Neetel Inside ニートノベル
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    *


愛車SRVを駆り軽快に、街を流す。そして時折目に飛び込んできたうらびれたパチンコ屋を見つけては客の素振りをしつつ適当な場所に名刺をおいて回る。
 特に店員に見咎められることもなく淡々と。
 何度目だろうか、そろそろ名刺の束も少なくなり今日は上がろうか、そんな思案をしつつ郊外の大型店舗独特の妙に綺麗な休憩室で大して美味しくもないコーヒーをちびちびと飲みながら一服点けていた時だ。
 聞くともなしに聞こえてくる。
 駅前の桜の話し。
 姦しく響いてくる、茶色い声色のオバサマ方の話し。
 店内の喧騒もあり切れ切れに聞こえてくる内容は、どうやら反対運動をしていた側のおっさんのことらしかった。
 案の定と言うかどうか…ズブズブの関係になって羽振りが良いだのなんだの、下世話な話しのオンパレードだ。場末のパチンコ屋の片隅の噂話といえばそれまでだが…図らずも女子高生・ちーちゃんの思惑は当たらずもも遠からずだったわけか…さてどうしたものか。
 依頼として持ってくれば受けると彼女には言ったが、それは勿論方便なわけで、受ける気は無かった。
 の、だがどうやら軽く叩いただけでホコリが舞うくらい胡散臭い、きな臭い話しのようだ…ふむ、とりあえずは聞かなかった事にして、彼女の出方を伺うか、あまり深入りするようだったら…その時にかんがえよう。聞いた限りでは子供の出る幕はなさそうだ。





        2・

 会合、と言うやつにお父さんに言って代わりに出させて貰った、 『桜の木保存員会』なんて大見得も良いところの題目付きだ。
 実際に話し合われるのはどこぞの飲み屋のお姉ちゃんが可愛いだの、パチンコがどうしただの、お父さんが行かせたがらなかった理由がちょっとわかった。私はそれはそれは不機嫌に、フォークでコーヒーを掬うこともなくひたすらむすっとしていただけだ。だが千早ちゃんは美人になったなぁと粘着質な視線を度々浴びせられるのだ。
 桜の話は何処に行ってしまったのだろうか。
 そんな時に会話が途切れた。
「あのぉ、駅前の桜ですけどどうなっちゃうんですか?」
 何も知りませんって態度で聞く、なんとか会話を元に、正しい方向に持っていこうと試みる。
 が、無駄…っ!!
 アレはねもうほとんど決まっちゃったんだ、朗らかに笑う会長とその取り巻き。
 徒労とはこういう事を言うのだろうか。言うのだろう。
 油まみれの身体に火をつけた誰かのように…ここで燃えてしまいたくなる衝動に駆られる。
 何がどう決まっちゃったのか、それはほとんど聞くまでもない。切り倒すということだろう。
 何故か手に汗が滲む、まるで高いところに無防備で立たされたかのような錯覚。すべてが無駄だという虚無感…だろうか。
 声が震えそうになるのをなんとか飲み下し、発言する。
「どうきまっちゃったんですか?」
 なるだけ無邪気に、裏があることを悟られないように。
「うん倒木の可能性もあるし残念だけど切り倒す方向でまとまってしまいそうだ。」
 さも残念だとでも言いたそうな表情で語る。さっきの笑顔はどこにいったのだ。内蔵が裏返りそうになる。
 その後も、これといった情報もないまま会合という名の社交場は宴もたけなわといった風情になるまで続き、お開きとなった。
 
     *

 無駄足、とも言えたが、有益であったとも言える、明らかだ。
 明らかに懐柔されている。これが確実になっただけでもいまは良しとしよう。…でなければ今すぐにでも焼身してしまいそうだ。
 さてどうしようか。帰り道トコトコと歩きながら考える。今日のことをそのまま探偵さんに言ったところで『依頼』にはなるまい。かと言ってお父さんに聞いても有益な情報が得られるとも思えない。事勿れ主義で人畜無害をモットーとしているような人だ、きっとあの会合でも隅でニコニコしていただけであろう。
 その証拠が代わりに出ると言った娘を、珍しいものでも見るような目をして、行きたいなら行けばいいよと渋々承諾したことだ。
 さて、怪しいのは怪しいがどこでどう何が怪しいのかまでは分からない現状どうしたものか。途方にくれる。
 まぁ…こいう時は決まっているのだ。
『困った時は人に聞く』
 これだ、そしてこの『人』って言うのはやはり探偵さんになるだろう。
 そんな感じで、これからの行動指針を決めたところで、そんなことで足取りはなぜか自然と軽くなるのだった。
 なぜだろうと、ふんわりと考える。『非日常』って奴に浮かれてるのだろうか? そんな気がしないでもないが…深く考えるのは辞めた。
 何かを楽しく感じて、足取りが軽ければそれで、万事解決だ。
 きっとこの春、特有の寒いような暖かいような、不思議な風にでもあてられたのだろう。

       

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