Neetel Inside ニートノベル
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打った背中が地味に痛い。

「……」

この状況をどうしたものか。
俺たちはただ、次の町に行きたかっただけなのに。なぜこんなイベントが入るのか。

「……あたしの、ターン」

割とこいつにかかってる。うん、割とこいつにかかってる。
ハインは沈痛な面持ちでデュエルディスクを眺めると、意を決してカードを引いた。

「ドロー!」

おそるおそるカードを見る。
ハインの目が輝いた。

「よし! あたしは、手札の《星見獣ガリス》の効果発動!」

引いたカードをディスクに置いて、ハインはさらにカードを引く。

「自分のデッキの一番上から、カードを1枚墓地に送る。そいつが、モンスターカードだったなら!」

カードをぺらりと表に返す。
☆10、モンスターカード。《トラゴエディア》。

「そのレベル×200のダメージを相手に与えつつ、《星見獣ガリス》を手札から特殊召喚できる!」

翼とクチバシを生やしたデカい犬が、どこからともなく飛んできた。

《星見獣ガリス》:☆3/地属性/獣族/ATK 800/DEF 800

ハインがちらっとこっちを見る。

(どっちを狙う?)

口の動きでそう聞いてきた。顎でアーリーを指し示す。

「《トラゴエディア》のレベルは10! ×200で、2000のダメージを喰らえ!」

《ガリス》が羽ばたき飛び立った。クチバシの先がきらりと光る。
アーリーは泡を食って手札を抜いた。

「わ、はっ、《ハネワタ》! 《ハネワタ》の効果発動!」

「は?」

思わず声が出た。

《ハネワタ》☆1/光属性/天使族/ATK 200/DEF 300 【チューナー】

「手札からこのカードを墓地に送って、このターン俺への効果ダメージをカットする!」

カードが墓地へ置かれると同時に、そこから毛玉が飛び出した。羽の生えたオレンジの毛玉。
《ガリス》は突然進路を変えて、オレンジ毛玉に食らいつく。
《ハネワタ》なんてピンポイント防御を、まさか一発目で見るとは。

「ち……! だったら、《星見獣ガリス》をリリース!」

もさもさ毛玉を食ってる《ガリス》を、ハインは容赦なく墓地へ置く。
手札を眺めて一瞬止まる。だがすぐ次のカードを切った。

「《混沌球体》をアドバンス召喚だ!」

《ガリス》の背から煙が噴き出す。
もくもく出てくる黒い煙は、《ガリス》の体を覆い尽くすと、黒い球体を形取る。

《混沌球体》:☆5/闇属性/機械族/ATK1600/DEF 0

バランスボールくらいのサイズの、機械の球が現れた。ハインはさらりとデッキを取り出す。

「こいつを召喚したとき、デッキからレベル3のモンスター1体を手札に加える。もう1枚、《星見獣ガリス》を手札に加える!」

《ガリス》を手札に加えると、デッキを混ぜてディスクに戻す。
そして、カードを1枚引いた。

「《星見獣ガリス》の効果発動! デッキの1番上を落として、モンスターならダメージ召喚!」

だんだん説明が適当になってくる。
引いたカードを確認すると、ハインは若干顔をしかめた。

「レベル4、《黒薔薇の魔女》! 《ガリス》を特殊召喚して、そっちに800ポイントのダメージ!」

引いたカードを墓地に置き、《ガリス》をフランクに差し向ける。
クチバシを開き、《ガリス》は飛んだ。

「……おう、800のダメージだな。受けてやるよ」

肉を抉りに飛んでくる《ガリス》を、ものともせずにフランクは立つ。
尖ったクチバシが大きく開く。フランクは軽く手を振った。

『……!?』

《ガリス》の口がいきなり閉じて、翼もいきなり動きを止めた。
体をキリキリ震わせながら、《ガリス》は宙で静止する。敵の目前で静止する。
フランクは右の拳を握った。

「俺のライフは、7200だ!」

そのまま《ガリス》の顔面に、固く握った拳を打ち込む。
たまらず《ガリス》はぶっ飛んだ。

「わかったから――」

フランクがグッと左手を引くと、《ガリス》はまたもや空中で静止し、直後フランクのもとへ飛んでいく。
まるで、引き寄せられるかのように。

「とっとと、帰れ!」

戻ってきた《ガリス》に蹴りをかます。
サッカーボールと化した《ガリス》は、《混沌球体》と激突するまで止まらなかった。

「"糸"か……」

ダメージを無効にしたわけじゃないのに、なぜこんな仕打ちを受けねばならんのか。
ちょっと《ガリス》に同情したが、数字の上ではダメージは通った。ならまあいいんじゃないですか。

「……《ガリス》は、守備表示で特殊召喚する」

《星見獣ガリス》:☆3/地属性/獣族/ATK 800/DEF 800

ハインは片目をつぶっていた。額に手を当て、黙っている。

あいつの手札には《邪帝ガイウス》がいたはずだ。召喚したとき、場のカード1枚を消し去る帝王。
《混沌球体》ではなく《ガイウス》を召喚していれば、とりあえず《エネアード》は消せたはず。
それをしなかったということは。どうやらハインは、俺が示した『アーリー狙い』という方針を忠実に守っているらしい。

……でもそれってつまり、《エネアード》はぼくが消さなきゃダメってことですよね……。
手札3枚に目を落とす。勝てんのかな、これ。

「たはは……」

ハインは気まずそうに《ライトパルサー・ドラゴン》のカードを見せた。
墓地に光属性と闇属性が揃うと出せるドラゴンだ。《ガリス》の効果でそれを揃えて、物量で攻めようとしたらしい。
が、落ちたのは両方闇属性。運頼みって危険です。

「……バトルフェイズ! 《混沌球体》で、お前にダイレクトアタックだ!」

灰色の髪を軽く振り、ハインは両手で《球体》を抱えた。アーリーに向けてぶん投げる。
飛んでくる鉄の球を見て、アーリーはまたカードを出す。

「《テンパランス》! 《テンパランス》を墓地に送って、1度だけ戦闘ダメージをカット!」

無数の触手が地中から飛び出し、《混沌球体》の動きを止めた。

《アルカナフォースⅩⅣ-TEMPERANCE》:☆6/光属性/天使族/ATJ2400/DEF2400

《アルカナフォースⅩⅣ-TEMPERANCE》。手札から墓地に送ることで、一度だけ戦闘ダメージをゼロにする。
《ハネワタ》といいこいつといい、ピンポイントなカードばかり使う奴だ。

「くそ……あたしはこれで、ターンエンド」

すごすご戻ってきた《混沌球体》を見て、ハインはエンドを宣言する。
ハインの手札はオールモンスター、罠を張ることもできやしない。
アーリーのライフに傷を入れることもできなかった。大丈夫かよこれ。

「……俺のターン! ドロー!」

アーリーは一度息をつくと、ターンの初めにカードを引いた。
手札は5枚。さて、どう来るか。

「墓地から《シャインエンジェル》と《ハネワタ》を除外! 光属性の2体を除外して、手札の《神聖なる魂》を特殊召喚!」

一筋の白い光が、青みがかった景色に差し込む。白い翼に白い肌、美人の天使が舞い降りた。

《神聖なる魂》:☆6/光属性/天使族/ATK2000/DEF1800

「《シャインエンジェル》と、《サイバー・ヴァリー》、《ハネワタ》……これで、除外された光属性モンスターは3体!」

そんな天使に目をやりながら、アーリーは細く声を張る。

「だから、《ライトレイ マドール》を手札から特殊召喚する!」

白髪をびっしり逆立てて、仮面をかぶった魔法使い。羽織ったマントが変態臭い。

《ライトレイ マドール》:☆6/光属性/魔法使い族/ATK1200/DEF3000

《神聖なる魂》に、《ライトレイ マドール》。どちらもレベル6のモンスター。
やはり、エクシーズ召喚か……。

「よし。で、《手札抹殺》を発動。全員、手札をすべて捨てる」

「は?」

これは俺じゃない。フランクだ。

「ひっ」

「てめえ……」

「おっ!」

「……」

アーリー、フランク、ハイン、俺。このリアクションですべてがわかる。
すこぶる手札の悪いハインに、手札交換のチャンス到来。

「へへ……」

「え!?」

ハインの落とした《サンダー・ドラゴン》×3に、アーリーは全力で表情をゆがめた。さすがにちょっと同情する。
アーリー本人はというと……《ADチェンジャー》に、《フォトン・スラッシャー》。そういや、こいつ結局《スラッシャー》使ってねえじゃん。

「……」

フランクは黙って1枚捨てた。《ギミック・パペット-ボム・エッグ》……ふむ。
ちなみに俺は《竜宮の白タウナギ》《オイスターマイスター》《トランスターン》でした。ありがとう。

「……その後、捨てた枚数分、ドローする!」

4人一斉にカードを引いた。

「よし。レベル6の《ライトレイ マドール》と、《神聖なる魂》の2体でオーバーレイ!」

天使と変態が手を取り合って、そのまま宙へ浮き上がる。
天から差し込む光に包まれ、そのまま2人は交わった。

「エクシーズ……召喚っ! 来い、《セイクリッド・トレミスM7》!」

光をまとって現れたのは、白と金の機械竜。
プラネタリウムのようにきらめく、青い翼を左右に構え。雄々しくその場に立っている。

《セイクリッド・トレミスM7》:★6/光属性/機械族/ATK2700/DEF2000 【エクシーズ:Unit 2】

「《トレミスM7》の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使って、墓地のモンスター1枚を手札に戻す」

地面がボコボコひび割れて、無数の触手が飛び出した。
うねうねしながら一つに丸まり、アーリーの手中に収まった。

「俺は、《テンパランス》を手札に戻す」

《神聖なる魂》や《ライトレイ マドール》でなく、防御カードを戻したようだ。
《手札抹殺》の使い方といい、プレイスタイルが見て取れる。

「バトルフェイズ!」

そんなことを考えながら、アーリーのほうを見ていると。ばっちり目が合いました。

「《トレミスM7》で、ダイレクトアタックだ!」

やっぱ俺ですか。
夜空のように暗い青、星の散らばる左右の翼を、これでもかってくらいに広げ。《トレミス》が俺に向き直る。
防御策、なし。俺は黙って腰を落とす。

プラネタリウムの星々の、それらひとつひとつから。細いレーザーが発射された。

「い……!」

避ける暇がなかった。
デカい翼から放たれる、レーザー砲の雨あられ。俺にどうしろと言うのかね。

「あ……g……」

結果、俺は全身打ち抜かれて、地面に倒れ伏すハメに……痛い。ちょっとこれはガチで痛い。痛い。痛い。

「大丈夫か!? 大丈夫かよ!? おい!」

切羽詰まった声がする。
痛い。痛いが、俺が倒れたらハインはどうなる。一般人のハインはどうなる。

「おい、フラッド! フラッドー!」

「……」

なんてことを考えてみたが、やっぱり痛いもんは痛い。
うつ伏せに倒れたまま、顔だけ起こし、軽く手を振る。大丈夫だから、そっとしてくれ。
《ナンバーズ》補正がある以上、この程度では死にゃしない。痛いけど。痛いけどね。残りライフは6700→4000。

「えーと、メインフェイズ2。俺は、魔法カード《一時休戦》を発動」

「あ?」

「ひっ」

アーリーが発動した魔法に、またもやフランクが切れた。

「え、えーと……お互いのプレイヤーはカードを1枚ドローする。そしてそのあと、次の相手のターンが終わるまで、お互いのプレイヤーはダメージを受けない」

「……全員、引け」

あわあわと説明を入れるアーリー。心底嫌そうな顔をするフランク。
『お互いのプレイヤーはカードを1枚引く』という効果だが、この場合全プレイヤーに効果が及ぶらしい。そりゃ嫌だよな。
ディスクを地面に擦りながら、なんとか目の前に持ってくる。俺はそのまま、カードをドロー。

「これで、次のお前のターン。俺はダメージを受けない……ターンエンド」

全員カードを引いたところで、アーリーはターンを終えた。
俺はのろのろ立ち上がり、再びカードを1枚ドロー。

「俺のターン、ドロー……」

さて、手札は5枚です。
ATK2700の《トレミスM7》、ATK3000の《エネアード》。どちらもユニットを残している。

「……」

……情けないが、手出しできん!

「《ハリマンボウ》を召喚」

ディスクにカードを1枚置いて、俺はのろのろ立ち上がる。
どうにかこうにか直立すると、右耳の横に気配を感じた。

『……』

『サッカァァァァァァァ!!』

マヌケなツラをしたマンボウが、静かにふよふよ浮いていた。じっと俺を見つめている。
横っ腹に青いコバンザメがくっついていた。

「《シャーク・サッカー》は、魚族モンスターを召喚したとき、それに付随して手札から特殊召喚できる」

2枚目のカードをそっと出した。
これでレベル3のモンスターが2体、エクシーズチャンス到来です。

《ハリマンボウ》:☆3/水属性/魚族/ATK1500/DEF 100
《シャーク・サッカー》:☆3/水属性/魚族/ATK 200/DEF1000

「この2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!」

密着したマンボウとコバンザメが、青い光に姿を変える。

「エクシーズ召喚。《太鼓魔人テンテンテンポ》!」

魚族デッキだからといって、魚族モンスターしか使わない、なんてことはないんです。
光が弾けて現れたのは、愛嬌のある食い倒れ人形。腹部の太鼓をポンポン鳴らした。

《太鼓魔人テンテンテンポ》:★3/地属性/悪魔族/ATK1700/DEF1000 【エクシーズ:Unit 2】

さて。こいつでは《エネアード》と《トレミス》を倒すことはできない。
だから、とりあえず無力化しておく。

「《テンテンテンポ》の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使うことで……」

食い倒れ人形が、両手のスティックを構える。

「1ターンに1度。相手のエクシーズモンスター1体のオーバーレイユニットを、1つ墓地へ送ることができる!」

俺は静かに耳を塞いだ。
それを合図と受け取ると、人形は太鼓を打ち鳴らす。

「《トレミスM7》のオーバーレイユニットを、1つ墓地に送る!」

塞いだ耳を貫く騒音。音波が敵の《トレミス》を襲う。
しつこくドンドコ鳴る音にやられ、機械の竜は崩れ落ちた。オーバーレイユニット、1→0。

「そしてその後、《テンテンテンポ》の攻撃力が500アップする!」

食い倒れ人形はけらけら笑い、手にしたスティックでジャグリング。ATK1700→2200。
これで《トレミス》の効果は封じた。が、攻撃力では負けている。

「……」

なので、ここからは綱渡り。"煉獄の糸"に視線を向ける。
《フィッシャーチャージ》のハッタリは、ものの見事に踏み潰された。奴に小技は通用しない。
奴に対して有効なのは、致命傷となりえる罠だ。

「リバースカードを2枚出す! ターンエンド!」

俺の手札は残り1枚。この罠が決まらなかった場合、闘い続ける余力はない。
どうなることでしょうねー……。

「……俺のターン、ドロー」

フランクがカードを引く。とりあえず、やれることはやっておかねば。

「そこで、再び《テンテンテンポ》の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い……」

ドローの直後に割って入る。《テンテンテンポ》のこの効果は、相手のターンでも使用可能。
騒音ドラムが再び始まる。

「《エネアード》の持つオーバーレイユニットを墓地へ送り、攻撃力を500アップ!」

暴力的な音の波が、フランクの背後の巨龍を襲う。たまらずその場で膝をつく龍。
食い倒れ人形は爆笑しながらスティックを捨てた。ATK2200→2700。
ついでに腹の太鼓も外して、空高く適当に放り投げる。

「で! オーバーレイユニットとして使われた、《ハリマンボウ》の効果発動! こいつが墓地へ行ったことで、《エネアード》の攻撃力を500下げる!」

太鼓の膜がいきなり破れ、そこから無数の針が飛び出す。
膝をついていた《エネアード》に、この針をかわすことはできない。翼をぶち抜かれ、雄叫びを上げる。ATK3000→2500。
太鼓はそのまま自由落下し、地面にぶつかり破損した。

『……』

太鼓の中にはマンボウが入っていた。
が、着地の衝撃で死んだらしい。そのまま霧になって消えた。

「……」

フランクは黙って《エネアード》を見上げる。
騒音に鼓膜をやられ、翼には穴が開き、満身創痍のその姿。
効果も使えず攻撃力も負け、《テンテンテンポ》との力関係は、今や完全に逆転した。
"煉獄の糸"は、ここからどう出るのか。

「墓地の《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》の効果発動。墓地に存在する《マグネ・ドール》を除外することで、《ネクロ・ドール》は復活する」

フランクは平坦にそう告げて、ディスクの墓地からカードを取り出す。
その横で龍は頭を振ると、爪を尖らせ、地面を殴りつけた。龍の腕が地中にめり込む。
そこで何かを掴んだようで、腕をゆっくり引き上げる。その手の中には黒い棺桶があった。

《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》:☆8/闇属性/機械族/ATK 0/DEF 0

「そしてこの《ネクロ・ドール》を墓地に送り、《アドバンスドロー》を発動」

龍は棺桶を握りつぶした。
レベル8以上のモンスター1体を犠牲にすることで、デッキからカードを2枚ドローできる、そういう魔法カードだ。
フランクはカードを2枚引く。これで、手札は3枚か。

「リバースカード、オープン。永続トラップ、《闇次元の解放》……戻れ《マグネ・ドール》!」

《エネアード》は右手の爪をうならせ、そのまま虚空を切り裂いた。
空間が裂け、そこから細身の人形が現れる。

《ギミック・パペット-マグネ・ドール》:☆8/闇属性/機械族/ATK1000/DEF1000

意識せずに冷や汗が出た。
今のプレイ。《ネクロ・ドール》を捨てていなければ、《マグネ・ドール》とエクシーズ召喚ができたはずだ。
それをしなかったのは、単にドローを優先しただけなのか、それとも……。

「そしてこの《マグネ・ドール》を手札に戻すことで、《A・ジェネクス・バードマン》は入れ替わりに手札から特殊召喚できる」

メカニカルな鳥が飛んできて、人形を咥え飛び去った。

《A・ジェネクス・バードマン》:☆3/闇属性/機械族/ATK1400/DEF 400 【チューナー】

人形を無造作に投げ捨てて、《エネアード》の翼に留まる。

「そして、《ジェネクス・ニュートロン》を召喚……レベル4の《ジェネクス・ニュートロン》と、レベル3《A・ジェネクス・バードマン》でシンクロ!」

赤と青を基調とした、モノアイの人型ロボット。

《ジェネクス・ニュートロン》:☆4/光属性/機械族/ATK1800/DEF1200

それが《バードマン》と変形合体。

「レベル7《A・ジェネクス・トライフォース》をシンクロ召喚だ!」

銃と一体化した右腕を持つ、人型ロボットMk2。フランクの前に降り立った。

《A・ジェネクス・トライフォース》:☆7/闇属性/機械族/ATK2500/DEF2100 【シンクロ】

「……」

エクシーズできる場を捨てて、シンクロ召喚を狙ってきた。
尻尾を出した覚えはない。"煉獄の糸"の底が見えない。

「光属性を素材とした《トライフォース》の効果、発動! 墓地から光属性モンスター1体を選び、裏側表示で俺の場に召喚する」

腕のリボルバーをくるくる回し、その銃口を地面に向ける。
そのまま、一発ぶっ放した。

「出てこい、《サイバー・ドラゴン》!」

着弾地点がひび割れて、そこから白い竜が飛び出す。
それを見ながら、ハインがつぶやく。

「《サイバー・ドラゴン》は裏側表示、《トライフォース》も《エネアード》も攻撃力は2500。《テンテンテンポ》は倒せなさそうだな」

おい、フラグ立てるのやめろ。
確かに、《サイバー・ドラゴン》は裏側表示だ。本来なら、おとなしく寝ているべきモンスター。
だが今その《サイバー・ドラゴン》は、元気に空中を旋回している。

「融合素材って、裏側表示でもよかった気が」

「え?」

ハインは俺の言葉の意味を理解していないようだった。
普通のデッキなら、2枚目があるとは思えない。が、奴のデッキはレベル8主軸。ということは。

「自軍の《サイバー・ドラゴン》、及び《セイクリッド・トレミスM7》! そして敵軍、《混沌球体》! これらをすべて、墓地へ送る!」

「え!?」

「え……っ!?」

機械竜および黒い球体が、いきなりその場で砕け散った。
その主であるハインとアーリーは、揃って同じようなリアクションを示す。

「以上3体の機械族モンスターを素材として……」

空気を吸うように破片を吸い上げ、《サイバー・ドラゴン》は変貌する。
《混沌球体》と《トレミス》を部品に、ボディを巨大に組み替える。

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を融合召喚する!」

ゴツい紫の機械竜が、空からズドンと降ってきた。その重量で地面を揺らす。
振動の中を這いずりながら、フランクを中心として、長い体で円を描く。

『……』

フランクの前に立っていた《トライフォース》は、バク宙をかまして《フォートレス》の背中に飛び乗った。
そしてその場で跪く。役目は終えたと言わんばかりだ。

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》:☆8/闇属性/機械族/ATK3000/DEF 0

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》は、召喚に使った素材の数×1000ポイントの攻撃力を得る。よって、その攻撃力は3000ポイント!」

「うそ、《テンテンテンポ》より……」

ハインが変なフラグを立てたせいか、さらっと攻撃力を超えられた。
迫る脅威を感じ取ったのか、食い倒れ人形が大口を開ける。

「……」

しかし、今度は融合と来た。
やっぱり、あいつは……

「さて、バトルフェイズだ」

そんなことを考えながら、フランクのほうに視線を送ると、やっぱりバッチリ目が合いました。
ATK2500《聖刻神龍-エネアード》、ATK2500《A・ジェネクス・トライフォース》、ATK3000《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》。
敵陣モンスターの総攻撃力、しめて8000ポイントなり。

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》で、《太鼓魔人》を攻撃する」

フランクが軽く腕を振る。と、紫の竜が顔を上げた。
1度瞬きをしたら、その時にはもう、その顔がすぐ目の前にあった。

「うわ……っ!」

《テンテンテンポ》が食われていた。

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》:☆8/闇属性/機械族/【ATK3000】/DEF 0 
  vs
《太鼓魔人テンテンテンポ》:★3/地属性/悪魔族/【ATK2700】/DEF1000 【エクシーズ:Unit 0】

バリバリバキバキ音を立て、血をあちこちにまき散らしている。ちょっとかかった。俺のライフ、残り4000→3700。

「そして《聖刻神龍-エネアード》で、ダイレクトアタック!」

なかなか凄惨な光景に軽く引いていると、今度は空に魔方陣が浮かんでいた。

「トラップ! 《ピンポイント・ガード》!」

《エネアード》が口から火を噴いた。火は球になって飛んでいき、魔方陣に飲まれて消える。
そして陣から熱線が飛び出す。俺は必死でカードを投げた。

「防げ、《竜宮の白タウナギ》ッ!」

カードから白いウナギが現れ、熱線の軌道をわずかに逸らす。
ウナギはこんがり焼けているが、ギリギリ俺は飲まれずに済んだ。

「相手の攻撃宣言時、墓地の下級モンスターを守備表示で復活させて壁にする」

《白タウナギ》改め《黒ウナギ》が、どさりと地面に落下した。そのまま地面を這い回る。
《ピンポイント・ガード》で壁にしたモンスターは、そのターンの間死ぬことはない。

《竜宮の白タウナギ》:☆4/水属性/魚族/ATK1700/DEF1200 【チューナー】

「ち……俺はこれで、ターンエンド」

どうにかこうにか生き延びた。思わずため息が漏れたよ。
さて、次はハインのターン……。

「あたしのターン! ドロー!」

勢いよくカードを引いた。
フランクはやりたい放題やってくれたが、その分アーリーの場が空いた。
腐っていた手札も交換できたし、ここで攻め込んでもらいたい。

「手札の闇属性《イリュージョン・スナッチ》、あと光属性の《太陽風帆船》を墓地に送ることで、墓地の《ライトパルサー・ドラゴン》は復活する!」

ハインは手札を2枚捨てた。

「そして、《次元合成師》を通常召喚! で、効果発動! デッキの一番上のカード……《機動要塞トリケライナー》を除外」

さらに1枚、手札を切る。

「そうすることで、《次元合成師》の攻撃力を500ポイントアップ!」

結果、場に現れたのは。
青白く光る体の竜と、金の手甲の鉄騎兵。

《ライトパルサー・ドラゴン》:☆6/光属性/ドラゴン族/ATK2500/DEF1500
《次元合成師》:☆4/光属性/天使族/ATK1800/DEF 200

「《ガリス》を攻撃表示に戻す!」

そして、鋭いクチバシ犬。手札を3枚投げ捨てて、攻撃態勢を整えた。
が、ここまでやっておいて、フランクの場には一切干渉していない。これアーリー殺せないとマジで死ぬぞ。

「行くぞ、バトルだ! 《次元合成師》でダイレクトアタック!」

狙いは当然アーリーだ。
やけ気味に叫ぶハインの横で、鉄騎兵が駆け出した。

「トラップ発動、《聖なるバリア-ミラーフォース》っ!」

そして撃沈した。

「え!?」

「攻撃してきた相手モンスターを、全滅させる!」

動じていないと思ったら、アーリーは罠を張っていた。
光のバリアにぶち当たり、鉄騎兵は跳ね飛ばされた。
さらにバリアからビームが飛び出し、《ライトパルサー・ドラゴン》を襲う。いやマジでこれどうすんだよ。

「クソ……! だったら、手札から《異界の棘紫竜》の効果発動!」

「え?」

無数のビームに貫かれ、竜はその場で爆発四散。
しかしその爆風の中から、飛び出す影が1匹分。

《異界の棘紫竜》:☆5/闇属性/ドラゴン族/ATK2200/DEF1100

「あたしのモンスターが場から墓地に送られたとき、《棘紫竜》は手札から特殊召喚できる! こいつで追撃だ!」

あちらこちらに棘の生えた、紫色の竜である。
バリアの横をすり抜けて、アーリーを食らうため飛んでいく。

「喰らえ!」

「わ、わ……!」

《ミラフォ》に安心しきっていたのか、アーリーは動揺しまくっている。
やっと攻撃が通るのか?
そう思ったら。急速飛行する竜の眼前で、突如黒い傘が開いた。

「《ジェントルーパー》! 《ジェントルーパー》! 《ジェントルーパー》を特殊召喚! 守備で!」

「はぁ!?」

早口アーリーにハインがキレると、傘の持ち主が現れた。
紳士服をばっちり着込んだ、ピンク色のウーパールーパー。開いた傘でふわふわ浮かぶ。

「クソっ、やっちまえ! 《棘紫竜》!」

そして傘ごと竜に食われた。

《異界の棘紫竜》:☆5/闇属性/ドラゴン族/【ATK2200】/DEF1100
  vs
《ジェントルーパー》:☆4/光属性/爬虫類族/ATK1200/【DEF1000】

「あ、あぶね……」

アーリーは息をついている。
相手の攻撃時、手札から身代わりとして場に出せるのが《ジェントルーパー》。《ハネワタ》に《テンパランス》といい、やたらに防御カードを多用する奴だ。
というかよく考えると《オーシャンズ・オーパー》の一撃以外、アーリーにはダメージが入っていない。

「《次元合成師》が死んだから、《トリケライナー》は回収させてもらったからな」

ハインはちゃっかりカードを回収していた。死亡時に除外されたカードを回収できるのが、鉄騎兵の能力である。
だが、バトルフェイズは終わってしまった。もう攻められない。

「……あたしは、これでターンエンド」

手札は4枚残っている。が、ハインのデッキはオールモンスター。
いくら手札が余っていようと、罠を貼ることはできないのだ。どうにもこうにも不安が残る。

「お、俺のターン。ドロー」

そうこうしている間に、アーリーのターンが始まった。
まあ、こいつの手札もわずか2枚。うち1枚は《テンパランス》、実質使えるのは1枚のみ。

「俺は、《ワーム・ゼクス》を召喚!」

その実質1枚はなんだったのか?
地面から染み出るようにして現れた、緑色のエイリアンだった。

《ワーム・ゼクス》:☆4/光属性/爬虫類族/ATK1800/DEF1000

「このモンスターの召喚に成功したとき、デッキから《ワーム》モンスター1体を墓地に送る……《ワーム・ヤガン》を墓地へ」

ドーナツに棒を4本足してXの字にしたような、気持ち悪いモンスターである。
そのドーナツの中央には、牙をむき出した口がある。

「そして場に《ワーム・ゼクス》がいるとき、《ワーム・ヤガン》は墓地から復活する! 裏側表示で!」

で、今度はその口から、黄色いスライムをドバドバ吐き出した。
スライムは地面に流れ出る。

「まだだ、墓地から《ADチェンジャー》の効果発動。これを除外して、場のモンスター1体の表示形式を変える! 《ヤガン》を攻撃表示に変更!」

スライムがにょきにょき立ち上がる。
最終的にキモい松の木みたいな形になった。二枝に分かれた2本の枝が、Yの字を形どっている。
枝の先に生えているのは、松の葉ではなく、紫色の触手。うねうねしてる。

《ADチェンジャー》:☆1/光属性/戦士族/ATK 100/DEF 100
《ワーム・ヤガン》:☆4/光属性/爬虫類族/ATK1000/DEF1800

「そして《ヤガン》は、裏側表示から表側表示になったとき、相手のモンスター1体を手札に戻す!」

触手がグジュグジュ伸びはじめ、黒焦げのウナギに迫りくる。ホラー。

「《竜宮の白タウナギ》を、手札に戻してもらう!」

ウナギは触手に飲まれて消えた。俺はカードを手札に戻す。

「……」

これで俺には壁がない。だが、エイリアン2匹の攻撃を受けても、どうにかライフは残る計算だ。
そして、奴の場にはレベル4のモンスターが2体。

「行くぞ……」

アーリーは大きく深呼吸をした。なんだ?

「……俺は! 《ワーム・ゼクス》と、《ワーム・ヤガン》、レベル4のモンスター2体をオーバーレイ!」

2匹のエイリアンがその場で溶けた。

「……あ?」

黙って見ていたフランクが、眉をひそめて声を上げる。
が、アーリーは聞いていない。黄色と緑のスライムが、混ざり合って黒くなる。
黒いスライムは地面を広がり、マンホールぐらいの円になる。
円は水面のように波打っていた。

「……」

アーリーは一度唾を飲むと、その場に屈み、黒い円に手を突っ込んだ。

「え……!?」

ハインが驚きに変な声を出した。
黒い円は、ただのスライムだったはずだ。
にもかかわらずアーリーは、それが穴であるかのように、肘まで手を突っ込んでいる。

「2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!」

穴から腕を引き抜く。
その手には、一本の白い剣が握られていた。

「エクシーズ、召喚っ!」

そしてアーリーは引き抜いた剣を、黒い穴の傍に突き刺した。

「うぇ……!?」

ハインの顔が驚きに歪む。
剣を引き抜いた黒い穴から、これまた黒い腕が突き出た。

「……来てくれ、俺の《ナンバーズ》!」

2本目の腕。頭。胴。足。
ドス黒い姿の人間が、黒い穴から這い出てきたのだ。
這い出たそいつはゆっくりと立ち上がり、アーリーが突き刺した剣を握る。
そして、すぐに剣を抜いた。

「現れろ、《No.39》! 《希望皇ホープ》!」

「え、あ、え……!?」

ハインが驚きに目をこすった。
さっきまでコナンの犯人だったはずの、穴から出てきたブラック人間は、今。
どういうわけだか、白い甲冑を身にまとう、光り輝く騎士へと……姿を変えていた。


《No.39 希望皇ホープ》:★4/光属性/戦士族/ATK2500/DEF2000 【エクシーズ:Unit 2】


「……こいつ、《ナンバーズ》!」

白い甲冑の背中からは、翼を模したパーツが伸びている。
その威容にしばらく気圧されていたが、ハインが思い出したように声を出した。
で、そのあとに続いたのは、意外なことにフランクさん。

「おい、アーリー。どういうつもりだ」

「え、え……?」

《フォートレス・ドラゴン》、《トライフォース》、《エネアード》。
3体のモンスターを背後に置き、腕を組んだまま、"煉獄の糸"は言葉を続ける。

「この状況なら、《ワーム》2体で攻撃してから、そのあとでエクシーズするのが普通だ。違うか?」

「あ……」

冷静に、プレイングミスの指摘をしていた。
まあ、そうだね。《ホープ》の攻撃力は2500、《ゼクス》と《ヤガン》はそれぞれ1800と1000。
2体で殴ったほうが、単純なダメージは大きくなっていた。

それに、こんな罠に引っかかることもなかった。


「トラップ、発動。《スプラッシュ・キャプチャー》」


白い騎士の現れた穴から、間欠泉が噴き出した。


「え、あ……!?」

「チッ!」

「……え?」

目の前に立ち上る水柱。
アーリーは驚き、フランクは舌を打つ。ついでにハインも驚いていた。

「相手がエクシーズ召喚を行ったとき、墓地の魚族モンスター2体を使って発動できる」

今この場は、俺の独壇場だ。

「相手が召喚した、そのエクシーズモンスターを……奪い取るッ!」

水柱から飛び出したのは、水色の鮫と赤い金魚。ロープをくわえて飛び出した。
くわえたままのそのロープを、器用に《ホープ》の甲冑へ引っかけ、そのまま上空へ飛び上がる。

「あ、ああっ!? 待て、待てよ!」

ようやく状況が飲めたようで、アーリーは空へ手を伸ばす。が、もはやどうすることもできまい。
2匹の魚はしっかりと、俺の手に《ホープ》を連れてきた。
俺の場に白い騎士が降り立つと同時に、アーリーのディスクから《No.39》のカードが飛んでくる。それを受け取り、俺のディスクに置く。
アーリーの手札は残り1枚、しかもそれは《テンパランス》。どうせできることはないので、このままターンを進めさせてもらう。


☆現在のフィールド☆
《ハイン・ウエイン》 手札:4 LP:8000
場:《異界の棘紫竜》@ATK2200

《フラッド・ビーチ》 手札:2 LP:3700 【NEXT】
場:《No.39 希望皇ホープ》@ATK2500

  vs

《アーリー・ウォーリー》 手札:1 LP:7300
場:なし

《フランク・ストレイド》 手札:3 LP:7200
場:《聖刻神龍-エネアード》@ATK2500 《A・ジェネクス・トライフォース》@ATK2500 
  《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》@ATK3000



「俺のターン、ドロー!」

アーリーの残りライフは、7300ポイント……。

「《竜宮の白タウナギ》を召喚。そして手札から、フィールド魔法《忘却の都 レミューリア》を発動する!」

地響きとともに《スフィア・フィールド》が揺れる。
足元がボコボコ盛り上がり、白い石造りの建物が、いくつも《フィールド》に現れた。
白いウナギも現れて、《ホープ》の隣に並び立つ。

《竜宮の白タウナギ》:☆4/水属性/魚族/ATK1700/DEF1200 【チューナー】】

「《レミューリア》が発動している間。フィールドの魚族モンスターの攻撃力と守備力は、200ポイントずつアップする」

「……ん? あれ?」

ハインが何か言いたがっているが、スルーしてプレイを進める。

「そして、《レミューリア》第二の効果発動! 俺の場に存在する水属性モンスター1体につき1つ、場の水属性モンスターのレベルを上げる!」

地中海チックな白い町並み。そこから水の力を受けて、《白タウナギ》は巨大化する。レベル4→5。
さて。さっき《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》が召喚されたとき、フランクは……
アーリーのモンスターを素材とする際、「『自軍の』《サイバー・ドラゴン》及び《トレミスM7》」と言った。

つまり。

「ハイン! モンスター借りる!」

「え? お、おう!」

このタッグデュエル、チーム2人のフィールドは分割されているが……味方間でのカードの利用は、許されているということだ!
棘まみれの紫竜が、俺の下へ飛んでくる。

「レベル5《異界の棘紫竜》と、レベル5になった《竜宮の白タウナギ》でオーバーレイ!」

そして白いウナギとぶつかり、紫と白は混ざり合う。
2匹は灰色の光になると、建物の陰へと消えていく。

《異界の棘紫竜》:【☆5】/闇属性/ドラゴン族/ATK2200/DEF1100
《竜宮の白タウナギ》:【☆5】/水属性/魚族/ATK1900/DEF1400

「こっち!」

「え?」

「こっち来て!」

手招きでハインを呼び寄せる。
ハインはいまいち理解していないようだったが、釈然としない表情で、こちらに走り寄ってくる。
んー、まあそのくらいの位置でいいか。よし。

「エクシーズ召喚!」

足元が爆発した。

「お、おわ……!」

ハインはその場で尻餅をつく。
俺とハインと、ついでに《ホープ》。その足元の地面が不自然に盛り上がり、そのまま空高く浮き上がる。

「な、なんだこれ!?」

離れていく地面を見下ろしながら、ハインが恐る恐る呟いた。

「飛べ、魚たちの大和――《シャーク・フォートレス》ッ!」

黒い鮫の姿を模した、10mオーバーの空中要塞。
浮上したその要塞に乗って、俺たち2人は飛んでいた。

《シャーク・フォートレス》:★5/闇属性/魚族/ATK2400/DEF1800 【エクシーズ:Unit 2】

「……チッ」

眼下でフランクが舌打ちをした。と思う。離れたせいでよく聞こえないけど。

「この《シャーク・フォートレス》も魚族だー! よって、《レミューリア》の効果を受けて、攻撃力は200ポイントアップー!」

なので、俺は声を張り上げて説明する。

「え? お、おい! ちょっと待て!」

ハインが立ち上がり寄ってきて、俺の肩を乱暴に掴んだ。
その手を払って、俺は続ける。

「で、《シャーク・フォートレス》の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い、場のモンスター1体の攻撃回数を増やす!」

重低音を響かせながら、黒い要塞は鳴動する。振動でハインがコケた。

「この効果を、《シャーク・フォートレス》自身に使う。これで、《シャーク・フォートレス》はこのターン2回攻撃することができる!」

「ちょ、ちょっと待てよ! 《ホープ》に使うところだろそれ!? なんか勘違いしてないか!?」

要塞の後ろのほうで跪いていた《ホープ》。
その《ホープ》を指差しながら、ハインがぎゃあぎゃあ叫んだ。

「《フォートレス》の攻撃力は200上がって2600、《ホープ》より高い。だから、2回攻撃させるならこっちじゃ?」

「だから! それが勘違いなんだよ、《レミューリア》で攻撃力が上がるのは魚族じゃねえ! 『水属性モンスター』なんだよ!」

「……いや、《レミューリア》ってたしか、《海》と同じ……」

「だから、それは名前だけ! 《白タウナギ》の攻撃力が上がったのは、あいつが水属性だから! 《フォートレス》は闇属性だろ!?」

「……」

俺は要塞の前のほうに立つ。
《レミューリア》のカードをディスクから抜き出し、そのテキストを読んでみる。

《忘却の都 レミューリア》
フィールド魔法
このカードのカード名は「海」として扱う。
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上の水属性モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントアップする。
また、1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。
このカードがフィールド上に存在する限り、
自分フィールド上の水属性モンスターの数と同じ数だけ、
自分フィールド上の水属性モンスターのレベルをエンドフェイズ時まで上げる。

確か、《海》のテキストは……

《海》
フィールド魔法
フィールド上に表側表示で存在する魚族・海竜族・雷族・水族モンスターの
攻撃力・守備力は200ポイントアップする。
フィールド上に表側表示で存在する機械族・炎族モンスターの
攻撃力・守備力は200ポイントダウンする。


「……」

「~~~~!」

カードを持ったまま黙っていると、ハインがその場で地団太を踏んだ。
無視されてイラついていたのだろうが、《フォートレス》が可哀想だからやめてほしい。
しかし、ナイスアシストだ。目だけでアーリーのほうを見る。

「……っ」


ため息まじりに、苦笑していた。


うん。つくづくナイスなアシストである。

「……バトルフェイズー! 《ホープ》でダイレクトアタックだ!」

アーリーを指して《ホープ》に命じる。
要塞の上で跪いていた、白い甲冑の輝く騎士は、剣を構えて跳躍する。

「う、わ……!」

上空からの急襲に、アーリーは数歩後ずさる。
《ホープ》はそのままアーリーに迫るが、その眼前で急停止した。

「《テンパランス》を手札から捨てることで、俺へのダメージを1度だけゼロにする!」

ぶっとい触手がうねうねしながら、アーリーの前で壁を作っていた。
《ホープ》は触手を切り払うが、その隙にアーリーは逃げおおせる。

「なら……《シャーク・フォートレス》で、2連続攻撃だ!」

要塞が少しぐらついた。
同時に、大量のミサイルが発射される。

「おわ……ああああああああああああああああっ!」

4800ポイント分のミサイル。もう回避どうこうの話じゃない。
ばら撒きミサイルの直撃を受けて、アーリーはその場で撃沈した。土埃すごくて見えないけど、撃沈したに違いない。

「う……ぐ……」

だが、奴も《ナンバーズ》持ち。この程度では死なないか。
黄色い砂煙の中で、立ち上がろうとする影が見える。

「……あれ?」

いや待て、なんか変だな。
あいつの《ナンバーズ》、《39》は今俺の手にある。
なのに、《ナンバーズ》の力が発揮されている……?

「ダメか、《フォートレス》でも仕留めきれねえ……!」

ハインの悔しそうな声を聞いて、ふと我に返る。
《39》以外にも《ナンバーズ》を持っていた、そんなところだろう。


そんなことより、この勝負を終わらせるのが先だ。


「いや、終わったよ」

「え?」

不思議そうにするハインに、俺は1枚のカードを見せてやった。

「《イージーチューニング》。発動してたから」


《イージーチューニング》
速攻魔法
自分の墓地のチューナー1体をゲームから除外し、
自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択した自分のモンスターの攻撃力は、
このカードを発動するために除外したチューナーの攻撃力分アップする。


では、改めて。

「速攻魔法、《イージーチューニング》! 墓地に存在するチューナーモンスター1体を除外することで、その攻撃力を場のモンスター1体に加える!」

速攻魔法を天高く掲げ、アウトローたちに見せつける。

「《竜宮の白タウナギ》を除外することで、《シャーク・フォートレス》の攻撃力を1700上げた!」

2400×2で、4800ポイント分のミサイル。さっきはそう言ったが、嘘だ。
実際にやったのは4100×2。総ダメージは8200。アーリーの残りライフは7300。以上。

「え、え……!?」

「……バカ野郎が」

アーリーはテンパり、フランクは悪態をつく。

「……あれ、もしかして」

そんな敵の姿を見つつ、ハインは急に顔を上げる。

「攻撃力の低い《シャーク・フォートレス》を、2回攻撃できるようにした……」

少し上のほうを見ながら、記憶をたどるようにぼやく。
そして、俺のほうを見た。

「もしかして、狙ってたのか? あれ」

その言葉を待っていました。

「自分が使うカードの効果を、間違えるわけないでしょ」

《レミューリア》で《シャーク・フォートレス》の攻撃力が上がらないことくらい、ちゃんと把握しているさ。
《ホープ》ではなく《フォートレス》に効果を使う、その口実が欲しかっただけだ。

「そうすりゃ、使ってくれるでしょ? 《テンパランス》を、《ホープ》に、さ」

『1度だけダメージをゼロにできる』と言われれば、もっとも大きいダメージを止めるのが普通だろう。
普通に特攻した場合、《イージーチューニング》で強化したモンスターの攻撃のうち、1回は《テンパランス》に防がれてしまう。
ダメージは2500+2400+1700=6600。それではライフを削り切れない。
だから、あえて攻撃力の低い《シャーク・フォートレス》に2回攻撃能力を付与した上で、
その時点で最も攻撃力の高かった《ホープ》に、《テンパランス》を使わせる必要があった。

「ほえー……」

そんな説明をしたわけではないが、ハインは勝手に理解したようだ。
そして、一言。

「あんた、意外とセコいんだな」

「……」

褒めるなら、そこは「したたか」と言ってほしかった。
まあ、いいか。

「《シャーク・フォートレス》!」

《フォートレス》はさらに高度を上げる。
アーリーと《No.39》が発動した《スフィア・フィールド》は、かなりの広さを誇っている。東京ドーム何個分だろう?
というわけで。ぐらつき倒れるハインに向け、俺は紳士的に告げてやった。

「落ちないように、気を付けて」

「え?」


「行け、《シャーク・フォートレス》!」

命令と同時に。
それまで固定砲台だった要塞は、まっすぐ飛行を開始した。

「3400ポイントの、追加ダメージを……食らわせろ!」

短い助走でスピードに乗る。
そしてアウトローたちの頭上に来ると、無数の爆弾をばら撒いた。

「え……お、わ、うわああああああああああああああああああああああああああ!!」

背後で聞こえるアーリーの悲鳴が、どんどん遠ざかっていく。ライフポイント、7300→3200→0。
アウトローたちを通り越し、要塞はそのまま飛行する。猛スピードで。

「な、なに、なに考えてんだ……!」

ハインの声が途切れ途切れに聞こえる。

「このまま、逃げる!」

俺の声も途切れ途切れだ。風圧キツい。というか落ちそう。
デュエルが始まるとき、フランクは『一人殺ればそれで済む』と言った。
《ナンバーズ》を持っているのは俺だけなので、その俺を仕留めさえすれば、一般人のハインはどうにでもなる。
そういう意味の発言だったのだろうが、それがそのままタッグデュエルの勝利条件になったとすれば。

「あ、《スフィア・フィールド》が……!」

ハインの声に顔を上げると、青色の《スフィア・フィールド》が、ボロボロ崩れ落ちつつあった。
やっぱり、そうだ。アーリーを撃破した時点で、デュエルは終わったとみなされている。
"煉獄の糸"に勝てるビジョンが浮かばなかったので、ひたすらアーリーを狙ったのだが、どうやら正解だったようだ。

「……」

というか、終わらなかったらたぶん死んでた。
《スプラッシュ・キャプチャー》をピンポイントで回避された辺りから、"煉獄の糸"に勝つビジョンは見えていない。

「で、でも、待てよ! 《フィールド》が、消えたら……」

《フォートレス》は飛行を続ける。
《スフィア・フィールド》の突き当りが見えてきた。

「実体化してるこいつは、立体映像に戻っちまうんじゃ……!?」

「行けー!」

《フォートレス》の巨体が、ひび割れた壁に激突する。
特に抵抗もなく壁は砕け、俺たちは《スフィア・フィールド》の外に飛び出した。

そして、落ちた。

「あ、わ、あああああああああああああああああ!?」

《フィールド》を出た時点で、《フォートレス》はただの立体映像に戻った。そんなものに乗れるわけがない。
だがまあ、焦ることもない。

「《シャーク・ドレイク》ッ!」

デッキからカードを1枚出して、ディスクにセット。
《ナンバーズ》だけなら、《フィールド》の外でも実体化できる。

「受け止めろー!」

4枚ビレの赤い鮫が、いきなり空中に出現した。
2枚のヒレで器用に俺たちを受け止めると、残った2枚で空中を泳ぐ。

「……」

「ふぅ……」

これでどうにかなりそうだ。俺は軽く息をつく。
ハインは死にそうな顔をしていた。

「……死ぬかと、思った……」

顔を動かさずに呟いた。ほんとに死ぬんじゃないかなこいつ。

「まあ、なんとか助かったし。《No.39》も、盗ませてもらったし。いいんじゃ?」

《シャーク・ドレイク》に掴まりながら、左手のデュエルディスクを見せる。
さっきので奴らを仕留められたかどうかはわからない。
だが、《スプラッシュ・キャプチャー》で奪った《39》は、このまま持ち逃げさせてもらおう。

「あれ? あんた、《No.39》……どこ行ったんだ?」

「え?」

ハインの顔に生気が戻った。
そして俺の顔からは表情が消えた。

「……あれ?」

デュエルディスクを確認する。
そこに置かれていたカードは、《シャーク・フォートレス》と《シャーク・ドレイク》の2枚だけ。おい、《ホープ》はどこ行った。

「まさか、落としたのか?」

ハインが引き笑い気味に言うが、そんなはずはない。
《フォートレス》はちゃんとディスクに固定されている。《ホープ》も同じだったはずだ。

「……」

……えぇー……?




☆現在判明中のナンバーズ所有者☆

"異世界人(自称)" 《フラッド・ビーチ》
所持ナンバーズ:《32》 《63》 使用デッキ:【魚族】

"元酒場の女" 《ハイン・ウエイン》
所持ナンバーズ:《???》 使用デッキ:【上級軸フルモンスター】


"600$" 《アーリー・ウォーリー》 懸賞金:600$
所持ナンバーズ:《39》 使用デッキ:【光属性?】

"煉獄の糸" 《フランク・ストレイド》 懸賞金:7500$
所持ナンバーズ:??? 使用デッキ:【カオスパペット】

       

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Neetsha