Neetel Inside 文芸新都
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隔離施設
プロローグ

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 気づいたときに感じたのは土の苦さと埃っぽい空気だった。
 
 目を開けているのに真っ暗で、一寸先も見えないとはこんな状態を
言うのだなと体験して初めて理解した。

 何でこんな居心地の悪い場所に俺はいるのだろう?
 こんな単純な疑問なのに答えが出なかった。

「自分で来たはずなのになんで分からないんだ?」

 ここが自分の家じゃないことは聞くまでもなく分かってる。
 ともなればここに何かしらの用事があって俺は来たはずで、それなら
用事なら用事という目的があるはずなのに目的が何だったのか分からない。

「これは俗に言う記憶喪失ってやつか?」

 漫画やアニメなら自分の名前すら覚えてないのがパターンだ。
 前にやったゲームでは婚約者と名乗る女の子がいたりしたのは印象的だった。

 俺は目を瞑って(周りが真っ暗なので意味はないが気分的に)思い出すよう
な仕草をする。首をかしげて顎に手を当てる感じだ。

「苗字は内藤、名は歩。それ以上でもそれ以下でもない」

 思い出すまでもなくあっさりと分かった。
 ということは記憶喪失ではないということになるので自分がどうしてここに
来たか分かるはず……なんだけど思い出せない。

 これはつまり順序立てて思い出せってことだろうか?
 なんとも迷惑な記憶喪失?だ。

「えっと……受験を来年に控えた高校二年生で彼女いない歴16年?」

 ってか高校二年って何歳だ?誕生日とかここ数年ほど祝った記憶がないから
自分の年齢が思い出せない。これは単純に覚えていないだけで記憶喪失は関係なさそうだ。

「来年受験だからって強化合宿という名目で旅行に行くことになって……」

 そうだった。我らが演劇部部長が諸悪の根源だ。

 たしか「来年卒業だし、しかも受験だし」とか子供みたいに不満を言っていたと思ったら
翌日には「良く考えたら来年までは自由ってことよね」とか何とも自分勝手な結論を出した
挙句に「そういうわけで強化合宿をしましょう!」などという突然にも程がある発言をして
くれたのだ。

「顧問曰く大人の事情という名の書類処理のおかげで一週間ほど期間を設けられたのが幸い
だった。あれがなければ翌日には出発していた気がする」

 今思ってみてもトンデモな人だ。さすがは一年で部長になっただけのことはある。
 周りを自分のペースに巻き込むことに関してだけは天才的だ。

 それで強化合宿とは名ばかりの来年頑張りましょう旅行をしていて……。

「……俺が肝試ししようとか言い出したのが始まりか」

 全部思い出した。しかも原因は俺。ちなみに他の人も巻き込んでしまった可能性が大。
 正直、部長より性質が悪いかもしれない。

 どうして俺は肝試しをしようなどと言ってしまったのか。
 あのときの俺に一つ文句を言いたいが今更というものかもしれない。


       

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