Neetel Inside 文芸新都
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消失点
3. 散歩

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散歩



 忙しい時はしたいことが次々と出てくるのに、予定が何もない日は特に何をするわけでもなくひたすらインターネットを見ていたり、散歩したりしている。ネット上でくだらない知識を得たり、散歩中に少し美しい景色を見たりして、ほんの少しだけ満足を得ながら、次の瞬間本質的には満たされない心に飢えを感じる。つまり僕は退屈なのだ。
 ところで、自分の住んでいる市なのだが、何分広いので行ったことのないところが多い。だから今年の夏は市内の色んな場所に出かけようと思っていた。山の方に行ってみたり、メインストリートを北から南にひたすら歩いてみたり、古書店めぐりをしたり、アニメの聖地だという場所に行ってみたり。一人で過ごしたがそれなりに楽しかった。だが、満たされることは無かった。
 だからある日、一人で市の中心街へ出かけた。市内の電気街に行った。電気街と言っても秋葉原や日本橋のような大規模なものではなく、昔ながらの小さな電気屋さんが集まった、古風な電気街だ。電化製品や機械に対して特別な知識はない。だが怪しい電気製品の置いてある店や、見たこともないようなPCパーツの置いてある店を僕は何を買うというわけでもなくひたすら眺めていると、何となく面白いような気はした。
 街角に立つと西日が綺麗に路地に差し込むところを見つけた。僕は持っていたスマートフォンで写真を撮り。それから暫くぼーっと立っていた。前から歩いてきた会社員が僕を不審な目で見ていたが、僕はそれでもずっと立って見ていた。綺麗だった。建物や道路に当たって乱反射する茜色の光を、僕は網膜に焼付けようとした。
 それでも何も感動は無かった。そしてやはり満たされることも無かった。
 わかっている。退屈なのは人がいないからだ。僕は大体一人で何でもできると思っている。働くことも出来るし、勉強もできるし、一人で生きていくことはできる。だが、生きていけるだけだ。生きてはいけるが楽しくは無い。満たされない。孤独でいることができるからこそ、寧ろ逆説的に人を求めている、という気がする。
 だから一人で過ごす日常とは虚無に近いものだ。そういう風に考えるくらいには僕は荒んでいた。


       

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