Neetel Inside ニートノベル
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零の風船
2.秘密の基地で捕まえて

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992.2.27.16:41
リン
秘密の基地で捕まえて




 午後のお日さまが眩しく付き刺さる時間に、背の低い林に囲まれた秘密基地の屋根の上で私は街を見ていました。

「・・・・・・あっ!鳥だ」

 別に、鳥は珍しいわけではありません。でもその鳥達がびっくりするくらいキレイに整列してたからびっくりしたんです。でも、あんまり遠いので本当に鳥なのかな? と思って首にかけてた双眼鏡を覗いて見ました。

「あれ・・・・・・BPS・・・・・・かな?」

 BPSというのは、ロボットみたいな服で、着ると銃で撃たれたり爆発されたりしても平気で、すごく早く走れたり高くジャンプできたりします。

 双眼鏡で覗いても鳥じゃないって事しか私にはわかりません。こんな時は秘密基地の中でゲームをしてる京介君を呼びます。秘密基地はトタン屋根のボロボロな建物で、ずっと昔には何かの工場だったらしいです。壁や天井をみると、まだ機械を操作するスイッチのようなものが残っています。トタン屋根の上から顔を出して秘密基地の中を除くと、綿の抜けたソファの上で京くんがゲームをしていました。このソファは最初からここにあったものです。

「京くん、なにかきたよ」

「今忙しいんだよ」

「いなくなっちゃうよ」

「・・・・・・何が?」

「BPSかも」

「えっ、どこ?」

「空から・・・・・・」

 BPSと聞いて目を輝かせた京くんが私の双眼鏡をひったくって梯子を登ってしまいました。京くんはBPSって聞くとすぐこうなんです。

「もー・・・・・・」

 呆れちゃいます。屋根でなにか叫んでるのが聞こえて来ました。

「本物だ! なにしてるんだろう。訓練かな」

 私も梯子に登ってみると、さっきの隊列は林にポツンと佇む工場の方角へ進んでいます。

「ねえ、あれ永塚製作所だよね」

「ってことは永塚の私兵かな」

「でも永塚には私兵は・・・・・・」

 永塚は私兵を持ってないんだって、大人の人が言っていたのを覚えてます。でもそれを言う前に京くんがすごくおどろいたように叫びました。

「おいおい!」

「どうしたの?」

 私の声は聞こえてないみたいで、京くんは双眼鏡の先の光景に見入っています。私も目を細めてみても、BPSと工場しかみえません。私の双眼鏡・・・。

「え、やば!」

 そういえば、工場から煙が見えるような。燃えてる・・・・・・?

「ねえ見せてよー」

「ほら、見ろよ」

 やっと返してもらえた双眼鏡を覗きます。

「なにこれ・・・・・・!」

 ヘリコプターからぶら下がった6人くらいのBPSが、抱えていた大きな爆弾を順番に永塚製作所に落としていたんです。

「どうしよう・・・・・・ねえ」

 永塚製作所はG4ブロック第1地区の住民にとって、なじみ深いシンボルみたいな建物です。それが今、目の前で爆撃されて炎上しているのは、私たち二人にはすごく衝撃的で、大事件でした。

「どうしようったってどうもできないだろ」

「キヨミさんに教えようよ、大変なことだよ」

「キヨミなんかどーせ今頃本部から眺めてるよ」

「うーん・・・・・・」

「それより双眼鏡」

「え? あ、はい」

 それからしばらく二人で非日常的な光景を眺めていました。


 それから10分くらい経つと、突然秘密基地の周りを囲む林の東側から騒がしい音が聞こえてきます。叫び声や、BPSの音です。音がどんどん大きくなってるのがわかります。京くんが言いました。

「近づいてる・・・・・・BPSだ!」

 たちあがって音の方角を確かめます。数機のBPSから、誰かが一人で逃げているようでした。

「追われてるのかな・・・・・・」

 木々の間を縫うように逃げるBPSはものすごいスピードで追っ手を引き離して行きます。そして進路の先に、私たちの秘密基地。
 
「リン、あいつ助けよう!」

「え?うん・・・・・・そうだ!」

「うわ、なんだよ」

 京くんのパーカーのポケットに手を突っ込みます。

「あった!」

 ありました。なんとかかんとかグレネードという武器です。これを投げれば半径5mくらいのBPSがうごけなくなるって、コウキさんが言ってました。京くんが拾ったのをポケットにいれてたのを覚えています。

「えっと、タイマー、スイッチ・・・・・・」

 使い方も教えてもらいました。スイッチを押して6秒いないに投げます。物を投げるのは得意です。ゴミ箱にゴミを投げていっぱつでいれたり出来るんですよ。

「えい!」

 ずっしり重いグレネードを投げます。あんまり遠くには飛ばなかったけど・・・・・・。

 BPSのような、見たことの無い機体がスライディングの体制で地面を深く削りながら林を抜けて来たのは、その直後でした。

「わっ!」

 地面に突き刺さったスパイクが少しずつスピードをさげて、私の鼻先で止まりました。その人は私の方を確認すると、態勢を立て直し、また走り出そうとしています。

「そいつだ! リン! そいつ連れて隠れろ! 」

 京くんが叫びました。

「こっち!」

 腕をつかんで秘密基地まで引っ張ろうとすると、うなづいてくれました。

 同時に林から爆発の音、さっきのグレネードです。



「すげえ、効いてる・・・・・・」


「隠れて、電源も切ってください」

 毛布を被せてあげたら少し戸惑っています。

 しばらくして、4機のBPSが林を抜けて来ました。秘密基地からすこしだけ顔をだして様子を見て見ます。

「くそ、見失った!」

 先頭のBPSが悔しそうに言いました。他のBPSは全身森の迷彩ですが、その人は肩だけでカラーリングされています。

「おーい!君、BPS見なかった?」

 京くんに聞いている見たいです。屋根から降りた京くんが黙って反対側の林を指差します。

「ありがとう」

 リーダーが手話みたいに手を動かして相図をすると、手下たちが頷いて反対側の林に消えました。

「・・・・・・はぁ」

 京くんも緊張していたみたいです。

「もう大丈夫ですよ」

 毛布を剥がしてあげると、見た事もない機体の人はヘルメットを取って顔を見せてくれました。

 20才くらいの若い男の人でした。黒い髪はボサボサで細い目が印象的ですが、怖そうな感じはなくてどことなく親近感というか、安心感があります。

 息を切らせながらジャージの袖でひたいの汗を拭うその人に、京くんが話しかけました。

「なにもん?」

「・・・・・・」

 黙り込んで周りをキョロキョロ見ています。今度は私が聞いて見ました。

「永塚の人ですか?」

「・・・・・・」

 やっぱり答えてくれません。でもその後、男の人はびっくりすることを言ったんです。

「・・・・・・わからない」

       

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