Neetel Inside ニートノベル
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WEB探偵しゃかりき
第一章 WEB探偵しゃかりき

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.1章 WEB探偵しゃかりき
 夜明け

自分がいつもどおり我が家の布団の上で目を覚ますことができて、これほど嬉しかったことはない。時刻は午前10時を過ぎている。金曜日の1限目はとっくに終わっている。2限目ならまだ間に合う時間だがどうやらそんな気にもなれない。今自分はまだ生きている、その実感と余韻に浸ることに精一杯でほかの事を考えたくない。
悪夢のような夜が明けて初めて、俺はこの世に生を与えられたことに感謝した。昨日は何時に家に戻ったかも良く覚えていない。とにかく一心不乱に逃げ帰った俺は玄関の扉の鍵を真っ先に内側から閉め、チェーンまで装着したのだった。ベランダへの出口も雨戸で完全に封鎖し、外から内部が全く見えない状態にした上でようやく安心して眠りについた。何はともあれ、自分はあの恐怖から生還したのだ。
とりあえずメールでもチェックしておこう。蹌踉とした足取りで起き上がり、思い切り背伸びをした。もともとひどく猫背であり骨ばった体つきをした自分は、背伸びをしたときだけ本来の上背を取り戻すことができる。傍から見ると栄養が不足した野良猫みたいに見えるかもしれない。一応成人男性の平均身長はあるはずなのだが、どうも小さく見られることが多いのはこの姿勢とボディのフォルムによるところが大きいと自覚している。
「あれ?携帯どこやったっけ?」
 携帯が見つからない。そういえば昨晩この部屋に戻ってきたときに持ち帰ってきたかどうかも疑わしい。最悪どこかに落としてしまったのかもしれない。しばらく探して見つからなければ解約する必要があるな。そう判断するまでは迅速だったが、その後疲れからか逡巡してしまい、腰がくだけた形でベッドにしりもちをついた俺は、そのままの体勢で天井を見上げた。
「つかれたなぁ・・・」
 おもむろにPCをつけようとベッドのすぐ横にある本体のスイッチに手を伸ばしたが、指の先端がそれに届く前に体ごと固まってしまった。もう今までのように気軽にネットサーフィンできる日は来ないかもしれない。
気分が削がれたため再び立ち上がり、今度は玄関のほうに歩き出す。郵便が来ているかもしれない。そう思って部屋の郵便受けを開けたその瞬間、俺は恐怖のあまり声を出すことすら忘れた。
郵便受けに入っていたのは、浜辺に打ち上げられた海草のような重く湿った女性の長い髪だった。

       

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