Neetel Inside ニートノベル
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 寝て起きて、ご飯を食べて学校で数少ない友達と過ごす。それが私の日常。
 それでも何の変哲もない日々がイヤになる時があります。超巨大な隕石で地球がヤバイ!! 宇宙人発見!! とかそんなイベントっぽいことが起こればいいのに。
 それで、ドクが現れて私はワクワクしました。これで私の日常にも少しのスパイスが加わって刺激的になるんじゃないかと。ですが、ドクは雪見だいふくっぽい何かを食べているだけで、特に何も起こらないのです。
 ドクも私の変化のない日常の一部に溶け込み、ドクの存在に違和感を感じなくなった頃、私の日常は変化していったのです。

 『買い物行ってきて』。始まりは母の一言からでした。
 夕方、寝ようと思って自室のベッドでごろごろしていたら、母に買い物を頼まれてしまいました。本当は行きたくありませんが、夕飯がなくなるのはイヤなので、ここは我慢の子です。

 ドクの瞳と同じ色をした空を背景に、頼まれた食材が入ったビニール袋片手に持って土手を歩いていきます。
「ドク」
 私から一歩分離れたぐらいの距離で、私の斜め後ろをとてとて歩くドクが鳴きました。ドクは私とふたりっきりの時にだけ鳴きます。犬って鳴くなのかな? 吠えるが正しいのかな?
 歩く姿が可愛いドクに優しく微笑んで、前を向くと金髪の女性が私の目の前に立っていました。上下赤色のジャージを着たヤンキーっぽい女性が、いつの間にか私の目の前に立っていたのです。
 ドクの方を、後ろを向く前までは、私の前に人っ子ひとりいなかったのに。人がいないからドクも鳴いたのに。この女性は何なんでしょう?
「まさかこんな場所でお目にかかれるなんてな。お前には悪いが終わってもらう」
 ドクが吠える。威嚇する様な鳴き声でした。私がドクの声を耳にすると同時に、左半分の視界が消えました。突然の事で驚きながらも、自分の身に何があったのかと、左手で左目を覆うように顔に手で触れようとしたのですが、左手が動きません。残った右だけの視界で左腕を見てみますと、左腕が無くなってました。肩あたりから無くなってました。骨も何も残ってません。残ったのは綺麗な切り口ぐらいです。
 左腕の状況が頭に流れてきて、現状を理解してしまうと同時に、視界の端に宙を舞う腕が見えました。不思議とこの段階で血も出ずに痛みも感じないのです。左腕で持っていた買い物袋は、無くなっていました。左腕と一緒にどこかに飛んでいったのでしょう。
 感覚のない左腕がこうなっているのなら、左目はどうなっているのでしょうか? おそらく左目も切り取られたか、なくなっているのだと思います。
「……あ」
 叫ぼう。現状を受け止めるには私の器は小さすぎたのです。現実逃避の手段に叫びを選んだのですが、意識が遠のいて行きます。あぁ、今日の晩御飯はどうなってしまうのでしょうか。


 目を覚ましたら自室のベッドの上でした。私は寝ていたみたいで、部屋の中は真っ暗です。焦って左腕を真上に、天井を手のひらが向く様に勢いよく動かしてみたところ、左腕は動きました。左の視界も元通りです。良かった、さっきのは夢だったみたいです。だってありえないですもんね、見ず知らずの人に会ったと思ったら左腕消失だなんて。今は何時なんでしょうか? 夜だとしたら、晩御飯は残っているのかどうかが気になりどころですね。
 仰向けで寝ていた私は、天井に向けていた左腕を下ろし、上半身を起こします。
「えっ」
 思わず声に出してしまいました。だって上裸なんですもの。……下もでした。感覚でなんとなく分かってましたが、やはり服を着ていません。……もう何も考えたくありませんでした。先ほどの出来事が夢ではない可能性が浮上してきたのです。だって私は寝る前に服を……。
「おぉ、起きたか」
 私の右隣で上裸の金髪な女性が寝ていたみたいです。右側の掛け布団が大きく揺らいで、中から夢で見たヤンキーみたいな金髪の女性が出てきたのです。あぁ、この時点で夢だという可能性は打ち砕かれました。ついでに私の希望だとかその他もろもろも打ち砕かれました。英語で言うとブレイクですよ!!
 おそらくあの金髪な人も全裸なのでしょう。何で私の部屋に金髪人がいるのでしょうか? あ、これからは金髪な女性だと長いし呼び難いので、金髪人と略しますね。
 とりあえず今は服が着たいので、部屋の明かりを点けることにしました。
「おぉ、黒髪ロングに犬耳はやっぱ合うな」
 パチリ、と部屋の電気のスイッチを入れると、部屋が明るくなりました。それで金髪人は、私を見てそんな事を言ったのです。恐る恐る左腕で頭上を確認してみたところ、何か大きいものの感触がありました。しかも、その何かには触られたという感触が……。その何かも私の体の一部みたいです。まぁその何かは金髪の人が言うには犬耳みたいですね。そんな馬鹿な、人にそんな器官はないんですよ!?
 鏡を見たくなった私は、部屋から飛び出し、この家で一番大きな鏡がある洗面所に急ぎました。金髪人なんか無視です無視。

       

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