Neetel Inside ニートノベル
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遊戯王M
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『遊戯王M 第一話』

 やあ、俺の名前は図画 遊鎧(ずが ゆうがい)。
 デュエルが大好きな二十八歳、無職だ! 今は働かずに親の金で買ったカードでデュエルしてる。
 もうすぐこのハロワシティで、大規模なデュエル大会があるってネットで見て、すげぇ楽しみにしてるんだ。大会参加はネット応募の抽選らしい。参加発表はもうすぐだ。
 さっきから俺は大会運営の公式サイトを開いてF5キーを連打してる。
「お……! あった!」
 発表予定時間から十分ほどして、参加者番号一覧が表示された。十分も遅れるなんて、運営仕事しろ! 今は個人情報がどうのこうのってうるさいから、名前じゃなくて番号表示だ。受験の合格発表もそだろ? まあ俺は大学受験に失敗してそのまま永遠の浪人生だけどな。
「何々……?」
 俺は大会の参加要綱を見た。
「大会は、アンティルールで行われます。なお、このアンティルールに使われるのは大会運営があらかじめ参加資格として配布した特別なカードなので賭博行為には該当しません。ふーん……。大会の概要は……バトルシティルールです。なるほどな」
 俺は大体察した。最後の一文を読む。
「大会参加資格の証明、かつアンティルールの対象となるカードは、大会開催前までに郵送されます、か……」
 俺は数年ぶりに玄関から出て、ポストを見た。
「ナイスタイミング! でも書留じゃねぇのかよ、ケチだな」
 ポストには俺宛の名前で、封筒が届いていた。今現在、デュエルに関するライセンスを持っている『KC(海馬コーポレーション)』……の子会社、『KC(こんなはずじゃなかったコーポレーション)』のロゴが入ってる。
 今度の大会であるバトルタウンは、この会社が運営してる。俺は親とバッティングする前に、急ぎ足で部屋に戻った。
 ワクワクしながら封筒を開ける。
 中には、一枚のカードと便箋。便箋にはさっきネットで見たような内容の文章と、公式サイトのURLが書いてあった。
 それよりもカードだ。
「黒い枠……エクシーズモンスターか」
 今度の大会に使われるアンティカードは、全て『MNo.』というカテゴリらしい。この『No.』というのは、アニメで見たことがあるし、ルビが振ってある。あの有名な『ナンバーズ』のカードだ。
 ただ、『M』にはルビが振ってない。
「どういう意味なんだろう……?」
 このアンティカードは、全部で何枚あるかは秘密らしい。アニメ通りなら、99枚以上あるんだろうけど。
 一応、バトルタウンも町ひとつが大会の舞台になる。期間は無駄に長くて一ヶ月もある。
「ま、いっか」
 俺はデッキを調整しながら、大会が始まる日を待った。

 やがて大会の開催日になった。今日から一ヶ月間、この町は戦場と化すわけだ。
 俺みたいなデュエルを本業にしてる奴らが、対戦相手を求めて町をさまよってるに違いない。
 俺は小鳥ちゃんのイラストがプリントされたTシャツに、ジャージのズボン、それから一番大事なデュエルディスクという格好で、数年ぶりに家を出た。
 親には適当に「ハロワを見学に行ってくる」と言ってある。
「さぁ来い! デュエリスト!」
 俺がデュエルディスクのデュエリストセンサーを起動させる。近くにデュエリストがいれば、これが反応するはずだ。
「お!」
 早速、センサーが反応した。俺が辺りを見回すと、老婆が一人いる。
「よお、ばあちゃん! あんた、デュエリストか?」
「そうだよ……。坊やもデュエリストだね? ヒッヒッヒ」
 老婆が俺のデュエルディスクを見て言った。
「大会に参加してるのか? 俺とデュエルしようぜ!」
「いいよ。ヒッヒッヒ」
 デュエルディスク、セット! 以下略、
「「デュエル!」」

遊鎧 LP:4000 老婆 LP:4000
「先攻は若い子に譲ろうかねぇ……」
「後悔すんなよ、ばあちゃん! 俺のターン! ドロー! 『不況に翻弄されるニートの剣士』を召喚!」

『不況に翻弄されるニートの剣士』☆4 ATK:1400/DEF:1200

「更にカードを1枚セットして、ターンエンド!」

「お婆ちゃんのターン、ドロー。お婆ちゃんは、『ババーリアン1号』を召喚」

『ババーリアン1号』☆2 ATK:600/DEF:800

「『ババーリアン1号』の効果発動! このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、手札・墓地・デッキから『ババーリアン2号』を特殊召喚するよ!」

『ババーリアン2号』☆2 ATK:800/DEF:600

「更に『ババーリアン2号』の効果発動! このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、手札・墓地・デッキから『ババーリアン1号』を1枚手札に加える!」
「すげぇ展開力だぜ……! まあぶっちゃけ【ガジェット】とか【ギアギア】の劣化版だけどな」
「更に『ババーリアン』の共通効果発動! 1ターンに1度、ババアカウンターを乗せ、ババアカウンター1つにつき攻撃力を200ポイントアップさせる!」

『ババーリアン1号』ATK:600→800
『ババーリアン2号』ATK:800→1000

「しょっぺぇ効果だな! そんなんじゃ、俺の『ニートの剣士』は倒せないぜ!」
「ヒッヒッヒ、だからお婆ちゃんはカードを3枚セットしてターンエンドだよ」

「俺のターン! ドロー!」
(カウンターが乗って攻撃力が上がってるとはいえ、俺の『ニートの剣士』より攻撃力の低いモンスターを出してる……ここは罠カードを警戒した方がよさそうだけど、まずはあの邪魔なカードを破壊するぜ!)
「いくぜ! 速攻魔法『大嵐』を発動! あんたのセットカードを破壊させてもらうぜ!」
「そうはさせないよ! 罠発動! 『もたつく権利』! 相手の魔法・罠カードの発動を無効にし、デッキに戻す! そして自分はカードを1枚ドローするよ!」
「汚ねぇぞ!」
「ヒッヒッヒ、これが高齢化社会デッキの恐ろしさだよ……!」
「なら、俺は『自宅という砦を守るニート』を召喚!」

『自宅という砦を守るニート』☆4 ATK:1400/DEF:800

「バトルフェイズ! 『ニートの剣士』で『ババーリアン1号』を攻撃!」
「おっと、永続罠カード発動! 『優先席』! このカードがある限り、お婆ちゃんのコントロールする最も攻撃力の高いモンスターより高い攻撃力を持つ相手モンスターは攻撃できないよ!」
「なるほど、道理で。それなら俺のモンスターは両方とも攻撃できねぇ。更にカードを1枚セットして、ターンエンドだ」
(あの永続罠を除去するまで動けねぇが……それは相手も同じはずだ)

「お婆ちゃんのターン! お婆ちゃんは『ババーリアン・ガードナー』を召喚するよ! このカードは召喚に成功した時、守備表示になるよ!」

『ババーリアン・ガードナー』☆3 ATK:0/DEF:1600

「そして『ババーリアン』たちの共通効果を発動! ババアカウンターを1つ乗せ、攻撃力を200ポイントアップするよ!」

『ババーリアン1号』ATK:800→1000
『ババーリアン2号』ATK:1000→1200
『ババーリアン・ガードナー』ATK:0→200

「しまった、その効果があったか……! これじゃあ、ターンが経過するごとに俺が不利だ……!」
「更に『ババーリアン・ガードナー』の効果を発動! エンドフェイズ時までこのカードの守備力を0にし、その分自分の場のモンスターの攻撃力をエンドフェイズ時までアップさせる! 対象は『ババーリアン2号』!」

『ババーリアン2号』ATK:1200→2800

「な!? や、やべぇ……!」
「バトルフェイズ! 『ババーリアン2号』で『ニートの剣士』を攻撃!」

『不況に翻弄されるニートの剣士』ATK:1400 VS 『ババーリアン2号』ATK:2800

「がぁぁぁああ!」

遊鎧 LP:4000→2600

「くっ、速攻魔法発動! 『小遣い』! このターン減少したライフポイントの半分だけ、俺のライフを回復する!」

遊鎧 LP:2600→3300

「おやおや、いいカードを持ってるじゃないかい。だけど、お小遣いならおばあちゃんもあげるよ……速攻魔法『ババーリアン・ギフト』発動! このカードは相手フィールド上のモンスター1体のコントロールをエンドフェイズまで得るよ。その代わり、坊やのライフは500ポイント回復するからねぇ……! 坊やの『砦を守るニート』を借りようかねぇ……!」
「このっ……! 人のモンスターをこき使っておいて、たった500ポイントかよ……! ってか、ダイレクトアタックを喰らったら損じゃねぇか!」
「そうだねぇ……だからこうするのさ! 手札から魔法カード発動! 『ババーリアンの老化促進』!
 このカードを発動した時、自分の場のモンスターは全て『ババーリアン』として扱い、ババアカウンターを4つ乗せるよ! そして、『ババーリアン』の最後の共通効果を発動!」
「な……まだあったのか!」
「ババアカウンターを全て取り除き、取り除いた数だけレベルを上げるよ! つまり、場のモンスターのレベルは全て8になる!」
「レベル8のモンスターを3体揃えた……? まさか!?」
「いくよ! お婆ちゃんはレベル5のモンスター3体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 『MNo.88 時限竜オールドラゴン』!」

『MNo.88 時限竜オールドラゴン』★8 ATK:2900/DEF:2200

「こ、攻撃力2900……!? あんなののダイレクトアタックを喰らったら……!」
「ヒッヒッヒ、亀の甲より年の功……坊やはこのターンで終わりだよ! 『時限竜オールドラゴン』の効果を発動! このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、エンドフェイズ時まで相手とのライフポイントの差だけ攻撃力をアップさせるよ!」

『MNo.88 時限竜オールドラゴン』ATK:2900→3600

「させるか! カウンター罠! 『攻撃の無職化』! 自分フィールド上に他のカードがない場合、相手のバトルフェイズを終了させる! そして、カードを1枚ドローする!」
「おやおや……生き残ったかい。しぶといねぇ……。『時限竜オールドラゴン』の効果、残念ながらこのカードがフィールド上に存在する限り、エンドフェイズに自分の魔法・罠を全て破壊しなくちゃならないんだよ……」
「よし、『優先席』が消えた。しかも、これで罠も怖くないぜ! 充分逆転はできる! 俺のターン、ドロー!」
(よし……来たぜ!)
「俺は、このままターンエンドだ!」

「おやおや……サレンダーした方がいいんじゃないかい? お婆ちゃんのターン、ドロー! 今度こそ止めだよ……エクシーズ素材を取り除き、『時限竜オールドラゴン』で攻撃!」
「手札からモンスター効果発動! 『ムショクリボー』! 自分がダイレクトアタックを受ける時、このカードを手札から墓地に送り、受けるダメージを100の倍数で0まで減らす事ができる! 俺は受けるダメージを3200に減らす!」

遊鎧 LP:3300→3200

「0にしなかった……? どうしてだい……?」

「すぐに教えてやるよ! 俺のターン、ドロー! 魔法カード発動、『最低賃金』! 自分の墓地からライフポイントよりも攻撃力の高いモンスターを2体まで選んで特殊召喚する! 『ニートの剣士』と『砦を守るニート』を特殊召喚するぜ!」
「レベル4モンスターが2体……? まさか……?」
「残念だけど、あんたに俺のMNo.は見せてやれないな! 2体のモンスターをリリースして、『ムショック・マジシャン』をアドバンス召喚!」

『ムショック・マジシャン』☆8 ATK:2500/DEF:2100

「な……アドバンス召喚!? そんなの、お婆ちゃんが若い頃見た召喚方法だよ……!」
「悪かったな! けどこいつは通常モンスターじゃないぜ! 『ムショック・マジシャン』の効果発動! このカードは相手の場の融合・儀式・シンクロ・エクシーズモンスターを1体選択して発動し、そのモンスターを特殊召喚するために使用したモンスターの数×1000ポイント攻撃力を下げる!」
「何だかわけがわからないよ!」
「要するに、あんたの『時限竜』は攻撃力が2000ダウンするぜ! ちなみに、エクシーズ効果を使うと更に1000下がる。使っても使わなくても、俺の『ムショック・マジシャン』は倒せないぜ!」
「何だって!?」
「いくぜ! バトルフェイズ!」

『ムショック・マジシャン』ATK:2500 VS 『MNo.88 時限竜オールドラゴン』ATK:900

「ぎゃぁぁぁぁああ!」

老婆 LP:4000→2400

「悪いが、こいつで止めだ! 速攻魔法! 『親の死』! 俺のターンをスタンバイフェイズに戻し、このターン相手はカードを発動できない! ……その代わり、このカードを発動したエンドフェイズに俺は敗北するけどな! さぁ、最初で最後の仕事の時間だ! 『ムショック・マジシャン』でダイレクトアタック!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」

老婆 LP:2400→0

「俺の勝ちだぜ! 今は高齢化社会だけど、就職難の時代でもあるんだぜ。それを忘れないことだな、ばあさん!」
「負けたよ……。このカードを持っていきな……」

遊鎧 『MNo.88 時限竜オールドラゴン』 ゲット!

「さぁ、次も勝ってやるぜ!」

第一話・完

       

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