Neetel Inside ニートノベル
表紙

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投げた《32》のカードを、俺の放った銃弾が撃ち抜く。
直後、宙にふわふわ浮く水色の球体――《スフィア・フィールド》が、教会に出現した。
この教会は結構デカいので、《フィールド》もそこそこ大きいのが出せた。
で、俺とアーリーはその球の中でふわふわ浮いている。これ重力とかどうなってるんだろう。

「あっ、これ……クソッ!」

《フィールド》が形成されたことで、《ホープ》はいきなり消滅した。キョロキョロしながら舌打つアーリー。
当面の危機は去った、が。一度これを出したからには、奴とは白黒つけねばならない。そうするまでこの《フィールド》は消えない。

「……、……」

《フィールド》の外でシスター氏が何か言ってるが、中からでは何も聞こえない。
傍から見ると建物の中に馬鹿でかい水球が浮かんでるとかいう意味不明な状況だが、シスターさんは巻き込んでないし、別にいいか。うん。

「クソ……やらなきゃなんないのか……」

アーリーは頭を掻きむしりながらディスクを展開した。
それを見て俺もディスクを構える。さて、勝負の始まりです。

「じゃあ、やるか……デュエル!」

「ぐ……っそ、決闘!」

いまいち掛け声が噛み合わなかった。しまらねーなぁ。




手札を5枚左手に取って、ちらりと眺め戦略を立てる。おおまかに。
さて、先攻はどっちだろう。

「先攻は、こっちだ。俺のターン……」

向こうだった。これはちょっと痛い。

「……ドロー!」

少し間を置いて呼吸を整え、アーリーは右手でカードを引いた。

「……」

右手の1枚と左手の5枚。両目を左右に動かして、アーリーは微妙な顔をする。
右手のカードをそのまま切った。

「……《サイバー・ヴァリー》を召喚!」

軽い動作でカードを置くと、白い魔方陣が虚空に出現。
メカニカルな蛇がそこから出てきた。

《サイバー・ヴァリー》:星1/光属性/機械族/攻 0/守 0

『……』

どこかダルそうに、のっそりととぐろを巻く。

「これで、ターン終了……」

終わりかよ。

【LP-8000 / 手札-5 / なし 】
【LP-8000 / 手札-5 / 《サイバー・ヴァリー/A 0》】

《サイバー・ヴァリー》。前の勝負でも見たモンスターだ。
ステータスは雑魚そのものだが、こいつを攻撃してもダメージにはならない。一発当てるとバトルが強制終了する、お茶を濁すモンスター。
めんどくさい防御札だ。

(が、初っ端からそれだけを出してくるということは……)

他に罠を張るでもなく、小物を1枚場に出すだけ。
おそらくあいつの手は悪い。となれば、ここでペースを握る!

「じゃあ俺のターン。ドロー!」

オーバー気味のアクションで、がっつりカードをドローする。
こいつは、前回の勝負で《スプラッシュ・キャプチャー》を見ている。

「――行くぞっ!」

意味もなく大声を出し、右手を天に突き上げる。
動作に意味はなかったのだが、なぜか《フィールド》の壁から水が流れ込んできた。どばっと。

「おわ、がっ、ごぼっ!」

蛇とアーリーは水流に飲まれている。
球状の壁の全方位から、ドバドバ水が噴き出ている。

「……」

最終的に、《スフィア・フィールド》の下半分が水に沈んだ。
この《フィールド》のシステムは未だによくわかっていないのだが、まあ演出ということにしておく。

「ごっ……ぶはぁっ!」

アーリーが水面から頭を出した。《サイバー・ヴァリー》はまだ沈んでいる。
とにかく、ここで畳みかける!

「手札から!」

水面の少し上に立ち、俺は1枚のカードを投げた。水中に。
数秒遅れて、水中からモンスターが飛び出してきた。

「《オイスターマイスター》を召喚!」

怪人牡蠣男とでもいうべきおっさん。
勢いよく飛び出てきた彼は、一度宙返りを決め、静止。

《オイスターマイスター》:星3/水属性/魚族/攻1600/守 200

「そしてこの召喚時、手札から……!」

さらに続けて、もう1枚――

「……っと!」

――と見せかけて、ここで一旦止まる。

「……」

「……?」

1枚カードを右手に握って、中途半端な姿勢で停止。
そんな俺を見て不審がるアーリー。

「……」

その反応を横目でチェックし、右手のカードを手札に戻す。
で、代わりにその横のカードを抜き出した。

「魔法カード、《強欲なウツボ》。発動」

顔がムカつく緑のウツボが、水面から顔を出す。
歯をむき出してニタニタ笑う、結構マジでムカつくウツボだ。

「手札にある水属性のモンスター2体、《シャーク・サッカー》と《素早いマンボウ》をデッキに戻す」

2枚のカードを、というより《シャーク・サッカー》を、なんでもない風にアーリーへ見せて、そのあと《ウツボ》めがけて投げた。
飛んできた2枚をむしゃむしゃ食って、憎たらしい笑みを浮かべると、《ウツボ》は水中に潜って消える。

「そしてその後、カードを3枚ドローする!」

直後に俺の足元から、3枚のカードが飛び出した。1枚残らずキャッチする。
引いた3枚が何かというのは、実はそんなに気にしてない。

「さらに、魔法カード《トランスターン》を発動!」

《ウツボ》で引いた3枚とは別の、元から持っていたカードを使った。
宙に浮いていた牡蠣男が、真下の水中にダイビング。

「魚族・水属性モンスターの《オイスターマイスター》を墓地に送ることで、同じ魚族・水属性で、なおかつ、レベルがそれより1つ高いモンスター1体を……」

俺は堂々と胸を張り、デッキから1枚カードを取り出す。
そしてそれを、水面に投げた。

「デッキから、特殊召喚する! 《オイスターマイスター》のレベルは3! よってレベル4の魚族……」

牡蠣男の潜ったあたり、そのあたりの水面に、気泡がぽこぽこ浮かびはじめる。
水中で《牡蠣》は変異を起こし、貝から魚に進化する。さあ、来い!

「《竜宮の白タウナギ》を特殊召喚!」

《竜宮の白タウナギ》:星4/水属性/魚族/攻1700/守1200

水のしぶきを上げながら、ぶっとい《ウナギ》が水面に出た。
で、この進化には続きがある。

「ここで《オイスターマイスター》の効果。こいつは墓地に送られた時、場に1体の《オイスタートークン》を特殊召喚する!」

怪人牡蠣男の特殊能力。それは、死んでも幼体を残すこと。
真っ白ボディの《ウナギ》の背には、ツヤツヤの《牡蠣》が張り付いていた。

《オイスタートークン》:星1/水属性/魚族/攻 0/守 0

さて、これでコマが2枚。
白い《ウナギ》が水面を跳ねた。

「レベル4のチューナー《竜宮の白タウナギ》を、レベル1《オイスタートークン》にチューニング!」

背中に張り付いた謎の《牡蠣》を、全身を震わせなんとか落とす。
そしてその《牡蠣》を丸飲みすると、《ウナギ》は光に包まれた。

「シンクロ召喚、レベル5!」

《ウナギ》はピカピカ光りながら、ゆっくり宙へ浮かんでいく。
そして光が弾けると、そこにいたのは謎のマシーン。

「《A・O・J カタストル》!」

《牡蠣》と《ウナギ》の掛け合わせ、ミラクル化学変化により、生まれ出ました殺戮機械。
白と金をメインカラーに、やたら曲線の多いボディ、細く尖った四本脚。
機械のくせに虫っぽいというか、エイリアンっぽいというか、とにかく気持ち悪いフォルムだ。

《A・O・J カタストル》:星5/闇属性/機械族/攻2200/守1200 【シンクロ】

「う、《カタストル》……」

くねくね動く細い足。アーリーは若干気後れしている。
それもそのはずこの《カタストル》。『闇属性以外のモンスターと戦う場合、その相手を問答無用で破壊する』という特性がある。
前回のデュエルを見た感じ、奴のデッキは光属性主体。そこらの雑魚では相手にならない。

「……」

そんな考えを巡らせつつ、さりげなく墓地を確認する。
といっても、確認するほどの枚数はないわけだが。《強欲なウツボ》、【《オイスターマイスター》】、《トランスターン》、【《竜宮の白タウナギ》】。
魚族が2体である。

「バトルフェイズ。《カタストル》で攻撃!」

それはそれとして、まず攻撃だ。
キュインキュインと駆動音を鳴らし、殺戮兵器がアーリーに突っ込む。鋭い足がきらりと光った。

「……《サイバー・ヴァリー》の効果発動!」

一瞬怯えた顔を見せたが、直後にアーリーは指示を下した。
すると、海中から蛇が飛び出す。

「攻撃された《サイバー・ヴァリー》を除外することで、このターンのバトルを終了させる!」

目の前の蛇に一度立ち止まるが、すぐさま《カタストル》は再起動。細い金色の前足で《サイバー・ヴァリー》を両断した。
が、敵にダメージはなし。仕方なく引き下がる《カタストル》。

「そしてその後、俺はカードを1枚ドロー!」

軽く息をついてから、アーリーはカードを1枚ドロー。
が、引いたカードを見て渋い顔をした。また微妙なの引いたのか。

「バトル終了。さて……」

ダメージは入らなかったが、まあいい。今回の狙いはそこじゃない。
残った手札4枚のうち、2枚をフィールドに出し、終了。

「2枚カードを伏せて、ターンエンド」

【LP-8000 / 手札-2 / 《カタストル/A2200》 / 《set1》 《set》】
【LP-8000 / 手札-6 / なし 】

さて、ターンを回してやったわけですが。

「……」

アーリーは何やら考え込んでいる。
どうやら、いい具合に悩んでくれているらしい。

ハイン曰く、青光教会はアウトローに武器を流している。
今この教会にアーリーがいることと、こいつが《フォトン・スラッシャー》を持っていたことから、少なくともこいつがそれを受け取っているのは間違いない。
ということは。どこまで流れているか知らないが、おそらく《輝光子パラディオス》も持っているのではないか?
光属性のモンスターを使うことで召喚でき、《カタストル》すらも倒すことのできる、かなり強力なエクシーズモンスター。あれも《光子》、つまり《フォトン》だ。

まあ、それでなくとも。
《カタストル》は闇属性でないと倒せない。が、アーリーのデッキは光がメイン。
どうにかしようと思ったら、エクシーズモンスターの能力に頼る。その可能性が割と高い。

だが、それが出せるかな?
アーリーは静かにカードを引く。

「俺のターン……ドロー」

《オイスターマイスター》と《竜宮の白タウナギ》。俺の墓地には魚が2匹。
《シャーク・サッカー》でランク3のエクシーズ召喚も狙えた状況で、あえてそれをせず《カタストル》を呼び、墓地に2枚の魚を置いた。

「……《サンライト・ユニコーン》を召喚!」

たてがみの青いきれいな白馬が、頭だけを水から出して、すいすい泳いでやってきた。
こいつも光属性なので、《カタストル》には敵わない。さて、どう繋ぐつもりなのか。

《サンライト・ユニコーン》:星4/光属性/獣族/攻1800/守1000

「そして効果発動。デッキの一番上のカードを見て、それが装備魔法なら、手札に加えることができる……」

首を伸ばしていななく白馬。
その姿を横目で見ながら、祈るように目を閉じる。そしてアーリーはカードを引いた。

「ドロー!」

恐る恐る開かれた目は、次の瞬間輝いていた。

「あ、やった……《アサルト・アーマー》! 装備魔法だ、手札に加える!」

どうだと言わんばかりに、見せる。《アサルト・アーマー》、装備カードだ。
戦士族専用の、だが。

「……」

馬しかいないこの状況で、それに何ができるんですか。
アーリー自身も首をかしげる。あまり意味のない札を引き、対応に困っているようだ。
右手を右往左往させつつ、やがて1枚のカードを取った。

「《手札抹殺》を発動!」

「!」

ビビった。
奴の手札は今6枚。その状態で、《手札抹殺》?
互いの持ち札が大きく動く。

「お互い手札をすべて捨てて、捨てた分だけ補充する」

俺はとりあえず2枚捨てる。《スピア・シャーク》、《ブレイクスルー・スキル》。
さて、アーリーの捨て札は?

「6枚捨てて、6枚ドロー!」

《チューニング・サポーター》。《神剣-フェニックスブレード》。《フォトン・スレイヤー》。《アサルト・アーマー》。《ライトレイ ソーサラー》。《ライトレイ ダイダロス》。

左から、《ザコ》《使用不能》《出せない》《使用不能》《出せない》《出せない》、といったラインナップである。

死に札多すぎだろ。

「……」

しかも引いた6枚を見て、またもや微妙な顔をしている。
相当手札が悪いらしい……というか、こいつのデッキどうなってんの?

「……ターンエンド……」

そして小声でそう言った。
つーか、また罠も何もなしかい。

【LP-8000 / 手札-2 / 《カタストル/A2200》 / 《set1》 《set2》】
【LP-8000 / 手札-6 / 《サンライト・ユニコーン/A1800》 / なし 】

手持ちのカードの数だけ見れば、アーリーのほうが多いっちゃ多い。
が、俺の牽制が効いているのか、それとも単に手が悪いのか、どちらの理由か知らないが、アーリーはまるで攻めてこない。
だから、ここは――

「俺のターン! ドロー!」

攻める!

「手札の《ダブルフィン・シャーク》を召喚!」

尾びれが二枝に分かれた鮫が、《スフィア・フィールド》の壁から飛び出す。
そのまま真下へダイブして、水の中へと姿を消した。

「《ダブルフィン・シャーク》の効果! このとき、俺は墓地から魚族・レベル4・水属性のモンスター1体を特殊召喚できる。戻ってこい《スピア・シャーク》!」

そして再び水面から飛び出す。どちらかというとイルカっぽい動きだ。
さらにその鮫に追従して、オレンジ色の鮫も跳ね出る。鮫2匹によるイルカショーもどき。
バシャバシャ海水が飛び跳ねるので、機械の《カタストル》は上方へ避難。

《ダブルフィン・シャーク》:星4/水属性/魚族/攻1000/守1200
《スピア・シャーク》:星4/水属性/魚族/攻1600/守1400

「そして自分の場に水属性モンスターがいることで、手札から《サイレント・アングラー》は特殊召喚できる!」

せわしく動く2匹の後ろで、ゆっくり浮上してくる魚。
マイペースに浮き上がってくる彼は、でっぷり太ったチョウチンアンコウ。丸いボディが愛らしい。

《サイレント・アングラー》:星4/水属性/魚族/攻 800/守1400

というわけで、魚が3匹揃った。

「3体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!」

3匹の魚が同時に潜水、底の底まで潜っていく。
若干の間があった後、水面に波紋が広がり出す。

「エクシーズ召喚!」

そして水中で爆発した。

「浮上、《No.32》!」

どぎつい噴水みたいなパワーで、水の柱が噴き上がる。
天井近くに伸び切ったあと、水が引くとそこにいたのは――

「――《海咬龍シャーク・ドレイク》!」

やたら長い4つのヒレと、地を踏むための2本脚。
真っ赤な体の鮫モンスター、俺の手にした《ナンバーズ》。
《シャーク・ドレイク》、降臨だ!

《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》:ランク4/水属性/海竜族/攻2800/守2100 【エクシーズ:Unit3】

『シャァァァァァァァァァァァァァァァ!!』

海面スレスレを浮きながら、《シャーク・ドレイク》は吠え上げる。
思う存分吼え切った後、区切るようにヒレを振った。

「これ……《ナンバーズ》!」

黙った《シャーク・ドレイク》を見て、アーリーは数歩後ろに下がる。
そんな主を守ろうと、《サンライト・ユニコーン》は前に出た。

「じゃあ、バトルフェイズ!」

上で浮いていた《カタストル》を、《シャーク・ドレイク》の隣に下ろす。
殺意にまみれた機械と鮫が、各々得物を光らせる。

「《シャーク・ドレイク》で、《サンライト・ユニコーン》を攻撃!」

先に飛んだのは《シャーク・ドレイク》。
唸りを上げて牙を剥き、《ユニコーン》へと襲い掛かる。

「うわ……っ!」

『……!』

怯えたように足を鳴らすが、回避できるはずもなく。
《シャーク・ドレイク》の鋭い牙が、《ユニコーン》の胴を噛みちぎる。敵ライフポイント、8000→7000。
いつもならここで追撃するところだが、《ダブルフィン・シャーク》を素材に使っているため、
何度か咀嚼した後で、《シャーク・ドレイク》は死体を捨てた。青い水中へ白馬が沈む。

「続いて、《カタストル》でダイレクトアタック!」

そんな鮫の頭上を飛び越え、《カタストル》が躍り出た。
虫みたくくねる細い足。鋭い足がアーリーに迫る。

「お、うっ……!」

アーリーはスウェーで避けようとして、そのまま後ろにずっこけた。
《カタストル》の足も情けなく空振る。敵のライフは7000→4800。

「これで、ターン終了」

《カタストル》と《シャーク・ドレイク》、2体を手元に呼び戻し、そのままターンの終了宣言。
露骨にほっとした表情を浮かべ、アーリーは立って息をつく。

【LP-8000 / 手札-1 / 《カタストル/A2200》 《シャークドレイク/A2800》 / 《set1》 《set2》】
【LP-4800 / 手札-6 / なし 】

軽く腕を組み、アーリーを見る。さて次は何をしてくるか?
そう思いつつ眺めていると、なぜか奴は目を閉じた。
数秒固くつぶった後、ゆっくり薄く目を開けて。自分のデッキに手をかけた。

「俺のターン、ドロー……あ、やった! 《光の援軍》を発動!」

引いた瞬間輝く瞳。
手にしたカードをノータイム発動。かなり切羽詰まってたらしい。

「デッキの上からカードを3枚墓地に送って、そのあとデッキから《ライトロード・マジシャン ライラ》を手札に加えて……」

無造作に3枚掴み取り、やはり無造作に3枚捨てる。《エクシーズ・エージェント》、《ダメージ・ダイエット》、《異次元からの帰還》。ふむ。
そして《ライラ》を手札に加え、そのまま召喚しようとして、腕を大きく振りかぶ――

「……あ、待て。まだ……その前に、速攻魔法発動!」

ったところで。
思い出したように、手札のカードを1枚つまんだ。
ぐらりと水面がさざ波立つ。

「《サイクロン》!」

いきなり竜巻が発生した。
足元の水を巻き込みながら、ゆっくり俺のほうへと迫る。

「その、右の伏せカードを破壊する!」

徐々に勢いを増す竜巻。飛ばされないよう、《ドレイク》に掴まる。
暴風に《カタストル》が飛び退くと、その背後にあった伏せカード……《アクア・ジェット》は破壊されてしまった。

「《アクア》……え?」

はい。
《アクア・ジェット》。魚族モンスターの攻撃力を1000ポイント上げる、通常魔法。
罠でもなんでもない、ただのハッタリです。

「……だ、だったら!」

アーリーはしばらく呆けていたが、我に返るとモンスターを出した。

「《ライトロード・マジシャン ライラ》を召喚して、効果発動! このカードを攻撃表示から守備表示に変えることで、もう1枚の伏せカードも破壊する!」

《ライトロード・マジシャン ライラ》:星4/光属性/魔法使い族/攻1700/守 200

真っ白なローブを上品に着込む、美形の女魔法使い。
場に召喚されると同時に、手にしたタクトをくるくる回す。リバースカードを破壊する合図だ。

タダで割られてはたまらない。
せっかくの『速攻魔法』。破壊される前に、使っておくことにした。

「じゃあ、チェーンしてリバースカードオープン!」

「え!?」

タクトから稲妻が放たれる。
それがこちらへ届く前に、伏せたカードは表になった。


「速攻魔法、《イージーチューニング》」


稲妻がカードに炸裂し、魔法カード《イージーチューニング》は破壊される。が。
紫電の着弾地点から、ウナギが一匹這い出てきた。

「自分の墓地のチューナーモンスター、《竜宮の白タウナギ》をゲームから除外することで」

ウナギは素早く宙を泳ぐと、《シャーク・ドレイク》の前に出る。

「《シャーク・ドレイク》の攻撃力を、《ウナギ》の攻撃力分……1700ポイント上げる!」

で、そのウナギを《シャーク・ドレイク》が食った。
バリバリモシャモシャ咀嚼して、《シャーク・ドレイク》ATK2800→4500。

「な、え、あ……!?」

どうやら、読みが外れたようで。
力を増した《ドレイク》を前に、アーリーはただ放心していた。

《強欲なウツボ》で《シャーク・サッカー》を見せることで、『エクシーズ召喚もできた状況で、あえて魚族をより多く墓地へ送る《カタストル》を選択した』という印象を植え付ける。
前回俺に《ナンバーズ》を奪われ、しかもそれが原因で負けているこいつなら。
『前回も発動された』『墓地の魚族を2体除外することで発動し』『相手の召喚したエクシーズモンスターを奪う』
《スプラッシュ・キャプチャー》を恐れるだろうと、そう思った。

そうして怯えているうちに押し切れれば良し。罠を破壊しに来ればそれもよし。
伏せていた2枚のうち、1枚はただのハッタリで、1枚はいつでも使える速攻魔法。どちらも、除去カードの無駄撃ちを誘うことができる。

「……《スプラッシュ・キャプチャー》じゃ……」

そんな感じの計画を、おおまかに立てていたのだが。
ここまでうまくいくとは思わなかった。

「……」

アーリーはなかなか動揺している。
実際保持カードの数で言うと、負けているのは俺なんだが。
勝負の流れを掴んでいるのは、間違いなく、確実に俺。動揺してるうちに押し込みたい。

とはいえ今はまだアーリーのターン。
さて、何をしてくるか?

「……魔法カード《死者蘇生》を発動!」 

思い切って!
……という感じの表情で、アーリーは手札を切った。

「墓地から《サンライト・ユニコーン》を特殊召喚!」

水面に大きな魔方陣が描かれ、そこから《ユニコーン》が駆け出してきた。

《サンライト・ユニコーン》:星4/光属性/獣族/攻1800/守1000

《死者蘇生》は強力で、しかしかなり貴重なカード。アーリーの悲壮な表情からは、攻めの姿勢など感じられない。
この状況でこれを使わねば、それもどちらかと言えば守備戦略に、これを使わねばならないと。
それだけ追い詰められていると、そういうことでいいだろう。

「《サンライト・ユニコーン》の効果発動、デッキの一番上を見て、それが装備魔法なら手札に加える!」

青いたてがみを揺らし揺らして、再び白馬がいなないた。
が。
こんな負けムード充満中に、運頼みの効果を使っても……

「……モンスターカード、《朱光の宣告者》。デッキの一番下に戻す……」

今更、流れは掴めまい。
引いたカードをデッキに戻して、アーリーは頭を掻きむしる。

とはいえ、《スプラッシュ・キャプチャー》の嘘はバレた。もうエクシーズに支障はない。
《ライラ》と《ユニコーン》はともにレベル4、そしてどちらも光属性。

「……レベル4の、 《サンライト・ユニコーン》と、《ライトロード・マジシャン ライラ》で……オーバーレイ」

さあ、何が出てくるか。
《ライラ》が呪文を唱えると、2体の身体は光になった。溶け合うように交わる光。

「……エクシーズ、召喚」

その光はやがて球状になり、主の眼前で静止した。球を見つめて息を飲むアーリー。
そして一度深呼吸すると、光の球に手を突っ込んだ。

「ッ、……。……現れろ!」

力強く、手を引き抜く。
その手に握られていたのは、一本の白い剣。その剣を――

「《No.39》!」

――叫んで、真上にぶん投げた。
《スフィア・フィールド》の天井に向け、回転しながら飛んでいく。
すると、球形を保っていたはずの光が、突如グニャグニャと崩れ始めた。
脈打ち波打ち姿を変えて、二本の足が、二本の腕が、そして頭が飛び出した。

投げた剣が降ってくる。

「《希望皇、ホープ》!」

ヒトの形をした光が、ゆっくりとその右手を伸ばし、降ってきた剣を確かに握る。
瞬きした次の瞬間、光は白い鎧をまとっていた。

《No.39 希望皇ホープ》:ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000 【エクシーズ:Unit2】

「……」

不定形のオーラが甲冑を着て、光の騎士に姿を変える。
前も思ったが、登場の仕方がなんとも奇妙だ。
しかし前回はもっとドス黒い感じだったので、いくらかましにはなっている。

「守備表示で、エクシーズ召喚だ。さらに俺は、リバースカードを1枚伏せて、ターン終了」

演出に気を取られているうちに、アーリーのターンは終わっていた。

【LP-8000 / 手札-1 / 《カタストル/A2200》 《シャークドレイク/A4500》】
【LP-4800 / 手札-3 / 《希望皇ホープ/D2000》 / 《set1》 】

しかし、守備表示か。
この状況を打開できるモンスターは結構いる。《輝光子パラディオス》がその筆頭だ。
とはいえ。《パラディオス》を出しても、潰せるのは《カタストル》と《シャーク・ドレイク》のどちらか片方だけである。
だから、《ホープ》の能力『2回まで攻撃を止めることができる』を選んだ。
どちらも倒せないが、とりあえずどちらも防げる《ホープ》を、守備表示で出したと。そういうことか。


こいつ、俺の捨て札見てないな。


「俺のターン、ドロー!」

ならもう後は押し切るのみ!

「バトル! 《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》で、《No.39 希望皇ホープ》を攻撃!」

追加戦力を呼ぶ気はない。この2体で十分!
ATK4500となった《シャーク・ドレイク》の咆哮が、《スフィア・フィールド》に乱反射する。

「わ……《ホープ》の効果発動、オーバーレイユニットを1つ使って、攻撃を無効に……」

足に力を込める《ドレイク》。その姿を見て《ホープ》もまた、背中の盾を構えようとする。
が、そんなものは無意味。《シャーク・ドレイク》が飛び上がる。

ここだ!

「トラップ発動、《ブレイクスルー・スキル》!」

墓地からカードを1枚取り出し、アーリーに向けて見せつける。

「え!?」

そっちの《手札抹殺》で捨てたカードなのに、自分で驚かれても困る。

「このカードを墓地から除外することで、相手モンスター1体の効果を無効にすることができる!」

飛びかかってくる《シャーク・ドレイク》を、《ホープ》は背中の盾でいなす。
が、《シャーク・ドレイク》は、その盾を全力でぶん殴る。ヒレで。

「これで《ホープ》の効果は無効、《シャーク・ドレイク》の攻撃は有効!」

力任せに、ひたすら力任せに、4枚のヒレをぶんぶん回して、休む間もなく盾ごと殴る。
たまらず態勢を崩した《ホープ》に、《ドレイク》は頭突きをぶち込んだ。後ろにぶっ倒れる《ホープ》。

「行け――"デプス・バイト"!」

首をねじらせ牙を剥き、倒れた《ホープ》の腰に食らいつく。
直後ガチンと音がして、白い甲冑が砕け散った。

「なっ……《ホープ》ー!」

「そして《シャーク・ドレイク》の効果発動。戦闘で破壊した相手モンスターを墓地から引きずり出して……」

だらりと絶命した《ホープ》を、腰の千切れかかった《ホープ》を、しかし離すことはなく。
口にくわえた状態のまま、《シャーク・ドレイク》は頭を上げる。

「攻撃力を1000ポイント下げて、相手の場に復活させる!」

そしてくわえた《ホープ》の死体を、首だけの力でぶん投げた。アーリー向けに。

「な、あ…うげっ!」

アーリーはそれを避けることができず。
飛んできた死体と激突し、もんどりうって海中に沈んだ。

「そしてこの効果を使った場合、《シャーク・ドレイク》はもう1度攻撃できる」

「げぼ、ごっ、ごぼっ! ぶはっ!」

変な態勢で《ホープ》に乗られ、しかもその重みのせいで、そのまま沈みそうになるアーリー。
それを獲物と認識して、《シャーク・ドレイク》の目が血走った。

「もう一度、《シャーク・ドレイク》で《ホープ》を攻撃!」

『ガァァァァァァァァァァァ!!』

吼え声が耳にキンキン響く。
《シャーク・ドレイク》の特殊能力。『一度殺したモンスターを、生き返らせてまた殺す』。

「そして《希望皇ホープ》は『オーバーレイユニットを持たない状態』で攻撃を受けた時! 攻撃力の大小に関わらず、その場で破壊される!」

が、今の《ホープ》は既に死体。もう盾は使えない。
《ホープ》は妙なデメリットを持っていて、『盾を失うと必要以上に脆くなる』。壁にすらなれないのだ。

「よって、プレイヤーにダイレクトアタックだ!」

つまり、次の獲物はアーリー自身。
《シャーク・ドレイク》が牙を剥く。

「わ、いや、リバ……ごぶ、ぶはっ! リバースカー……でも発動……ごぼっ、ぼはっ、あ、く……!」

アーリーは半分溺れかかっている。さすがににテンパりすぎだろこいつ。
だが使うかどうか迷うってことは、大したカードではないだろう。

「《シャーク・ドレイク》のダイレクトアタック!」

《シャーク・ドレイク》が水に潜る。ホームグラウンドの海中で、獲物を仕留める魂胆だ。
いかにも必死の形相って顔で、アーリーが水から頭を出した。

「ごほっ! ……《テンパランス》! 《テンパランス》! 《アルカナフォースXIV-TEMPERANCE》! 《テンパランス》の効果発動!」

泳ぎ迫り来る《ドレイク》を見て、アーリーは必死に連呼する。

「これを手札から墓地に送って、そのダメージをゼロにするー!」

叫んでカードを放り投げると、《シャーク・ドレイク》の動きが止まる。
昆布みたいな大量の触手が、全身に絡みついているようだ。まあ、しょうがない。
下がダメなら、上からだ。

「なら、《カタストル》のダイレクトアタック!」

潜れないので待機していた、白金のキモい殺戮機械が、再び駆動音を鳴らす。
甲冑に掴まり浮いているアーリーの、ちょうど頭上へと飛行する。

「え……あ!?」

水中ばかりに気を取られ、アーリーはこれに気付かなかった。
頭を上げるとそこにいた機械に、女みたいな悲鳴を上げる。

「わ、ああああああああああああああああああ!?」

手足を無様にバタつかせるが、水中じゃロクに動けない。
もがいているアーリーの首を、《カタストル》の爪が切り裂いた。

ガキンと金属音が鳴る。


金属音?


「ガキ……え?」


《ナンバーズ》を持つと補正が掛かる。だから常人より防御力は高い。
とはいえ、モンスターの攻撃をまともに喰らえば、とてもじゃないが無事では済まない。
だから、《カタストル》の一撃は、アーリーの首を切り裂いたはずだった。下手すりゃ首が飛んでいたはずだった。


が、目の前の光景は。


うっすら白く輝いている、大玉みたいな光の球に、アーリーがすっぽり入っていて――
《カタストル》の鋭い爪が、その大玉に阻まれている。

「……!?」

デュエルディスクを確認する。
俺のライフは8000で、場には《カタストル》と《シャーク・ドレイク》。
アーリーのライフは4800から2600に減った。手札の数も変わっていない。

つまり、《カタストル》の攻撃は成功している。

「ハァー……はっ、はー……はあ……」

大玉の中で息を切らすアーリー。表情は怯えきっている。
とてもじゃないが、狙って防御したようには見えない。


じゃあ、これはなんなんだ?



【LP-8000 / 手札-2 / 《カタストル/A2200》 《シャークドレイク/A4500》】
【LP-2600 / 手札-2 / 《set1》 】





       

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Neetsha