いドローフェイズの一瞬を狙った。しかしドローカードが速攻魔法ならば優先権を行使することでその思惑を打破することができるのだ。
(これで1枚破壊したうえで《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》の力を維持できる!)
「その程度……読めていないとでも思ったか? 罠をチェーン発動!」
「っ!」
 手札が0枚になった以上、チェーンしたところで《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》で無効にできる。しかし例外もある。
「カウンター罠、《魔宮の賄賂》! 《サイクロン》を無効にする!」
 スペルスピード3のカウンター罠。いかに《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》と言えども、スペルスピードの差を埋めることはできない。さらに。
「《魔宮の賄賂》の効果によって1枚引きな」
(《魔宮の賄賂》は相手にドローを強制させる効果がある。これで俺の手札はまた1枚……これが速攻魔法でなければ、《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》の効果は使えなくなってしまう)
「ドロー」
 引いたのは通常魔法。優先権の行使はできない。
「その様子じゃ駄目だったようだな。なら永続罠を発動……《超古代生物の墓場》!」
「しまっ……」
 《超古代生物の墓場》。特殊召喚されたレベル6以上のすべてのモンスターの効果の発動権と攻撃権を取り上げる永続罠。玄のフィールドのモンスターはどれもその条件に当てはまっている。
「あのフィールドを一瞬で打ち破りやがった」
「玄くんのモンスターの動きはすべて止められた。まだ手札1枚と伏せられたカードが残ってるけど……」
 現時点で動かなかったということは、《超古代生物の墓場》の墓場を突破できるカードではないということだ。
「流石は針間先輩……この布陣も突破するか。なら次だ。『強大かつ迅速に(ストロング・スウィフト)』……」
 またも小声で呟く。それと同時に玄は行動に移る。
「俺は、《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》と《スクラップ・ドラゴン》、《閃珖竜 スターダスト》……レベル8のモンスター3体でオーバーレイ! 燃える闘志を滾らせろ! エクシーズ召喚! 《熱血指導王ジャイアントレーナー》!!」
「なっ……なんつー勿体ない使い方してんだ」
「効果を発動!」

《熱血指導王ジャイアントレーナー》 ORU:3→2→1→0

「オーバーレイユニットを1つ取り外すことでカードを1枚ドローしお互いに確認する。そのカードがモンスターならば相手に800のダメージを与える。この効果を使用したターンバトルフェイズを行うことはできないが、この効果は1ターンに3度発動することができる。行くぜ! 1枚目、《先史遺産クリスタル・ボーン》。800ダメージ! 2枚目、《マジック・プランター》。ダメージはなしだ。そして3枚目……モンスターだ。《先史遺産クリスタル・スカル》!」
「チィッ……」

戒 LP:8000→7200→6400

「まだだ! リバース罠、《リビングデッドの呼び声》! 蘇えれ《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》!」
「何ッ!?」
 戒のフィールドにまだ《超古代生物の墓場》がある以上、蘇生であろうと特殊召喚されたモンスターは行動できない。つまり狙いは……。
「《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 砕き、壊し、打ち付けろ! 《No.22 不乱 健》!!」
 不気味な漆黒に身を包んだ巨人。攻撃力は《青眼の究極竜》と同じ4500を誇っている。
「無意味に残った《リビングデッドの呼び声》をコストに《マジック・プランター》を発動。2枚ドロー。さらにカードを1枚セットして、ターンエンドだ」
『スタート時点では手札0枚だった白神選手! ここで一気に手札を4枚まで蓄えましたっ!』
『ですが対する針間選手も次のターンには《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果で墓地へ送った《終わりの始まり》の効果によって手札を増やすことができます。盤面がどう転ぶか見ものですね』

第35ターン

LP:8000
手札:4
《熱血指導王ジャイアントレーナー》、《No.22 不乱 健》、SS×2


LP:6400
手札:0
《超古代生物の墓場》、SS×2

「デュエルスキル……って言葉ぐらいは聞いたことあるだろ」
 今から3日前、ふと玄がそんなことを口にした。
「デュエルスタイルの上位的存在。より洗練された決闘者のみが手にすることのできる恩恵……こんなイメージだけど、これであってるかな?」
「概ね正解。少なくとも今はその認識で十分っすね」
「それがどうしたんだよ」
「針間戒。あの人が持っているのはそのデュエルスキルだ」
 と言うか『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』の過半数はデュエルスキルを持っている、と玄は付け加えた。
「まずはこの2つの違いから説明するか。デュエルスタイルってのはデュエリストが多くの時間を費やし、自分にとって最善となる決闘方法を体現させる術のことで、それは間違いなく後天的なものだ。対してデュエルスキルは、デュエリストが生まれながらに持つ他人とは違う個性、特技、能力をデュエルに生かす才能のことで、こっちは逆に先天的なものだ。簡単に言っちまうと、努力の結晶がデュエルスタイル。才能の結果がデュエルスキルって感じだな」
 この2つの大きな違いは、その希少性にあると言っていい。究極的に言ってしまえば、時間さえあればどんなデュエリストであってもデュエルスタイルを身に付けることが可能だ。しかしデュエルスキルは生まれ持った才能がなければ発現はしない。凡人がいくら努力したところで、天才には辿り着けない。
「現在確認されているだけでも、デュエルスキルをもった決闘者は20~30程度。普通に生きてりゃ人生で1人とデュエルできるかどうかってレベルだな」
「そ、そんなに珍しいものなんですか……」
「もしかして玄くん、まさかとは思うけど、あなたも……」
 デュエルスキルを持っているのか。そう真子が問おうとしているのはその場の全員が理解していた。だが、そう言い終わる前に玄が口を開いた。
「うーん、半分正解。俺はデュエルスキルを持ってない。でも、デュエルスキルを使うことはできる」
「どういうこと? 持ってないけど、使える?」
 矛盾。サッカーボールがなければサッカーができないように、ゲームソフトがなければゲームができないように、本がなければ読書できないように、デュエルスキルを持っていなければ、それを使用することなど不可能なのだ。
 しかし、この男、白神玄はそれを可能にする。
「サッカーボールがないなら誰かから借りればいい。ゲームソフトがないなら誰かから借りればいい。本がないなら誰かから借りればいい。デュエルスキルがないなら……誰かから借りればいい。それが俺のデュエルスタイル、『限りなく黒く塗り潰された白(ブラック・ホワイト)』」

「――他者のデュエルスタイル及びデュエルスキルをコピーするデュエルスタイル」
 そう呟いたの璃奈だった。
 最初はミハイルの『明鏡止水(クリア・マインド)』で完璧なフィールドを展開、次にアンナの『反逆の忘却(ゼロカウンター・パーミッション)』でフィールドを制圧し、破られた布陣を鷹崎の『強大かつ迅速に(ストロング・スウィフト)』で立て直した。ネタさえ分かっていればこの異常事態も驚くほどの事ではない。
 しかしそうは言っても――。
「ここまでの精度とはね……」
 精々7、8割程度の再現率だと踏んでいて神之上高校決闘部一同。しかし壇上に立つ彼の姿は、ほぼ100パーセントの再現率でコピーしていると言っても過言ではないだろう。
「事情はよく知らねぇが、今は全盛期ほどじゃないらしいな。とは言え……」
「ほとんど最強と言っていいほどのデュエルスタイル。アンナちゃんやミハイルくんも大概だったけどこれはねぇ……」
 ようは今まで出会ったすべてを自分に取り入れることがあるということ。普通に考えて負けるビジョンが見えない。
「久しぶりだな白神。お前のデュエルスタイルを見たのは」
「そうだな。俺自身、使うのが久しぶりなわけだし。ぶっちゃけここまでうまくいくかは五分五分だったが、うまくいって何よりだ」
「デュエルスタイル、『限りなく黒く塗りつぶされた白(ブラック・ホワイト)』。今までに見た、聞いた、味わった、触れた、嗅いだ、感じたすべてのデュエルスタイル、デュエルスキルを自分のものとして模倣する」
 完全な模倣。それが白神玄が持つ、デュエルスタイルであった。
「だが、どうやら「あの時忘れた」ものはまだ思い出してないようだな」
「それはどうかな? あんたが気付いてないでけで実はもう使ってるかも?」
「はっ、仮にも俺のデュエルスキルだぜ? 使われたらわかるっつーの」
 おっしゃる通りで、と茶化すように肩を竦める玄。
「『明鏡止水(クリア・マインド)』はあの短時間の観察でモノにしたみたいだがな、やはりデュエルスタイルとデュエルスキルをコピーするのは圧倒的に後者のが難しいらしいな。流石にそこまで万能じゃないか」
 努力さえすれば誰にでも使えるデュエルスタイルに対し、才能によってその有無を左右されるデュエルスキルの模倣は短時間では厳しいものがあるらしい。
(あれ? 針間さんの口ぶりからすると、すでにクロくんはデュエルスキルをコピーするタイミングがあったってことですか? でも、それはいったいいつでしょう?)
 璃奈の感じた疑問はすぐに解消されることとなる。
「さぁ、デュエルを続けようぜ。あんたのターンだ」
 玄は戒にターンを始めるよう促し、戒もデュエルの姿勢へと体制を変える。
「まずはお前のエンドフェイズに永続罠、《恵みの雨》を発動。俺がドローするたびにライフを500回復させてもらう。俺のターン、ドロー!」

戒 LP:6400→6900

「さらに、《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果で未来へと飛ばされた《終わりの始まり》の効果を発動。デッキからカードを3枚ドローする!」
 《D-HERO ダイヤモンドガイ》がその効果で未来へと送った魔法カードは、発動コストを必要とせず、その効果だけを発動することができる。本来なら発動に重い条件のある《終わりの始まり》も、《D-HERO ダイヤモンドガイ》を通せば楽に使用することができるのだ。
 そして《恵みの雨》の効果でライフをさらに回復する。

戒 LP:6900→7400

「速攻魔法、《エネミーコントローラー》を発動。対象は《No.22 不乱 健》だ」
 《No.22 不乱 健》はオーバーレイユニット1つと、手札1枚、さらに自身を守備表示に変更することで魔法・罠・モンスター効果を止めることができる。しかし元から守備表示ではその効果を使用することはできない。
「最低限の消費で邪魔な《No.22 不乱 健》を封じたか……」
「まだまだ行かせてもらうぞ。墓地の5体の「BF」をゲームから除外し、もう1枚の《終わりの始まり》を発動! さらに3枚ドローし、ライフを500回復する」

戒 LP:7400→7900

(ライフも手札もほぼ初期状態に戻されたか……いや、針間先輩の恐ろしいところはこれからか)
「《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地から《D-HERO ダイヤモンドガイ》を蘇えらせ、その特殊召喚をトリガーに速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動!」
 攻撃力1500以下のモンスターの特殊召喚成功時に同名モンスターを可能な限り特殊召喚する展開補助魔法。
「玄くんのフィールドにはエクシーズモンスターだけ……《地獄の暴走召喚》の恩恵は受けれられないわね」
「さぁ、行かせてもらうぜ。《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果を発動! デッキトップのカードは《デステニー・ドロー》だ」
(えっ……今、デッキトップのカードを確認せずに名前を言い当てました……?)
「2体目の《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果を発動。《手札抹殺》の発動確定」
 再び効果発動成功。
「流石は『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』。2回連続で成功させるとは良い運を持っているね」
「いいえ、運ではないわ」
 音無の一言に、ふいにそんな言葉が返された。
「君は……」
「喜多見さん。それに美里ちゃんもっ!」
 栖鳳学園部長、喜多見涼香。体調不良の美里に肩を貸し神之上高校決闘部の前に現れた。
「美里ちゃんもう大丈夫なんですか?」
「うん。少し横になってたら大分良くなったよ」
「それで、さっき言ってたのは? 運じゃない……つまりは偶然じゃなく必然として2回連続通常魔法を引き当てったってのか?」
「そういうことらしいよ。さっき喜多見さんから話を聞いたんだけど、私も半信半疑だよ」
 一同の視線が説明を求めるように喜多見へと集まる。
「まぁ、説明するよりも実際に彼のデュエルを見ている方が分かり易いかもね」
「3体目の効果を発動……の前に、こいつを使わせてもらおうか。永続魔法、《デーモンの宣告》」
 ライフを500払い、カード名を1つ宣言。デッキトップのカードを捲り、そのカードが宣言したカードだった場合手札に加え、違った場合そのカードを墓地へ送る。《魔導書整理》や《天変地異》などのカードと組み合わせることによって真価を発揮するコンボカード。だが……。
「ライフを500払い、宣言は《フォトン・スラッシャー》だ」

戒 LP:7900→7400

「デッキトップを何も確認せずに宣言!? まさか……」
「そのまさかよ」
 捲られたのは……《フォトン・スラッシャー》。宣言通りの結果となり、戒の手札へと加わる。
「3度目の《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果発動。《マジック・プランター》……発動決定だ」
『針間選手っ、《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果を3つとも成功させるだけでなく、何の情報も無しに《デーモンの宣告》も成功させましたーっ!?』
「流石だな……針間先輩。《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果によって次のターン以降のアドバンテージを稼ぐあんたの十八番」
 《D-HERO ダイヤモンドガイ》のステータスは決して高いものではない。しかし、その効果によって未来へと送られる魔法たちはどれも一級品。その場を離れようとも、金剛の意思は鮮やかに残り続ける。

 Diamond Dust!!!

「デッキトップのカードが通常魔法じゃなかった……だから間に《デーモンの宣告》を挟んでから《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果を発動した……のか?」
「ま、待ってください! それじゃあまるで、針間さんには次のドローが……」
 璃奈はそこで言葉を紡ぐのを止めた。より正確に言うならば、そこで言葉を遮られた。
「そう、あなたたちの思っている通り、針間くんには見えているのよ。次のドローが」
 沈黙。喜多見のその言葉に、その場の誰もが言葉を失った。
「これが針間戒のデュエルスキル、『四次元視(ハイパー・ヴィジョン)』。未来を見通すデュエルスキルよ」


 To be continue

     


「――まぁ、未来を見通すって言うのは言い過ぎなんだけどね?」
 数秒の沈黙の後、全員が喜多見の方へと振り向く。心なしかさっきよりも視線が痛い。
「いや、ごめんなさい。ほんとごめんなさい。ちょっと見栄を張りたくなったというか、自慢したくなったというか、えっとあの無言で睨むのやめて?」
「それ医務室で私相手にもやったよね。みんなには絶対やらないほうがいいって言ったのに……」
「というか、他人の事で見栄を張ったり自慢するって言うのはどうなのかしらね?」
「ううっ……」
 神之上高校決闘部一同からの視線と言葉で若干涙目の喜多見。これで宮路森の部長を務められているのか甚だ疑問である。
「それで、結局のところ針間くんのデュエルスキルってなんなんだい?」
 閑話休題。音無が方向修正する。
「未来が見ているわけでもないのに《D-HERO ダイヤモンドガイ》と《デーモンの宣告》の効果を成立させたとなると、考え付く結論は1つだとは思うけど」
「察しがいいわね音無くん。あなたの考えてるとおり針間くんのデュエルスキルは、自分のデッキトップの上から数枚のカードを覗き見ることができるのよ」
 デッキトップのカードが分かっているならば、《D-HERO ダイヤモンドガイ》も《デーモンの宣告》もアドバンテージを容易に稼ぐことのできるカードとなる。戒のもつデュエルスタイルとは最高の相性だろう。
「十分すごい力だけど……喜多見さんの冗談のせいで驚きが薄まったわね」
「うっ……もうやめて。私豆腐メンタルだからやめて……」
 自業自得だが、不憫になったのか璃奈が話題を少し変える。
「えっと、その針間さんはデッキトップから何枚くらいのカードが分かるんですか?」
「ええっと確か、本人曰く調子のいい時で――」
 俯き気味だった喜多見が顔を上げ、璃奈の言葉に反応する。すると――。

「大体20枚くらいって……」

「はっ……?」
「「「「ええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!!!」」」
 普段はあまり大きな声を出さない美里や音無までが相当な声量で驚きを声にした。
「ちょっ、喜多見さん! それ私も聞いてないよ!」
「あれ? 医務室でも言ってなかったけ?」
 聞いてない! と再度大声を出す美里。まだ体調が万全でない状態で叫んだせいか若干ふらつく。
「えっと、仮に針間さんのデッキが40枚なら、その半分を知ることができるってことですか!?」
「最初のドローと通常ドロー、《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果に《デーモンの宣告》の効果、あと2回の《終わりの始まり》で合計18枚デッキの圧縮をしてるから……残りのデッキのほとんどがどの順番で並んでるか分かるってこと? なにそれチートじゃない!」
「でもほら、調子のいい時で20枚くらいだから……普段は10枚程度だって言ってたわよ」
「いや、それでも十分すぎるだろ……」
「で、でもっ! クロくんのデュエルスタイルなら針間さんのデュエルスキルもコピーできるんですよね! それなら条件は五分五分……」
「いいえ、無理ね」
 喜多見が璃奈に対しそう呟いた。さっきまでの涙目の状態からは脱し、いつも通りの口調で続ける。
「私も針間くんから聞いた話なんだけどね。彼のデュエルスタイルはデュエルスキルをコピーするまでにはかなり時間がかかってしまうらしいのよ。少なくとも、このデュエル中にコピーするのは不可能らしいわ」
「そんな……」
(クロくん……)



 10-3 ― 決着 ―



「行くぞ。3体の《D-HERO ダイヤモンドガイ》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》!! 効果を発動!」

《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》 ORU:3→2

「通すか! 罠カード発動、《デモンズ・チェーン》!」
 《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》は魔法・罠・モンスター効果のいずれかを次の相手ターンのエンドフェイズまで封じることができる。残しておくのは厄介だと判断し、その効果を封じる。
 だが。
「残念ながら、本命はこっちじゃないぜ?」
 次の瞬間、《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》ごとすべてのモンスターがフィールドから消え去った。《ブラック・ホール》だ。
「……ッ!」
「そして《超古代生物の墓場》、《恵みの雨》、《リビングデッドの呼び声》を墓地に送り、現れろ――炎の化身!」

 Uria Load of Searing Flames!!!

『で、で、で、出ましたっ―!! 「三幻魔」の1体、《神炎皇ウリア》ですっ!』
『《D-HERO ダイヤモンドガイ》や《デーモンの宣告》でアドバンテージを稼ぎつつ、戦士族をメインにした【グッドスタッフ】型のデッキかと思っていましたが……これは予想外ですね』
「針間くんは、デュエルスキル『四次元視(ハイパー・ヴィジョン)』によってドローの順番が分かってる。それ故に成立する大型召喚のコンボ。彼はね、生粋のコンボデッカーなのよ」
 どう行動すればその未来に行きつくか。それが分かれば《神炎皇ウリア》レベルの大型モンスターの展開など、精々上級モンスターをアドバンス召喚する程度の苦労しかない。
「くっ、この瞬間《転生の予言》を発動! あんたの墓地の永続罠を2枚デッキに戻す!」
 ミハイルの発動した《リビングデッドの呼び声》と、鷹崎の発動した《手札抹殺》によって墓地へ送られたもう1枚の《リビングデッドの呼び声》をデッキへと戻す。今大会のルールから、それらのカードは戒のデッキには入らず、このデュエル中の使用できなくなる。これで再利用は不可能だ。
「《神炎皇ウリア》の攻撃力は俺の墓地の永続罠の数×1000ポイントとなる。2枚消えたところで、《神炎皇ウリア》の召喚コストとなった3枚の永続罠がまだ残っている!」

《神炎皇ウリア》 ATK:0→3000

 《神炎皇ウリア》は1ターンに1度、セットされた魔法・罠をチェーンさせることなく破壊することが可能である。そのため召喚成功のタイミングで《転生の予言》を撃たなければならなかった。その結果……。
「これでお前のフィールドには1枚もカードは残っちゃいない。思う存分攻撃させてもらうぞ……! ハイパー・ブレイズ!!」
「ぐっ……ぁあっ!!」

玄 LP:8000→5000

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

第36ターン

LP:5000
手札:4
無し


LP:7400
手札:1
《神炎皇ウリア》、《デーモンの宣告》、SC

「『無形火炎(フォームレス・ファイヤー)』+『派手に大きく(テンペスト)』……俺のターン!」
 その場の状況に合わせて、再びデュエルスタイルを切り替える玄。今度は栖鳳学園の東仙姉弟のデュエルスタイルを混合させたものだ。
「【先史遺産】相手に《神炎皇ウリア》を出したのは軽率すぎるぜ……! フィールド魔法、《岩投げエリア》を発動! さらに、フィールド魔法があるとき、こいつは特殊召喚できる。来い、《先史遺産トゥーラ・ガーディアン》!」
 続いて、玄は手札から《先史遺産モアイ》を特殊召喚する。
「レベル5の《先史遺産トゥーラ・ガーディアン》と《先史遺産モアイ》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 現れろ、《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》!!」
 【先史遺産】デッキの切り札にして、最大火力を誇るエースモンスターだ。
「オーバーレイユニットを1つ取り外し、《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》の効果を発動!」

《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》 ORU:2→1

「相手フィールドのモンスター1体を選択し、そのモンスターの攻撃力が元々の数値から変動していた場合、その数値分だけ相手プレイヤーにダメージを与える!」
 《神炎皇ウリア》の元々の攻撃力は0……そして現在の攻撃力は3000。その差3000ポイントが戒のライフから削られる。
「さらに、この効果によって与えたダメージ分、《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》の攻撃力は上昇する! 喰らえ、インフィニティ・キャノン!!」
 《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》1体によって戒のライフは2000まで削られ、ウリアも破壊。形勢は完全に逆転――。

戒 LP:7400→10400

 ――するはずだった。
「!?」
 本来削られるべきだった3000のライフが逆に上昇している。当然、その矛盾を生じさせたのは戒だ。
「罠カード……《レインボー・ライフ》を発動した。手札1枚をコストにし、このターン俺が受けるダメージはすべて回復へと変わる。そして、《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》はダメージを与えられなければ攻撃力の上昇もない。残念だったなぁ」
「くっ……俺は、ターンエンドだ……」
『セットカードはなし、ですねぇ』
『仮にあったとしても、《神炎皇ウリア》の効果で焼かれるてしまうだけですからね……』

第37ターン

LP:5000
手札:2
《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》、《岩投げエリア》


LP:10400
手札:0
《神炎皇ウリア》、《デーモンの宣告》

「俺のターン、ドロー。そして《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果で墓地へ送られた魔法カードの効果を発動! まずは《デステニー・ドロー》、そして《手札抹殺》、最後に《マジック・プランター》だ」
 2枚ドロー、その後戒は手札を3枚交換、玄は2枚交換し、さらに戒が2枚ドロー。
「そして《手札抹殺》の効果で捨てられた中には《メタル・リフレクト・スライム》がある。こいつは永続罠だ……つまり、《神炎皇ウリア》の攻撃力はさらに上昇する!」

《神炎皇ウリア》 ATK:3000→4000

「ライフを500払い、《デーモンの宣告》の効果を発動。宣言は《貪欲な壺》だ」

戒 LP:10400→9900

「当然成功。そのまま発動させてもうぞ」
 チームメイトたちのカードを適当に5枚選択。《転生の予言》と同様、戒のデッキには加わらずドロー効果だけが反映される。
「そして永続魔法、《平和の使者》、《ブレイズ・キャノン》を発動! これで条件は整った! 《デーモンの宣告》、《平和の使者》、《ブレイズ・キャノン》を墓地へ送り、現れろ――雷の支配者!」

 Hamon Lord of Striking Thunder!!!

『にっ、2体目の「三幻魔」が現れましたーっ!?』
『これはもしかすると……』
 そう、針間戒のデッキのメインアタッカーは「三幻魔」。《神炎皇ウリア》、《降雷皇ハモン》、そして《幻魔皇ラビエル》。その召喚条件から、普通なら1体召喚するのも一苦労だが、戒にとっては「三幻魔」の召喚条件など足枷になることもない。現に今、彼のフィールドには「三幻魔」の内2体が存在しているのだから。
「バトルだ……《神炎皇ウリア》で《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》を攻撃! ハイパー・ブレイズ!」
「《岩投げエリア》の効果によって、デッキより岩石族モンスターを墓地へ送り、《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》の戦闘破壊を無効化する!」
「だが《岩投げエリア》が使えるのは1ターンに1度だけだ。《降雷皇ハモン》で再び《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》に攻撃! 失楽の霹靂!」
 今後こそ《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》が破壊される。さらに、《降雷皇ハモン》はモンスターを戦闘破壊したとき相手プレイヤーに1000ポイントの追加ダメージを与える効果を持っている。これで《神炎皇ウリア》の攻撃、《降雷皇ハモン》の攻撃、そしてその効果によって合計4200のライフを削られてしまった。
「そして……これで終わりだ。メインフェイズ2、レベル10の《神炎皇ウリア》と《降雷皇ハモン》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 打ち抜け……」

 Superdreadnought Rail Cannon Gustav Max!!!

『ランク10のエクシーズモンスター、《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》! 「三幻魔」2体を使った豪華なエクシーズ召喚ですっ!!』
『これが通れば、針間選手の……宮路森高校の優勝が確定します……!』
「オーバーレイユニットを1つ取り外し、効果を発動!」

《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》 ORU:2→1

「相手プレイヤーに2000ポイントのダメージを与える! これで終わりだ!」
 これによって玄が受ける合計ダメージは6200。玄のライフ5000ポイントでは耐えきれない。
「ぐああああああああああっっ!!」
 だが。

玄 LP:7000→5400→3800→2800→800

「な……に……?」
 確かに玄のライフは800ポイント残っていた。
『こっ、これは……』
『一体どういうことでしょうか……?』
「はぁ、はぁ……今の結構効いたな。が、ライフは残った。先輩の戦力も落ちた。今度はこっちの番だ」
 会場全体が玄のその状況に驚いている。確かにライフは0になったはず、5000のライフでは6200のダメージには耐えられない。小学生でもわかる単純な答えを、白神玄は当然のように打ち破った。
「白神……お前一体何を……?」
(待てよ。今の《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》のバーンダメージを受けて奴のライフは800。本来の数値からは白神のライフが2000回復しているということになる。2000ポイント……【岩石族】……そして奴がこのターン行った行動はなんだ……? 手札からは何も発動していない。墓地には発動できるようなカードはなかった。そもそも奴のこのターンの行動なんて俺の発動した《手札抹殺》で手札を……)
「はっ……白神、お前まさか……!」
「そう、俺が使ったのはたった1枚……シンプルなカードだ」
 その正体は――《恵みの像》。
 相手によって手札から墓地へ送られた場合、ライフポイントを2000回復する岩石族モンスター。ライフ回復という時点で採用率は相当低い上、効果の発動条件はかなり限られている。カードプールに精通しているようなプロフェッショナルでも見逃すような超マイナーカードだ。
「針間先輩がこっちのライフを一気に刈り取って来ることは分かってたからな。だからちょっとでもそっちのライフ計算を崩せればそれでよかったのさ」
「この状況を予測してたってのか。なるほど、確かにお前らしい戦術だ」
 それでも戒には腑に落ちない点があった。何故、《恵みの像》の発動に気付かなかったのかと言うことだ。不意を突かれたとは言えそんなカードの効果の発動に気付かず、あまつさえライフの変動など気にも留めずに攻撃し続けたことは明らかに異常だと言える。
「不服そうだな、先輩」
「そう見えるか? てめぇの事だ、どうせ何かしらの種があるんだろう。不思議には思うが、気にはしてねぇよ」
「まぁそう言わずに聞いておけよ。別にそう大したことをしたわけじゃない。デュエルスタイルを発動させただけさ」
 この瞬間、戒は玄の発動させたデュエルスタイルの正体に気付いた。こんなトリックはよく考えればすぐに気付くはず……いや、そのトリックをよく考えても気付かせないためのデュエルスタイル。ミハイルを打倒した隠蔽の能力。
「『羊の皮をかぶった狼(ミスディレクション)』……あんたの認識をライフポイントと手札から逸らさせてもらった」
 先ほどまでとはまた違うデュエルスタイルを発動させる。ミハイル、アンナ、鷹崎、春江、冬樹に続いて美里。次々とデュエルの型を変幻自在に取り換えていく。
(全盛期ほどの脅威はねぇ……だが、全盛期以上に奴自身のデュエルスタイルの汎用性は上がっている。神之上高校出……いやそれ以外にも今まであってきた決闘者たちとの出会いが奴を大きく成長させたのか)
「ふん、してやられたな。カードを1枚セットしてターンエンドだ」

第38ターン

LP:800
手札:2
《岩投げエリア》


LP:9900
手札:3
《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》、SS

「俺のターン、ドロー!」
『ライフを繋いだとはいえライフは10倍以上の差があります……アドバンテージ的にも《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》を立たせている針間選手の方が上ですし、明らかに白神選手の不利ですね』
『ですが何が起こるか分からないのがデュエルです! 白神選手はどんな反撃を見せてくれるのでしょうかっ!』
「『咬歯の格子(スクリーン・バイト)』……俺は《ゴゴゴジャイアント》を通常召喚して効果を発動! 墓地より《ゴゴゴゴースト》を特殊召喚。その効果で墓地から《ゴゴゴゴーレム》を特殊召喚だ!!」
(《ゴゴゴゴーレム》はさっきの《岩投げエリア》で落としたカードか。だが《ゴゴゴゴースト》はいつ……そうか、これもミハイルの《手札抹殺》によって辻垣内の手札から墓地へ送られたカードの中にあったものか。ミハイルが相手とはいえいとも容易くやられたのは妙だとは思っていたが……なるほど、後続のためにコンボパーツを落としておくのも役目だったのか)
 連鎖的に吊り上げられた「ゴゴゴ」たちによって玄のフィールドには3体のレベル4モンスターが並んだ。
(2体エクシーズの可能性も0じゃないが……普通に考えれば3体を素材とする強力なモンスターを出してくるはずだ。《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》を打倒できるとすれば、《ヴェルズ・ウロボロス》か《ヴァイロン・ディシグマ》、あとは《No.91 サンダー・スパーク・ドラゴン》ってところか)
 《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》は超重量級のエクシーズモンスター。2000ポイントのバーンダメージを与える効果はもちろんのこと、3000ポイントある攻撃力もこのモンスターの強力な点だと言えるだろう。それを打破しつつ、その後の展開を有利に進めるとしたら《ヴェルズ・ウロボロス》か《ヴァイロン・ディシグマ》妥当だろう。
 しかし、玄の選択は違った。
「レベル4の「ゴゴゴ」3体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 咬み千切れ、《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》!!」
「何っ!?」
(しまった……そうか!)
 《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》の攻撃力は2800。その上《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》を除去できるような効果は持っていない。しかし、今の玄ならばその咬歯をより研ぎ澄ませる条件を満たしている。
「そして、《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》をエクシーズ素材としてカオスエクシーズチェンジ! 咬み潰せ、《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》!!」
 《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》の生物的な姿とは打って変わって機械的な姿の《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》。その能力は相手の勢力の鎮静化。
「ライフが1000以下の時、オーバーレイユニットを1つ取り外し、墓地のモンスター1体をゲームから除外して効果を発動!」

《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》 ORU:4→3

「《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》の攻撃力を0にする!」

《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》 ATK:3000→0

「バトル! デプス・カオス・バイトォッ!!」
「ぐぅっ……!!」

戒 LP:9900→7100

 そして玄は2枚のカードを伏せ、ターンを終了する。

第39ターン

LP:800
手札:0
《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》、《岩投げエリア》、SS×2


LP:7100
手札:3
SS

『このターンで40ターン目、デュエルも佳境に入ってまいりました!』
『おそらくはあと数ターン……早ければこのターンにでも決着が着いてしまいそうな勢いです……針間選手の動きに注目ですね』
「俺のターン、ドロー! さぁて、そろそろ終幕と行こうじゃねぇか。《E・HERO プリズマー》を通常召喚!」
 璃奈が常日頃から愛用している「E・HERO」の一体。墓地肥やしと名称変更を同時に行える優秀なモンスターだ。
「そしてこの召喚をトリガーに、罠カード発動! 《コピー・ナイト》!」
 レベル4以下の戦士族モンスターが召喚に成功したとき発動でき、召喚されたモンスターと同名のカードとして扱うという一風変わった罠モンスターだ。
「さらに2枚目の《地獄の暴走召喚》を発動!」
 本来ならば《E・HERO プリズマー》の攻撃力は1700のため、《地獄の暴走召喚》の「攻撃力1500以下のモンスター」という発動条件を満たせない。しかし、《E・HERO プリズマー》に名前を変えている《コピー・ナイト》の攻撃力は0。発動条件を満たすことができる。
「デッキから新たに2体の《E・HERO プリズマー》を特殊召喚だ」
「《E・HERO プリズマー》が……4体……っ」
「とは言っても一体は姿を真似ただけの木偶だ。まぁ、木偶には木偶の使い方があるがな! 《コピー・ナイト》をコストに《マジック・プランター》を発動! 2枚ドロー!」
 今はモンスターになっているとは言え、本来は永続罠。《マジック・プランター》や《神炎皇ウリア》のコストにもなり無駄がない。
「喰らえ、魔法カード発動だ。《ライトニング・ボルテックス》!!」
 手札1枚をコストに、相手の表側のモンスター全てを破壊する強力な魔法カード。このままでは《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》が破壊されてしまう。
「っ……! 《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》の効果を発動! ……にチェーンしてもう一度発動! さらにチェーンしてもう一度発動だ!」

《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》 ORU:3→2→1→0

 墓地のモンスターを合計3体除外し、その効果を発動。3体の《E・HERO プリズマー》の攻撃力を全て0にした。

《E・HERO プリズマー》 ATK:1700→0

《E・HERO プリズマー》 ATK:1700→0

《E・HERO プリズマー》 ATK:1700→0

「1つでも攻撃を受ければライフは0……そう簡単に通してはくれないか。だが、まだ終わらないぞ!」
(来るか……ッ!)
「3体の《E・HERO プリズマー》の効果を発動! 俺はデッキから《神炎皇ウリア》、《降雷皇ハモン》、そして《幻魔皇ラビエル》を墓地へ送ることでその冠す! そしてこの3体をゲームから除外! 現れろ――最強の幻魔よ!」

 Armityle the Chaos Phantom!!!

 《混沌幻魔アーミタイル》――最高レベルである12の融合モンスター。その召喚条件は「三幻魔」すべてをフィールドから除外することでしか果たすことはでず、名称を変更する《E・HERO プリズマー》や《ファントム・オブ・カオス》を用いない正規召喚の難易度は最大級。
「このモンスター戦闘では破壊されず、攻撃力は自分ターンのみ10000ポイントアップする!」

《混沌幻魔アーミタイル》 ATK:0→10000

『攻撃力10000!! 固定上昇値としては全カードの中でも他の追随を許さないほど圧倒的ですっ!!』
「バトル……! 《混沌幻魔アーミタイル》でダイレクトアタック!」

 全 土 滅 殺 天 征 波 !!!

 玄のライフはたったの800ポイント。この攻撃が通ればオーバーキル、玄の……神之上高校の敗北となる。
「させるかっ! 罠カード、《ガード・ブロック》を発動!」
 ダメージを0にし、カードを1枚ドローする防御カード。なんとかこのターンを耐えた。
「粘るな……俺はカードを1枚セットしターンエンドだ」
 そして戒のターンが終了したことで《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力は元に戻る。

《混沌幻魔アーミタイル》 ATK:10000→0

「《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力が0になった……これで殴りたい放題だが……」
「まだ針間くんのライフは7100も残ってる。一撃で簡単に削れるような数値じゃないわね」
「いえ、クロくんにはまだ「あれ」が残ってます!」
 玄が勝つにしろ、戒が勝つにしろ、おそらくはあと一巡で決着が着く。玄にとって最大にして最期、そして運命のターンがやってくる。

第40ターン

LP:800
手札:1
《岩投げエリア》、SS


LP:7100
手札:0
《混沌幻魔アーミタイル》、SS

「俺のターン、ドロー。魔法カード発動、《死者転生》。手札の《先史遺産クリスタル・スカル》をコストに、墓地の《メガロック・ドラゴン》を回収」
(俺の《手札抹殺》で《恵みの像》と一緒に墓地へ行ってたのか……)
「行くぜ、針間先輩! 墓地の岩石族モンスター12体をゲームから除外! 現れろ、《メガロック・ドラゴン》!!」

《メガロック・ドラゴン》 ATK:?→8400

(奴の墓地の岩石は……《先史遺産クリスタル・ボーン》、《先史遺産クリスタル・スカル》と《先史遺産モアイ》が2枚に、《先史遺産トゥーラ・ガーディアン》、《恵みの像》、《ゴゴゴゴーレム》、《ゴゴゴジャイアント》の全部で9枚。6300となり俺のライフには届かないはずだか……いや、そうか。秋月美里の《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》に音無祐介の《融合呪印生物-光》、そして早川璃奈の《ダイガスタ・エメラル》。これで12枚か)
「なるほど、あくまでもこれはチーム戦。チームの残した力は最大限利用するってか。いいぜ、てめぇの全力を捻り潰してやるよ」
「できもんならな……バトルフェイズ! 《メガロック・ドラゴン》で《混沌幻魔アーミタイル》に攻撃!!」

 Galaxian Explosion!!!

 大地を司る竜。大地そのものである竜。その攻撃力は大地に眠る同胞の数だけ上昇していく。無限に、際限なく、限りなく、どこまでも。上昇してくエネルギー、限りのないエネルギーーはいずれビッグバンへと到達する。宇宙を創りだし、宇宙を滅ぼすだけの力を持つ爆発。それだけの力を備えた玄の最大戦力して最高戦力である《メガロック・ドラゴン》の攻撃は――。
「罠カード発動」
 届かなかった。
「《聖なる鎧 -ミラーメール-》!!」
「っ……!!?」
 自分フィールド上のモンスターが攻撃対象となった時、攻撃対象となったモンスターと相手の攻撃モンスターの攻撃力を同じ数値とする強化カード。これより、相手ターン中には攻撃力を持たない《混沌幻魔アーミタイル》は《メガロック・ドラゴン》と同等の力を得る。

《混沌幻魔アーミタイル》 ATK:0→8400

 すでに戦闘は行われている。結果は引き分け。ダメージは発生しない。その上《混沌幻魔アーミタイル》は戦闘では破壊されない効果を持っている。以前として最強の「幻魔」はフィールドを覆っている。
「……俺は、《岩投げエリア》の効果を発動。デッキから岩石族モンスターを墓地へ送り、戦闘破壊を無効化する」
 玄も《メガロック・ドラゴン》を守る。だが……。
「無駄だ。次のターンには《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力は10000ポイントアップし、18400の攻撃力を得る。いくら《メガロック・ドラゴン》でも耐えられない」
「確かに……こいつにはもう攻撃の手段も、壁としての役割もない。だけど、いるのといないのじゃ、いてくれた方がいいだろう?」
 その方が場が映えるしな。玄はそう続けた。
「気持ちは分からなくもないがな。自分が負けようともエースである《メガロック・ドラゴン》を破壊されたくないというのは。だが負けは負けだ。大地のすべてを喰らい尽くしたその竜でも、世界のすべてを覆い尽くす悪魔には……勝てん」
 神之上高校の面々は口を開かない。諦めの声も、敗北の呻きも、悲痛の叫びも。絶望的な現状に対して、ただの一言も口にはしなかった。
「はぁ? 何勘違いしてんだよ」
 しかしそれは、玄が敗北するというの悲しみからくるものではない。
「これで……俺の勝利までの道が繋がった!!」
 一瞬でも玄が敗北すると思ってしまった不甲斐無さからくるものだった。
「別に大地ってもんはなぁ、砂や、泥や、石や、岩だけからできてるもんじゃないんだよ。例えば鉱物……それも特別にデカくて、本当は空の上に飛んでいたもの、なんてこともあるんだぜ?」
「お前……何を……?」
「罠カード、発動!!」

 Xyz Reborn!!! Special Summon! Number33:Chronomaly Machu Mech!!!

 それは大地から蘇えりながらも、大地に伏す巨竜とは裏腹に、天高くへとその身を浮上させた。本来ならば再び現れようとも存在することのない光球が巨体の周りをぐるぐると旋回している。
『これ……は……っ』
『白神選手……《エクシーズ・リボーン》によって、《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》を蘇生させましたあっ!?』
 《エクシーズ・リボーン》は自分の墓地からエクシーズモンスターを蘇生させ、このカード自身がそのモンスターのオーバーレイユニットとなる効果を持つ特殊な蘇生カード。それによって《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》は再びフィールドに姿を現した。
「あんたが攻撃力0の《混沌幻魔アーミタイル》をただ放っておくとは思わなかった。だから必ずそれをカバーするための何かを用意しているはずだとも思った。攻撃反応なのもほぼ間違いなかった。あとは《聖なるバリア-ミラーフォース-》や《次元幽閉》の可能性もなかったわけじゃねぇが……ただ「なんとなく」そう来ると思ってたぜ」
「まさか……っ! お前!!」
「デュエルスタイル、『自殺決闘(アポトーシス)』。そして……さっき言った通り、これで勝利への条件は整った。《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》の効果を発動!」

《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》 ORU:1→0

「攻撃力の変動しているモンスターの元々の攻撃力と現在の攻撃力の差分だけ相手プレイヤーにダメージを与える。《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力は本来ならば0だ。だが《聖なる鎧 -ミラーメール-》で《メガロック・ドラゴン》の攻撃力を映し出した今、その攻撃力は《メガロック・ドラゴン》と同じ8400……!」
(最初からこっちが狙いだったのか……!)
「さっきは不発に終わったが、今度こそ喰らってもらうぜ……!!」
「行け!」
「行け、白神君!」
「行って……!」
「行きなさい!」
「行っちゃってください、クロくん!!」

 Infiniti Canon!!! Full Burst!!!

 《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》の側面から無数の砲身が現れ、連続的に戒へと放たれた。
「ぐぅっ、おおおおおおおおおおおおっ!!」

戒 LP:7100→0

『しょっ……勝者、白神玄選手!! そしてこの瞬間っ、神之上高校決闘部が全国高校生デュエル大会本戦決勝戦を勝ち抜き、見事優勝しましたーっ!!!』
 巨大な衝撃音と共に決着を迎えた決闘は、観客席からの歓声、拍手の嵐によって彩られた。
 喜ぶ者、悲しむ者、高ぶる者、尊ぶ者。様々な人がこの会場内でこのデュエルを観戦し、様々な感情を、感想を持っただろう。しかし、その誰もが掛け値なくこの決闘に見入り、心に刻んだ。
「やるじゃねぇか、白神。とりあえずまぁ、よくやったな」
「針間先輩……。なんか、倒した相手にそう言われるのはちょっと変な気分だな」
 歓声と拍手に包まれる中、戒が玄の傍へと近寄った。
「『限りなく黒く塗り潰された白(ブラック・ホワイト)』。実際に受けてみた感じだと、当時程じゃあねぇが精度はかなり完成形に近いものだったな」
「そうっすね。と言っても、まだ『四次元視(ハイパー・ヴィジョン)』みたいなデュエルスキルはコピーできねぇし、ミハイルの『明鏡止水(クリア・マインド)』だって今日見たばっかりだからまだ完璧とは言い難いんすよね」
「半年のブランクを考えれば上出来だろ。さて、名実共に高校生最強のデュエリストになったわけだが、次はやっぱり……「あいつ」に挑む気か?」
 場の空気が一瞬張り詰める。
「……いや、そこまでは考えてないっすよ。そう簡単にエンカウントできるような奴でもないし、そもそも半年前の二の舞になるのが目に見えてる」
「そうか。ま、俺から言うことはこれくらいだ。あとはお前の好きにしろよ」
 そう言って戒は身を翻し、ステージを降りて行った。それとまったく同じタイミング、神之上高校決闘部一同が玄の元へと歩み寄る。
「おめでとうございますクロくん!!」
「……そんな他人行儀に喜び方するなよ。チームの勝利なんだからそこは普通に「やったな」でいいんだよ」
 真子の下準備がなければ戒とのデュエルはより厳しいものとなっていたはずだし、鷹崎がミハイルのライフを削り美里に繋ぎ、その美里もボロボロの状態で大きな戦火を挙げた。そして音無が不利だった状況を一転させたおかげで流れはよくなり、膨大なデュエリストレベルの差がありながらも十時と一進一退のデュエルを繰り広げた璃奈のお陰で玄は戒と互角のデュエルをすることができた。
 フィニッシュを決めたのが玄だったというだけで、これは間違いようもなく神之上高校決闘部6名の力があったからこその優勝なのだ。
「だからさ……やったな、みんな」
「ああ、やったな」
「うん。やったやった」
「ええ、やってやったわ」
「やったね」
「はい! やりましたね!」
 少しの静寂が訪れ、互いに顔を見合わせる。それから少しして可笑しくなったのか、込み上げる喜びを抑えきれなくなり、誰ともなく全員が笑い出した。
 彼ら彼女らは、幼馴染であったり、3年来の仲であったり、つい4ヶ月前に出会ったばかりだったりするが、きっとここまで一体となったのは初めてであっただろう。それを考えると、またなんだか可笑しくなり、笑った。

       

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Neetsha