Neetel Inside ニートノベル
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「そういえば……そうだった……」

そんな言葉をつぶやきながら、のろのろアーリーは立ち上がる。
光の球は弾けて消えた。

「そうだ、俺は……」

虚ろな瞳でぼやき続ける。
納得してるということは、これは奴の能力なのか。
しかし微妙な反応からして、自覚のない能力なのか? パッシブスキル的なあれ?

「……ないんだ」

あれこれ推測している内にアーリーの目に光が戻る。
言葉の最初が聞こえなかったが、何と言ったかは次で分かった。

「怖がらなくて――いいんだ」


ヤバい感じがした。

「俺のターン! ドロ――!」

やたらにドローが力強い。
引いたカードと手札を一瞥、迷いなく次のカードを切る。

「手札の《ヴァイロン・スフィア》を召喚。そして、魔法カード《アイアンコール》!」

バレーボールくらいの球が、《フィールド》の天井から降ってきた。
目と腕の付いた機械のボール。アーリーの前でふわふわ浮いてる。

「下級機械族モンスター1体を、復活させる!」

ボールがふるふる震え出す。
やがて振動は音波を発し、水の底へと信号を届ける。

「戻れ、《チューニング・サポーター》!」

信号を受け取り浮上したのは、中華鍋を頭に被った、どこか間抜けな格好の小人。
《スフィア》の横に並び立つ。チビモンスターが2匹である。

《ヴァイロン・スフィア》:星1/光属性/機械族/攻 400/守 400 【チューナー】
《チューニング・サポーター》:星1/光属性/機械族/攻 100/守 300

「……」

手駒を2枚揃えたが、どちらも低級モンスター。対してこちらは殺人マシーン、それとデカくて凶暴なサメ。
この状況をどうにかするには、少々力不足に見えるが……
アーリーが右手を突き出した。

「さらに、墓地から《神剣-フェニックスブレード》の効果発動」

めいっぱい開いた手のひらを、海面にかざし宣言する。
ボコボコ水が湯立ち始めた。

「墓地の戦士族モンスター、《ホープ》と《フォトン・スレイヤー》を除外し……このカードを手札に戻す!」

鳥の羽をかたどった柄に、両刃・細身の白い剣が、水の中から飛び出した。
死んだ戦士の魂を吸い、刀身は白く光り輝く。
2枚の手札を右手に持ち替え、アーリーは左手で剣を握った。

「そしてこの《フェニックスブレード》を捨てて!」

そしてその剣を天にかざし、2枚をそれぞれディスクに差し込む。
剣の纏った光が消える。

「装備魔法! 《D・D・R》を――」

空いた右手を剣に添え、剣道みたいな構えを取る。
剣が再び輝きはじめ、今度は紫の光をまとった。
大上段に構えた剣を、アーリーは一度深呼吸して、

「――発動ッ!!」

力いっぱいに振り下ろした。
するとソニックブームが発生し……
ソニックブーム?

「おわっ!」

《フィールド》を真っ二つにするように、海を割るように飛ぶ衝撃波。死ぬ思いで何とか避けた。
壁にぶち当たりブームは消えた。一息ついて、アーリーに向き直る。
足元の海が割れていた。

「……」

海を割るような一撃と言ったが、マジで文字通りそうなっていた。
モーゼの奇跡が今目の前に。海が真っ二つに割れている。

「手札1枚と引き換えにして、除外された自分のモンスター1体を、フィールドに呼び戻す……」

若干息を切らしながら、アーリーは剣を放り投げた。
纏った紫のオーラが消え、空中で砕け散ると同時に――

「戻ってこい、《No.39》! 《希望皇ホープ》!」

白と金の鎧の騎士が、割れた海のその底から、主君の下へ舞い戻った。

《No.39 希望皇ホープ》:ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000 【エクシーズ:Unit0】


割れた海にまた水が戻った。


『ッシャァァァァァァァァァ!!』

戻った海の真ん中から、《シャーク・ドレイク》が飛び出してきた。おまえどこにいたんだよ。

『……』

『……』

《ホープ》と《シャーク・ドレイク》の2体、《39》と《32》が、眼光鋭く対峙する。
先に動いたのは《ホープ》だった。

「俺の場には、レベル1のチューナー《ヴァイロン・スフィア》と、同じレベル1《チューニング・サポーター》がいる!」

アーリーの指示に反応する《ホープ》。
その辺でふわふわ浮いていた《スフィア》を、右手でがっしと鷲掴みにし。
同じく浮いてた《サポーター》を、左手で雑に抱え上げる。

「この2体で、シンクロ召喚だ!」

2体を真上にぶん投げた。
こいつら2体はどちらも機械。一度パーツに分解されて、新たなマシンに再構築。

「シンクロ召喚、《フォーミュラ・シンクロン》!」

何ができたかと言いますと、手足の生えたF1マシン。
その上顔まで生えている。正直どうなのこのセンス。

《フォーミュラ・シンクロン》:星2/光属性/機械族/攻 200/守1500 【シンクロ/チューナー】

「さあ、見てろ!! 《フォーミュラ・シンクロン》《チューニング・サポーター》《ヴァイロン・スフィア》、3つの効果を発動!」

3枚のカードを指に挟んで、「どうだ!」とばかりに突き出してくる。
さっきから、どうも様子がおかしい。

「《フォーミュラ・シンクロン》と《チューニング・サポーター》で1枚ずつ! カードを2枚引く! ――!」

2枚目に引いたカードを見て、アーリーはなぜか目を見開いた。
ついでに口も開きっぱなしで、しばらく呆けたようにしていたが、我に返ったか首を振る。

「最後に、《ヴァイロン・スフィア》の効果! こいつが墓地に行った時、ライフを500払うことで、こいつを俺のモンスター1体に装備することができる!」

LP、2600→2100。
残りわずかなライフを捧げて、《ヴァイロン・スフィア》を復活させる。装備品として。

「さらに、《ヴァイロン・スフィア》にはまだ効果がある! 装備したこのカードを墓地に送ることで、自分の墓地にある装備魔法1枚を! 《ホープ》に装備させることができる!」

場に呼び戻した《スフィア》のカードを、すぐまた墓地へ戻してしまう。
代わりにまたもやもう1枚、別のカードを墓地から回収。

「……」

アーリーの手札は残り2枚。プラス、回収したカード1枚。
それらをジロジロ交互に見ると、アーリーは強く頷いた。

「行くぞ……行くぜ、"五刀流"……!」

強い光のこもった瞳で俺をまっすぐ見据えて言った。
その意味を俺が理解する前に、持てる手札をすべて切る。
                    スレイプニール・メイル
「手札、《ライトイレイザー》! 《ZW-極星神馬聖鎧》! そして墓地、《アサルト・アーマー》! さらに伏せカード、《ナンバーズ・ウォール》! すべてを発動する!」

持っていたカード3枚に加え、伏せたカードまで飛び出した。
カードすべてをディスクに置くと、アーリーは両手を打って叫んだ。

「来ォ―――――い!! "希望の四刀"!!!」

その声に呼応するかのように、4本の剣が海中から飛び出し、そのまま空中で静止する。
左から順に、ライトセイバー、紅色、赤、紫。4本の剣が宙に浮いている。

「《スレイプニール・メイル》を装備したことで、《ホープ》の攻撃力は1000ポイントアップする。バトルフェイズ――行くぞ!」

アーリーが戦闘を宣言した。

「《カタストル》! 《シャーク・ドレイク》!」

その辺に浮いてたり沈んでたりした2匹を、俺の目の前に呼び戻す。
《ホープ》の攻撃力は3500。《シャーク・ドレイク》は4500で、《カタストル》には力じゃ勝てない。
正攻法では勝てないのだが……

「《ホープ》で《カタストル》を攻撃!」

宙に浮く謎の4本剣。ライトセイバーと紫を手に取り《ホープ》はその場で跳躍した。
『闇以外をすべて破壊する』殺戮兵器《カタストル》に、臆すことなく向かってくる。

「……《カタストル》の効果! 闇属性以外のモンスターと戦闘を行うとき、その相手を問答無用で破壊する!」

光属性の《ホープ》を殺すべく、《カタストル》は起動する。
金色の足が高速振動、超振動のブレードと化す。が、《ホープ》はそれでも止まらない。

「一刀目――《ナンバーズ・ウォール》ッ!」

左手に持った紫の剣をくるりと逆手に持ち替える。
そんな《ホープ》に《カタストル》が迫る。

「このカードが発動している限り、俺の《ナンバーズ》は……」

震える鋭利な二対の足を《ホープ》を裂くため振り上げる。そのせいで胴のガードが空いた。
逆手に剣を構えたまま、《ホープ》は体を右にねじり――

「カード効果によっては破壊されないッ! やれ!」

――剣を《カタストル》にぶっ刺した。

『 … … ? # #"” ’$&& ! ? 』

紫色の剣をぶち込まれ、《カタストル》はバグって止まる。刺した剣をそのままにして《ホープ》は後ろに飛び退いた。
右手のライトセイバーを握り直すと、直後に再び飛び上がる。
アーリーが頭を振り上げ叫んだ。

「"二刀、《ライトイレイザー》"!」

落下の勢いをそのままに、《カタストル》を縦に両断した。
真っ二つになったマシーンはその場で爆発するでもなく、青い光に包まれて消えた。俺のライフ、8000→6700。

「《ライトイレイザー》に切られたモンスターは、破壊されるのではなく、除外される……」

《ホープ》は華麗にバク宙を決め、アーリーの下へ舞い戻る。
残る剣はあと2本、真っ赤な剣と紅白カラー。

「三刀、《アサルト・アーマー》! これを装備解除することで、《ホープ》は2回目の攻撃が可能になる!」

前者を左の手に握り、右手の《ライトイレイザー》を今度は逆手に握り直して、《ホープ》は再び駆け出した。
その目の先には《シャーク・ドレイク》。数歩で鮫との距離を詰め、左手の剣を振り上げる。

「《シャーク・ドレイク》を《ホープ》で攻撃!」

「止めろ!」

振り下ろされたその剣を、いともあっさりと右側のヒレで、《シャーク・ドレイク》は弾き飛ばした。
剣は空中に投げ出され、《ホープ》の体がぐらりと傾ぐ。前のガードがあっさり空いた。
鋭く尖った左のヒレは甲冑程度ものともしない。

「返り討ちに……しろ!」

ヒレをそのまま前に突き出し、手刀で胴をぶち抜いた。
胸から背まで貫く一撃、《ホープ》の体がくの時に折れる。敵残りライフ、2100→1100。

「ああ、《ホープ》は自滅する……けど!」

かと思いきや。
油の切れたぎこちない動きで、《ホープ》の背筋が再び伸びる。

「たとえ勝とうが負けようが、《ライトイレイザー》は発動する!」

左の剣は飛ばされたものの、右のライトセイバーは健在。
胴を《ドレイク》に貫かれたまま、ギギギとゆっくり右手を振り上げ、そしてその剣を――

「《ライトイレイザー》を装備した戦士と戦闘を行ったモンスターは、その戦闘が終わった後除外される!」

《ドレイク》の首元にぶっ刺した。

『ァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

狂ったように叫び出す鮫。
ヒレを胴から抜いた後、《ホープ》を一発ぶん殴る。既に事切れていた《ホープ》はそのまま海に沈んで消えた。
が、刺された《シャーク・ドレイク》も、青い光に包まれ消滅。

「……」

《シャーク・ドレイク》も《カタストル》も死に、綺麗さっぱり場が空いた。
そしてあいつにはまだ1本、剣が残っていたわけで……。

「そして四刀、《ZW-極星神馬聖鎧》!」

紅白カラーのラスト一刀。
宙に浮いていた最後のそれを、アーリー自身が手に取った。

「これを装備していた《ホープ》が破壊された時! この剣を身代わりとすることで、《ホープ》は今一度復活できる! オラぁ!!」

手にした直後に真下へ投げる。
勢いよく着水した剣は、そのまま海中に沈んでいき、それと引き換えにするかのように――

「蘇れ、"五刀"! ――《ホープ》自身!」

体から水を滴らせつつ、《ホープ》が海面から飛び出した。

《No.39 希望皇ホープ》:ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000 【エクシーズ:Unit0】

「……」

アーリーの場には、復活した《ホープ》。
こちらの場には……防御策、無し。

「行け、攻撃だ! 《ホープ》でお前にダイレクトアタ――――――ック!!」

両手を勢いよく握り込み、アーリー渾身の叫びが響く。
《ホープ》は腰の剣を抜くと、切っ先を俺に突き付けて、そして突進してきた。

「の、っ――!!!」

猛然と距離を詰めてくる。早い!
今俺を守るしもべはいない。自力で何とか避けねばならない!
決死の思いで身構え……


「"ホープ剣! スラッシュ―――――――"!!!!」


……ようとしたときには、もう、《ホープ》がすぐ目の前にいて――


上段から振り下ろされる剣。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

『ッ!!』

反射神経を総動員して、全身全霊を傾けて、必死で、剣を避けるべく上体をひねる。
が、距離が詰まっている以上、ひねった程度では避けられなくて、

「うが……ァっ!」

目の前に血が飛んだ。
LP、6700→4200。

「ぐ! あ、お……っ!!」

胸が焼けるように熱い。
倒れ込みそうになるのを抑えて、どうにかその場で踏みとどまる。

「バトル、終わりだ! よくやった《ホープ》! 偉い! マジで!」 

喜び、跳ねるアーリーを背に、《ホープ》は黙って立っている。
斬られた胸に手をやりつつ、できうる限りの眼光で睨むと、それで《ホープ》は引き下がった。

「……っ」

なんだこの感覚は。
《ナンバーズ》を持つ者である以上、補正が掛かっている以上。この程度致命傷にはならない。
ならないが、斬られたのは初めてだ。

「メインフェイズ、2! 墓地から《エクシーズ・エージェント》の効果、発動!」

かなり気持ち悪い。
必死に呼吸を整える俺を、アーリーはまるで見ずに続ける。

「オーバーレイユニットのない《ホープ》は、攻撃されるだけで死んじまうけど……こいつを使えば万事OK! デュエル中1回だけ、墓地にあるこいつを《ホープ》のオーバーレイユニットにすることができる!」

妙に嬉しそうな声色で、墓地にフィールドにカードを動かす。
《ホープ》のオーバーレイユニットは、これでゼロから1に増えた。自爆させることはできない。
胸が熱い。

「これで、ターン終了! さあ、そっちのターンだぜッ!」

なんなんだ、こいつは。


【LP-4200 / 手札-2 / なし 】
【LP-1100 / 手札-0 / 《希望皇ホープ/A2500》 《フォーミュラ・シンクロン/D1500》 】


さて。

ナンバーズ補正がある以上、斬られた程度で死にはしない。
しないのだが。
胸を抑える。

「……」

抑えた右手は血まみれだった。
ヤバイ。

「俺の……俺のターン! ドロー!」

流れ出る血を振り払う気で、あらんかぎりの力で叫ぶ。
少し視界がぐらついたのは気のせいだとだけ思いたい。

「……」

手持ちの札を確認する。
劣勢ムードを跳ね除けようにも、それだけの駒が 揃っていない。

「モンスターを、1体、守備表示! そして……」

右手でカードを叩き付けると、勢いで血が飛び散った。
続けてもう1枚を置く。

「1枚カードを、伏せて……終了!」

「……」

今打てる策はこの程度。
相手の出方次第で、俺は――

「……そうだ……なんだ……んだよ……」

対峙するアーリーの肩が震える。
ボソボソ呟くその声じゃ、何を言ったかは聞こえない。
が、すぐに補完された。

「なんだよ……
 ――いけるじゃんか!!!」

気持ち悪いくらいに、人が変わったように、喜色満面の笑みを浮かべていた。

「俺のターン! ドロ―――――――!!」

強く、それでいて間延びした声が、《スフィア・フィールド》に響き渡る。
引いたカードをほとんど見ない。

「《フォーミュラ・シンクロン》を生贄に捧げる! そして来い!! 《ジャンク・コレクター》!!!」

尻上がりに強くなる語調が、F1マシンを海へと沈める。
入れ替わりに現れたのは、ボロ布を着た白髪の男。

「そして! 《コレクター》の効果、発動!」

そしてその男さえ、またも海中に沈んでいく。

「場のこいつを除外することで、墓地にあるトラップ1枚を、この場で発動することができる!」

厳めしい面を崩さぬまま、《コレクター》は入水した。
まるで間を置かずアーリーが続く。

「発動するのは《異次元からの帰還》! これで、除外されている俺のモンスターをすべてフィールドに呼び戻す!」

噴水のように湧き上がる水。
主の叫びに呼応して、とどまることなく噴き上がる。


水が弾けるとそこにいたのは――


「我が元に戻れ、勇士たちよ―――――!!」

一、銀色の騎士――《フォトン・スレイヤー》。
二、白髪のホームレス――《ジャンク・コレクター》。
三、機械蛇――《サイバー・ヴァリー》。

一気に頭数が増えた。

《フォトン・スレイヤー》:星5/光属性/戦士族/攻2100/守1000
《ジャンク・コレクター》:星5/光属性/戦士族/攻1000/守2200
《サイバー・ヴァリー》:星1/光属性/機械族/攻 0/守 0

「……」

湿った血で胸に張り付いた服。軽く剥がすがすぐまた張り付く。
《スレイヤー》と《コレクター》、2人の男は騎士のように、アーリーの前で膝をつく。《ヴァリー》は黙ってとぐろを巻いた。
そしてそれらの先頭に、《ホープ》は静かに立っている。

「さあ、どーしよっかなぁ……」

急に偉そうになったアーリーは、値踏みするように俺を見た。
傷口の血は止まってないし、視界はかすかに白くすらある。
それでも、決して屈するまいと、精一杯に目を凝らした。

視線が外れた。

「……じゃあ、このまま戦う!」

アーリーが無造作に腕を振る。《ホープ》が剣を振り上げた。
それに倣って後ろの二人も各々の武器を構え、立つ。薄刃の剣を握る《スレイヤー》、細く安っぽい槌の《コレクター》。

「行け――《ホープ》でおまえに攻撃する!」

軽く、ゆるく素振りをした後、《ホープ》は大きく踏み込んだ。猛スピードで迫り来る。
敵戦力は計3体、俺を守るしもべは1体。だが。

「俺のモンスターは、《素早いマンボウ》!」

水面からジャンプする《マンボウ》。
《ホープ》の進路を遮るように、小さな《マンボウ》が割って入る。

《素早いマンボウ》:星2/水属性/魚族/攻1000/守 100

「知らね―――――よぉッ!」

だからどうしたと言わんばかりに、《ホープ》は剣を振り下ろす。
小さく頼りない《マンボウ》は、字面通りに一刀両断。無残に海中へ沈んでいく。
が、ここだ!

「《素早いマンボウ》の効果発動! こいつが破壊されたとき、俺はデッキから魚族モンスター1体を墓地に送る!」

デッキからカードを1枚抜き出し、すぐさまそれを上へ投げた。

「捨てるのは、《ビッグ・ホエール》!」

直後。
空中に、デカいクジラが現れた。

「な……!?」

クジラはそのまま落下してくる。
《ホープ》はすぐさま剣を投げ捨て、逃げるように後ろへと飛んだ。

クジラ、着水。

「おわ……ッ!」

クジラはそのまま沈んでいくが、巨体は波浪を巻き起こす。
波に飲まれて怯むアーリー、その隙に俺はもう1枚。

「さらに、その後! デッキから、もう1体、《素早いマンボウ》を特殊召喚することができる!」

めちゃくちゃに揺れる水面から、再び《マンボウ》が飛び出してきた。
2体目の《素早いマンボウ》が、俺を庇う形で前へ。

「うー……クソ、知るか! 《ジャンク・コレクター》で《マンボウ》を攻撃!」

髪を振り水気を飛ばすアーリー。
手にしたボロいハンマーを振り上げ、《ジャンク・コレクター》が飛び上がる。

「消えろッ!」

声に合わせてハンマーを振る。《マンボウ》はぺちゃり潰れて沈んだ。
さして《コレクター》は表情を変えず、すぐにハンマーを構え直して俺に鋭い目を向ける。
俺もすぐさまカードを投げた。

「効果発動! デッキから《シャーク・サッカー》を墓地へ!」

空中にコバンザメが現れ、《コレクター》へと突進する。
何でもない風に振り払われたが、《コレクター》はそれで退いた。

「そして、もう1体、《素早いマンボウ》を特殊召喚……守備表示」

ざばざば水をかき分けて、最後の《マンボウ》が浮上した。さりげなく。

「これで絶滅だ! 《フォトン・スレイヤー》で、《マンボウ》を攻撃!」

その《マンボウ》も《スレイヤー》に斬られた。あっさり切られて沈んでしまった。
が、これで攻撃終了。とりあえずこの場は凌げたわけだ。

「効果発動。もう《マンボウ》は尽きたけど、デッキから魚を1体落とす。《ツーヘッド・シャーク》!」

アゴに目の付いた青いサメが、降ってきてすぐに沈んでいった。
これで、バトルは終了だ。

「げー、しぶといな、クソ……まあいい、まだ俺のターンだ」

顔を突き出してアーリーが言う。表情がかなり憎たらしい。
顎に手を当て目を閉じて、少し考えるそぶりを見せて、2秒ほど後に目を開けた。

「《サイバー・ヴァリー》の効果発動! 《サイバー・ヴァリー》自身と、フィールドの《フォトン・スレイヤー》を除外して、カードを2枚ドローする!」

機械の蛇が体を伸ばす。
這うように宙を移動した後、《フォトン・スレイヤー》の体に巻き付く。

「これさあ。カード引けるのはいいけどさ、《フォトン・スレイヤー》は消えちまうんだよな」

反射で「知るか」と言いたくなったが、そこはどうにかこらえておいた。
なれなれしく語り掛ける顔に、敵意を込めた視線だけ返す。

「でもさあ。行けそうな気、しねえ?」

反射で「知るか」と言いたくなったが、以下省略して視線を返す。
だが……。

「今ならさあ。今一番欲しいカード、今にベストなカード、引けそうだと思わねえ?」

アーリーは俺に向かって話す。俺に向かって話している。が。
形としてはそうなのだが、その実あいつはこちらを見てない。根拠はないが、そう感じた。
ひとしきり汚く笑ったあとで、アーリーは腕を振り上げた。

「効果発動! 2枚ドロー!」

《サイバー・ヴァリー》と《フォトン・スレイヤー》は共に光の粒子になってその場で弾けて消えてしまった。
そしてアーリーはカードを引く。

「やっぱりだ! 魔法カード《救援光》! 発動!」

引いたカードをちらりとだけ見て、ほぼ間をおかずに振りかざした。

「800ポイント! ライフを払うことで、除外されている光属性モンスター1体を手札に戻すことができる!」

それを別のカードと入れ替えて、満面の笑みで場に出した。ライフポイント1100→300。
残るライフは少ないというのに、惜しげもなしにコストを払う。

「……」

《ハネワタ》に《ジェントルーパー》、《テンパランス》。
その場しのぎの防御策を、怯えて乱用していたあいつは、一体どこへ行ってしまった。

「《フォトン・スレイヤー》を手札に戻す。で! 《スレイヤー》は、フィールドにエクシーズモンスターがいるとき、手札から特殊召喚できる! 俺の場には今《ホープ》がいる! 行け!」

消したそばから舞い戻る、銀色の騎士《スレイヤー》。
《フォトン・スレイヤー》と《ジャンク・コレクター》、どちらも光のレベル5だ。

「さあ!! 《フォトン・スレイヤー》と、《ジャンク・コレクター》で……オーバーレイ!!」

ハンマー抱えたホームレス、由緒正しい銀色騎士。2人の男が飛び上がり、光となって交わり合う。
さて、何が出てくるか……。

交わり合った2つの光は、地上に舞い降り爆発した。
光の中から現れたのは――

           ライオアームズ
「勇者の鎧、《ZW-獣装獅子武装》!!」


ライオンだった。

《ZW-獣装獅子武装》:ランク5/光属性/獣族/攻3000/守1200 【エクシーズ:Unit2】

「……」

赤・白・金の派手な体色、なめらかな肌のライオンだ。ライオンなのだが。
この状況で出すモンスターなら、もっと適したやつがいたはず。
というか、さっきの《極星神馬聖鎧》にしてもそうだが……

「《ライオアームズ》の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使って、デッキから《ZW》を1枚手札に加える!」

こいつは、《No.39》……《ホープ》専用のサポートモンスター。
《ホープ》は《ナンバーズ》である以上、この世界には1枚しかない。
そんなカードの限定サポートが、なぜこの世界に存在する? 
なぜアーリーは、こんなカードを持っている? 
この世界での《ZW》は、どういう理屈で存在している?

     ライトニングブレード
「《ZW-雷神猛虎剣》を手札に! そして! 《ライトニングブレード》は、《ホープ》専用の装備カードになる!」

あれこれ考えてる隙に、アーリーが宙にカードを投げた。
そのカードから飛び出したのは、一匹の白い虎だった。

「これを装備した《ホープ》は、攻撃力が1200上がり、さらに! 《ホープ》が破壊されるとき、これを身代わりにすることができる!」

この虎はただの虎ではない。機械で出来た虎なのだ。
みるみるうちに形を変えて、一刀の剣へ姿を変える。
虎の皮をあしらった柄を、《ホープ》は静かに右手へ握った。

「で。魔法カード、《ジェネレーション・フォース》! 俺の場にエクシーズモンスターがいるから、デッキから《エクシーズ・リボーン》を手札に加える! で、カードを1枚セット!」

素早くカードを入れ替えた後、アーリーはそれを場に伏せる。
満足そうに腕を組むと、2,3度うんうん頷いて……

「このくらいで、ターン終わりだ」

……というわけで、どうにか攻め手が止まってくれた。


【LP-4200 / 手札-1 / 《set1》 】
【LP- 300 / 手札-0 / 《希望皇ホープ/A3700》 《ライオアームズ/A3000》 / 《雷神猛虎剣》 《set1》 】


「俺のターン、ドロー」

動きを抑えてカードを引く。俺に残された手は3つ。
手札の2枚と場の罠1枚。

「……」

今のターンは使わなかった、温存しといた罠、1枚。
奴の場には《ホープ》と《ライオアームズ》、伏せカードが1枚と……
そして、墓地に《ダメージ・ダイエット》。

「《サルベージ》発動!」

打てる手はそう多くない、が。
奴を刺す手は見切っている。

「墓地から《ビッグ・ホエール》と《サイレント・アングラー》を手札に戻す」

2枚手駒をサルベージして、さらに続けてもう1枚。

「魔法発動。《浮上》! 墓地のレベル3以下の魚、《素早いマンボウ》を復活させる!」

海の底からまたもや1匹、小さな《マンボウ》が浮上した。
そいつの隣にもう1匹―ー

「さらに、こちらの場に、水属性モンスターがいることで……手札の《サイレント・アングラー》を特殊召喚」

――デブいアンコウが浮いていた。
手札はこれで残り1、どう転ぼうと次で終わる。

《素早いマンボウ》:星2/水属性/魚族/攻1000/守 100
《サイレント・アングラー》:星4/水属性/魚族/攻 800/守1400

「《素早いマンボウ》と、《サイレント・アングラー》! この2体をリリースして――」

2匹の魚がぶくぶく沈む。
最上級モンスターを呼ぶには、2匹生贄が必要だ。さあ、行け!

「《ビッグ・ホエール》をアドバンス召喚!」

空中に、デカいクジラが現れた。

《ビッグ・ホエール》:星9/水属性/魚族/攻1000/守3000

「な……!?」

クジラはそのまま落下してくる。
《ホープ》はすぐさま剣を投げ捨て逃げるように後ろへと飛び、《ライオアームズ》も同じように、身をひるがえして後ろに下がる。

見覚えのある光景と共に、クジラの巨体が着水した。

「おわ……ッ!」

「この《ビッグ・ホエール》は、召喚された瞬間! 死ぬ!」

アーリーが波に飲まれる横で、クジラはまたもや沈んでいく。
貧弱な上に短命なのだが、ただ短命なだけではない。

「死ぬけど、その代わりに! 俺は、デッキから……3体の、水属性モンスターを、特殊召喚する!」

沈みゆくその背中の穴から猛烈に潮が噴き上がる。
カードを3枚構えて、俺は、精一杯しかめ面を作る。

「レベル3……《オーシャンズ・オーパー》! 《キラー・ラブカ》! 《フィッシュボーグ-アーチャー》!」

ショボい小魚3匹が、噴気に乗って現れた。
銛を構えた赤い金魚に、黄色い体のウナギザメ。ラスト1匹は……ロボット。うん。魚が操縦するケンタウロス型ロボット。
どれも貧弱な低級のカード。

《オーシャンズ・オーパー》:星3/水属性/魚族/攻1500/守1200
《キラー・ラブカ》:星3/水属性/魚族/攻 700/守1500
《フィッシュボーグ-アーチャー》:星3/水属性/魚族/攻 300/守 300 【チューナー】


手札は全部使い切った。
重要なのは、ここからだ。

「……で!」

手札がなくなり空いた左手を額に当てて目を閉じる。
あからさまなほどグッと固く、固く目を閉じて、考える……フリをする。

「……レベル3! ……《キラー・ラブカ》と《フィッシュボーグ-アーチャー》……の、2体で! オーバーレイ!」

手はそのままで右目だけ開く。
ロボットとウナギザメの2匹で、何とかこの場を返す手を、打ちたかったのだが……

「エクシーズ召喚……。……、……《太鼓魔人テンテンテンポ》……!」

魚とロボが融合・合体、現れたのは……食い倒れ人形。ここから逆転勝利するには、ちょっとパワー不足なカード。
本人もそれを認めているのか、敵軍の騎士とライオンを前に、少し弱気に太鼓を鳴らした。

《太鼓魔人テンテンテンポ》:ランク3/地属性/悪魔族/攻1700/守1000 【エクシーズ:Unit2】


「……効果、発動!」

なんとか反撃したかったけど、今はこれが精いっぱいだ……。


という表情を、作る。


「オーバーレイユニットを1つ使い! 相手のモンスター1体から、オーバーレイユニット1つを奪う!」

できうる限りの渋い目で、眼前のアーリーを睨みつけ、視線を外さずカードを動かす。

「《ホープ》のオーバーレイユニットを奪え! やれ! 行け!」

気圧されていた人形も、意を決したか動き出す。
腹の太鼓をドンドコ鳴らして、音波で《ホープ》を責めたてる。

『……オ……ッ!』

わずかに苦悶の声を漏らして、《ホープ》はその場に片膝を着く。オーバーレイユニット、1→0。
さて。

「……《テンテンテンポ》の攻撃力が、500ポイントアップする。……で……それで……」

顎……というか、口全体に、右手を当てて、考え込む。ふりをする。
少し前《シャーク・ドレイク》でやったように。オーバーレイユニットを持たない今の《ホープ》は、攻撃力の大小にかかわらず、攻撃されるとその場で自壊する。
だが、今の《ホープ》は《ライトニングブレード》を装備している。
さっきアーリーが説明したように、奴は死ぬとき一度だけ、それを身代わりにすることができる。そして《ホープ》は生き残る。
だから、この状況で《ホープ》を攻撃しても。《ブレード》が外れるだけで、返り討ちに遭ってしまう。

「……けど! バトル!」

右手を勢いよく前へ。人形と赤い金魚の2体に、自爆の覚悟を決めさせる。
確かに、最初の1匹は、《ブレード》を外すだけに終わって、そのまま返り討ちにされる。
だが、残ったもう1匹で、もう1度《ホープ》を攻撃すれば、もう身代わりはない。ので殺せる。

とりあえず《ホープ》を仕留めておいて、さらに次のターン、《テンテンテンポ》で《ライオアームズ》のオーバーレイユニットも奪えば、被害は最小限になる。
しかし、それでも。《ライオアームズ》はATK3000、《テンテンテンポ》は2700。無慈悲に殴り倒されてしまう。
が、まあ、とりあえずは。とりあえず、後続を呼ばれる心配はない。攻撃は凌げるだろうから、次のターンに賭けるしかない。
今は、この程度の反撃で精いっぱいなのだ。



――と、奴は考えるだろう。


そうなればこの勝負、俺の勝ちだ。



「《オーシャンズ・オーパー》で、《希望皇ホープ》を攻撃だ!」

金魚は静かに銛を構え、黙って《ホープ》に特攻した。

「このとき、オーバーレイユニットのない《ホープ》は! 攻撃を受けることで、自滅する!」

「おーっと! んなわけねーだろ、《ライトニングブレード》の効果! こいつを身代わりにして、《ホープ》は破壊を免れる!」

ビシッ! と俺を指差して、テンション高くアーリーは叫んだ。
虎柄の剣を投げ捨てて、《ホープ》は自前の剣を抜く。

「返り討ちだ!」

金魚が必死で突き出した槍は、あっさりと剣で受け止められた。
2500vs1500。つばぜり合いが続くはずもなく、《オーシャンズ・オーパー》は跳ね飛ばされる。
態勢を崩す金魚に対し、すぐにアーリーは追撃の指示を――

「《オーシャンズ・オーパー》! 撃――」

出そうとして。
出そうとしていた。

「――!? !? ――! ―――!!!」

くぐもった声が聞こえて……来ない。
シャットアウトされていた。

「な……え!?」

《ホープ》は金魚を追う手を休め、静かにただただ直立している。
まただ。


またもや、アーリーは包まれていた。球に。
白く輝く光の球に、光の大玉の中に、すっぽり入っていた。


「―! ――!!」

アーリーはかなり驚いた顔で、内から球の壁を叩いている。
さっきと何故か反応が違う。さっきは自覚していると見えたが、今は本人も混乱している。

「――! ……」

というか、気のせいでなければだが。
さっきより、壁が厚くなってるような……?
アーリーの声も聞こえないし、本人も出られず困っているように見える。

「……」

未だ球の中にいるアーリー。
だが、少し落ち着いたようで、黙ってディスクを構えている――


「――そうか!」


いきなり球が弾けて消えた。


「そうか! そうか、攻撃時! 《オーシャンズ・オーパー》を返り討ちにする――その前に! 止まれ、《ホープ》!」

何のコメントをするでもなしに、一転顔を輝かせると、アーリーは腕を突き上げた。
止まれと指示するまでもなく、希望の騎士は静止している。

「反撃の前に! 墓地から、トラップカード発動! 《ダメージ・ダイエット》!」

「……!?」


ヤバい!

「《ダメージ・ダイエット》を除外して、発動! 普通に使うと、このターンすべてのダメージを半分にする能力がある……が! 今はそれじゃなくて! 別の効果を使う! やれ、《ホープ》! 返り討ちにしろ!」

それまで黙っていた騎士が、猛然と金魚を狩りに向かう。
驚異的なそのスピードに、《オーシャンズ・オーパー》は逃げる間もなく。

「"ホープ剣、スラッシュ"!!」

縦に両断されてしまった。

「……~~~~~~!!」

俺のライフは→。
こんなはずではなかった、が!
やらないとヤバい! 間に合わない!

「~~トラップ! トラップ発動、《激流蘇生》!」

海に沈みゆく金魚の死体。
その真下から水が噴き上がる。

「水属性のモンスターが破壊されたとき! そいつをこの場で復活させて!」

高く太く立ち上る、柱のように立ち上る水。
死んだはずの赤い金魚が、その柱から飛び出した。

「復活したモンスター1匹につき、500ポイント、ダメージを……与える!」


これで終わるはずだった。これで終わるはずだった!


金魚はそのまま機敏に動き、アーリーに向け銛を投げつける。が。

「《ダメージ・ダイエット》の効果! このカードを、普通に使うんじゃなくて! 墓地に行ったこのカードを、ゲームから除外することで! このターン、カードの効果で受けるダメージを! 半分にする!」

アーリーが両手を突き出した途端、目の前に白い壁ができた。
銛はその壁に阻まれて、アーリーへ届くことなく止まる。ライフポイント、300→ 50……。


「……《オーシャンズ・オーパー》は守備表示……」


どういうことだ。

「……っと、《オーシャンズ・オーパー》の効果。これが、戦闘で、破壊されたので……デッキから《サウザンド・アイズ・フィッシュ》を手札に加える」

とりあえず、効果を発動する。が。それに何の意味がある。
おかしい。

見てからでは遅いのだ。

「なんで……」

《激流蘇生》が発動するのは、《オーシャンズ・オーパー》が死んだとき。ダメージを計算するタイミング。
このタイミングでは、発動できないはずなのだ。《ダメージ・ダイエット》は。

「…《テンテンテンポ》で、《ホープ》を攻撃」

動揺しながら命令を出す。
《オーシャンズ・オーパー》は返り討ちだが、これで《ライトニングブレード》は外れた。

「オーバーレイユニットのなくなった《ホープ》は、攻撃を受けるとき、勝手に自滅する……」

《テンテンテンポ》が太鼓を鳴らすと、それだけで《ホープ》はくずおれた。
眼から光が消え、落ちていく。

「……バトル終わり」

おかしい!
《オーシャンズ・オーパー》が攻撃した時点で。《激流蘇生》より前の段階で、発動しないと間に合わないのだ。《ダメージ・ダイエット》は。
あいつは、僕が《激流蘇生》を伏せていると知っていた。読んでいた。でなければ間に合わない。おかしい。

前回のデュエル……"煉獄の糸"、フランク・ストレイドと、ハインも含めての2vs2。あの時。
フィールドに伏せた《激流蘇生》は、発動する前に破壊されてしまった。"煉獄の糸"に。

この場でアーリーが《激流蘇生》を予測できたとするなら。
僕が《激流蘇生》を見せたのは、以前のあのワンシーンだけだ。
既に攻略された罠、意識を向ける必要もない。そんな一瞬だけだったはず。おかしい。

読めるはずもない一撃だったのだ。
だからこそ、僕はこんな手を……

「危なかったよなー……危なかったよなぁ! なあ! で!? ターンは!? まだなんかあんのかよ??」

あの球だ!
あの光の球。《ホープ》が《オーパー》を破壊する前に―ー《ダメージ・ダイエット》が発動できなくなる前に。そのタイミングが訪れる前に。
都合よく発動した、あの光の球。

絶対に、あれが……何かある。

「なあ、おい!! まだなんかすることあんのかよ!! なあ!? さっさとターンエンドしろ!」

「……っ」

憎たらしいどころの話じゃなく、今のアーリーは威圧感を放っていた。
打てる手はすべて使い切った。決まると思ったから使った。
《オーシャンズ・オーパー》の能力で、手札は1枚増えたけれども、今役に立つカードじゃない。まずい。

「……ターン、エンド」


まずい。



【LP-4200 / 手札-1 / 《テンテンテンポ/A2200》 《オーシャンズ・オーパー/D1200》 】
【LP- 50 / 手札-0 / 《ライオアームズ/A3000》 / 《set1》 】




       

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