Neetel Inside ニートノベル
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私は気づくと何も存在しない、白い背景のような世界に佇んでいた。
白い紙に書かれた点のように、私だけがポツリと存在していた。
とても電子の世界とは思えない世界だった。
本当にゲームの世界なのか疑ったが、黒いワンピースと言う格好がそれに答えを出していた。
それなのに、体に血液の流れを感じるのは気のせいだろうか。
それとも仕様だろうか。
手をぎゅっと握ってみる。
とてもリアルな感覚だった。肌触りも、呼吸の感覚も。
私にはとてもゲームだなんて思えなかった。
もしかすると現実で気を失っている間に、私は誘拐されてここに連れ去られたのかも知れない。
考えてるうちに、本当にそうなんじゃないかという気がして止まらなくなる。
私は急に怖くなって、現実に戻りたいと強く思った。
すると、唐突に変化が起こった。
私の意識が何かに引っ張られるように渦巻いたのだ。

「あれ?」

声に出した。
場所が変わっていた。
目の前が暗く、ブーンと低く何かが唸る音が聞こえた。
そして気がついた。
あぁ、これはファンの音だ。
私の意識は、現実に戻っていたんだ。
ここは、私の部屋の中だ。
ヘルメットを外して、説明書を開いた。
目的の項目を探り、読む。

『・現実への戻り方。
セカンドライフをプレイしている間、プレイヤーは決して眠っている訳ではありません。
”意識の視点”が現実からゲームへ移動しているだけです。
なので現実の方へ意識を集中すれば、いつでも戻ることが出来ます。
これは火事等の非常事態にすぐ対処するためです。
また、それ故に昏睡状態などの意識不明に陥る心配もありません。
何故なら、プレイヤーはいつも起きたままプレイしているからです。
安心してお楽しみ下さい』

ぱたりと説明書を閉じる。
ちっとも気づかなかった。
と言うより分からなかった。私が起きていたなんて。
妙にリアルなのはそのせいだろうか?
でも、これなら確かに現実の状態に怯えながらプレイしないで済む。
私は再び、ヘルメットを装着して、ゲームの方に強く意識を集中してみた。
すると、またぐるぐると渦を巻いて、意識がゲームの世界へと吸い込まれていった。
”意識の視点を移動する”と言うのは、中々慣れない感覚だった。少しフラフラとする。
しかしこれからどうすればいいのだろう?
延々と、まるで白い部屋が無限に拡張されているように続いている。
ここには私と言う存在を除いて何もない。
とりあえず、数歩足を進めてみた。
すると、”ピコーンッ”と言ういかにもゲーム的な明るい電子音がなり響いた。
目の前に薄いホログラムの画面が表示される。
そのホログラムには、受付嬢の格好をした女性が映っていた。
ヘッドフォンとマイクを耳につけている。

『こんにちは。”ユリさん”』

と女性が言った。
私の名前を知っている。

「あ、こんにちは」

『ようこそセカンドライフへ』

真っ白な世界にホログラムと私。
その2つだけが存在していた。

『セカンドライフは、名前の通り第二の人生を歩む場所です。
ここではあなたは、あなたのなりたいものに。
あなたの望むものになることができます。
私はこの世界の案内人、プログラム”INO"です』
「イノさんですか。・・・え?プログラム?」
『はい、私はこのセカンドライフのために作られたプログラムです』
「人間ではないんですか?」
『はい』

人間にしかみえない笑顔を浮かべて、彼女は言った。
画面越しに見る彼女の表情、仕草。
どれもプログラムになんてみえなかった。
しかし、ホログラムの向こうにいる彼女が本物の人間だとしても、それを確かめる術はなかった。
少し人間不信になりそうだ。

『プログラムの人間は私だけはありません。
どこにでも存在します。
二十四時間、主に人通りの少ない場所に、街が寂しくみえないように背景の役割として存在しています』
「あなたと同じ様な人たちなら,誰がプログラムか,見分けるのは難しそうですね」
『いいえ、それは簡単です』

そう言って彼女は、胸についているバッチに手を添えた。
微かに黄色く光を放っている。

『これはプログラムにしかついていません。なので簡単に見分けることができます。ご安心ください。
 それからもう一つ、マスターキーを授与します。右腕をご覧ください』

右腕と言われて、一瞬なにを言っているのか分からなかったが、みるといつの間にか長方形のデジタル時計のようなものが付いていた。

『セカンドライフにはセカンドライフ独自の通貨があります。
金銭の管理や移動など、すべてのことはそのマスターキーで行います』

私にはいっぺんに色々なことが起こりすぎて、よくわからなかった。
一通りの説明を終えて、彼女は人を安心させる笑みを作った。

『操作はいたって簡単なので、大丈夫ですよ。歓迎のご挨拶とマスターキーの授与。ここで行われることは以上です』
気配りまで出来るなんて、本当にどこまでも人間らしいプログラムだ。

『それでは、テレポートを開始します。セカンドライフの、はじまりです』

そう言って彼女は、画面越しに何かキーボードを操作した。
その直後、足元に薄いブルーの円が輝き、私を囲った
私は混乱しながら、前言撤回と心の中で毒づいた。
いきなり何か始めないで欲しい。心の準備と言うものがある。
光は徐々に確実に強くなる。
私の鼓動も太鼓のように高まっていた。
イノは謡うように声を張った。

『これから向かう場所は、セカンドライフ最初のステージ。”約束の場所”
です』

眩い光が私多い、向こう側が見えないほど真っ白になった。

『ようこそ!私達のセカンドライフへ」

カッと一瞬光は強くなり、すぐに止んだ。
目を恐る恐るあけてみる。
すると女性は消えていて、
そこには知らない街が広がっていた。


       

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